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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

スーパー婚約破棄大戦~超魔導ロボ ダイキャリバー~

作者: L田深愚

乙女ゲー婚約破棄ものによく出てくるような攻略対象、ぶっちゃけ攻略したくないよね。

「リュミエール! 可憐で心優しいジュージィを虐げる貴様のような女には愛想が尽きた!! 婚約を破棄させてもらおう!!」


 ────遂にこの時がやってまいりましたわ。


 王立魔法学園の卒業記念パーティーで引き起こされた、バルムンク王国王太子ノータリー・ヘイル・バルムンクによる、公爵令嬢リュミエール・ゼット・グレイシアへの婚約破棄宣言。


 王太子の背には栗色髪をボブカットに切り揃えた伯爵令嬢ジュージィ・テッツ・アイゼンクロイツが縋り付き、その周囲を将軍の息子だの騎士団長の息子だのといった取り巻きが固め、口々にわたくしを犯罪者かのように糾弾しています。


 ですが彼らの言うジュージィへのイジメなど、どれも事実無根の大嘘。

 性悪女の口車にコロッと騙される見てくれだけの頭空っぽに何と言われようが、屁でもありませんわ。


 それにこれからされる事も連中の目的も分かりきっておりますので、わたくしは早急に手を打たせていただきます。


「婚約破棄、喜んでお受けいたします……これはお二人への餞ですわー!!」


 炸裂する閃光手榴弾!!


 悲鳴を上げてのたうつ連中には目もくれず、魔法で脚力を強化したわたくしは真紅のドレスを翻し、自慢の金の巻き髪を弾ませながら、阿鼻叫喚のパーティー会場を速やかに抜け出し、迎えの車へ飛び乗りました。


 ――――昔々、恐ろしい邪神がこの世界を滅ぼそうとして、世界中の人々が恐怖に震えあがりました。

 それでも勇敢な戦士や魔法使い、賢者たちが立ち上がり、邪神の軍勢に立ち向かう鋼鉄の巨人を造り上げました。

 ですが敵は強大で、巨人もその乗り手も次々と傷つき倒れてゆきます。

 やはり邪神には勝てないのか……人々が弱気になり、挫けそうになった時、異世界から巨大な空飛ぶ船と、様々な姿の巨人たちが姿を現したのです。

 異世界の巨人の乗り手たちは事情を知るやたちまち義憤に駆られ、私たちに力を貸してくれました。

 こうして勇敢で強く優しい異界の戦士たちと我らの巨人は力を合わせて軍勢を跳ねのけ、邪神を打ち倒し世界に平和をもたらしたのです――――


 公爵領へ向けてひた走る魔導車の中でこれからの予定を整理しながら、わたくしはこの世界の誰もが知る有名な昔話を思い返しました。

 そして、幼少のある日から夢に見るようになったその詳細、偉大で素敵なご先祖様の雄姿とそのお声も。


 ――――この『精霊王伝説~プリンセス・オブ・エレメンタル~』は、ファンタジー世界を舞台にした女性向け恋愛アドベンチャーいわゆる乙女ゲームですわ。


 悪辣な転生者ジュージィの策略で濡れ衣を着せられ婚約破棄された公爵令嬢リュミエールは、公爵家の受け継ぐ遺産を手中に収めんとした王太子の軍勢から命からがら逃げ延びた先の隣国ジーゲン王国の面々に保護され、故郷奪還の為にジーゲン王国の若者たちと手を取り合い心を通わせながら、かつての故国バルムンク王国へ戦いを挑むという筋書きです。


「そしてあの馬鹿王太子がやらかしてくれやがるんですのよねえ……」


 かつてこの世界アトラスティアの国々を巻き込んだ邪神と鋼鉄の巨人――――巨大ロボット魔導機人との大戦争、邪神大戦。

 またの名をスー〇ー□ボット大戦MG。

 前世で親しんだロボットシミュレーションRPGシリーズの一作であり、精霊王伝説のスピンオフ元でもあります。


 その戦いでバルムンク王家とグレイシア公爵家共通の先祖であるノートゥング王子が異世界の技術を導入して造らせたバルムンク最強の機体、魔導鬼神とカテゴライズされ、大戦終結の一助となったそれを、よりによってあの馬鹿王太子が乗り回し立ちはだかってくるのですわ。


 世界を守った正義と平和の象徴が、愚者の手により悪魔の使者と化す……なんという悪夢の光景!


