32 ノアの気持ち その一
目が覚めると視界の端にノアの姿があった。
いつの間にかベッドに運ばれていたらしく、肩までかけられていた布団を押しのけて起き上がると、ベッドの淵に座っていたノアは振り向いて、フィオナの事を見つめた。
それから口元に手を当ててあくびをしてから目をこすって少し笑った。
「そろそろ起きるかなって思いながら過ごしてたら随分、経っちゃった。流石に眠たいな」
フィオナはぼんやりとしながらその言葉を聞いて、眠たげな顔で考えた。
……どうしてここに居るんでしょうか? こんな時間に……。
部屋の明かりは消えていて、ベッドサイドの小さな間接照明だけがうすぼんやりと二人の事を照らしていた。
ベッドの感触的にもいつもの通りだったし、自分の部屋のベッドで普段通り眠っていて起きたら彼がいたというような状況だと思った。
「あれ~?……魔力が足りなくてぼんやりしてる? でも随分眠ったでしょ、フィオナ」
「ノア……」
問われてフィオナはたしかに体が重たくてけだるい事を思いだし、魔力欠乏の症状を実感する。
そう考えると、倒れる前の記憶が戻ってきて、きちんと起き上がってから青くなった。
「……ノア、私、やってしまいました……」
「? そんなことないでしょ、マーシアは君のこと認めるって言ってたし……結局私は出番なかったし……」
「そ、それはとてもうれしいですけど、マーシア様に支えられてしまって、自分の魔力量も把握できてないなんて、貴族失格です……」
彼らに認められるためにぎりぎりまで魔力を使いすぎたのだ。やらかしてしまった。
それに結局、頑張って主張したというのに、その主張にも穴があって駄目駄目だ。
もしも彼女がそのフィオナの考えの足りなさを詰めてきて、さらには言い負かされてしまったらと考えると危なかったと思う。
「はぁー……フィオナさ、もう少し自分を大切にしなよ。君はどんな形でも今回の目標達成したんでしょ、違う?」
落ち込んでいると彼はフィオナの心を見透かしたようにそう口にして、小首をかしげて聞いてきた。
たしかに結論だけ言ってしまうとその通りかもしれないが、反省すべき点が多くあったのは事実だろう。
「でも……」
「なに? 私の主張が間違ってるって言いたいの?」
「それは……そういうわけじゃありません」
ノアの主張も言葉もいつも正しくてフィオナの道しるべになってくれる。そんな彼の言葉を否定しようとなんてしていないのだ。
「じゃあ、一旦落ち込まないでルイーザとお祝いでもしたら? 彼女も不安だったでしょ」
「あ、そうですね。たしかに」
「あと、君が倒れた後の事気にならないの?」
問いかけられてフィオナはハッとする。たしかに落ち込んでいる場合ではない。
協力関係になるという結論が出たとしても、では具体的に何をするのか何ができるのかというのは非常に大切なことだ。
そういうことを話し合わないままフィオナは倒れてしまった。今後の事についてはどうなるのか、それに誰がここまでフィオナを運んでくれたのかも気になるところだ。
「気になります!」
「そうでしょ。あと、あまり興奮しない事。また気を失うよ。後で魔力草のハーブティー持ってこさせるから、飲んでもう一回ちゃんと寝ること、いい?」
「はい」
食い気味に言ったフィオナに、ノアは落ち着かせるようにゆっくりと言ってそれから元気よく返事をしたフィオナにちょっと困ったように笑った。




