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7 都合のいい子供



 実家へと戻ると、両親と妹が待ち構えていた。


 彼らはそろって厳しい顔をしていて、フィオナに怒りを向けているのがわかる。


 特に妹のテリーサはフィオナのことを今にでも張り倒しそうな形相だった。


 しかし、話があるのは両親だ。彼女はお呼びではない。


 両親にはデビュタント前にぎりぎりで自分の意見を伝えたが、結局決裂して勘当を言い渡され、フィオナもそのまま飛び出した。


 勘当とは言葉通りの意味だ。縁を切って金輪際会わないという意味であるが、彼らがそう簡単にフィオナとの縁を切るつもりもないというのは冷静に考えると理解できる。


 そして一通手紙を送れば結局、屋敷に迎え入れて家族全員ぞろぞろと集まってくる。


「……きちんと謝罪をして、メルヴィン王子殿下やヴェロニカ王妃殿下に許しを得られればこの屋敷に戻ってくることを許してやろう、フィオナ」


 迎え入れられた応接室で神妙な顔をして父であるアシュトン伯爵はそういった。


「そうね。流石に今回のことで懲りたでしょう。あの出来損ないのダグラスに面倒を見てもらうなんてあなたも屈辱だったでしょう?」

「幼いころからお前はそうだったな、私たちに迷惑をかけて。もう二度とこんなことがないように、メルヴィン王子殿下によく従うんだぞ」


 父と母はフィオナが戻ってきた時点で、完全に反省したと思い込んでいるらしく、フィオナはそんな相変わらず何も分かっていない彼らに真顔で返した。


「お父さま、お母さま、勘当は継続で結構です。私は誰にも謝る気もないし、自分の生き方を変えるつもりもありません」


 フィオナは、明るい色のドレスが着たいのだ。今日も侍女がいないのできちんとした着付けは出来ないが、それでも好きな色の服を着ている。


 これからも同じように望む未来を進んでいきたい。


 そのつもりだとあの時にも話をしたはずだったのに、父と母にはまったく響いていないのだ。


 だからこそフィオナの言葉に驚いて、それからさらに顔を顰めた。


「……何を言っているんだ。家を失い、仕える使用人もいない惨めな状況になってまで、お前はわがままを突き通すというのか?」

「はい。私は、そういう選択をしました。その選択を変えることはありません」

「呆れた。どうしてそんなに聞き分けがないの? 自分の行動を顧みてみなさいよ。育てられた親に反抗して、親の仕事にまで支障をきたしているのよ。みっともないわ」


 父と母はとんでもない親不孝者を見る目でフィオナの事を見つめていた。そんな風に見られたとしてもフィオナはやはり引く気はない。フィオナは今までそういわれて、すべての選択肢を奪われ、苦痛を押し殺してきた。