 ゲームでの流れでは、公爵家を滅ぼして魔導鬼神を手に入れた王太子は邪神教団と繋がる佞臣どもに言われるがまま、かつての邪神のような脅威に対抗するには統一国家が必要だなどと嘯いて、機体の性能を自分の実力と勘違いしたまま周辺国へ攻め込み世に戦乱を巻き起こすのです。


 敬愛してやまない祖先の愛機、前世から憧れのスーパーロボット、魔導鬼神――――いえ、超魔導ロボ ダイキャリバー。

 それをあのような名前を呼ぶのも煩わしいクソボケバカ王太子に奪われ、あまつさえ平和の敵にしてしまうなど、天が許してもこのわたくしが許しませんわよ!


 こうなってしまったからには必ずや討ち滅ぼして差し上げますわ……


 考えを整理しているうちに、車は公爵領へ辿り着き────


「見つけたぞ公爵令嬢リュミエール!!」


 バカ王太子の追っ手が姿を現しました。

 全高20m、全身鎧の騎士を思わせる出で立ちの、王国の制式量産型魔導機人ナイトルーパーです。

 同じ装備が2機1組の計11機。

 盾や肩の紋章から見て、我が家となにかと折り合いの悪い貴族家に声をかけてこの日のためにかき集めてきたのでしょう。


「敬愛する彼女を虐げるだけでなく、会場の人々にまで被害をもたらすとは許し難い! この剣の錆にしてくれるわ!!」


 槍を背負い、剣と盾を装備した隊長機を操っているのはプロテ・ニック・キーン近衛騎士団長の息子で、学園でも王太子と馬鹿女の取り巻きをしていたあの脳筋マルスですわね。


 となると周りの操縦者も、本職の騎士ではなくそれぞれの貴族家の子息たちか。


「……舐められたものですわね」


 不意に追っ手の一機が吹き飛びました。

 公爵家騎士団の到着です。


 ショルダーキャノン装備の後衛と、ライフル、長剣、シールド装備の前衛が連携して学生騎士たちを確実に潰してゆきます。


 機体と装備が同じでも、本職にかかれば半人前などこんなもの。

 貴様らとは動きが違うというやつですわ。

 ですが油断は出来ません。


「よくも仲間を!」


 マルス機がこちらの前衛を討ち取りました。

 この脳筋、実力だけはあるのが困るんですのよね。


「お嬢様、我々がなんとしても時間を稼いでみせます! どうか今のうちにお逃げください!!」


 シールドで脳筋を抑え込むこちらの隊長機の叫び。

 彼らの奮闘で進路は拓けた。

 この頑張りを無駄にしてはいけませんわ。


「忠義に感謝を!!」


 猛然と唸りを上げて駆け抜けた車は、隠し通路へ飛び込み無事に公爵邸へとたどり着きました。


「無事だったかリュミエール!!」

「お父様こそ!!」


 学園での寮生活で離れていた家族と再会したわたくしは、抱擁もそこそこに父であるグレイシア公爵へ王太子が予想通りやらかしたことを伝えました。


「やはりそうなったか……愚か者どもめ!!」

「もはや一刻の猶予もございません――――お父様、ご決断を!!」


「――――よかろう、ついてまいれ」


 公爵の執務室へたどり着いたわたくしたちは、部屋の中央にそびえる巨大な柱――――屋敷を貫くメインシャフトへ向き合いました。


「リュミエール、お前にこれを託す――――この日が来ることを知れたのも、始祖ノートゥングの導きやもしれぬ」


 父に手ずから嵌められたのは、華美さよりも機能性を重視した腕時計。

 そして開いた柱の壁面から取り出された、額に「D」のエンブレム輝くヘルメット。


「謹んでお受けいたします」


 ヘルメットをかぶり、メインシャフト内部のエレベーターへ飛び込んだわたくしの身体に壁面から放たれる稲妻の如き電送波が降り注げば、全身を包む衣装はきらびやかなパーティードレスから紅白のパイロットスーツへ変わります。

