市民としての第一歩
翌週の月曜、身分証明書の更新があったカズキは市役所の仮設窓口で、見慣れた異形と再会した。
「……オマエ、来タ。ミテタ」
コロシテ君は、今日もいつもの調子で話しかけてくる。
「待ち合わせ時間だよ。というか、ほんとに来たんだな……」
「手紙、難シイ。ダカラ、聞イタ」
市役所のロビーには、転移者専用の仮設カウンターが設けられていた。
壁には「転移者就労支援相談」の案内があり、実際の転移者の対応など初めてであろう臨時職員がスーツ姿で慌ただしく対応しているのが見える。
カウンターに、銀の鎧をきっちり装備した人物が見えた。
「……あれ、まさか」
「うむ。私だ」
声をかける前に気づかれた。
女騎士・ブリュンヒルデは立ったまま書類に向かっていたが、明らかに苦戦していた。
「その鎧で、字を書くの無理があるんじゃ……」
「わかっている。だが脱ぐわけにもいかん。誇りがある」
「役所の人も困ってそうだけど……」
「今は、こちらが困っている」
彼女の書類には、明らかに記入ミスが多かった。
職業欄には「騎士(近衛騎士)」と書かれており、係員が頭を抱えている。
「あのさ、フリーランス……って書いた方がいいかも」
「フリー……ランス? 私の得物は剣だが?」
「いやそういう意味じゃなくて、仕事の形態の話……」
「では何だ、ランスではなくフリーソードなのか? それともダガー?メイス?」
「ちょ、違う、違うから! 武器の話じゃないの!」
3人で転移者担当課の面談室に通され、1時間近い説明を受けた。
要点としては、保護期間が終わった後、個人番号の発行と仮登録市民としての諸手続きが始まること。
生活支援の一環として、職業相談や住居紹介、行政による最低限の生活資金の貸付も検討されていること。
「……なんというか、けっこう本格的ですね」
「国家、思ッテタヨリ 優シイ」
「異世界だとどうだったの?」
「ワタシ、飼ワレタ。番号、呼バレル」
カズキは一瞬、言葉を失った。
「318番の方~」
窓口から呼び出しの声が上がると、コロシテ君はピクリと反応し、そわそわしながら立ち上がった。
「ヨバレタ。今、ヨバレタ。番号、慣レテル」
2人は、現代日本の中に少しずつ立ち位置を見つけようとしていた。
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