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DRAGON SEED  作者: みーやん
第八章
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ゴブリン退治(上)

主な登場人物


ロナード…漆黒(しっこく)の髪に紫色の双眸(そうぼう)特徴的(とくちょうてき)な、傭兵業(ようへいぎょう)生業(なりわい)として居た魔術師の青年。 落ち着いた雰囲気(ふんいき)の、実年齢よりも大人びて見える美青年。 一七歳。


エルトシャン…オルゲン将軍の(おい)で、ルオン王国軍の第三(だいさん)治安(ちあん)部隊(ぶたい)副部隊(ふくぶたい)(ちょう)だったが、カタリナ王女から、新設(しんせつ)された組織『ケルベロス』のリーダーを拝命(はいめい)する。 愛想(あいそ)が良く、柔和(にゅうわ)物腰(ものごし)好青年(こうせいねん)。 王国内で指折りの剣の使い手。 二一歳。


アルシェラ…ルオン王国の将軍オルゲンの娘。 白銀(はくぎん)の髪と琥珀(こはく)(いろ)双眸(そうぼう)特徴的(とくちょうてき)な、可愛(かわい)らしい顔立ちとは異なり、じゃじゃ馬で我儘(わがまま)なお姫さま。 カタリナ王女の命を受け、新設(しんせつ)される組織に渋々加わる事に。 一六歳。


オルゲン…ルオン王国のカタリナ王女の腹心(ふくしん)で、『ルオンの双璧(そうへき)』と(しょう)される、幾多(いくた)戦場(せんじょう)活躍(かつやく)をして来た老将軍(ろうしょうぐん)。 温和(おんわ)義理堅(ぎりがた)い性格。 魔物の害に苦しむ民の救済の為に、魔物(まもの)退治(たいじ)専門(せんもん)の組織『ケルベロス』を、カタリナ王女と共に立ち上げた人物。


セシア…ルオン王国の王女、カタリナの親衛隊(しんえいたい)の一員で、魔術に長けた女魔術師。 スタイル抜群(ばつぐん)で、人並(ひとな)み外れた妖艶(ようえん)な美女。


レックス…オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)(つか)えて居た騎士(きし)見習(みなら)いの青年。 正義感(せいぎかん)が強く、喧嘩(けんか)っ早い所が有る。 屋敷の中で一番の剣の使い手と自負(じふ)している。 一七歳。


カタリナ…ルオン王国の王女。 病床(びょうしょう)にある父王に代わり、数年前から(まつりごと)を行って居るのだが、宰相(さいしょう)ベオルフ一派の所為(せい)で、思う様に政策(せいさく)が出来ずにおり、王位を(おびや)かされている。 自身は文武に長けた美女。 二二歳。


サムート…クラレス公国(こうこく)に住む、烏族(からすぞく)の長の妹サラサに仕える、烏族(からすぞく)の青年。 ロナードの事を気に掛けて居る(あるじ)の為にロナード共にルオンへ(おもむ)く。 人当たりの良い、物腰(ものごし)の柔らかい青年。


シャーナ…南半球を中心に活動(かつどう)している傭兵(ようへい)で槍の(あつか)いが得意(とくい)。 口は悪いが、サバサバとした性格で面倒見(めんどうみ)の良い姉御(あねご)(はだ)


デュート…元・トレジャーハンターの少年。 その経験(けいけん)をかわれ、ケルベロスに加わる。 飄々としていて掴みどころのない性格。 一七歳。


ベオルフ…ルオン王国の宰相(さいしょう)で、カタリナ王女に代わり、自身が王位に()こうと(たくら)んで居る。 相当な好き者で、自宅(じたく)別荘(べっそう)に、各地(かくち)から集めた美少年美少女を(かこ)って居ると言われている。


メイ…オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)に仕えている騎士(きし)見習(みなら)いの少女。 レックスとは幼馴染(おさななじみ)。 ボウガンの名手(めいしゅ)。 十七歳

 エルトシャンは、残りの自分の荷物(にもつ)を取りに、自宅(じたく)であるバルフレア伯爵家(はくしゃくけ)へ戻っていた。

「エルト」

自宅(じたく)のバルフレア家に戻り、長い廊下(ろうか)を通り抜け、自室(じしつ)へ入ろうとした時、不意(ふい)に後方から声を掛けられた。

 エルトシャンは(おもむろ)に足を止め、()り返る。

 そこには、白髪(しらが)()じりの()げ茶色の髪を後ろで一つに束ねた、色白で、(たよ)りない体付きで、気弱そうな雰囲気(ふんいき)の、壮年(そうねん)の男が立っていた。

「父上……」

エルトシャンは、妻の(しり)にすっかり()かれ、妻の機嫌伺(きげんうかがい)ばかりし、(あるじ)威厳(いげん)などすっかり失墜(しっつい)し、屋敷内(やしきない)でも存在(そんざい)(かん)(うす)い父が、(めずら)しく自分から声を掛けて来た事に(おどろ)いた。

 父が、当主(とうしゅ)としての威厳(いげん)を失ったのは、侍女(じじょ)であったエルトシャンの母親と不倫(ふりん)し、それが妻にバレてしまってからだ。

 代々(だいだい)将軍(しょうぐん)輩出(はいしゅつ)してきた、名家(めいか)令嬢(れいじょう)として育った義母(ぎぼ)のサフィーネは、とても自尊(じそん)(しん)が高く、格下(かくした)伯爵家(はくしゃくけ)(とつ)いだ事に世間(せけん)への引け目を感じていたし、伯爵(はくしゃく)である夫の事を見下(みくだ)していた。

 長男のチェスターが生まれると、妻のサフィーネは息子(むすこ)にベッタリになり、夫のフェーブル事を全く(かま)わなくなり、夫婦(ふうふ)の間には冷たい隙間風(すきまかぜ)が吹いていた。

 妻に冷たくされ、(さみ)しい想いをしていたフェーブルを優しく(なぐさ)めてくれていたのが、エルトシャンの実母だったのだが、二人の関係を知り、彼女の腹に子供まで出来た事を知ると、とてもプライドの高いサフィーネは、侮辱(ぶじょく)されたと激怒(げきど)

 サフィーネは、近くに置いてあった果物(くだもの)ナイフを手にし、エルトシャンの実母に(おそ)い掛り、彼女に怪我(けが)をさせると言う、事件(じけん)を起こしてしまう。

 その時フェーブルは、妻の暴挙(ぼうきょ)を止める訳でも、愛人(あいじん)を妻の暴挙(ぼうきょ)から守る訳でも無く、ただ部屋の片隅(かたすみ)で妻の怒りの矛先(ほこさき)が自分に向かぬ様、子犬の様に(おび)え、その一部(いちぶ)始終(しじゅう)を見ていただけであったと言う。

 彼の残念(ざんねん)()ぎる行動(こうどう)を見た屋敷(やしき)使用人(しようにん)たちや、兵士たちの忠義(ちゅうぎ)失墜(しっつい)した事は言うまでも無く、それ以降(いこう)、サフィーネが(たよ)りない夫に代わり、権威(けんい)()るう様になる。

 フェーブルと不倫(ふりん)をした、侍女(じじょ)であったエルトシャンの実母は当然(とうぜん)屋敷(やしき)から追放(ついほう)されてしまう。

 しかしながら、妻子(さいし)ある相手と不倫(ふりん)をし、その挙句(あげく)にその子供を身籠(みごも)ったエルトシャンの実母に対して世間(せけん)の目は冷たく、屋敷から追放(ついほう)された後、実家(じっか)に帰る事も出来ず、行く場を失った彼女は、街の外れにあるスラム街に辿(たど)り着き、そこで娼婦(しょうふ)をしながら、幼いエルトシャンを育てていたのだが、流行病(はやりやまい)に掛り、命を落としてしまった。

 エルトシャンの実母が屋敷(やしき)を去った後も、彼女の事を気に掛けていたフェーブルは、彼女が自分との間に出来た(おさな)い子を(のこ)し、流行病(はやりやまい)で命を落とした事を知り、周囲(しゅうい)反対(はんたい)を押し切り、エルトシャンを屋敷へ引き取った。

 無論(むろん)愛人(あいじん)の子供を屋敷に置く事など、正妻(せいさい)のサフィーネが(ゆる)(はず)もなく、(はら)(ちが)いの兄や義母(ぎぼ)勿論(もちろん)、屋敷に仕える使用人(しようにん)や兵士たちも、伯爵家(はくしゃくけ)に引き取られたエルトシャンの事を冷遇(れいぐう)し、彼はとても肩身(かたみ)(せま)い思いをして育って来た。

 そんな彼の境遇(きょうぐう)を知ってか知らずか、実子(じっし)の居ない伯父(おじ)のオルゲン将軍だけが、()が子の様に彼の事を可愛(かわい)がり、(いそが)しい合間(あいま)()って、剣術(けんじゅつ)馬術(ばじゅつ)熱心(ねっしん)に教えた。

 エルトシャンは伯父(おじ)熱意(ねつい)(こた)える為、必死(ひっし)武芸(ぶげい)稽古(けいこ)(はげ)み、そのお(かげ)で彼は、今の地位(ちい)を手に入れる事が出来たと言う訳だ。

 バルフレア家では、存在(そんざい)しないかの様に(あつか)われて、己の存在(そんざい)意義(いぎ)を見出せずにいたエルトシャンは、(おのれ)存在(そんざい)意義(いぎ)可能性(かのうせい)を気付かせてくれた、伯父(おじ)のオルゲン将軍にはとても感謝(かんしゃ)している。

(もど)って来たのならば一言くらい、挨拶(あいさつ)をして行きなさい」

フェーブルは複雑(ふくざつ)な表情を浮かべつつ、静かな口調(くちょう)でそう言って来た。

(ぼく)が、居ようが居まいが、ここの屋敷(やしき)に居る者たちにとっては、どうでも良い事でしょう?」

エルトシャンはニッコリと笑みを浮かべ、皮肉(ひにく)交じりに父に言い返すと、彼は沈痛(ちんつう)な表情を浮かべ、

「その様な(かな)しい事を言うな。 お前に肩身(かたみ)(せま)い想いをさせている事は、本当に済まないと思っている。 だが、(わたし)は一度たりとも、お前が居なくて良いなどと思った事は無い」

「父上……」

思いがけぬ父親の言葉に、エルトシャンは戸惑(とまど)いの表情を浮かべる。

「あら。 居たの?」

一人の女性が、冷たくそう声を掛けて来た。

 ()げ茶色の(くせ)のある髪を肩に流し、ラメストーンを()りばめた、どキツイ赤いドレスに身を包んだ、(あご)と首の(さかい)が無い(ほど)肉付(にくづ)きの良い、土管(どかん)の様な体型(たいけい)(あつ)()りに加え、けばけばしい化粧(けしょう)(ほどこ)して、キツイ香水(こうすい)(にお)いをプンプンと(ただよ)わす、見るからに気の強そうな壮年(そうねん)の女性……。

 若い女性でも、その様な衣装(いしょう)はしないだろうと思われる、年甲斐(としがい)に無く、ド派手な格好(かっこう)をしているこの女性こそが、この屋敷(やしき)夫人(ふじん)で、オルゲン将軍の今は亡き妻の妹サフィーネである。

貴方(あなた)何時(いつ)までここを出入りするつもり? チェスターはもうすぐ所帯(しょたい)を持つのだから、貴方(あなた)の様なのが出入りしていると迷惑(めいわく)だと、何故(なぜ)、分からないのかしら?」

義母(ぎぼ)のサフィーネは、大して暑くも無いのに、ピンクのファーが付いた、ド派手な扇子(せんす)口元(くちもと)()てながら、意地(いじ)の悪い表情を浮かべ、彼に向って思い切り(どく)()く。

 義母(ぎぼ)容赦(ようしゃ)ない言葉に、エルトシャンは困った様に苦笑(にがわら)いを浮かべる。

「サフィーネ。 何もその様に言わなくても……。 ここは、この子の家でもあるのだから……」

妻の容赦(ようしゃ)ない言葉に、フェーブルは戸惑(とまど)いの表情を浮かべつつ、おずおずとした口調(くちょう)で、彼女にそう言うと、サフィーネは、紫色のアイシャドウをベタリと付けた目で、ジロリと彼を(にら)み付け、

「家ですって? (わたくし)は、この子を家族などと(みと)めた覚えはありませんわ! (いや)しい使用人(しようにん)の子供の分際(ぶんざい)で、今の今まで、ここに置いてもらえていたけでも有難(ありがと)く思ってもらわねば」

ドスの()いた低い声でそう言い返して来たので、フェーブルは彼女の有無(うむ)も言わせぬ迫力(はくりょく)()され、何も言い返せなくなる。

(やっぱり『気持ちだけ』……か……)

