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43 最後の計画 その一



 フィオナはたった一人でヴェロニカの離宮へとやってきていた。


 彼女の離宮にやってくるのはなんだかとても久しぶりの事のような気がしたが、実際はそれほど期間は開いていないのだと思う。


 提示された手土産の入った封筒を持ってフィオナは、中へと通された。


 離宮の中は王宮の廊下よりも高価な美術品や骨董品が所狭しと並んでおり、高級なものだけをかき集めたかのような様子だ。


 派手なカーペットに派手な壁紙、どこを見ても目が痛い。見る人が見れば趣味が悪いともとれる統一性の無さだ。


 通された応接室に入ると、ヴェロニカは肘掛けに頬杖をついて紙煙草を吸っている。


 妖艶とした雰囲気が醸し出されており、やはり目が合うだけで気おされる様な雰囲気を感じてフィオナはごくりと喉を鳴らした。


「……座ったらどう、フィオナ」


 じっとりとした低い声で言われて、フィオナは入り口から動こうとした。すると背後から、わー!と大人の男が叫んだような声が聞こえてきてびくりと肩を揺らした。


「あら、あなたが来たことメルヴィンもわかったんじゃないのかしら、自分の人生を台無しにした女だものね」


 ……そうでした。彼もここにいる、今どんな風になっているかはわかりませんが、こんな様子では苦労はしているんでしょうね。


 考えつつもヴェロニカを見る。


 彼女は相も変わらず美しいままで苦労しているという風ではない。きっと使用人にすべてを任せているのだろう。


「でも、いいのよ。一生あなたの事をわたくしは許さないけれど、それでもこうして気持ちを入れ替えてわたくしの元へとやってきたのだから、メルヴィンもあなたに面倒を見てもらった方がうれしいに決まってるわ」

「……彼は今どんな状態なんですか」


 フィオナはまったく、情緒不安定になったメルヴィンの介護などするつもりもなかったが、様子をうかがいたくて、ソファーに座りつつ問いかけた。


「あら、いい心掛けね。そうよああなったメルヴィンはお前が背負っていくのだからきちんと把握しなければならないわよね。お前の旦那になるんだもの」


 フィオナの言葉をヴェロニカは好意的に受け取って、笑みを浮かべながら煙を深く吸い込んで、へらへらと笑いながら口にした。


「まぁ、でもわたくしだったら耐えられませんわ。夜尿症の気があって精神障害もちの旦那なんて恥ずかしくて殺してやりたくなりますもの」


 ……夜尿症? 情緒不安定からですかね。母の記憶を失ったことはやはり大分応えているんでしょうか?


 精神異常者のようにメルヴィンが暴れだすのはいつもの事としても大人でおねしょは一大事だろう。


 もはや大人として尊厳も守れない。


 しかし、他の善良な人々を傷つけてしまったフィオナの罪の意識にはまるで引っかかることはなく、むしろ当たり前ぐらいに思った。


 そうでなければ、やるせない。


 あれほど、フィオナは彼に苦しめられたのだから、そしてさらに人に面倒を見てもらえる立場も奪うつもりだ。


「けれどそれもこれもすべてあなたの自業自得。さぁ、手土産を出してちょうだい、フィオナもちろん持ってきたんでしょう?」


 言いながらヴェロニカはフィオナの持っていた封筒に目線を向けた。


 しかし、その前に少し気になることがあったので、フィオナはそれを膝の上に置いたままヴェロニカに問いかけた。


「はい……ただ、すこしお聞きしてもいいですか」

「……何よ。そもそもわたくしとこうして対等に話をしている時点で不敬だというのにあなたの側から質問?」

「すみません。でも……不安で」


 フィオナは自分の行動の意味を悟られないように彼女にそう告げた。


 こうしてヴェロニカの元へとやってきたけれど決して彼女に従うつもりはない。フィオナはフィオナのやるべきことの為にヴェロニカに会いに来ただけだ。


 ぐっと拳を握って、彼女の威圧的な表情に耐えながら「お願いします」と口にした。


 すると、ヴェロニカはふっと表情を緩めて不敵な笑みを浮かべて煙草を灰皿に押し付けた。


「いいでしょう。言ってみなさい」

「……まずお聞きしたいのはヴェロニカ様はどうして、こうしてまた私を受け入れてくださる気になったんでしょうか」

「というと?」

「ですから、私はメルヴィンに取り返しのつかない傷を負わせました。すでにただの反発ではない、それなのに受け入れてくれる気になったのは何故でしょうか」

「……ただあなたに最後のチャンスをあげようと思っただけよ。それにわたくし信じてたもの、あなたはこざかしくて矮小な悪党だって、だからこうしてやってくると思った。それだけよ」


 ……この言葉だけでは、正直信用されているのかどうかわかりませんね。


 あの手紙はとても切羽詰まっているように見えた。


 だからこそ、私が抜けた穴を埋めるために躍起になって怒りの手紙を送ってきた可能性が大きいと思う。


 けれどもマーシアたちが手こずるような相手である彼女がそう簡単に尻尾を出すとは思えない。


 だからこそ警戒されている可能性があるとも考えている。


 確かに手土産としてマーシアたちのこれからの動きや情報をフィオナは持ってきたし、彼らの護衛騎士の配置や交代時間などを知っている。


 それらを纏めたものがこの封筒の中に入っているのだ。


 しかし渡してしまったらフィオナはヴェロニカにとって後はただの用無しと判断されてしまうかもしれない。


 そうなっては困るのだ。


 フィオナにはやるべきことがある。正しく進んでいるかは今のフィオナには判断できないがそれでもやるしかない。

 




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