表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

コロ……シ…テ…

はじめてのローファンタジー

その夜、佐倉カズキは、ドーナツを買う予定だった。

普段はスナック菓子派だが、その日は妙に揚げ物系の甘いものが食べたくなった。

上司に理不尽な説教を食らい、得意先には「話が違う」と言われ、同僚には気を遣われすぎて逆に疲れる。

行きつけの店で一杯飲んだ後、コンビニの明かりに吸い寄せられるように入り、レジ横のケースを覗いて、チョコドーナツ(税込158円)を手に取った。


戦利品を片手に店を出る。

時刻は23時を過ぎていた。

家までの最短ルートは大通り沿いだが、信号が多くて煩わしい。

カズキは迷わず、裏道を選んだ。

狭い道を抜けていくと、少しだけ気持ちが落ち着く気がする。

街灯の光がまばらな道を歩きながら、彼はドーナツを握りしめた手を軽く振った。


そして、曲がり角の先で、異物と出会った。


ぬちゃり。


聞きなれない音がした。

靴底が何かを踏んだような、しかし明らかに生物的な、濡れた音。


視線を落とすと、そこに「それ」がいた。

灰色とも青白ともつかない、不定形な色をした生き物。


人の形をしてはいる。

腕があり、足があり、頭があった。


だが、その頭はドーナツのように中央がぽっかりと空洞になっており、目や口らしきパーツが輪郭の外側にバラバラと配置されていた。


まるで福笑いの失敗作だ。

目は合っているようで合っていない。

口は微かに開いているが、そこから声が出ているのかさえわからない。


「……コロ……シ…テ…」


その言葉だけが、はっきりと耳に届いた。


「……え?」


カズキは思わずドーナツを落としかけた。

ぎりぎりで持ち直す。

異形の生き物。

それは、地面にうつ伏せで倒れながら、震える手をこちらに伸ばしていた。


「な、なんだお前……人間?いや、人間じゃないな……」


それでも、「それ」は明確にこちらに向けて言葉を発した。


「ウゥ……コロ……シ……テ……」


全身が濡れていた。

体液なのか汗なのか判別できない液体が、道路にじゅくじゅくと染みを作っている。

カズキは震える手でスマホを取り出し、119番を押した。


「……生きてます、たぶん……人じゃ、ないかもしれないですけど……死にそうっていうか、死にたそうっていうか……」


救急車はすぐに来た。運ばれていく「それ」は、カズキのドーナツを見て担架の上でぼそりとつぶやいた。


「ナカ、スカスカ……アレ、頭ミタイ……」


意味はわからなかった。

だがカズキは、その言葉に何故か、胸を締め付けられた。


お読みいただきありがとうございます!

面白ければブックマークや、広告下の「☆☆☆☆☆」から評価をいただけると幸いです。

作者のモチベが上がりますので、ぜひよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