 ノートゥング様と同じカラーリングながら、ズボンではなく女性用のミニスカートスタイルなのが芸が細かくていらっしゃる!


 それにしてもこの昭和臭が堪りませんわねえ~~~~70年代が迸ってますわ!!


 エレベーターが停止した先で待ち構えるのは、王冠を模した鋭角的な頭部に口元を覆うシャープなマスク、悪を照らし出す稲光のような黄色の瞳、直線的な、言葉を飾らずに言えば箱を繋げたようなシンプルかつ逞しく力強いボディ。

 一般的な魔導機人の倍以上の、50mに達する赤青白に輝くトリコロールの巨体――――我らがヒーロー鋼の王者、超魔導ロボ ダイキャリバー!!


 幼少の頃より夢で見た、最推しロボの雄姿がそこにありました。

 メリハリの付いた細身の手足が主流の魔導機人とは一線を画すかっこよさですわね!!


 着座したシートはそのまま胸部ハッチから機体内部へと運ばれ、ハッチ閉鎖、各メカニズムとの接続がリズミカルに行われました。

 コックピットの各計器に灯がともり、正面のメインモニターが起動。


 この手に握る操縦桿から、ダイキャリバーの心臓部であるペンタゴンエンジンの高鳴りが伝わってきます。


 この世界、アトラスティアでは様々な生物の持つ5つの属性に分かれるエネルギー粒子を古来より魔力、使う技術を魔法と呼び、様々な分野で活用してきました。

 そしてそれらは互いに影響しあい、その効果を高めたり抑え込んだりするのです。

 地球でいう五行相生、五行相克というやつですわ。

 機械工学の発展に伴う産業革命ののち、誕生した魔導工学において、その働きを応用して生み出されたのが魔導エンジン、更に大出力化と5属性全てを組み込むことに成功したのがこのペンタゴンエンジンなのです!


 瞳を閉じれば、まさしく人機一体の境地――――


 わたくしの腕がダイキャリバーの腕。

 ダイキャリバーの脚がわたくしの脚。

 わたくしは今、ダイキャリバーになったのですわ!!


 ほんの数秒にも満たない間、わたくしの脳裏に浮かんでは消える家族の、家臣たちの姿。

 前世でプレイしたゲームでは、彼らは皆死んでしまうか囚われの身になりわたくしへの人質となってしまうのです。


 させません。

 させるものですか。

 させはしませんわよそんな事!


 くわっと目を見開いてコンソールのスイッチ群へ軽やかに指を走らせ、スロットルレバーを全開に。

 格納庫天井のハッチが解放され、白い雲がまばらに浮かぶ青空が顔を出します。

 マントのように垂れ下がっていたウイングユニットが展開し、スラスターから火を噴きながら真紅の翼が空を裂いて、音速の壁を軽々突破。

 公爵邸の演兵場に開いた発進口から飛び出したダイキャリバーは、一直線に戦場めがけて突き進みました。


□□□□


 マルス側の機体はすでに壊滅状態で、生き残りは公爵家側の方が多い。

 しかし武術大会で優勝し、父親率いる騎士団の行軍にも同行して魔獣相手に手柄を立てた経験もあるマルスの腕前だけは本物で、1人、また1人と討ち取られ、公爵家側も持ちこたえるので精一杯だ。


