お見舞い
土曜日。
佐倉カズキは、予定がなかった。
友人はいなくもないが、誘いがあるわけでもなく、あっても「また今度な」と曖昧に流してしまうタイプだった。結果として、昼過ぎまで布団の中でゴロゴロとスマホをいじり、YouTubeを巡回し、寝返りを打ってはアラームを止める。
そんな彼が14時を過ぎた頃に思った。
(……そういや、見舞いでも行くか)
昨日、そして一昨日と、異形と鎧に連続で遭遇し、119番通報を2日連続で行った人間として、責任感といえば聞こえはいいが、実際は「誰にも話せずに気が晴れない」というもやもやが積もっていた。
財布とスマホ、そしてなんとなく選んだ差し入れ用のゼリー飲料2本をコンビニで買い、病院へ向かう。
案内を受け、最初に通されたのはコロシテ君の病室だった。
病室は個室。
ベッドの上に、あの異形の生き物がちょこんと座っていた。
頭部のドーナツ状の空洞は変わらず、目や口のパーツは相変わらず散らばっている。
だが、以前より整って見えるのは、光の加減か、体液の滲出が止まったからか。
「あ、どうも。覚えてる?」
カズキがそう声をかけると、コロシテ君はゆっくりと首を傾け、カタコトの声を発した。
「……一昨日 ノ 人。ミツケタ 人」
「まあ、そう。そうなんだけど。調子どう?」
「体、濡レナイ。良イ」
「そりゃ……よかった。」
コロシテ君は視線を逸らすでもなく、ぼんやりと天井を見つめていた。
そのとき、ノックとともに白衣を着た医師が入ってきた。
「こんにちはー、調子どうですか?」
その瞬間、コロシテ君の目──いや、目と思しきパーツすべてが白衣の医師に向いた。
「……白衣……向コウデモ、見タ……」
一瞬、表情が緩んだように見えた。
「……前モ、見タ。白イ人ワタシ、安心」
カズキは言葉に詰まった。
医師は苦笑して「なんか気に入られちゃったかな?」と笑っているが、カズキの胸には妙なざわつきが残った。
「あの方、記憶はほとんどありません。異世界からの転移によるショックかもしれませんね」
病室を出る際、医師がふと漏らした。
(記憶もない、それに、白衣で安心するって、何のことだよ……
病室を出たあとも、その言葉が耳に残っていた。
「つーか、コロシテとか言ってた割に治ってんじゃねーか!!」
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