妻に圧倒(あっとう)され、何も言い返せなくなったフェーブルを見て、エルトシャンは冷たい視線(しせん)を向けながら、心の中でそう(つぶや)いた。

「父上、そのお気持ちだけで十分です」

妻に何も言い返せず、バツの悪そうな表情を浮かべて居る父親に向かって、エルトシャンはニッコリと笑みを浮かべてそう言ってから、サフィーネに向かって、

「気が()かず(もう)し訳ありません。 兄上(あにうえ)やその奥方(おくがた)の為にも早く荷物(にもつ)(まと)めて、(いま)()る場所に落ち着きます」

ニッコリと笑みを浮かべたまま、そう言うと、彼は静かに自分の部屋の扉を開き、その中へと入ろうとした時、

「良い事? 今日中には出で行きなさいよ! この厄病(やくびょう)(がみ)っ!」

サフィーネは忌々(いまいま)し気な表情を浮かべ、強い(にく)しみの(こも)った口調(くちょう)で、エルトシャンにそう言い放つと、彼は、物凄(ものすご)(いた)そうな表情を一瞬(いっしゅん)浮かべるが、()ぐにニッコリと笑みを浮かべ、

「はい。 そうします」

静かにそう答えた。

 背中(せなか)()しにチラリと見た父親のフェーブルは、妻の、エルトシャンに対する暴言(ぼうげん)を止める事は出来ぬ様で、ただ済まなそうな顔をして、彼を見ているだけであった。

(やっぱり、ここには(ぼく)居場所(いばしょ)なんて無いんだ……)

エルトシャンは沈痛(ちんつう)な表情を浮かべ、心の中でそう呟いた。

 元は、婿養子(むこようし)としてオルゲン家へ来たものの、今や将軍として他国(たこく)にも名の知れ渡っている、オルゲン将軍が(きず)いた侯爵家(こうしゃくけ)地位(ちい)遺産(いさん)を奪う(ため)、将軍の養女(ようじょ)であるアルシェラと、(はら)(ちが)いの息子(むすこ)エルトシャンをどうにかして婚約(こんやく)させたいと、一時期(いちじき)は本気で考えていた貪欲(とんよく)義母(ぎぼ)

 (みずか)らは努力をする事はせず、出世(しゅっせ)(ため)伯父(おじ)権威(けんい)を最大限に()(かざ)し、他者(たしゃ)(くっ)(ぷく)させる事を生き甲斐(がい)とし、そうする事が当然(とうぜん)だと考え、プライドだけは人一倍(ひといちばい)高く、軍での地位(ちい)の割には中身(なかみ)(ともな)わない(はら)(ちが)いの兄チェスター……。

 そんな義母(ぎぼ)腹違(はらちが)いの兄の暴走(ぼうそう)を止める事の出来ない、気の小さい父……。

 彼等(かれら)間違(まちが)いを(ただ)す事もせず、彼等(かれら)の言いなりになり、ただ給与(きゅうよ)(もら)っているだけの、(ちゅう)誠心(せいしん)も何もない家臣(かしん)

 こんな(くさ)った一族など、一層(いっそう)事滅(ほろ)んでしまえば良いと、エルトシャンは心底(しんそこ)思った。


「何か、すげぇ田舎(いなか)だな……」

レックスは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべつつ、そう呟く。

 ロナード達は組織として始めて、外部(がいぶ)から正式に魔物退治(まものたいじ)依頼(いらい)を受け、現場(げんば)(おもむ)いていた。

 (おとず)れた場所は、(おう)()ルオンから東にある農村(のうそん)だ。

 崩れ落ちない様に(どろ)で固定しただけの、粗悪(そあく)素焼(すやき)煉瓦(れんが)を積み重ね、その上に木の板で(ふた)をしただけの様な、粗末(そまつ)な家々が立ち並んでいる。

 王都(おうと)の様に道が舗装(ほそう)されている訳では無く、地面が()き出しな通りの道は、雨の日は泥濘(ぬかるみ)そうだ。

 通りに面した畑には、子供の足跡(あしあと)の様なモノが沢山(たくさん)残っていて、(ひど)(あら)らされており、廃材(はいざい)()き集めて出来た様な簡素(かんそ)な造りの家畜(かちく)小屋(ごや)(いく)つも(こわ)され、その残骸(ざんがい)が通りにまで散乱(さんらん)しており、家畜(かちく)のものと思われる血溜(ちだ)まりが(いた)る場所に残っており、何か大きな物を引き()った(あと)もある。

 昼間だと言うのに外には人っ子一人居らず、(みんな)、家の中で息を殺している様で、(おそ)ろしく静まり返っていた。

 家々の(かべ)には(すす)けた(あと)が残っており、真っ黒に焼けてしまっている家も(いく)つかある。

(ひど)いね……これ」

村の様子(ようす)を見て、エルトシャンは沈痛(ちんつう)な顔をして(つぶや)く。

「こんな真似(まね)をするのは、多分(たぶん)、ゴブリンだろうね……」

馬から降り、被害(ひがい)様子(ようす)注意(ちゅうい)(ぶか)く見ていたシャーナは、(けわ)しい表情を浮かべ言った。

「そうスね……」

デュートも神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで(つぶや)く。

「ゴブリンってのは、あれか? 前に森で出くわしたヤツ?」

レックスは小首を(かし)げ、ロナードにそう問い掛ける。

「そうだ」

ロナードは淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、レックスの問い掛けに答えた。

(あのちっこいのか)

レックスは、その時の事を思い出し、心の中で呟く。

「ゴブリンは小型の魔物(まもの)だよ。 背丈(せたけ)は子供くらいなんだけど、とにかく気性(きしょう)(あら)くて、縄張(なわば)意識(いしき)も強いんだ。 (けもの)(ちが)って火を(おそ)れないし、それなりの知能(ちのう)もある。 一匹では大した事無いんだけど、()れてこんな風に村や町を(おそ)うんだよ」

シャーナは周囲(しゅうい)を見回しながら、落ち着き払った口調(くちょう)でレックスに説明する。

魔術(まじゅつ)は使えないが人間の様に武器(ぶき)を用いる。 何かと面倒(めんどう)連中(れんちゅう)だ」

ロナードは、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)でそう付け加える。

「まあ、魔物(まもの)退治(たいじ)初心者(しょしんしゃ)のアンタ達には、お(あつら)え向けの相手(あいて)だよ」

シャーナは何処(どこ)小馬鹿(ばか)にした様な口調(くちょう)で、レックスとエルトシャンにそう言うと、(かた)(すく)める。

「よ、良かった……。 この前みたいなのとまた、戦わなきゃなんねぇのかと思ってたぜ」

レックスは、この村人たちを困らせている魔物がそれ(ほど)、大した相手では無いと(わか)り、安堵(あんど)の表情を浮かべつつ、言った。

「ケルベロスの様なのが(あば)れたら、村一つ、そっくり無くなっている」

ロナードは辺りの様子(ようす)を伺いつつ、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)でそう言い返す。

「そうスよ。 そんなのだったら、オレ等だけで、どうにかなる訳ないスよ」

デュートも苦笑(にがわら)いを浮かべながら、レックスに言い返す。

「まずは、依頼(いらい)(ぬし)である村長(そんちょう)の所へ行って、(くわ)しい話を聞くのが先決(せんけつ)だね」

シャーナは、落ち着き払った口調(くちょう)で言った。

「こんな小さな村じゃあ、宿屋(やどや)なんて言う気の()いた所は無いみたいだしね」

エルトシャンは、ゲンナリした表情を浮かべ、そう呟く。

「アンタの好きな風呂(ふろ)も、無さそうだよ」

シャーナは意地(いじ)の悪い表情を浮かべ、ロナードに言うと、

風呂(ふろ)なんて贅沢(ぜいたく)な物だと言う事くらい分かっている。 都市部(としぶ)に住んで居る者以外(いがい)は、近くの川や池などで体を洗うのが普通(ふつう)だからな」

彼は、ムッとした表情を浮かべ、シャーナに言い返すと、彼女は意地(いじ)悪い顔をして、

「ま、アンタみたいに、毎日風呂(ふろ)に入る(やつ)もそう居ないけどねぇ」

「ロナードは、綺麗(きれい)好きなんスよ」

デュートは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、シャーナにそう言い返す。

「ねえ。 (だれ)か居るよ」

エルトシャンは、()()てた畑の前で呆然(ぼうぜん)としている、頭に布を巻き付けた、大柄(おおがら)な中年の男を見付けて、仲間(なかま)たちに声を掛ける。

 その男の足元(あしもと)には、(おの)と森から切り出して来たばかりと思われる(まき)無造作(むぞうさ)に置かれている所を見る限り、どうやら(きこり)の様だ。

「ちょっと良いか?」

レックスは、(きこり)と思われる中年の男に歩み寄ると、声を掛ける。

 (きこり)と思われる男は、突然(とつぜん)声を掛けられて(おどろ)いた様で、レックスを一通り見回した後で、彼の近くにロナード達が居る事に気付き、

「アンタ達は?」

戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、そう問い掛けて来た。

「オレ()は、魔物(まもの)退治(たいじ)依頼(いらい)を受けて(おう)()から来たんだ。 村長(そんちょう)さんに会いてぇんだけど、何処(どこ)の家か知らねぇか?」

レックスは簡潔(かんけつ)にそう説明すると、(きこり)と思われる男は、(あらた)めてレックスたちを見回した後、

「アンタたちがか?」

『信じられない』と言った様子(ようす)で問い返す。

「そうだよ。 アタシ達はケルベロスって言うんだ。 この村の村長(そんちょう)に、魔物退治(まものたいじ)依頼(いらい)を受けて来んだけど、(くわ)しい話を聞きたくてね。 村長(そんちょう)の家へ案内して(もら)いたいんだけどさ」

シャーナは淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、戸惑(とまど)いの表情を浮かべている、(きこり)と思われる男にそう言った。

「そりゃあ、(かま)わねぇが……」

(きこり)と思われる男は、戸惑(とまど)いながらも答えた。

「ロナード。 行くよ」

少し(はな)れた所で、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで焼け落ちた家畜(かちく)小屋の様子(ようす)を見ていたロナードに、エルトシャンがそう声を掛けると、彼は、ゆっくりとした足取りでやって来た。

「何か、分かったかい?」

シャーナは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、ロナードに問い掛けると、

「炎の妖精(ようせい)がまだ興奮(こうふん)している所を見ると、明け方まで、魔物が村を(おそ)っていた様だな……」

ロナードは、焼け残った家畜(かちく)小屋(ごや)(はしら)などを見ながら、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言った。

(なる)(ほど)。 ゴブリンは夜行性(やこうせい)だからねぇ。 今、奴等(やつら)住処(すみか)へ行けば、奴等(やつら)(そろ)って夢の中だろうね」

シャーナは、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言うと、

「どうすんだ? 村長(そんちょう)と会う前に、魔物の住処(すみか)()き止めんのか?」

レックスは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、ロナードに問い掛ける。

「そうだ! ロナードが、この前の()(りゅう)奴等(やつら)住処(すみか)で呼び出してさ、ブレスでバーベキューにしちゃえば良いスよ!」

デュートはポンと手を叩き、嬉々(きき)とした表情を浮かべ、そうロナードに言った。

「いや少し()れそうだ。 強い風雨(ふうう)の中、知らない森の中に入るのは危険(きけん)()ぎる。 日を(あらた)めた方が良いだろう」

ロナードは、落ち着き払った口調(くちょう)でそう言うと、エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべ、

「こんなに、天気が良いのに?」

「そうスよ。 すっごい快晴(かいせい)じゃないスか。 雨とか降る要素(ようそ)ゼロじゃないスか」

デュートも、青空が広がっている空を見上げながら、ロナードに言った。

「アンタたち人間には分からないだろうけど、間違(まちが)いなく()れるよ。 (かす)かにだけど、遠くで(かみなり)の音がするからね」

両耳を(いそが)しく動かしながら、シャーナも真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、エルトシャン達にそう言った。

全然(ぜんぜん)、そんな感じじゃねぇけど?」

レックスは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、上空を見回す。

「アタシら亜人(あじん)は、雨の(にお)いとか、遠くの(かみなり)の音とかで、天気が悪くなるって(わか)るけどさ、力のある魔術師は妖精(ようせい)が見えるし、連中(れんちゅう)意思(いし)疎通(そつう)が出来るからねぇ……。 アタシ等なんかより確実(かくじつ)だよ。 ロナードが()れるって言うんだ。 間違(まちが)いないよ」