「────手こずらせやがって!」


 マルスの操る隊長機が指揮官を潰すべく、満身創痍ながらも粘り強く持ちこたえる公爵家騎士団の隊長機へ剣を振り下ろそうとする。


 その瞬間、黄金の煌めきが彼の右腕を切り落とし空へと舞い上がった。


「な、何だ!?」


 それこそが、かつて味方のピンチを幾度となく救ってきたダイキャリバーの投擲武器、キャリバーブーメランだ。


 敵味方の誰もが空を見上げる中、黄金に輝くブーメランを掴み取りその胸元へ戻した巨神が悠然と大地へ降り立つと、リュミエールは高らかに宣言する。


「我が公爵領を侵略せんとする悪党共! ダイキャリバーの正義の裁きをお受けなさい!!」


 彼女の叫びに応えるように、燃える真っ赤な翼を広げ、胸に勝利のVを煌めかせた、トリコロールの鋼の王者が吼えた。


「……悪党はお前らの方だろうが! 例え左手だけでも!!」


 苛立ちに声を震わせながら、盾を捨てたマルス機が残された左手に槍を携え、スラスターを全開に飛びかかる。


(例え伝説の機体でも、乗ってるのがあの女なら勝機はある……!)


 ────生身の技量はマルスがリュミエールに勝っていたし、量産機の武装でも、達人の技量でコックピットハッチの継ぎ目を狙われれば、確かにダイキャリバーといえども致命傷になる。

 しかし────


「ゴールドファイヤー!!」


 胸のVの字から放たれた摂氏5万度の熱線が、一片の慈悲もなくマルス機を焼き尽くした。

 剣では負けても魔法でならリュミエールはマルスに勝てるのだ。


「……相変わらずおつむが足りませんわね、ダイキャリバーが胸から熱線を出すなんて常識ですわよ」


 伝説の機体の圧倒的威力を目の当たりにし、心折れた敵兵たちは残らず降伏した。

 グレイシア公爵家は破滅の運命から逃れたのだ。


□□□□


 もはや恐れるものは何もない。

 もしものための後詰をいくらか残し、公爵軍の大軍勢が王都目掛けて進撃を開始しましたわ。


 ダイキャリバーを前面に押し立てて、破竹の勢いで突き進む我らが公爵軍。

 ラジオ放送や街頭スピーカーをジャックして、王太子と馬鹿女共の日頃の振る舞いやら婚約破棄の経緯等々包み隠さず広めまくっておりますので、対する守備隊の士気はドン底な有様で、砲火を交えることなく降伏するものもしばしばですわ。

 道中の砦を積み木のように蹴散らして、瞬く間に奴らの待ち構える王都へ。


 王都を取り囲む防壁から、火属性魔法の砲撃が放たれます。

 降り注ぐ夥しい火箭を前に、ただ受け止めるだけではつまりませんわねとわたくしは、ダイキャリバーの腰のバックルから必殺武器である両刃の直剣、五行剣を抜き放ちました。


「フロストブレード!」


 凍結系の水属性魔法を乗せた五行剣を横薙ぎに一閃。

 砲台は一瞬で凍りつき、城壁は無防備になりました。


 鎧袖一触とはまさにこの事。

 そのまま門をぶち破り、中央にそびえる王宮を見やれば、ダイキャリバー並みの大型機に乗った王太子を中心に、将軍の息子と魔法省長官の息子、自称魔導工学の天才がそれぞれの魔導機人に乗り込み、手前の広場で立ちはだかっています。

