くっ…殺せ!
翌日。
佐倉カズキは同じコンビニで、今度はプロテインバーを買った。
「タンパク質が足りてないのかも」と思い立っただけで特に深い理由はない。
だが、昨夜「コロ…シ…テ…」と呻いていた謎の生命体を保護した経験が、なにかこう、自分も変わらなきゃいけないような気分にさせたのかもしれない。
袋の中にはプロテインバーと栄養ドリンク。
いつもならレジ袋有料を嫌ってポケットに詰め込む彼が、今夜は律儀に袋を提げている。
時刻は22時40分。昨日より少し早い。天気は曇り。月は出ていない。
昨日と同じ裏道を通ると、遠くのほうでガラン、と金属が転がる音がした。
またかよ、と思った。
その時点で既にカズキはある程度の「覚悟」を持っていた。
昨夜の出来事をなんとなく誰にも話せずに1日が過ぎた今、もう一人で消化するしかないと思っていた。
だからこそ、金属音がしても逃げなかった。
逆に足を速めた。
もはや自分の人生に「異形」が関わるのは避けられない運命なのかもしれない、とすら思っていた。
曲がり角を抜けた先、地面に何かが倒れていた。
それは──
鎧だった。
正確には、鎧を着たままの「誰か」が倒れていた。
全身銀色のフルプレート。左肩から血が流れている。
え、嘘でしょ、と思うより先に口が動いた。
「またかよ……」
そして次の瞬間、その銀色の塊が動いた。
「……くっ、殺せ……!」
今度は人間の言葉だった。
そして明らかに女性の声だった。
カズキは反射的に後ずさる。
「いやいやいや、なんでみんな死にたがってんの!?」
女騎士はゆっくりと上体を起こし、カズキを見た。
血のついた顔は、見るからに凛々しく、目に力があった。
「……ここは、どこだ……? 魔族の……?いや……」
「日本です!現代日本!渋谷の裏通りです!」
女騎士はぼんやりと目を細めた。
「……現代……日本……まさか、転移……?」
「そうです!多分そうです!すみませんけど救急車呼びますね!?」
女騎士は無言でうなずいた。
カズキは再び、スマホで119を押した。
昨日と同じ動作だった。
なんだこれは、デジャヴか?
もう非常ボタン的なアプリでも入れたほうがいいんじゃないか?
救急車が到着し、担架が運ばれ、女騎士は乗せられた。
運ばれていく間も、彼女は何かを呟いていた。
「……くっ、また……敗北か……いや……この地にて……再起……を……」
カズキは黙って見送った。
袋の中のプロテインバーを食べる気がなんだか失せた。
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