シャーナは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、レックスたちにそう説明すると、

「この前から思ってたけど、君は、何時(いつ)も妖精が見えるの?」

エルトシャンは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、ロナードに問い掛けると、

「妖精は何処(どこ)にでも居る訳じゃ無い。 こう言った自然の(ゆた)かな場所か、多くの魔力(まりょく)が集まっている場所だけだ。 街中(まちなか)には居ない。 だから何時(いつ)もと言う訳じゃない」

ロナードは、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)でそう語る。

(よう)は、妖精の居る所に行けば、見えるって事だね?」

シャーナは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言うと、

簡単(かんたん)に言えば、そう言う事だ」

ロナードは、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)でそう答えた。

「それって、生まれた時からスか?」

デュートは興味津々(きょうみしんしん)と言った様子(ようす)で、ロナードに問い掛ける。

「そうだ。 その所為(せい)で周りからは、奇異(きい)な目を向けられる事もあったが……」

彼は、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべ、重々(おもおも)しい口調(くちょう)でそう語る。

 (おさな)(ころ)、自分が人とは(ちが)能力(のうりょく)がある事を知らなかったロナードは、妖精(ようせい)の事を周囲(しゅうい)に話していたのだが、自分たちには見えないモノの事を語る彼に対し、家族以外の周りの大人たちは(みんな)、彼に奇異(きい)な目を向けていた。

 やがて、周囲(しゅうい)から『変な子供(こども)』と言うレッテルを()られる様になり、同年代の子供たちからは、『(うそ)つき』と言われる様になり、心無(こころな)(いじ)めを受ける様になる。

 元々(もともと)ロナードは病弱(びょうじゃく)だったので、あまり人前(ひとまえ)に出る事が無かったのだが、(おおやけ)の場に出ると、決まって周囲(しゅうい)の者から、奇異(きい)な目で自分が見られている事に気付くと、彼は(さら)に部屋に閉じ(こも)りがちになってしまう。

 心の()り所だったのは、自分と同じ魔術師である母親と、何時(いつ)も病弱な自分を気遣(きづか)ってくれる、五つ年上の(やさ)しい兄、そして時折(ときおり)未亡人(みぼうじん)になってしまった母を気に掛けて、家へ訪れて来る母の従兄(いとこ)妹である、ラシャとサラサたち……。

 父親は、愛する(つま)の生き(うつ)しの彼の事を、とても可愛(かわい)がっていたと聞いているが、ロナードが物心(ものごころ)が付く前に戦死(せんし)してしまい、どんな人であったのか、彼は写真(しゃしん)と、他人(たにん)から語られる記憶(きおく)の中でしか知らない。

 優しかった五つ年上の兄も、不慮(ふりょ)事故(じこ)で亡くなり、母親も『血の粛清(しゅくせい)』の(さい)混乱(こんらん)最中(さなか)殺害(さつがい)され、ロナードは(おさな)くして、天涯(てんがい)孤独(こどく)の身となってしまった。

 色々(いろいろ)な大人が、幼くして身寄(みよ)りを(うしな)った彼に手を()()べてくれたが、その多くは、彼の力を利用(りよう)しようと(たくら)む、悪意(あくい)ある大人たちだった。

 幼い(ゆえ)に、人を(うたが)う事を知らなかった彼は、自分に手を差し伸べてくれた相手が、自分を利用する事だけしか考えていなかった事を知り、その幼く純粋(じゅんすい)だった心は、(ひど)く傷付いた。

 その後も、何度も何度も、信じては裏切(うらぎ)られ……と言う事が続いた。

 やがて、(かれ)自身(じしん)(おのれ)が生きる為、他人(たにん)(だま)し、命を(うば)う様になっていった……。

「ロナード?」

ロナードが、(かな)しそうな表情を浮かべ、()(だま)って居る事に気付き、レックスは小首を(かし)げながら、そう声を掛ける。

「えっ。 あ、ああ……()まない……。 何か言ったか?」

レックスに声を掛けられ、ロナードはハッとして、(あわ)ててそう問い返す。

「何をしてるんだい? 村長(そんちょう)の家に行くよ」

シャーナは淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、ロナードに声を掛けると、(きこり)と思われる村の男と共に、村の奥へと歩き出した。


 ロナード達は、(きこり)と思われる男に案内され、村長(そんちょう)の屋敷に到着(とうちゃく)した。

 応対(おうたい)に出た使用人(しようにん)事情(じじょう)を話すと、彼等(かれら)応接間(おうせつま)へと通された。

 流石(さすが)農村(のうそん)と言う事だけあって、屋敷(やしき)と言っても、(おう)()にある貴族(きぞく)たちの屋敷とは(ちが)い、無駄(むだ)に広い敷地(しきち)を有しているが、屋敷と言うには小さく、外装(がいそう)内装(ないそう)も実に地味(じみ)で、質素(しっそ)だ。

 建物(たてもの)自体もかなり古く、レンガでは無く、切り出した石を組み合わせて作られている。

 石畳(いしだたみ)の上に緑色(みどりいろ)絨毯(じゅうたん)()かれ、客人をもてなす(ため)、部屋の中央(ちゅうおう)には、大木をくり()いて作られたと思われる、大きなテーブルの周りにソファーが配置(はいち)されており、ロナードたちは、思い思いに、ソファーに座ったりして、この屋敷の(あるじ)到着(とうちゃく)を待っていた。

「そんなに、田舎(いなか)(めずら)しいのかい?」

シャーナは道中(どうちゅう)ずっと、小さな子供の様に目を(かがや)かせ、周囲(しゅうい)景色(けしき)を見ており、村に到着(とうちゃく)した後も、物珍(ものめずら)しそうに村の中を見回しているレックスに、そう声を掛ける。

 (まど)の外は、ロナードとシャーナが言った通り、雨が()り出していた。

「ぶっちゃけオレ、(おう)()(まわ)りの事しか知らなくてよ。 こんな遠くまで来たの初めてなんだ」

窓際(まどぎわ)に立ち、外を(なが)めていたレックスは、気恥(きは)ずかしそうにしながら、シャーナにそう答えた。

王都(おうと)は、お金さえあれば生活に必要(ひつよう)な物は大抵(たいてい)、手に入るから、こんな田舎(いなか)の様に火を起こす(まき)を手に入れる(ため)に森へ出掛けたり、(はたけ)野菜(やさい)を作ったり、近くの川へ魚を()りにを行く必要(ひつよう)は無いからね」

エルトシャンは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、そう言った。

「そうなんだよな。 普通(ふつう)に暮らしてて、王都(おうと)から出る()(ゆう)ってのがねぇんだよ。 たまに、お(やかた)(さま)に付いて、近くの森へ(かり)同行(どうこう)する事はあったけどよ……」

レックスは、苦笑(にがわら)いを浮かべたまま、そう語る。

「アタシには、アンタが都会(とかい)(そだ)ちなのを、自慢(じまん)してる様に聞こえるんだけど?」

シャーナは意地(いじ)悪い笑みを浮かべ、レックスに言うと、

「そう言うつもりはねぇけど、知らねぇ所に来るとさ、何か、気分(きぶん)が上がらねぇか?」

レックスは、苦笑(にがわら)いを浮かべつつ言うが、その声は(はず)んで居る。

「遊びに来た訳では、無いぞ」

ロナードは、(あき)れた表情を浮かべ、浮かれているレックスに、そう(くぎ)()す。

 そんな事を話していると、廊下(ろうか)の方から部屋の入り口の(とびら)が開き、くの字型に(こし)(まが)がった(つえ)をついた、小柄(こがら)白髪(はくはつ)老人(ろうじん)が、使用人(しようにん)に手を取られながら、ヨロヨロと(あぶ)なっかしい(あし)()りでやって来た。

「お()たせしましたな」

そう言いながら、使用人(しようにん)に手を引かれ、テーブルを(はさ)んでロナード達の向かいに置かれた一人掛(ひとりが)けのソファーに、ゆっくりと(こし)を下ろした。

「急な訪問(ほうもん)に関わらず、応対(おうたい)して(いただ)感謝(かんしゃ)します。 ご老人(ろうじん)。 (ぼく)たちは、魔物(まもの)退治(たいじ)命令(めいれい)を受けて来ました、カタリナ殿下(でんか)直属(ちょくぞく)の組織ケロベロスの者です」

二人掛けのソファーに座っていたエルトシャンは(おもむろ)に立ち上がり、好感(こうかん)の持てる雰囲気(ふんいき)(かも)し出し、にこやかに笑みを浮かべ、(おだ)やかな口調(くちょう)でそう挨拶(あいさつ)した。

「あ、これが、殿下(でんか)からの(めい)令書(れいしょ)です」

エルトシャンは(ふところ)から封筒(ふうとう)を取り出すと、村長に差し出した。

 世の中には、この様に語って、村長(そんちょう)村人(むらびと)(だま)し、魔物(まもの)退治(たいじ)をする対価(たいか)として、村長や村人たちに接待(せったい)(きょう)(よう)し、散々(さんざん)飲み食いした挙句(あげく)翌朝(よくあさ)金目(かねめ)の物と一緒(いっしょ)に姿を消す詐欺師(さぎし)たちもいる。

 その様な誤解(ごかい)を受けぬ(ため)、エルトシャンはわざわざ(めい)令書(れいしょ)を見せたのだ。

 (めい)令書(れいしょ)はルオン王家(おうけ)紋章(もんしょう)入りの特殊(とくしゅ)高級(こうきゅう)な紙を(もち)い、カタリナ王女の直筆(じきひつ)のサインと捺印(なついん)もある。

 ここまで手の込んだ事をする(やから)はなかなか居ないし、その様な事をしてバレれば(こう)文章(ぶんしょう)偽装(ぎそう)(つみ)に問われる。

「わざわざ、この様な田舎(いなか)にまで足を運んで下さり感謝(かんしゃ)します。 (わし)がこの村の村長(そんちょう)ですじゃ」

小柄(こがら)白髪(はくはつ)老人(ろうじん)は、エルトシャンたちが正規(せいき)手続(てつづ)きを()んでここに来たのだと理解し、(おだ)やかな口調(くちょう)でそう言いながら、ソファーの(わき)(つえ)を置く。

早速(さっそく)ですが村長(そんちょう)さん。 現状(げんじょう)はどうなっていますか?」

エルトシャンは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、村長(そんちょう)に問い掛ける。

「ご(らん)の通りの有様(ありさま)ですじゃ。 魔物たちは家畜(かちく)(ねら)って村を(おそ)います。 (けもの)の様に火を嫌がるかと思い、村の周囲(しゅうい)(かがり)()を置いてみたのですが、(ぎゃく)にそれを使って家に火を付けられてしまい……。 どうして良いものか、ホトホト困っております」

村長(そんちょう)沈痛(ちんつう)な表情を浮かべ、重々(おもおも)しい口調(くちょう)で語る。

「魔物は、(けもの)とは(ちが)い火を(おそ)れない。 村への侵入(しんにゅう)(ふせ)ぐには、結界(けっかい)を張るのが確実(かくじつ)だ」

片足(かたあし)を組み、エルトシャンの(となり)(すわ)っていたロナードは、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言った。

「まあ、結界は無難(ぶなん)(せん)だけど……。 だからと言って、村の外に出れば魔物が居ると言う状況(じょうきょう)は、奴等(やつら)()(たた)かない(かぎ)り、変わらないよ」

窓際(まどぎわ)に立っていたシャーナは、両腕(りょううで)(むね)の前に組み、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)でそう指摘(してき)する。

「まずは結界を張り、村の者の安全(あんぜん)を確保する事が先決(せんけつ)だ。 村の者を守りながら魔物と戦うのは、この人数では無理(むり)だからな」

ロナードは淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、シャーナにそう言い返すと、

「そう言う事かい。 そう言う考えなら、りょーかいだよ。 横槍(よこやり)を入れる様な事して悪かったね」

彼女は、(かた)(すく)めながら、ロナードに言った。

「いや、言いたい事は分かっている。 簡素(かんそ)結界(けっかい)を張っただけで魔物を退治(たいじ)しなかった場合、その所為(せい)後々(あとあと)色々(いろいろ)問題(もんだい)が起きている事を指摘(してき)したかったのだろう?」

ロナードは、落ち着き払った口調(くちょう)で、シャーナにそう言うと、

流石(さすが)に元・傭兵(ようへい)だったアンタは、その辺の問題はちゃんと分かってるね? 教会と同じ事をする様なら意味が無いって、アタシは言いたかっただけさ」

シャーナは、苦笑(にがわら)い混じりにロナードに言った。

殿下(でんか)は、国民(こくみん)救済(きゅうさい)を第一に考えておられる。 完全(かんぜん)に魔物を駆除(くじょ)する事は、(むずか)しいかも知れないけど、状況(じょうきょう)に応じて最良(さいりょう)対処(たいしょ)をする様にと、殿下(でんか)から命じられているから、その辺りは心配ないよ」