 ここは被害を減らすためにもわたくし一人で引き受けたほうがよろしいですわね。


「反逆者リュミエールよ! 好き勝手出来るのもここまでだ!!」

「私の編み出した戦術と」

「俺の魔法と!」

「僕の造った機体が合わされば! たとえ伝説の機体相手でも負けはしない!!」


「ノータリー様ぁ~~~~! バーニィ様トーマス様アル様もどうかマルス様の仇をとってくださ~~~~い!!」


 王宮のバルコニーから、例のジュージィとかいう性悪女が声援を送っておりますわ。

 この方々、学園でもジュージィ絡みだけでなくなにかと突っかかってきてうっとおしいったらなかったんですのよねー


「行くぞグランギニョール!」


 そんなことを考えていると、戦術論に一家言ある将軍の息子、バーナードが機体に背負わせたコンテナユニットから、シールドと魔力砲を備えた無人機部隊を繰り出してきます。

 こちらのセンサーによれば、ざっと見渡して各グループごとに属性が分かれているようですわね。


「グランギニョールに一人で挑もうとは馬鹿な女だ……この戦力差を覆せるものか!!」


 ――――あーこれ精霊王伝説で見て知ってますわ。

 わたくしのような全属性持ちの属性防御を飽和させる設定の奴―

 マップ上の雑魚や周りの似非イケメンと一緒にしておくと援護や合体攻撃で連携してくるんですのよねー


「なので潰させていただきますわー!!」


 胸のゴールドファイヤー、目から放たれるキャリバービーム、腹部のディバイダーミサイル、脚部のパルサーミサイルにオマケして、五行剣から広範囲の雷撃魔法サンダーオーケストラを放ち邪魔っけな雑魚を薙ぎ払います。

 属性のてんでバラバラな熱線、レーザー、親子式ミサイルにEMP弾頭、範囲拡大された広域雷撃魔法に曝され、無人機部隊は殺虫剤をかけた虫のように全滅しました。


 現実とゲームは違いますので、長々とした戦闘演出を待ってくださる方なんておりませんのよ?

 こういうのは簡単に妨害されないようちゃんとタイミングを計りませんと……


「ば……馬鹿なッ!?」

「こんなのそれぞれに対応した属性ぶつけてやれば済む話ですわよ――――ダイキャリバーをただのマシンと思わないことですわ!!」


 まあすべての属性を十全に使えるわたくしも、同じく全属性に対応したダイキャリバーでなければ単身でここまで鮮やかには攻略できませんでしたけど。

 ご先祖様様ですわねー


 自慢の戦術を初っ端から潰されたバーナードは、こちらへ長距離ライフルを向けたまま凍り付いております。

 せめて悪足掻きでその得物を撃ち込んでくればよろしいのに。


「キャリバービーム!!」


 その隙を逃さず放たれたレーザービームにどてっぱらを撃ちぬかれ、バーナードのグランギニョールは爆散しました。


「バーニィ~~~~!!」

「そんな……」

「おのれッ!!」

「よくもッ!!」


 いきり立つお仲間方と、悲鳴を上げる性悪さん。

 そうやって我らこそ被害者でござい、これは正当なる正義の怒りだーなんて態度してらっしゃいますけど、その果てが邪神教団に暗躍されて国民は困窮し、他国への侵略をやらかすはめになるんですからね? この脳みそ空っぽのええかっこしい共。


「マルスに続いてバーナードまで……俺とマギザードの最大奥義で葬ってくれる!!」


 学園一の魔法の使い手で長官の息子のトーマスが、三角帽子の魔法使いを模した乗機マギザードの杖に魔力を集中します。


 膨れ上がる火球の正体は――――プロミネンスノヴァ。


 いくら住民が避難してるからって、戦略級の火炎魔法なんてぶっ放すんじゃありませんわよ!!


「ゼロドライブスティンガー!!」


 王都を守るため、水属性最大級の凍結魔法を乗せた刺突を繰り出すと、絶対零度の凍結波に包まれたマギザードは杖先の火球共々氷像となり、粉々に砕け散りました。


「うわああああああああああ! お前の装甲と武装より、僕のバリアーの方が強度は上だ!! 速度でも上回る僕の、僕のグランガーダーが、物理装甲と出力だけの骨董品に負けるものかああああああああああ!!」


