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第6話

   

 その後。

 立ち話では満足に事情を説明し合うのは無理だろうと判断して、私たちは近くの喫茶店へと場所を移した。私と彼の二人だけでなく、彼の友人である小太りな男も一緒だ。


「いやあ、本当に驚きです。ただの夢だと思っていたのに……」

 どうやら彼は、私が幽霊と遭遇していたのと同じ頃、同じ病院の中庭で私と出会う夢を見ていたらしい。体を震わせてベンチに座り込んでいる女性に彼が話しかける、というシチュエーションも、私の体験そのままだった。

 彼があの大学の大学院生なのも現実通りだが、研究室の外まで白衣を着続けるような人間ではなく、あの時の白衣姿は彼自身「夢だから現実離れした点がある」と認識していたようだ。


「奇遇ですね。実は私も……」

 同じ夢を見ました。

 そう言って誤魔化しても良かったし、普通ならばそうしていただろう。しかし、こうして出会ったのも何かの縁。相手を信頼して、正直に包み隠さず話すことにした。

 彼を幽霊だと思ったことや、私に霊感があることも含めて。


「えっ、幽霊? この僕が?」

 驚く彼の横で、小太りの友人が冷静にコメントする。

「……それって、生き霊じゃね? ほら、幽体離脱っていうんだっけ。眠ってる間に魂が肉体から離れて……みたいな」

 なるほど、幽霊は幽霊でも、あれは生き霊だったのか。生き霊でも『霊』である限り、私の霊感が反応しても不思議ではないのだろう。


 事情が理解できると、私たちの空気も緩む。

 彼の友人もニヤニヤ笑いを浮かべて、彼を揶揄(からか)い始めた。

「よかったなあ、夢の中の美女が実在して。しかも、こうしてその美女と一緒にお茶も出来て……」

「おい、恥ずかしい言い方は()せよ」

 ポンポンと背中を叩く友人に対して、彼は照れ臭そうな態度を見せていた。

 しかし、恥ずかしいのは彼よりも私の方だ。こう何度も「美女」と連呼されるのは、くすぐったいような気分になってしまう。

 そもそも私は、それほど容姿に自信があるわけではない。とはいえ不細工と卑下するほどでもないから、ごくごく平均的なレベルだろう。これまで二十年以上生きてきて、美人とか美女なんて(たぐ)いの言葉は、一度も言われた経験がないくらいだ。

 今も実際、小太りの男がチラリと私を見る視線からは「美女なんて言ってたが、現実にはこの程度か」みたいな気持ちが感じられる。まさに「目は口ほどにものを言う」というやつだ。


 彼と彼の友人のやり取りを見ているうちに、ふと決心する。

 どうせ恥ずかしいのならば、いっそのこと……。

 思い切って私も、あの時浮かんできた気持ちを正直に告げることにしたのだ。


「でも、本当に良かったですね。私、あなたのこと幽霊だと思って『生きてるうちに会いたかった』って思ったほどですから。だから、お互い様ですよ」

「えっ? 『お互い様』ということは、僕だけでなくあなたも……」

 微妙な言い方だったが、私の意図は正しく伝わったらしい。

 驚きで目をパチパチさせながらも、彼の口元には明らかな喜びの笑みが浮かんでいた。

 それが顔中に広がっていくのを横目で見ながら、隣に座る友人がコーヒーカップを口に運ぶ。そのまま、まだ一滴も飲む前から「ごちそうさま」と小声で呟くのだった。




(「白衣の男の正体は」完)

   

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