ロナードの(となり)(すわ)っていたエルトシャンは、落ち着いた口調(くちょう)でシャーナにそう説明する。

 それを聞いて、別のソファーに座っていたデュートは、両手を頭の後ろに組み、『えーっ。面倒臭(めんどうくさ)いスよ』などと、(いや)そうな顔をして言っている。

「そう言って下さると助かります。 ですが魔物の数が多く、とてもあなた方だけでは対処(たいしょ)出来るとは思えません。 出来れば、軍隊(ぐんたい)を呼んで(いただ)けると助かるのですが」

村長(そんちょう)遠慮(えんりょ)気味(ぎみ)に、エルトシャン達に向かって言うと、レックスは不敵(ふてき)な笑みを浮かべ、

「心配ねぇよ。 オレたちは少数(しょうすう)精鋭(せいえい)だからよ」

「魔物と戦った経験(けいけん)の無い、使えない奴等(やつら)沢山(たくさん)いても意味ないだろ? 怪我(けが)人を無駄(むだ)に増やすだけだし、大勢(おおぜい)が村に滞在(たいざい)すれば、アンタ達の村の負担(ふたん)もその分だけ大きくなるよ」

シャーナは肩を竦め、苦笑(にがわら)い混じりにそう指摘(してき)する。

(なる)(ほど)……。 それは困りますな……。 ご(らん)の通り、(まず)しい村ですから……」

村長(そんちょう)は、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべそう語ると、エルトシャンはニッコリと笑みを浮かべ、

「村に負担(ふたん)にならない範囲(はんい)で、(ぼく)たちが滞在(たいざい)している間の寝る場所と食事を用意して(いただ)ければ十分です」

「ええっ! 可愛(かわい)い女の子は?」

デュートは不満(ふまん)そうな顔をして、エルトシャンにそう言うと、彼の近くに居たたシャーナが、キッと(にら)み付け、『(だま)りな』と言うと、デュートの頭を思い切りド()き上げた。

 シャーナに思い切り頭をド()かれた彼は、ソファーに座った格好(かっこう)のまま気絶(きぜつ)してしまった……。

 それを見ていたロナードが顔を引き()らせ、デュートを一撃(いちげき)(しず)めてしまったシャーナに対してドン引きしている。

「本当にその様な事で、(よろ)しいのですか?」

エルトシャンの言葉に、村長(そんちょう)戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、ロナード達に問い返すと、

「心配しなくてもアタシ等は給与制(きゅうよせい)だからね。 アンタたちからの報酬(ほうしゅう)が無くても、問題ないよ」

シャーナは苦笑(にがわら)いを浮かべたまま、戸惑(とまど)って居る村長(そんちょう)にそう言うと、それを聞いて村長(そんちょう)は、物凄(ものすご)安堵(あんど)した様子(ようす)で、

「そう言う事でしたら、大変(たいへん)(たす)かります」

シャーナにそう言い返すのを聞いて、レックスは苦笑(にがわら)いを浮かべ、

「何かスゲェ、金取()られるって思ってたのか?。 (じい)ちゃん」

「まあイシュタル教会なら、法外(ほうがい)金額(きんがく)(むし)り取られるからねぇ……。 村長(そんちょう)さんも相当(そうとう)覚悟(かくご)をして、アタシ等に依頼(いらい)をしたんだろうね」

シャーナは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、レックスにそう説明する。

「お()ずかしい(かぎ)りですじゃ」

村長(そんちょう)苦笑(にがわら)いを浮かべ、そう言った。

「別に()ずかしい事では無いよ。 心配するのは当然(とうぜん)だよ。 イシュタル教会に魔物退治(まものたいじ)依頼(いらい)したばかりに、高額(こうがく)報酬(ほうしゅう)を払う(ため)に、村の娘たちが借金(しゃっきん)(かた)に売られたり、借金(しゃっきん)()村長(そんちょう)自殺(じさつ)したり、借金(しゃっきん)から(のが)れる為に村人が全員逃げ出して(はい)(そん)になってしまったり……。 色々(いろいろ)と問題が起きているのは事実(じじつ)だからね」

エルトシャンは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、重々(おもおも)しい口調(くちょう)で言うと、それを聞いて、レックスは表情を引き()らせ、

「それ、(わら)えねぇな……」

「……そもそも、イシュタル教会の魔物(まもの)退治(たいじ)は、信者(しんじゃ)()やす(ため)や教会の力を知らしめる為に無償(むしょう)でしていた。 それが現・教皇(きょうこう)の代の(あた)りになってから、(きん)(かせ)ぎを目的としたビジネスになってしまったんだ」

ロナードは、これと言った表情を浮かべる訳でも無く、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で説明した。

「まぁ、信者たちからチマチマお布施(ふせ)を集めるより、そっちの方が余程(よほど)(もうか)かるって気が付いたんだろうね。 結界(けっかい)をテキトーに()って、その辺の雑魚(ざこ)をちょっと(たお)せば、それで金が(もら)えるんだからさ。 安い金でその尻拭(しりぬぐ)いをさせられるのは何時(いつ)も、アタシら傭兵(ようへい)って訳さ」

シャーナは皮肉(ひにく)たっぷりに、(かた)(すく)めながら言った。

「それって、詐欺(さぎ)じゃね?」

レックスは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、シャーナに言うと、

「『神様』なんて言う、本当に居るかも分からないモノを信じろと言ってる時点(じてん)で、詐欺(さぎ)大差(たいさ)ないだろ? それなのに、まんまと(だま)されて、そんな訳のわからないモノに(すが)ろうとする(やつ)が居る方が、アタシは理解(りかい)出来ないケドね」

彼女は、物凄(ものすご)皮肉(ひにく)を込めて、レックスにそう言い返した。

(みんな)(みんな)、お前の様に強い心を持ち合わせている訳じゃ無い。 (だれ)だって、その時々(ときどき)によって大小様々(さまざま)不安(ふあん)(なや)みを(いだ)いて生きている。 自分の心の中に渦巻(うずま)いている、言い知れぬ不安(ふあん)(なや)みから解放(かいほう)されたい。 (むく)われない現状(げんじょう)から(すく)われたい……。 (おのれ)(おか)した(つみ)(ゆる)してもらいたい……。 そう思ってしまう者は、この世の中には沢山(たくさん)居る」

ロナードは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、重々(おもおも)しい口調(くちょう)でそう語った。

「ロナード……」

ロナードの言葉を聞いて、エルトシャンは沈痛(ちんつう)な表情を浮かべ、彼を見る。

「まさかアンタの口から、そんな言葉を聞くとはね。 アンタは、アタシと同じ無神教(むしんきょう)かと思ったんだけどねぇ」

シャーナは苦笑(にがわら)いを浮かべ、ロナードにそう言うと、

正確(せいかく)には、信仰(しんこう)(しん)が『あった』と言うべきだろうな……。 今は、神様なんて居ないと思っている」

彼は、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、重々しい口調(くちょう)で答えた。

「どう言う事?」

エルトシャンが不思議(ふしぎ)そうに、ロナードに問い掛ける。

「……お前たちは『血の粛清(しゅくせい)』は……知っているか?」

ロナードは徐に、真剣(しんけん)面持(おもも)ちと、重々(おもおも)しい口調(くちょう)で仲間たちにそう問い掛けて来た。

 彼のその言葉を聞いて、レックスとエルトシャンの表情が強張(こわば)った。


 『血の粛清(しゅくせい)』と言うのは、今から一二年ほど前に起きた、ルオン王国軍が飛び領地(りょうち)クラレス公国(こうこく)首都(しゅと)マケドニアへ侵攻(しんこう)し、市民(しみん)一方的(いっぽうてき)斬殺(ざんさつ)した事件(じけん)である。

 事の発端(ほったん)は、クラレス公国(こうこく)大公(たいこう)民主(みんしゅ)政治(せいじ)への移行(いこう)()し進めていた事が、原因(げんいん)であると言われている。

 その大公(たいこう)政策(せいさく)に対し、(しゅ)(こく)であるルオン王国国王と宰相(さいしょう)ベオルフが、民主(みんしゅ)政治(せいじ)への移行(いこう)即座(そくざ)に中止する様に再三(さいさん)(わた)り、大公(たいこう)に強く(せま)っていた。

 その後、大公(たいこう)は、ルオン王国の海岸部(かいがんぶ)から侵攻(しんこう)して来た、エレンツ帝国軍(ていこくぐん)侵略(しんりゃく)阻止(そし)するため、奇襲(きしゅう)仕掛(しか)け、ルオン海で戦死(せんし)した。

 だがその後も、大公(たいこう)夫人(ふじん)らがその遺志(いし)を引き継ぎ政策(せいさく)は続けられていたが、ルオン国王は(つい)に自分たちの命令(めいれい)を聞かず、勝手(かって)政策(せいさく)を行っている大公(たいこう)夫人(ふじん)を、(しゅ)(こく)であるルオン王国への謀反人(むほんにん)として逮捕(たいほ)する事を決定(けってい)する。

 その事実(じじつ)を知ったクラレス公国(こうこく)(たみ)たちは(いか)(くる)い、ルオン国王を非難(ひなん)するデモを断行(だんこう)

 それを止めるべき立場である、クラレス公国(こうこく)軍の兵士たちまでもデモに加わり、収拾(しゅうしゅう)がつかない事態(じたい)となり、(つい)にデモ隊は(しゅ)(こく)であるルオン王国へ向かって行進(こうしん)を始めた。

 事態(じたい)(おも)く見たルオン国王は、クラレス公国(こうこく)(たみ)暴動(ぼうどう)(ちん)(あつ)すると言う名目(めいもく)で、(おう)国軍(こくぐん)公国(こうこく)()し向けた。

 ルオン(おう)国軍(こくぐん)は、市民(しみん)を守ろうとしたクラレス公国(こうこく)軍と隣国(りんごく)のマイル王国の国境(こっきょう)近くで交戦(こうせん)状態(じょうたい)となり、その間に、別ルートから、ルオン国王の要請(ようせい)を受け援軍(えんぐん)として進軍(しんぐん)していた、イシュタル教会の(せい)騎士団(きしだん)たちが首都(しゅと)雪崩込(なだれこ)み、彼等(かれら)は多くの市民(しみん)粛清(しゅくせい)の名の下、虐殺(ぎゃくさつ)した。

 首都(しゅと)マケドニアは火の海と化し、壊滅的(かいめつてき)被害(ひがい)を受け、多くの市民と共に大公(たいこう)夫人(ふじん)死亡(しぼう)

 この事件(じけん)世間(せけん)に明るみになると、ルオン国内外(こくないがい)からルオン国王と、それに(したが)派兵(はへい)した指揮官(しきかん)に対し、強い非難(ひなん)集中(しゅうちゅう)した。

 この事件が起きた当初(とうしょ)、ルオン国王の命を受け、クラレス公国(こうこく)派兵(はへい)されたルオン王国軍の指揮を()っていたのは、オルゲン将軍だと言われていた。

 実際に、オルゲン将軍は私兵(しへい)(ひき)いクラレス公国(こうこく)に居たので、その疑惑(ぎわく)払拭(ふっしょく)する事が出来ず、将軍は、一連(いちれん)事件(じけん)の責任を取る様な形で、将軍の地位(ちい)爵位(しゃくい)をルオン国王に返還(へんかん)

 それに(ともな)い、(おさ)めていた領土(りょうど)財産(ざいさん)(ほとん)どが没収(ぼっしゅう)され、将軍は(おう)()(はな)れる事を余儀(よぎ)なくされ、東のランティアナ山脈の(ふもと)にある、ミストと言う辺境(へんきょう)の村に隠居(いんきょ)する事となった。

 その後、ルオン国王は、『血の粛清(しゅくせい)』の一件(ひとけん)でオルゲン将軍に全ての(つみ)(なす)り付け、(みずか)らは責任逃れをした事が明るみになると、国内外(こくないがい)からオルゲン将軍の時以上に強い非難(ひなん)を受ける事となる。

 元々(もともと)、小心者のルオン国王は、非難(ひなん)を受け続ける事に()えられなくなり、やがて心が()んで病床(びょうしょう)(ふせて)してしまう。

 その後、病床(びょうしょう)の国王に代わり、娘のカタリナ王女が(まつりごと)(たずさ)わる様になると、『血の粛清(しゅくせい)』でのオルゲン将軍の(うたが)いが(はら)らされ、王女の腹心(ふくしん)として目出度(めでた)再起(さいき)(はた)たしたのだが……。