 全身をバリアーで覆った自称天才のアルバートが、宇宙速度に軽々達する猛スピードで突進してきます。

 この無駄に硬くてすばしっこいグランガーダーも、攻略には苦労させられたものですわ。

 ――――ですが。


「五行相生剣!!」

「殿下とジュージィは僕が守るんだああああああああああ!!」


 五行剣のエンブレムに埋め込まれた五色の宝玉が、五角形を描くように輝きます。

 お互いの属性を高め合い、途方もなく出力を上昇させた一閃が、わたくしの鍛え上げた剣技でもってバリアーごとグランガーダーを両断しました。

 そのまま通り過ぎて行った機体は、あっという間に空の彼方へ飛び去り星のように輝きます。


「な、んで……?」


「性能だけで勝ったと思うあなたはただのうぬぼれに過ぎませんわよ……ダイキャリバーの強さは、スーパーロボットの力とは、人の心と技を加えてこそなのですわ!!」


「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 ジュージィの悲鳴をBGMに、王都上空に散った五つの星と化したグランガーダーの爆発を見やり、最後に残った王太子の機体へ剣を向けます。


「よくもわが友を手にかけ、ジュージィを悲しませたな……リュミエール! このノータリー・ヘイル・バルムンクが!! アルバートの遺した魔導鬼神で貴様を葬り去ってくれる!!」


「こちらこそ! 王族としての義務も果たさず欲望のままに権力をふるう、知性に欠けた愚か者に天に代わって裁きを下して差し上げますわ!!」


「――――ダイキャリバー・ゴー!!」

「――――バルムニオン! 行くぞ!!」


「────これはあの時のお返しだ!!」

 

 バルムニオンが吼え、王太子怒りの鉄拳が繰り出されます。

 わたくしはすかさず返礼をし、その拳を正面から迎撃しました。


 王都に轟く鋼鉄の衝撃。

 拳と拳のぶつかり合いに空気が悲鳴を上げ、建造物の窓ガラスが砕け散ります。


「まだまだ終わりじゃないぞ!!」


 飛び退いたバルムニオンの肩口に展開したミサイルポッドが、腰の速射砲が、胴体の各所に配置されたビーム砲が火を噴き、ダイキャリバーを爆煙に包みました。


「やったか!?」


 ノータリーの機体は、確かに魔導機人とは一線を画すほどの性能があるのでしょう。

 サイズも大きく、手脚は太く、武装も充実しており出力も今までの雑魚とは段違いです。

 本人は倒されてしまいましたが、アルバートの技術力も大したものです。

 学生の身でここまでやれるのは評価に値しますわ。


 ────ですが。


「こんな、デッカイだけのリアルロボットが、魔導鬼神名乗るなってんですわよ!!」


 スーパーロボットなめんなですわ!!


 五行剣で爆煙を振り払い、無傷のダイキャリバーが高らかに叫びました。

 超魔導合金バルムナイトは! そんな攻撃じゃびくともしませんわよ!!

 譲れない一線を踏み越えた不倶戴天の怨敵に、わたくしはめっちゃ吠えかかります。


「またわけのわからんことを……貴様は昔からそうだ! 妙ちきりんなこだわりにしがみついて、ロボットの話ばかりで……!! そのくせ優秀で何でもできて……!! だから私はお前が大嫌いなんだ!!」

「それはこっちの台詞ですわよ! そもそも婚約だって願い下げでしたし、違いもわからないうえに濡れ衣を着せて人様の遺産を強奪しようとする盗人の親玉が!! あなたのような恥知らずの脳足りんの相手なんてそこの嘘つき性悪女がお似合いですわ!!」


 ガッツンガッツン殴り合いながら言葉のマシンガンを撃ちまくるわたくしたち。

 遂に売り言葉に買い言葉で王太子がブチ切れましたわ。


「キ・サ・マ〜〜〜〜! 言うに事欠いてジュージィまで侮辱するかあ〜〜〜〜!?」

「ええ侮辱しましたがそれがどうかいたしまして~~~~?」


 怒髪天な王太子が操るバルムニオンが、背面にマウントされていたパイルバンカーを右腕に装備し、スラスター全力噴射で突貫してきました。


 ならばこちらも全力で迎え撃つのみ!!


