夫婦
詞書:予告
叶わぬと
知りてはいても
橋の上
共に逝かむと
ささめくめをと
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公式企画「俳人・歌人になろう!2023」参加作品です。
▼小説家になろう 公式企画サイト
https://syosetu.com/event/haikutanka2023/
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ささめく:ささやく
まだ、夫が元気だった頃というか、私がそれほどまでには夫の体調を心配していなかった頃、ロンドンとドーバーを繋ぐ高速道路を渡る橋の上で夫が呟いた。
「一緒に飛び降りようか」
かなりのスピードで走り来て、また向こうに去っていく4車線が見渡せる。
数えきれない乗用車、長距離トラックの流れにくらりとのみこまれそうだった。
「いいよ。そうしよう」
私の答えは上滑りしてなかっただろうか?
夫がいなければこの国で生きていけないと思っていた頃だから、想いが籠っていたなら嬉しい。
死ぬなら同時がいいね、なんてよく言い合っていたから。
夫は Not now と言ってまた歩き出した。
夫の身体が壊れ始めたら、同時に死ぬなんておとぎ話だとわかった。
「私は意地でも看取り空へ還す」、そのほうが大切だと感じたから。