 『血の粛清(しゅくせい)』の疑念(ぎねん)が晴れた今でも、世の中には『王女がオルゲン将軍を、腹心(ふくしん)として(むか)えたいが為に、無罪(むざい)にしたのだ』と、考える者がルオン国内にも(いっ)定数(ていすう)存在(そんざい)している。

 加えて、当時(とうじ)甚大(じんだい)被害(ひがい)を受けたクラレスの人々からは、(うたが)いが晴れた今でも、オルゲン将軍は目の(かたき)にされ、その命を(ねら)われている。

 実際、オルゲン将軍や娘のアルシェラが、クラレス人から襲撃(しゅうげき)されると言う事件(じけん)が何度か起きている(ため)、元・家臣(かしん)であるレックスや、オルゲン将軍を伯父(おじ)に持つエルトシャンは、どうしても『クラレス公国(こうこく)』と言う言葉に過敏(かびん)反応(はんのう)してしまい、相手がクラレス公国(こうこく)の出身者と知ると、将軍の命を狙っているのではないかと思って、身構(みがま)えてしまうのだ。

「オメェ、まさか……。 この組織に入ったのは、お(やかた)(さま)(ころ)(ため)じゃねぇだろうな?」

レックスは表情を(けわ)しくし、(うな)る様な声で、ロナードに向かって言った。

流石(さすが)にそれは無いよ……」

シャーナは肩を(すく)めながら、実にあっさりと、(にわ)かに()いた疑惑(ぎわく)否定(ひてい)した。

「何で、そんな事が言えるんスか?」

デュートは不満(ふまん)そうな表情を浮かべ、シャーナに問い掛ける。

「もし、アンタが言う様な理由でルオンへ来たのなら、この()(ほど)の腕があれば、何時(いつ)でも将軍を(ころ)せてる(はず)だろ? 魔術をぶっ(ぱな)せば終わりなんだから。 (ちが)うかい?」

シャーナは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、そう指摘(してき)すると、

「いやいや……。 そもそも、ロナードを(さそ)ったのは伯父上(おじうえ)だよ」

エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、そう言った。

「オルゲン将軍は当時(とうじ)クラレスに居たばかりに、ルオン国王が保身(ほしん)(ため)に、()(ぎぬ)を着せられた事くらい、(おれ)は知っているぞ。 将軍がずっとクラレスへの派兵(はへい)を反対していた事も、派兵を知って、大公(たいこう)夫人(ふじん)と子供を助ける(ため)にクラレスに来ていた事も」

ロナードは、落ち着き払った口調(くちょう)でそう語ると、

「いやでも……。 国王(こくおう)(さま)がやった事には(おこ)ってるんだろ? 国王様に反感(はんかん)(いだ)いてる(やつ)がよ、カタリナ殿下(でんか)直下(ちょっか)の組織に居るのは、色々(いろいろ)とマズイんじゃねぇのか?」

レックスは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、片手(かたて)で頭を()きながら言い返す。

精神(せいしん)()んで、棺桶(かんおけ)片足(かたあし)()っ込んでいる様なボケ老人(ろうじん)今更(いまさら)どうこうしようなど、思ってはいない。 (おのれ)寿命(じゅみょう)()きるまで、己のやった事の(つみ)の重さに(さいな)まれながら、死んで行くと良い」

ロナードは冷ややかな口調(くちょう)で、そう言い放つと、

「かなり(ひど)い事言うね? アンタ」

シャーナは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、ロナードに言い返す。

「お前たちが、血の粛清(しゅくせい)の生き残りである(おれ)の事を警戒(けいかい)する気持も理解(りかい)出来る。 だから、俺が少しでも(あや)しいと思った時は遠慮(えんりょ)なく()ればいい」

ロナードは落ち着き払った口調(くちょう)で、レックス達にそう言うと、

「んな事言われてもよ……」

レックスは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、困惑(こんわく)気味(ぎみ)に言い返すと、思わず、チラリとエルトシャンの方へと目を向けると、彼もどう答えて良いのか困って居る様であった。

(つーか。 オレなんて、コイツを()れる(ほど)(うで)はねぇしなぁ……)

レックスは、ロナードを見つめたまま、困惑(こんわく)した表情を浮かべ、心の中で(つぶや)く。

「まあ、この組織に入る前に身辺(しんぺん)調査(ちょうさ)はされてる(はず)だから、本当に危険(きけん)(やつ)なら、採用(さいよう)されないと思うケドね」

シャーナは肩を(すく)めながら、そう指摘(してき)する。

「確かにっス……」

シャーナの指摘(してき)に、デュートは神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで、呟く。

「一つ確認なんだけどよ。 カタリナ殿下(でんか)もお(やかた)(さま)も、オメェがどう言う(やつ)か、ちゃんと知ってるんだよな?」

レックスは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、ロナードにそう問い掛けると、

当然(とうぜん)だろう。 さっきもエルトシャンが言ったが、(おれ)をこの組織に(さそ)ったのは、その二人だぞ?」

彼は、落ち着き払った口調(くちょう)で、サラリと言って退けた。

「んじゃ、何か考えがあって、お二人はコイツを組織に入れたんだろうから、オレ()らコイツの事をとやかく言っても、仕方(しかた)のねぇ事じゃねぇのか?」

レックスは神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで言うと、シャーナは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、

「そりゃ、そうだわね」

「実際にオルゲン将軍を襲撃(しゅうげき)したお前が、(おれ)にとやかく言える義理(ぎり)じゃないだろ。 俺に言わせれば、お前の方が余程(よほど)(あぶ)ない(やつ)だと思うが」

ロナードは、シャーナに向かって淡々(たんたん)とした口調で言い返すと、

「確かに」

エルトシャンが、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言うと、

「それを言われちゃあ、返す言葉も無いよ」

シャーナも苦笑(にがわら)いを浮かべ言うと、肩を(すく)める。

「えっ。 シャーナさん、オルゲン将軍を襲撃(しゅうげき)したんスか……」

デュートが表情を強張(こわば)らせ、戸惑(とまど)いながら問い掛けると、

「昔の話さ。 今は利害(りがい)一致(いっち)してるから、そんな真似(まね)はしないよ」

シャーナは苦笑(にがわら)いを浮かべたまま、デュートにそう答えた。

「何だかんだて、オメェが一番信用ならねぇじゃねぇかよ」

レックスは、苦笑(にがわら)いを浮かべながらシャーナに言うと、彼女は『あははは』と笑って誤魔化(ごまか)した。

(いや、それ以前(いぜん)(おれ)がクラレス出身(しゅっしん)って知った時点(じてん)で、『血の粛清(しゅくせい)』の生き残りの可能性(かのうせい)を考えてなかったのか。 コイツは)

ロナードは、レックスを見ながら、(あき)れた表情を浮かべ、心の中で(つぶや)いた。

 だが、『レックスだから』と言う、(なぞ)の理由でロナードは()ぐに(なっ)(とく)した。


(んん? 何か……()(くさ)い様な……)

ロナード達とは別の部屋で就寝(しゅうしん)していたシャーナは、少し開けていた窓から、風に乗って、何かが焼ける(にお)いと共に、遠くでパチパチと、木の枝が(いく)つも折れる様な音が聞こえるので、(おもむろ)にベッドから出て近くの窓際(まどぎわ)へ行き、外の様子(ようす)を見た途端(とたん)、その表情を(けわ)しくした。

 いつの間にか雨は止んでおり、夜空(よぞら)には月が出ていた。

 遠くで火の手が上がり、人々の悲鳴(ひめい)や叫び声も(かす)かに聞こえて来る……。

 彼女等が滞在(たいざい)している村長(そんちょう)屋敷(やしき)は、村の中心から外れにある為、ただの火事ならば、ここまで広がる事は無いだろうと、シャーナが思っていると、(だれ)かがバタバタと階段を()け上がり、自分がいる部屋の方へと足音(あしおと)が近づいて来て、何度も何度も、(はげ)しく扉を(たた)く音がして、

「大変です! 村に魔物(まもの)が!」

村長(そんちょう)の娘の声が、廊下(ろうか)から(ひび)いて来た。

「何だって!」

その言葉を聞いて、シャーナは(あわ)てて、ベッドの側の(かべ)に立て掛けていた(やり)を手に取ると、(いそ)いで部屋の外へと()け出した。

 (となり)の部屋からも、村長(そんちょう)の娘の叫び声を聞いて、レックス達が飛び出して来ていた。

「村が、魔物に(おそ)われてるって……」

エルトシャンは、部屋から飛び出して来たシャーナを見るなり、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、そう言った。

「その様だね……。 今夜(こんや)新月(しんげつ)だから、もしかしたら……とは思ってたけどね……」

シャーナは、苦々(にがにが)しい表情を浮かべ、(つぶや)く。

「どう言う意味(いみ)スか?」

デュートは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、シャーナに問い掛けると、

(くわ)しい理由は知らないが、魔物は新月(しんげつ)満月(まんげつ)になると(すご)獰猛(どうもう)になる。 昔から、月の()()けは魔力(まりょく)影響(えいきょう)すると言われている。それと関係があるのかも知れないな」

(あわ)てる様子(ようす)も無く、部屋から出て来たロナードが、落ち着き払った口調(くちょう)で説明する。

「アタシたち『亜人(あじん)』や一部の魔術師(まじゅつし)なんかも満月(まんげつ)の時、本来(ほんらい)以上(いじょう)能力(のうりょく)発揮(はっき)するとも言われてるよ。 特に『狼人族(ロンぞく)』は、そうらしいね」

シャーナが真剣(しんけん)面持(おもも)ちで語ると、それを聞いたエルトシャンはニッコリと笑みを浮かべ、

「じゃあ、(ぼく)たちはロナードとシャーナに、期待(きたい)って事で」

「いやいや……。 今日は新月(しんげつ)だよ?」

シャーナは苦笑(にがわ)いを浮かべ、言い返した。

魔術師(まじゅつし)の間では、新月(しんげつ)本来(ほんらい)の力が発揮(はっき)出来(でき)ない、体内(たいない)の魔力が枯渇(こかつ)(やす)い日だから、魔術の使用は()けた方が良い日と言われている」

ロナードが他人事(ひとごと)の様な口調(くちょう)で言うと、

「え。 ロナード、大丈夫(だいじょうぶ)なの?」

エルトシャンは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、問い掛ける。

調子(ちょうし)は良いとは言い(がた)いが、何とかするしかないだろ」

ロナードは、ふぅと軽く溜息(ためいき)を付いてから、落ち着いた口調で答える。

「だね。 まあ、『狼人族(ロンぞく)』みたく、(まった)変化(へんげ)が出来ないって訳じゃないから、何とかなるだろ」

シャーナも、苦笑(にがわら)いを浮かべながら答える。

「いや、それを早く言ってよ。 そうしたら今日着くのを()けたのに」

エルトシャンが、困った様な表情を浮かべながら言うと、

「魔物の被害(ひがい)に村の人たちが苦しんでいると知っていて、自分たちの体調(たいちょう)優先(ゆうせん)する方が可笑(おか)しいだろ」

ロナードが、(あき)れた表情を浮かべながら答えると、

「ロナードの言う通りさ。 新月(しんげつ)だからって、ゴブリン(ごと)きに負けたりはしないよ」

シャーナも、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言った。

()(かく)、魔物を追い(はら)う事が先決(せんけつ)だ。 行くぞ」

ロナードが真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、仲間たちに向かってそう言うと、(ほか)の者たちも真剣(しんけん)面持(おもも)ちで(うなず)き返すと、(いそ)いで階段を駆け下り、村長(そんちょう)屋敷(やしき)玄関(げんかん)まで来た時、

「あれ? そう言えばレックスは何処(どこ)スか?」

デュートは、レックスがいない事に気付き、周囲(しゅうい)を見回しながら他の者に問い掛けると、

()らないだろ」

ロナードが物凄(ものすご)く冷めた口調(くちょう)で、デュートにそう返すと、

「んだと! コラ!」

遅れて来たレックスが声を(あら)らげ言うと、ロナードの(しり)を思い切り蹴飛(けと)ばすと、彼は危うく、前のめりになって()けそうになる。

「何だ。 ()げたわけじゃないのかい」

(おく)れてやって来たレックスを見て、シャーナが、冷ややかな口調(くちょう)で彼に言うと、

「出しゃばら無くても良いのに……」

ロナードは、()られた(しり)を片手で(さす)りながら、ムッとした顔をして(つぶや)く。

「ちょっと小便(しょうべん)に行ってただけだつーの! オレだって男だ! やる時はやるぞ!」

レックスは剣を(にぎ)()め、気合(きあい)十分(じゅうぶん)様子(ようす)でロナード達に強い口調(くちょう)でそう言うが、その口調(くちょう)とは裏腹(うらはら)に、足が(ふる)えている。