「キャリバアアアアアアアアドリルッ!!」


 収納された左拳がドリルに切り替わるや猛然と唸りを上げて回転し、ストレートパンチを繰り出します。

 火花を散らして激突するドリルと鉄杭――――一瞬の拮抗の後、勝利したのはわたくしのドリルでした。

 そのまま相手の右腕を粉微塵にしながら振りぬかれた左腕は、即座に拳へ変形し首根っこを引っ掴みます。


「――――何をする気だ!?」

「王都を瓦礫の山にするつもりはございませんので、相応しい場所へご案内いたしますわ!!」

「放せッ! 放せえええええええええええええええええええええ!!」


 バルムニオンを担ぎ上げたダイキャリバーは、キャリバーウイングの全力噴射で一直線に急上昇しました。

 衝撃波で雲を吹き散らしながら急制動で停止したわたくしは、そのまま何もない空中へバルムニオンを放り出します。


 あちらもスラスターを噴かして滞空し、反撃に出ようとなさっていますがもう遅い!


「――――五行捕縛陣!」


 振りぬかれた五行剣から放たれた五色の光弾がバルムニオンを捉え、激しくスパークする五芒星状の拘束フィールドに封じ込めました。

 捕らえた相手を弱体化させ、反対に攻撃側は強化するこの結界から逃れるのは容易なことではありません!!


「五行剣ッ! 必殺相克斬りぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 ペンタゴンエンジン最大出力、ダイキャリバーの最大スピードで突撃し、振り下ろす必殺剣技が炸裂し、捕縛結界ごとバルムニオンは両断されノータリー王太子の命は尽きました。


「――――ジュージィイイイイイイイイイイイイ!!」


 小さな第二の太陽と化した王太子を背に残心したわたくしは、五行剣を腰に収め王宮へ真っ逆さまに急降下します。


 着陸したわたくしを迎える兵たちの歓声と、王太子と取り巻き全員の敗北を目の当たりにしてバルコニーで腰を抜かしているジュージィの姿。


「――――さて、後は貴女だけですわね?」


 わたくしの言葉に耳ざとく反応し、弾かれたように逃げ出そうとした彼女でしたが、王宮を制圧しバルコニーへ踏み込んできた兵士たちに行く手を阻まれ半狂乱で泣きわめきました。

 手すりの外にはわたくしとダイキャリバー、室内には公爵家の兵士たち。

 もう逃げ場なんてございませんのよ?


 まあ無抵抗の生身の人間を攻撃するなんてヒーローロボットのすることではございませんから、法の裁きを受けてもらいますけど。


□□□□


 ――――それから、馬鹿息子連中がやらかした責任を国王陛下たちに取らせたりと諸々の後始末を終えた後、兵たちの手で捕らえられ、牢獄へ繋がれていたジュージィの元へわたくしは一人訪れました。


「こんなのまちがってるこんなのまちがってるノータリーもトーマスもバーナードもアルバートもマルスもみんな死んじゃったなんでなんでなんでなんで……」


「────御機嫌よう、元アイゼンクロイツ伯爵令嬢ジュージィさん」


 数日の間に見る影もなく憔悴し、ベッドに腰掛けて頭を抱えながらブツブツとうわ言を呟き続けている彼女へ声を掛けると、指の隙間から血走った目がギロリとこちらへ向き、よたよたとおぼつかない足取りで鉄格子にしがみつき、憎悪に歪んだ顔で、地獄の底から這い出てくるような声で恨み言を吐き出します。


「…………リュミエェェェェェェェェルゥゥゥゥゥゥゥゥ……!! あんたのせいで皆が……この人殺しぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


「そもそも公爵家の兵たちを手に掛け、ダイキャリバーを奪おうとなさったのは殿下方ですので……正当防衛では?」


「あんたみたいな悪役令嬢一族の命なんかがノータリーたちと釣り合うわけないじゃない!! 大体、なんで間に合ってんのよ!? シナリオ通りならあんたは、マルス……に……ッ!?」


