無自覚な殺人者
静寂にひとり、椅子に座っている。
向かい合わせに座ったその人物を、私は知っている。
だから、言った。
「私の作品は面白くない」
その人物は、私が最初に書いた物語の主人公だった。
炎の魔法を使う彼は、悲しい顔をした後に突然発火して丸焼けになって、死んだ。
浅瀬にひとり、佇んでいる。
隣に立っているその人物を、私は知っている。
だから、言った。
「私の作品はつまらない」
その人物は、私が次に書いた物語の主人公だった。
海で運命の出会いを果たす彼女は、寂しそうな顔をした後海に飛び込んで溺れて、死んだ。
崖でひとり、見下ろしている。
眼下で、今にも折れそうな枝につかまっているその人物を、私は知っている。
だから、言った。
「私の作品はありきたりだ」
その人物は、私が試しに書いた推理小説の主人公だった。
崖で犯人を追い詰めることの多い彼は、苦しげな顔をした後自ら落ちて、死んだ。
こめかみに銃を突きつけられている。
私はその人物を知っている。
「また、殺すのか」
その人物は、私が今書いている物語の主人公だった。
昏い闇の中を生きてきた殺し屋だった。
もしかしたらこれから思いもよらぬ出会いをするかもしれない、超常現象に目を見張るかもしれない、追い詰められるかもしれない。
でも。
「やっぱり、殺すのか」
引き金に指がかかっている。
少しでも力を籠めれば、私は死ぬだろう。
「だって、誰も見てくれないから」
そんなの、死んでいると変わらない。
そう言ったのは、私だったか殺し屋だったか。