「……足、震えてるよ」

エルトシャンが苦笑(にがわら)いを浮かべながら、レックスの足元(あしもと)指差(ゆびさ)しながら、意地(いじ)悪く彼に言うと、

「わざわざ言うな……」

ロナードが、気の毒そうな視線(しせん)をレックスにむけつつ、エルトシャンに言い返した。

「き、気のせいだ! ぜ、全然(ぜんぜん)(こわ)くねぇぞ! オレは!」

レックスは不安(ふあん)そうな顔をしているくせに、気丈(きじょう)にそう言い張るので、四人は思わず苦笑(にがわら)いを浮かべたが、それ以上(いじょう)何も言わなかった。


 ロナード達が村の広場(ひろば)()け付けると、家々から火の手が上がり、(ほのお)で赤々と()らされながら、火の()()う中を村人たちは悲鳴(ひめい)を上げ、()(まど)っていた。

(うわ~。 マジでヤバそうだな~。 どうやって、やり過ごそう……。 どっか(かく)れる所ないかな)

デュートは村の状況(じょうきょう)を見て、ゲンナリした表情を浮かべ心の中で(つぶや)いていると、彼の少し前に立っていたロナードの様子(ようす)が変だ。

 ロナードは、村の状況(じょうきょう)()()たりにして、金縛(かなしば)りに()った様にその歩みを止め、呆然(ぼうぜん)とした様子(ようす)で立ちつくしている。

 彼の脳裏(のうり)に、(おさな)(ころ)記憶(きおく)(よみがえ)って来る……。

 ()気味(ぎみ)に赤く(かがや)満月(まんげつ)の夜、煌々(こうこう)と燃え(さか)()気味(ぎみ)な青い炎の(うず)の中で、悲鳴(ひめい)を上げ逃げ(まど)う人々を黒い(よろい)を着た悪魔(あくま)たちが、虫けらの様に躊躇(ちゅうちょ)も無く()(ころ)し、(まち)(いた)る所に、炎で(くず)れ落ちた瓦礫(がれき)と、惨殺(ざんさつ)された人々の無残(むざん)亡骸(なきがら)が転がってた……。

 やっとの思いで、母の姿を見付けだした時、母親は彼の目の前で、何者かにその体を(つらぬ)かれ、長く美しい黒髪を()(みだ)しながら、(ゆか)(たお)れ込んだ。

 床の上に()いてあった(うす)い緑色の絨毯(じゅうたん)は、みるみる母が流す血の色に()まり、その上に(ちから)()く倒れていた母は、顔だけを上げ、彼の方を見て手を()ばし、逃げる様に(つぶや)きながら絶命(ぜつめい)した。

「うわあああっ!」

ロナードは突然(とつぜん)、両手で頭を(かか)えながら悲鳴(ひめい)を上げると、その場に両膝(りょうひざ)を付き、(うずくま)ってしまった。

「ロナード?」

「どうしたの?」

その声を聞いて、先行(せんこう)していたシャーナとエルトシャンが(おどろ)いて、(そろ)って振り返る。

 ロナードは顔面(がんめん)蒼白(そうはく)で、小さな子供の様に体をガタガタと震わせ、大きく見開いた紫色の双眸(そうぼう)から、()め止めと無く(なみだ)(あふ)れている。

「ええっ! ちょっ、どーしたんスか?」

デュートも焦りの表情を浮かべ、ロナードに駆け寄り、声を掛ける。

傭兵(ようへい)をしていたなら、こんな光景(こうけい)、何度も見ている(はず)だろうに……。 どうしちゃったんだ?)

(ひど)く取り(みだ)しているロナードを見て、デュートは戸惑(とまど)いの表情を()かべ、心の中で(つぶや)いた。

「ロナード! どうしたの?」

エルトシャンはロナードの下に()()り、地面(じめん)(かた)(ひざ)を付き、(ふる)えているロナードの肩を(つか)み、戸惑(とまど)いつつも声を掛ける。

「いや……だ……。 かあ……さ……」

ロナードはすっかり取り乱し、両手で頭を(かか)えたまま、(なみだ)を流しながらそう(つぶや)いている。

「な、なんなんだよ? どうしちまったんだよ……」

ロナードの異常(いじょう)な取り(みだ)しようを見て、最後に来ていたレックスも、戸惑(とまど)いながら呟く。

「何だか分らないけど……。 この取り乱し様は尋常(じんじょう)じゃないよ」

ロナードの様子(ようす)を見て、エルトシャンが戸惑(とまど)いの表情を浮かべたまま言った。

 ロナードの瞳孔(どうこう)は大きく開かれ、虚空(こくう)一点(いってん)を見つめたままで、その顔からは血の気が失せ、その体は恐怖(きょうふ)のせいか緊張(きんちょう)して硬直(こうちょく)しているのに、小刻(こきざ)みに体は(ふる)えていて、(あさ)荒々(あらあら)しく呼吸(こきゅう)()り返し、完全に仲間の事は視界(しかい)に入っていないし、その声も(とど)いて無い様であった。

 四人は(いそ)ぎ、延焼(えんしょう)の心配が無さそうな村長(そんちょう)屋敷(やしき)の方へロナードを連れて行くと、彼の体を建物(たてもの)(かべ)(もた)れ掛けさせる。

「ゴブリンたちの注意はアタシ等が()き付けるから、(すき)を見てロナードを連れて、屋敷の中へ()げるんだよ」

シャーナは、レックスとデュートに言ってから、

「悪いけど手を貸しとくれ。 アタシ一人じゃ、ちと(きび)しいからね」

エルトシャンに向かってそう言うと、彼は(うなず)き返すと、二人は(きびす)を返し、魔物たちの方へと駆け出すと、様子(ようす)がおかしい事に気付いた、村長(そんちょう)の娘が駆け出して来て、

「どうしました?」

「分らねぇけど……。 何か、すげぇ取り(みだ)して……」

レックスは、青い顔で(うつむ)いたまま、大量の()や汗を流し、とても苦しそうに、肩で呼吸(こきゅう)を繰り返しているロナードを不安そうに見下(みお)ろしながら、村長(そんちょう)の娘にそう言った。

「水、持って来て(もら)えるスか?」

デュートは周囲(しゅうい)様子(ようす)に注意しながら、心配そうな顔をして、ロナードを見下ろしている村長(そんちょう)の娘に、落ち着き払った口調(くちょう)で言うと、彼女は(うなず)き返し、水を取りに屋敷の中に戻った。

()(かく)、ゆっくり呼吸(こきゅう)をしろ」

レックスは、ロナードの背中を(さす)り、(やさ)しく声を掛けつつ、周囲(しゅうい)様子(ようす)(うかが)う。

 (しばら)くして、村長(そんちょう)の娘が、急いで水が入ったグラスを持って(もど)って来ると、レックスはそれを受け取り、ロナードの体を(ささ)えながら、片手(かたて)にグラスを持ち、それをロナードの口元(くちもと)に近付け、

「水だ。 ゆっくり飲めよ」

優しくそう声を掛けると、幾分(いくぶん)か呼吸が(ととの)って来たロナードは(うなず)き返し、レックスに差し出されたグラスを両手で(つか)み、ゆっくりと水を飲み始めた。

 グラス内の水をロナードが全て飲み()した事を確認し、レックスは彼の背中を(さす)りながら、

大丈夫(だいじょうぶ)か?」

優しくそう声を掛けると、ロナードは(つか)れた顔をしていたが、落ち着きを取り(もど)した様で、(うなず)き返した後、

「悪い……。 心配を掛けた……」

(もう)(わけ)なさそうに、レックスにそう言った。

「もうチョット、休んだ方が良いスよ」

デュートも、安堵(あんど)の表情を浮かべながら、優しい口調(くちょう)でロナードに言った。

「おめぇ一体どうしたよ? 何処(どこ)か体の調子(ちょうし)が悪いんじゃねぇのか?」

レックスが心配そうに、ロナードに問い掛ける。

「夜、火事(かじ)を見ると何時(いつ)もこうなんだ……。 昔は、焚火(たきび)を見ただけでもこうなっていた。 (おさな)(ころ)のトラウマだと医者(いしゃ)は言っていた」

落ち着きを取り(もど)したロナードは、レックスの問い掛けに、そう答えた。

「トラウマ……」

レックスは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら(つぶや)く。

何時(いつ)()かした顔をしるけど、案外、(もろ)い所があるんだな……コイツ)

デュートは、ロナードを見ながら、心の中でそう呟いた。

 彼の言う『幼い頃のトラウマ』とは、ルオン軍がクラレスの首都(しゅと)に火を放ち、(まち)に住まう市民(しみん)たちを虐殺(ぎゃくさつ)した『血の粛清(しゅくせい)』の時の事だろうか……。

 あの事件(じけん)から、十数年は()っているだろうに、その時の事を思い出すと、あんなに(ひど)く取り乱す(ほど)当時(とうじ)まだ(おさな)かったロナードの心に、深い傷となって(のこ)っている言う事だろうか……。

 レックス達が、そんな事を思慮(しりょ)していると、彼等(かれら)物凄(ものすご)く、神妙(しんみょう)面持(おもも)ちをしていたからか、

「これは、(おれ)自身(じしん)が乗り()えなければならない事だ」

ロナードは複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、重々(おもおも)しい口調(くちょう)でレックスに言うと、デュートは、彼が落ち着いたと判断(はんだん)すると、スクッと立ち上がり、一緒(いっしょ)に居たレックスに向かって、

「ロナードの事、(たの)んだスよ。 レックス」

「えあ? オメェどうすんだよ?」

デュートに不意(ふい)にそう言われ、レックスは戸惑(とまど)いの表情を()かべ問い返す。

「まさか……。 二人の応援(おうえん)に行くつもりなのか?」

ロナードも戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、デュートに問い掛ける。

「二人じゃあ大変(たいへん)だから、おれがロナードの穴埋(あなう)めをするスよ」

彼はニッコリと笑みを浮かべ、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、自分を見上げているレックスに言ってから、『本当は気が進まないけど』と、心の中で付け加えた。

「デュート……」

ロナードは心配そうな表情を浮かべ、デュートにそう声を掛けると、

「あ。 ロナードの穴埋(あなう)めとか、ちょっと大きく出過(です)ぎたスか?」

彼は、何時(いつ)もの調子(ちょうし)でヘラヘラと笑いながら、ロナードにそう言い返す。

無理(むり)をするな」

ロナードは、心配そうな表情を浮かべたまま、デュートに言うと、

大丈夫(だいじょうぶ)スよ。 ロナード。 (みんな)に少しは良い所を見せないと」

片手(かたて)で止めようとしたレックスを(せい)し、落ち着き払った口調(くちょう)でそう言うと、戸惑(とまど)って居る彼等(かれら)尻目(しりめ)に、デュートは何時(いつ)もと違い、キリリと表情を引き締め、シャーナ達の援護へ向かった。


手伝(てつだ)うスよ」

デュートはそう言いながら、シャーナ達の周囲(しゅうい)に集っていたゴブリン達を持って居た大きなブーメランを()げ付けて(たお)し、彼女たちと合流(ごうりゅう)する。

「ロナードは、大丈夫(だいじょうぶ)なの?」

エルトシャンは、ゴブリン達を切り(たお)しながら、彼に落ち着いた口調(くちょう)で問い掛ける。

「レックスに(まか)せて来たから、大丈夫(だいじょうぶ)スよ」

デュートはニッと笑みを浮かべ、エルトシャンにそう答えると、自分に(おそ)い掛かって来たゴブリンの攻撃(こうげき)をヒラリと()ける。

(うわぁ……。 ガチなヤツじゃん。 おれもロナードの側に残ってた方が良かったかなぁ……)

デュートは、興奮(こうふん)し、血走(ちばし)った()をしたゴブリン達を見回しながら、心の中でそう(つぶや)くと、自分らしからぬ行動(こうどう)をした事にかなり後悔(こうかい)した。

 そんなやり取りをしていた彼等(かれら)に向かって、物凄(ものすご)(いきお)いで緑色の風の(やいば)が向かってきたので、とっさの事に反応(はんのう)が出来ずにいると、彼等(かれら)の目の前に、(ひたい)に大きなルビーの様な宝石(ほうせき)を付けた、大きな黒い瞳を持つ、全身(ぜんしん)が緑色の蜥蜴(とかげ)の様な大きな生き物が現れると、その額から赤い光を発し、彼等(かれら)の前に(にじ)(いろ)(かがや)く光の(かべ)(あらわ)れて、彼等(かれら)に向かって来ていた、緑色の風の(やいば)(はじ)き返した。