 もはや転生を隠すのも忘れてシナリオだの悪役令嬢だのと喚き散らすジュージィでしたが、ここでやっとわたくしの不自然さに気付いたようでした。


「まさかあんた……あんたも転生者だったの!?」


「御名答ですわ」


「返してよ……わたしのラブギア返してよぉ……せっかく……せっかく逆ハーエンドにたどり着けたと思ったのに滅茶苦茶じゃん!!」


 鉄格子を握りしめたまま、崩れ落ちるように膝をつき泣きじゃくるルイーゼ。

 ですがわたくしは彼女にトドメを刺さねばなりません。


「そのラブギアという作品、おそらく乙女ゲームの、正式名称は何というのかしら?」

「ラブ&ギアーズに決まってるでしょ!? なによ、原作知らない系転生者だっての!?」


「────この世界は、精霊王伝説〜プリンセス・オブ・エレメンタル〜というゲームで、主人公はわたくしリュミエール・ゼット・グレイシア、そしてこの作品では貴女こそが悪役令嬢のポジションでしてよ」


「────は?」


 理解できないという顔で、こちらを向いたまま凍りつくジュージィは、数秒ほど経って解凍され頭を振って否定します。


「いやいやいやそんなゲーム知らないしわたしが悪役令嬢とかデタラメ言うのも大概にしてよ!!」


「デタラメじゃありませんわよ、そもそも人に濡れ衣着せて婚約者横取りするような女が悪役以外の何だと……本来のシナリオでは、国外へ逃亡することに成功したわたくしが他国の殿方……攻略対象の協力を得て公爵家の仇を討つ展開になりますので、彼らが死ぬのは遅いか早いかの違いでしかありませんでしたわ」


 言葉を失うジュージィを余所にわたくしは言葉を続けます。


「そして貴女は邪神教団が配下であるアイゼンクロイツ伯爵を利用して、この国を混乱に陥れ復讐するために、異世界から拾い上げた都合の良い知識と人格を持った者の魂を転生させたという設定ですの」


 ――――この世界で邪神教団に手を貸すことは大罪ですので即刻死刑が決まりました。

 ジュージィの父であるアイゼンクロイツ伯爵はお家取りつぶしの上、娘共々斬首です。

 死ぬ前に真実が知れてよかったですわね。


「アハハハハハハハハ……ウヒヒヒヒヒヒヒヒ……」


 チヤホヤしてくれる美男子たちも、貴族の身分も失い、原作知識持ちの転生者であるという自負も他作品の原作設定だと知らされ、おまけに死刑が確定と、よって立つものが崩れ去ってしまったジュージィは、あっさりと壊れてしまいました。


 ゲームですと、破壊された馬鹿王太子のダイキャリバーの巻き添えで崩れた王宮の下敷きになるという最期を遂げるのですが、果たしてどちらがマシなのかしらね?


□□□□


 面倒ごとがあらかた片付いたので、わたくしは久々に実家でゆっくりと休息を取ることができましたわ。

 邪神教団はいまだ健在ですが、アジトはわかっておりますので準備が出来次第速やかに叩きつぶして差し上げますわよ!


 人目を気にせずエレキギターを掻き鳴らしながら主題歌を熱唱し、自作のフル可動ダイキャリバーでブンドドに勤しみ、好みの茶葉で淹れた紅茶を堪能し、のびのびと湯船につかり、ふかふかのベッドへ横たわり、手製のダイキャリバー&ノートゥング王子グッズに囲まれて眠る幸福……!

 奴らさえ片付けてしまえば、こんな日々が毎日のように送れるのです。


 平和って、いいですわよねえ……


「ああ……肖像画(直筆)のノートゥング様が微笑んでいらっしゃいますわあ……だいきゃりばー……ごぉ~~~~」


 瞼の重みに敗北したわたくしは夢の中で、ノートゥング様と一緒にダイキャリバーで果てしない青空をどこまでも飛んでゆきました。

70年代後半っぽいスーパーロボットが足りないのでやりました。

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