 家族の言うことが正しいのだと思うために、自分の悲しみを無かったことにしていた。


 そんなのはとてもじゃないが自分自身が不幸でならない、自分を愛してあげられるのは自分だけなのだ、大切にしていきたいと思う。


「それでも私はわがままを言います。私は一人の人間です。好きな色のドレスだって勝手に着ます」

「……はぁ、昔からあなたはそうだった。可愛くない。どうしてそう頑ななの? 妹のテリーサを見てみなさいよ、こんなにいい子、姉妹なのにどうして何もかも違うの?」


 父と母の間にいるテリーサは引き合いに出されて、とても嬉しそうに自慢げに笑みを浮かべる。


 彼女はフィオナと歳は一つしか違わない。だからこそわかるはずなのだ、この家の異常性も、このままではいけない事も。


 自分の道は自分で決めなければならない。


 フィオナもテリーサもそうなのだ。


「私はお前のことお姉さまだなんて思ってないけどね」

「あら、嫌だわ。テリーサ、あなたったら思ったことをすぐに言ってしまうんだから」

「しかしそれはいい事だぞ。こんな風にひねくれ者になるぐらいだったらまっすぐ両親の言う事を聞いていい子になってくれ」

「そんなの当たり前だわ。フィオナとは違って私は優秀だし」


 両親に挟まれて自信たっぷりに育てられた、愛嬌のある妹、彼女はフィオナとは大違いだ。


 そもそも、思い通りに動かないフィオナの事を両親は嫌っていた。だからこそ非道を働く男の人と婚約させることもいとわなかった。


 ……その差を見て、今更悲しくなんてなりません。ただ、歪んでいると思うだけです。


 ノアは言っていた。大人になれば、適当に言いなりになっているだけでは痛い目を見ることがあると。


 まさしく今のテリーサがその状態だろう。盲目ではいけない、自分のやったことに責任がついて回るそれが大人だ、彼女はまだ大人ではないけれどそのまま大人になっていいことは無い。


 少なくともフィオナはそれを許容していくつもりはない。


「お父さまお母さま、今日私は、ただ伝えに来たんです。あなた達に文句を言われるのはいいです。でもこれから先、私は一切、ヴェロニカ派閥のやっていることに加担しない」

「何よ! 私の言葉は無視? いい身分じゃないフィオナ。それにそれって責任放棄っていうんだよ! 成人したのに大人げない」


 父と母に向かってフィオナがいうと、テリーサはすぐにフィオナを糾弾する。彼女に話があるわけではないのに、父と母はそうだそうだとばかりにテリーサの言葉に深く頷いた。


「アシュトン伯爵家にも戻りません。私がいなければ”仕事”もうまくいかないでしょう? このまま手を引いてまっとうに生きてください」

「わかってるんだったら戻ってきなさいよ! なに偉そうにしてんだか本当わかんない! お仕事だってしなきゃ生きていけないのにバッカじゃないの?」

「テリーサ、黙ってください」

「何が黙ってよ! お父さまとお母さまをいじめてそんなに楽しいの? お前、こんなに困ってる両親を虐めるなんて鬼畜だよ!」

「……話がそれています」

「逸れてなんかないんだけど!大体ちょっといい魔法持ってるからってなんで偉そうにしてるわけ? そんなでヴェロニカ王妃殿下に顔向けできんの?」


 フィオナは父と母に仕事の話をしているだけなのに、テリーサは被害者のような顔をしながらフィオナをにらみつける。


 そんな娘の後ろに隠れて父と母は「もっと言ってやって」「テリーサの言う通りだ」とテリーサをあおったり褒めたりする。


 自分たちが後ろめたい事をしているからと言って、そんな風に子供の後ろに隠れて文句を言ってもらうだなんて恥ずかしくないだろうか。


 せめて大人ならば矢面に自分が立つべきだ。


 フィオナだって真っ向から批判を受け入れたというのに。


 とにかくテリーサを黙らせようと言葉を考えるが、父や母は驚いた様子でフィオナの後ろにある扉を見つめた。


 それに気がついてフィオナも振り返ってみると、そこには、十歳前後の少女が立っていて、控えめに扉を開けていた。


「ルイーザ……あらやだ、抜け出してきたの?」


 母が小さくつぶやくように言った。彼女はルイーザというらしい。


 くるくるとした桃色の髪が可愛らしい少女だ。


 こうして勝手に扉を開けることが良くない事だとは理解していそうだったが、切羽詰まった様子で中へと踏み込んできて「あの! あの、お話があるの!」と必死に訴えかけた。


「こら! どうしてこんなところにいるわけ! 家庭教師の時間でしょ!」

「あの、伯爵様っ、私は、いい子だからッ」

「お父さまは今忙しいんだけど! 見て分かるでしょ!」

「きゃぁっ、待ってお願い!」


 そんな問答を繰り返しながらテリーサは立ち上がり、腕を掴んでぐいぐいと引っ張っていく。「お母さま私、ルイーザを部屋に戻してくるから」と軽く声をかけた後、フィオナをにらんで出ていく。


 その光景を見てフィオナは父と母への酷い嫌悪感が湧いてきて、ただじっと見つめて気分が悪くなった。


「まだ続ける気ですか」


 信じられない気持ちになりながらもフィオナは彼らに問いかけた。


 すると二人はバツが悪そうに視線を逸らしたのだった。





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