「ぎえっ」

(はじ)き返された緑色の風の(やいば)直撃(ちょくげき)したのか、何かが、短い断末魔(だんまつま)を上げて倒れ込む。

 見ると、人間の子供くらいの背丈(せたけ)(はだ)の色は(つや)の無い褐色(かっしょく)、血の様に赤い双眸(そうぼう)(ねこ)の目に()ていて、大きく()けた口からは、黄ばんだ(するど)犬歯(けんし)が並んでいるのが見え、両耳の先は(とが)り、鼻は絵本に出て来る魔女(まじょ)の様に異常(いじょう)に高く鷲鼻(わしばな)で、(つや)の無い灰色の長い髪、黒いマントをした、()気味(ぎみ)醜悪(しゅうあく)な姿をした魔物が、地面の上に(ころ)がっていた。

「だ、ダークエルフ!」

それを見たシャーナが、表情を(けわ)しくして、(つぶや)いた。

 『ダークエルフ』は、()格好(かっこう)がゴブリンと似ているので、間違(まちが)われる事が多いが、彼等(かれら)とは(ちが)い、素早(すばや)い身のこなしと、魔術(まじゅつ)得意(とくい)とする。

 ゴブリンなどより、(はる)かに性質(たち)の悪い魔物だ。

一匹(いっぴき)()ると言う事は、近くに仲間が居る(はず)ス!」

デュートは、表情を(けわ)しくして、エルトシャンたちに警戒(けいかい)を呼び掛ける。

「オレも加勢(かせい)するぜ!」

(おく)れて、調子(ちょうし)を取り戻したロナードを引き連れてやって来ていたレックスがそう言って、シャーナ達と合流(ごうりゅう)しようとした時、スッと彼の背後(はいご)に、(かげ)の様な何か黒いモノが(うごめ)いたのを見て、

「レックス! 後ろっス!」

デュートは思わず、気付かずにシャーナたちの方へと()()る、レックスに向かって叫んだ。

「えっ?」

レックスは、デュートの(さけ)び声に(おどろ)いて足を止め、()り返る。

 レックスは、突然(とつぜん)自分の足元(あしもと)から何かが飛び出して来た事に(おどろ)き、反応(はんのう)できず立ち()くしていると、(だれ)かが、素早(すばや)く彼と影との間にスッと割って入り、レックスに(おど)り掛って来た影から肩の辺りをナイフで切り付けられながらも、その胴体(どうたい)を剣で叩き()った。

「ボサっとしないで!」

レックスの窮地(きゅうち)を助けたのは、意外(いがい)にもエルトシャンで、呆然(ぼうぜん)と立ち尽くして居る彼に、表情を険しくして、怒鳴(どな)り付けた。

 エルトシャンに怒鳴(どな)られ、レックスはハッとして、自分の足元(あしもと)から少し(はな)れた地面の上を見ると、自分に(おそ)い掛かろうとしたダークエルフが、うつ伏せになって血を流し、絶命(ぜつめい)していた。

 レックスが、動揺(どうよう)を隠せない様子(ようす)でいると、彼の前に背を向けて立っていたエルトシャンの体が、大きく()らぐ。

「マズっ……。 コイツ……。 ()(どく)を……」

エルトシャンは、()り付けられた肩に手を()えながら、表情を(ゆが)め、(かた)(ひざ)を地面に付ける様にして、その場に(くず)れる。

「エルトシャン様!」

それを見たレックスは、慌ててエルトシャンの肩を(つか)み、その場に倒れ込みそうになった彼の体を(いだ)(ささ)える。

「エルトシャン!」

デュートも青い顔をして、焦った様子(ようす)で彼の側へ()()る。

 (すで)に毒が回り始めて、手が痺れ感覚(かんかく)が無くなったのか、剣がエルトシャンの手から(すべ)り、地面に音を立てて落ちた。

「どうかしたのか?」

異変(いへん)察知(さっち)したロナードがそう言いながら、(おく)れてレックス達の下に駆け寄って来る。

「エルトシャン様が、オレを(かば)って……」

レックスは青い顔をし、泣きそうな表情を浮かべ、()()って来たロナードに言うと、

「毒か!」

エルトシャンの様子(ようす)と、地面の上に倒れていたダークエルフの手元に(ころ)がるナイフの刃先(はさき)が、ドス黒く変色(へんしょく)して、何かを()りたくっているのを見て、ロナードは表情を(けわ)しくして、とっさにそう(つぶや)いた。

(ぼく)の事よりも、魔物を……。 村の人たちを助けないと……」

レックスに(ささ)えられながら、エルトシャンは体に(どく)が回り出したのか、顔から血の気が失せ、(ひたい)や背中から大量(たいりょう)(ひや)や汗を流しながらも、歯を食いしばり、ロナードに向かって言った。

「分っている! だが今はお前の事の方が先だ!」

ロナードは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでそう言うと、自分の服の(すそ)を裂き、エルトシャンが負傷(ふしょう)した傷から上部、丁度(ちょうど)、肩の関節(かんせつ)辺りをきつく(しば)り上げる。

 エルトシャンは、ロナードに肩を強く縛られたせいか、一瞬(いっしゅん)、表情を(ゆが)める。

(おれ)援護(えんご)をする。 エルトシャンを連れて、急いで村長(そんちょう)屋敷(やしき)(もど)るぞ!」

ロナードは、強い口調(くちょう)でレックスにそう言うと、彼は(うなず)き返し、

「立てるか?」

レックスは、エルトシャンの肩に(うで)を回しながら、彼に声を掛ける。

「何とか……」

エルトシャンはそう言うと、レックスに(ささ)えられながら、ゆっくりと立ち上がる。

「早く行くス!」

デュートは、自分たちに()め寄って来ているゴブリン達を見回しながら、ブーメランを手にゴブリン達と対峙(たいじ)しながら、背中(せなか)()しに、レックス達に向かって叫ぶ。

「ここから(はな)れようぜ」

レックスはそう言うと、村長(そんちょう)の屋敷の方へとエルトシャンを連れ、移動(いどう)しようとすると、彼らの目の前に、別のダークエルフが、()気味(ぎみ)な笑みを浮かべ立ち(ふさ)がる。

「この野郎(やろう)! 退()きやがれ!」

レックスは恐怖(きょうふ)で顔を引き()らせ、小刻(こきざ)みに(ふる)える手で、(こし)に下げていた剣を引き抜き、自分たちの前に立ち(ふさ)がる、ダークエルフに向かって叫ぶ。

雑魚(ざこ)がっ! 退()けっ!」

ロナードの(さけ)び声と共に緑色の風の(やいば)が飛んで来て、レックスの前に立ち(ふさ)がっていたダークエルフを(いきお)い良く吹き飛ばした。

 ダークエルフは、ゴム人形の様に魔物(まもの)特有(とくゆう)の紫色の血を()()らしながら、二、三度地面の上をバウンドして、数メートル後方に力なく(ころ)がる。

 その様子(ようす)をレックスとエルトシャンが呆然(ぼうぜん)と見ている中、ロナードは(いそが)しく辺りを見回しながら、

「急げ!」

レックスに向かって(さけ)ぶと、彼の叫び声にレックスはハッとし、エルトシャンを(かか)え、村長(そんちょう)の屋敷へと急いだ。

「様ぁ無いよね……」

エルトシャンは、苦しそうに(いき)を切らせつつ、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言った。

「そんな事を気にしている場合か!」

ロナードは、レックス達を(おそ)う魔物がいないか辺りを警戒(けいかい)しつつ、強い口調(くちょう)でエルトシャンにそう(しか)り付ける。

(くそっ! (おれ)がもたついていた所為(せい)で……)

ロナードは、周囲(しゅうい)を見回しながら、苦々(にがにが)しい表情を浮かべ、心の中で(つぶや)く。

(ぼく)()んだら……。 (だれ)か……(かな)しんでくれるのかな……」

エルトシャンは、ヘラヘラと笑いながらも、かなり笑えない事を言うので、

「何言ってんだよ! 死ぬとか、冗談(じょうだん)でも言うもんじゃねぇぞ!」

レックスは表情を(けわ)しくし、エルトシャンに言い返す。

「レックスの言う通りだ。 (おれ)(かなら)ず助ける」

近くに居たロナードも、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでエルトシャンに言うと、彼はニッコリと笑みを浮かべ、

「ありが……とう……」

そう言うと、急にガックリと力が()けたので、彼を支えていたレックスは(あせ)り、

「エルトシャン様? 冗談(じょうだん)だよな? なあ? おい。 何とか言えよ!」

戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、そう声を掛け、彼の体を何度か()さぶる。

「落ち着けレックス。 気を(うしな)っただけだ。 早く屋敷(やしき)の中に運び込むぞ」

ロナードは、(あせ)っているレックスにそう声を掛けると、彼は(うなず)き返した。

 レックスがエルトシャンを屋敷の中に運び込んでいる(かたわ)らで、入り口の(とびら)近くの(かべ)に、ロナードはダンと(いきお)い良く、自分の(こぶし)を叩きつけた。

(何やってるんだ! 俺が一番しっかりしなければならないのに!)

ロナードは、(かべ)(こぶし)(たた)きつけたまま、苦々(にがにが)しい表情を浮かべながら心の中で(つぶや)く。

「お、おい……」

レックスは(おどろ)いた顔をして、(かべ)に自分の(こぶし)(たた)きつけ、思い詰めた表情を浮かべているロナードに声を掛ける。

「先に入っていろ」

ロナードは、思い詰めた表情を浮かべたまま、淡々(たんたん)とした口調でレックスに言った。

 レックスは戸惑(とまど)いの表情を浮かべたまま、ロナードに何と声を掛けて良いのか分からず、エルトシャンを(かか)え、屋敷の中へ入った。


 中央(ちゅうおう)にテーブルと椅子(いす)、部屋の(すみ)にベッドと荷物(にもつ)収納(しゅうのう)するクローゼット、換気(かんき)の為に大きめに作られた、外に面した(まど)田舎(いなか)の屋敷や宿屋(やどや)では良くある簡素(かんそ)な造りの客室(きゃくしつ)

 その客室のベッドの上で、ロナードが調合(ちょうごう)した解毒剤(げどくざい)()いて、一命を取り()めたエルトシャンは小さな寝息(ねいき)を立て、シャーナがこの部屋に入って来た事にも気付(きづ)かずに、ぐっすりと(ねむ)っている。

 その(かたわ)らには、一晩(ひとばん)(じゅう)、エルトシャンの介抱(かいほう)をしていたロナードが、睡魔(すいま)見舞(みま)われ、椅子(いす)に座ったまま、うつ伏の状態(じょうたい)で、エルトシャン胸元(むなもと)枕代(まくらがわ)わりにして眠っていた。

 エルトシャンは(どく)のせいでまだ少し熱があり、その手は少し熱かったが、様子(ようす)を見に行った一時間前よりも、随分(ずいぶん)顔色(かおいろ)も良くなり、熱も少し下がり始めた様だ。

 シャーナは、椅子(いす)に座ったまま、寝入(ねい)ってしまったロナードが風邪(かぜ)をひかぬ様、別のベッドから毛布(もうふ)を持って来て、彼の(かた)にそっと掛けてやった。

 ベッドの横に置いてある小さなテーブルの上に、氷水(こおりみず)が入った小さな(おけ)があり、シャーナは、エルトシャンの額の上に置かれたまま、すっかり(ぬく)くなったタオルを手に取ると、氷水の入った(おけ)にそれを(ひた)し、しっかり(しぼ)って水気(みずけ)を切り、そっと、彼の(ひたい)の上に乗せる。

 すると、(ひたい)に乗せたタオルが冷たかったらしく、エルトシャンは(かす)かに(まゆ)(ひそ)めて、ゆっくりと目を開けた。

「悪かったね。 起こしちまって」

シャーナは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、()まなそうにエルトシャンに言った。

「シャーナ? えっ、あ……」

エルトシャンは寝惚(ねぼ)けている様で、自分の身にどう言う事が起きて、寝ていた自分の側にシャーナが何故(なぜ)居るのか理解(りかい)出来ていないらしく、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、(つぶや)く。

 そして、エルトシャンはふと、自分の胸元(むなもと)に何か重いモノが乗っている事に気付き、其方(そちら)へ目を向けると、綺麗(きれい)顔立(かおだ)ちをした黒髪の若者(わかもの)が、自分の方へ顔を向け、椅子(いす)に座った状態(じょうたい)(うつぶ)せになり、小さな寝息(ねいき)を立てて(ねむ)っていた。

「ロナード?」

自分の直ぐ側に、ロナードの顔がある事に(おどろ)いて、エルトシャンが()頓狂(とんきょう)な声を上げると、

「う、うーん……」

眠っていたロナードが顔を(しか)め、(おもむろ)にその目を開いた。

 (むらさき)水晶(すいしょう)丹念(たんねん)(みが)き込んだ様な、吸込(すいこ)まれそうな程、綺麗(きれい)な深い紫色の瞳と目が合った途端(とたん)に、エルトシャンは思わずドキッとし、体を硬直(こうちょく)させ、顔を引き()らせる。

「ん。 ああ……。 エルトシャン……。 気が付いたのか」

ロナードは顔を真っ赤にし、目を点にして(かた)まって居るエルトシャンに気付いていないのか、(ねむ)そうに手の(こう)で目を()りつつ、そう言った。

(これは……。 どう言う事なんだろう……。 何でロナードが僕に()()してるの?)

