魔王の息子が聖剣を抜きました
とても短いです。サクッとどうぞ
聖剣に選ばれたのはヒトではなかった。かといって魔物かというと、そうでもない。見た目はそれほど人間と変わらない存在。
魔力や身体能力に優れ、寿命も長い。その代わり、生殖能力に劣る。つまり、魔族。
「やべえ。俺が抜いちゃったよ」
魔族の少年にとっては、ほんの遊びのつもりだった。
「坊っちゃま……。なんてことを」
世話役の年老いた魔族が呆れた顔で呟く。それはそうだろう。
聖剣を台座から引き抜いたのは当代魔王の息子、ゼバスだったのだから。
「だって仕方ないだろ! 抜けたんだから!! そもそも"聖剣を見学に行きましょう"なんて言い出した爺が悪い!!」
ゼバスは聖剣を振り回しながら抗議する。
「ぼ、坊っちゃま! やめて下さい!! 魔族は聖剣で傷付けられると、その傷は絶対に癒えないのです!」
「ほーん? いいことを聞いたぞ。この聖剣を持っていれば、俺に逆らう魔族はいないという訳だな」
ゼバスはニヤリと口角を上げた。
「なんと、性格の悪い……! 亡くなった奥様が聞けばどんなに悲しむことか……!!」
「うるさい! 俺に口ごたえするな!!」
聖剣が年老いた魔族の首筋に触れる。
「……」
「分かればいいんだよ。分かれば。さぁ、爺。俺を親父のところに連れて行け!!」
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魔王城の玉座で当代魔王マグザスは困惑していた。何故、自分の息子が光り輝く聖剣を持っているのかと。
「ゼバス……。どういうことだ? 何故そんなモノを持っている?」
「ゼバス様だろ! このクソ親父が!! いつも勉強しろ! 修行しろ!! ってうるさくしやがって!! 俺はもう限界なんだよ!!」
「ちょ、ちょっと待て! 全てはお前の為を思って!!」
ゼバスの瞳が強く、赤く光った。
「嘘だ!! 親父は人間を殺すことしか考えてないじゃないか!! 勉強する内容も如何にしてヒトを殺すか。修行もヒトを殺すため。ヒト、ヒト、ヒトォォオオオ!! もううんざりなんだよォォオオオ!! 俺は、俺のやりたいことをやりたいんだ!!」
ゼバスの怒りに聖剣が呼応し、剣身を覆う光が膨れ上がる。
「や、やめろ!! それを受けると私は消えてしま……」
マグザスの悲鳴。それは──
「うるせぇぇぇぇえええ!!」
──僅かに剣の軌道に影響を与えた。聖剣は魔王の身を掠め、そのまま魔王城の半分を吹き飛ばす。
「……生きている」
「今、人間を恨み敵対を続けた魔王は死んだ。俺の目の前にいるのはただのマグザスだ。もし、俺の父親まで辞めたいのなら、もう一度、人間に恨み言を言ってみろ」
その言葉は魔族の少年の言葉だったのか? それとも……。
「すまないゼバス。私を許してくれ」
「俺は、自由に生きる。他の魔族もだ」
「……分かった」
かくして、二百年以上続いていた人間と魔族の戦争は終焉を迎えた。ついに、聖剣の願いが叶った瞬間であった。
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