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ブリュンヒルデ運搬便

「我が名はブリュンヒルデ。運搬を請け負いに参上した」


そう言ってドアの前に立ったのは、銀の鎧を着た女騎士だった。


個人業者として独立してから、初めての現場。

屋号は税務署に提出済みだが、世間の認知度は皆無に等しい。

ただしその料金は破格で、地域掲示板で見た近所の学生に依頼されたのだった。


搬出当日、玄関を開けて出迎えた彼は、数秒ほど硬直してからようやく口を開いた。

その前に、ブリュンヒルデは無言で身分証を差し出した。


妙に写真写りが悪い。


「え、これ……ピンぼけ……?」

「かつて討伐した魔族の呪詛が、いまだ干渉しているのだろう」

「え、はい……あの……ほんとに、ブリュンヒルデ運搬便?」

「その通りだ。我が名を屋号とした」

「え、名前だったんだ……」


驚きはしたものの、学生は素直に道を開けた。

鎧姿で冷蔵庫を持ち上げる姿はあまりに異様だったが、作業自体は迅速かつ丁寧だった。


「……てか、それ鎧ですよね?」

「脱ぐ理由がない」

「……あ、そうですか」


妙な迫力がありそれ以上突っ込めなかった。

金属音が響き、住民の視線が突き刺さるが、ブリュンヒルデは気にも留めない。


翌日、搬入先のアパートにて。

家具の配置を尋ねるブリュンヒルデに、学生は苦笑しながら案内した。


「えっと、ベッドはこの辺に……」

「そこでは敵襲に対応できぬ。こちらに置けば、扉からの奇襲にも即座に備えられる」

「いや、あの……日本では敵襲ってあんまりないので……」

「不意の侵入に備えるのが基本だ。通路確保も重要だが、視界の確保が何より先決」

「俺んちに視界いります?」


一応、最終的には希望どおりの配置に落ち着いたが、ブリュンヒルデは納得いかない様子だった。


「敵に背を向けて眠るなど……騎士としては不本意だ」

「ここ、板橋ですけど……」


紙幣を受け取ると、ブリュンヒルデは軽く一礼して去っていった。


その足で立ち寄ったコンビニで、パック入り焼酎を手に取る。

駐車場でストローを刺し、ごくりと一口。

騎士の戦いは、まだ始まったばかりだった。

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