エルトシャンは、動転(どうてん)している自分を落ち着かせようと、心の中でそう(つぶや)きながら、こうなる前の事を思い出そうとするが、どう頑張(がんば)っても思い出せないので、(さら)(あせ)る。

気分(きぶん)はどうだい?」

エルトシャンが混乱(こんらん)しているなど知らず、シャーナがそう問い掛けると、

「えっ。 あ。 ちょ、ちょっと体が熱い……かな……」

彼は、(あわ)てふためきながら、シャーナにそう返すと、

「そりゃ(どく)所為(せい)だろうね。 仕方(しかた)が無いよ。 もう少し()てた方が良いね」

彼女は、落ち着き払った口調(くちょう)で言うと、エルトシャンは『へっ?』と言う様な表情を浮かべる。

 そして、ふとロナードの方を見ると、彼は椅子(いす)に座ったまま、またウトウトとしている。

「ロナード。 エルトシャンの介抱(かいほう)を代わるよ。 アンタは、ちゃんとベッドに入って()な」

シャーナはロナードの(かた)(たた)き、彼を起こしながら、落ち着き払った口調(くちょう)で言うと、

「ん。 ああ……。 (たの)む……。 もう、限界(げんかい)だ……」

ロナードは半分(はんぶん)(ねむ)っている様な状態(じょうたい)で、シャーナに力なくそう言うと、フラフラと(あぶ)なっかしい(あし)()りで、近くの()いているベッドの上に(くつ)()いたまま、身を()げ出すと、一分もしない内に熟睡(じゅくすい)してしまった。

(まった)く……」

ロナードの様子(ようす)を見てシャーナは、(あき)れた表情を浮かべ、そう(つぶや)いてから、ロナードが先程(さきほど)まで座っていた椅子(いす)(こし)を下ろす。

「まあ、アンタが意識(いしき)を取り戻したと知れば、レックスも安心(あんしん)するだろうさ。 自分を(かば)って、アンタが毒刃(どくば)を受けた事に()い目を感じている様だからねぇ……」

シャーナは、未だに事態(じたい)()み込めず、戸惑(とまど)って居るエルトシャンに向かって、落ち着き払った口調(くちょう)で言った。

 彼女の話を聞いて、エルトシャンは自分の身に起きた事を初めて理解(りかい)した。

(そうか……。 (ぼく)は、レックスを(かば)って……)

安堵(あんど)した表情を浮かべ、心の中でそう(つぶや)いてから、()ぐに真剣(しんけん)な表情を浮かべシャーナに、

魔物(まもの)は……どうなったの?」

「魔物は、ロナードが奮闘(ふんとう)してくれたお(かげ)で、何とか退(しりぞ)ける事が出来たよ。 村は、(ひど)有様(ありさま)だけど、死人(しにん)が出なかった事が(さいわ)いだね」

シャーナは、足を組みながら、落ち着いた口調(くちょう)でそう語る。

「そっか……。 (ほか)の二人も無事(ぶじ)なんだね?」

エルトシャンは、安堵(あんど)の表情を浮かべながら問い掛ける。

「心配いらないよ」

シャーナは、そう言って(うなず)き返す。

御免(ごめん)……」

エルトシャンは、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべ、シャーナに言うと、

何故(なぜ)(あやま)るんだい?」

彼女は、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、エルトシャンに問い掛ける。

「だって、みんなに迷惑(めいわく)を掛けたから……」

エルトシャンは、(もう)(わけ)()そうに言うと、

「そんな事かい。 アンタはさ、いくら剣の(うで)が立つって言ったって、魔物(まもの)退治(たいじ)魔術(まじゅつ)(かん)しても、素人(しろうと)だから仕方(しかた)がないさ。 アンタの出来る範囲(はんい)で仕事をしてくれれば良いんだよ」

シャーナは、気落(きお)ちしているエルトシャンに、(おだ)やかな笑みを浮かべ、(やさ)しい口調(くちょう)で言った。

「シャーナ……」

彼女に思いがけず、優しい言葉を掛けられ、エルトシャンは戸惑(とまど)いの表情を浮かべる。

「何だい?」

(はと)豆鉄砲(まめでっぽう)を食らった様な顔をして、自分を見ているエルトシャンに、シャーナは思い切り(まゆ)(しか)め、問い掛ける。

「いや……。 君から、こんな優しい言葉を掛けられるとは、思って無かったものだから……」

エルトシャンは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、シャーナに言うと、彼女はムッとした表情を浮かべ、

「……アンタね! アタシの事を何だと思ってんだい? 怪我(けが)をして落ち込んでるアンタに、何時(いつ)もの調子(ちょうし)(どく)()くとでも思ってたのかい?」

「いや……。 そう言う訳じゃないけど……。 何か……ね……」

エルトシャンは、苦笑(にがわら)いを浮かべつつ、シャーナに言い返すと、彼女はムッとした表情を浮かべたまま、

()(かく)怪我(けが)人は大人しく()てな!」

そう言うと、エルトシャンの(ひたい)(かる)くデコピンを見舞(みま)うと、(おもむろ)に立ち上がり、

「ちょっくら(ほか)の二人に、アンタが意識(いしき)を取り(もど)した事を(つた)えて来るよ」

ホッとした様な口調(くちょう)でそう言うと、部屋から立ち去って行った。


「どうだったスか?」

(もど)って来たシャーナに、デュートがエルトシャンの事を問い掛ける。

 デュートとレックスは、村長(そんちょう)の屋敷の一階にある広間(ひろま)で、村長(そんちょう)や集まった村人たちと(とも)に、これからの事を話し合っていた。

意識(いしき)を取り(もど)したし、熱も下がりだしたみたいだよ。 あの様子(ようす)だともう、命の危険(きけん)を心配する必要(ひつよう)も無いだろうね」

シャーナの言葉を聞いて、デュートとレックスは、(そろ)って安堵(あんど)の表情を浮かべる。

「良かったスね。 レックス。 一時(いちじ)はどうなるかと思ったスけど……」

デュートは、ホッとした様子(ようす)で、レックスに言った。

「ああ。 ホントに良かったぜ」

レックスも、安堵(あんど)の表情を浮かべながら、言った。

「あれ? ロナードは?」

デュートは、ロナードが一緒(いっしょ)では無いので、シャーナに問い掛けると、

流石(さすが)魔物(まもの)(ほとん)ど一人で蹴散(けち)らした後、一晩(ひとばん)(じゅう)エルトシャンを介抱(かいほう)したのはキツかったみたいだねぇ……。 (つか)()てて、死んだ様に(ねむ)っちまったよ」

彼女は二階の方を見ながら、そう答えた。

「そっか……。 オレ、結局(けっきょく)また、何にも役に立てなかったな……」

レックスは、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべ、力なく(つぶや)くと、

「アンタはまだ()け出しだからね。 仕方(しかた)ないよ。 アタシも駆け出しの(ころ)は、そうだったからねぇ。 最初から上手(うま)くいく事の方が(めずら)しいよ。 そう気にしなさんな」

シャーナは肩を(すく)めながら、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべているレックスに、そう言った。

「そうス。 元気(げんき)()すスよ。 そんな顔、レックスらしくないスよ」

デュートもニッと笑い、ポンポンとレックスの背中を(かる)く叩きながら、(やさ)しい口調(くちょう)で言ってから、

「んで、話は変わるスけど、明日(あした)にでも、オレ等で魔物の住処(すみか)確認(かくにん)する事になったスよ。 本格的(ほんかくてき)(たた)くのは、セシア達が応援(おうえん)に来てからの方が良いだろうけど……。 ()し当たりス」

デュートが、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、村人たちと話し合った内容(ないよう)をシャーナに報告(ほうこく)する。

了解(りょうかい)したよ。 流石(さすが)にロナードに手酷(てひど)くやられたから、やたら滅多(めった)()めて来る様な真似(まね)はしないと思いたいけどねぇ……」

シャーナは、神妙(しんみょう)面持(おもも)ちでそう言うと、レックスは複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、デュートは神妙(しんみょう)な表情を浮かべながら(うなず)いている。

「魔物の住処(すみか)へは、アタシとデュートが行く。 レックス。 アンタはここに残って、エルトシャンの介抱(かいほう)(かたわ)ら、ロナードの結界(けっかい)を張る手伝(てつだ)いをしな。 良いね?」

シャーナは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、レックスにそう言うと、

了解(りょうかい)ス」

デュートは、ピンと背筋(せすじ)を伸ばし、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、シャーナにそう言い返す。

「お、おう」

一方のレックスは、自分が二人の足手纏(あしでまと)いになると(さと)ったのか、何時(いつ)もの様な不平(ふへい)不満(ふまん)をこぼさず、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、素直(すなお)にシャーナの指示(しじ)(したが)意思(いし)(しめ)した。

「ヤバイと思ったら、()ぐに引き上げるよ。 アンタは心配せず、ロナード達とお留守番(るすばん)してな」

複雑(ふくざつ)な表情を浮かべているレックスに、シャーナはニッと笑みを浮かべそう言うと、気落(きお)ちしている様子(ようす)の彼の背中をポンポンと、軽く(てのひら)で叩く。

明日(あした)(あさ)(いち)伝書(でんしょ)(ばと)を飛ばす事になってるス。 馬を飛ばせば、多分(たぶん)、明日の昼過(ひるす)ぎにはセシア達が来ると思うスよ。 それまでの我慢(がまん)ス」

デュートが、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでそう言うと、レックスは(だま)って(うなず)く。

「そんな顔するんじゃないよ。 挽回(ばんかい)すれば良いだけの事さ」

シャーナは、ニッと笑みを浮かべ、落ち込んでいるレックスにそう言って(はげ)ました。


 翌日(よくじつ)、デュートとシャーナは、案内役(あんないやく)(きこり)を引き連れ、ゴブリン達の住処(すみか)がある森へ、朝食を済ませると、すぐに出掛(でか)けて行った。

 森へと向かう三人を、エルトシャンはベッドの上に身を起こしたまま、心配そうな顔をして、二階の窓から見送っていたので、(となり)に居たレックスが、

大丈夫(だいじょうぶ)だって。 シャーナの腕前(うでまえ)は良く知ってんだろ?。 んな(かん)(たん)にやられる訳ねぇって。 デュートもそれなりに経験(けいけん)積んでるみてぇだしよ。 オレ()が心配する必要(ひつよう)はねぇって」

心配そうな顔をしていたエルトシャンに、ニッと笑みを浮かべながら言うと、

「お前は、能天気(のうてんき)で良いな」

エルトシャンの(ため)に床の上に胡坐(あぐら)をかき、すり(ばち)を床の上に置き、(こす)(ぼう)を手に散薬(さんやく)を作っているロナードは軽く溜息(ためいき)を付き、レックスに言うと、

「何だよ。 二人して辛気臭(しんきくさ)い顔してよ」

レックスがムッとして、ロナードに言い返す。

(シャーナたちの留守(るす)を狙って、魔物が襲撃(しゅうげき)して来なければ良いんだが……)

ロナードは、不安そうな表情を浮かべつつ、森の方を見て、心の中でそう(つぶや)いた。

 エルトシャンも、ロナードと同じ様な事を心配していたのか、真剣(しんけん)な表情を浮かべ、

「レックス」

近くの椅子(いす)に腰を下ろしていたレックスに声を掛ける。

「何だよ?」

レックスは、問い返して来る。

(ぼく)の事は良いから、ロナードと結界(けっかい)()るのを急いだ方が、良いじゃないかな?」

エルトシャンは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、レックスに言うと、

「心配しなくても、手筈(てはず)(どお)り、今日中には完成(かんせい)させる」

ロナードは、懸命(けんめい)()(ぼう)薬草(やくそう)()(つぶ)しながら、エルトシャンに言い返した。

 部屋の中に、草が()(つぶ)された時の(にお)いが(ただよ)う。

「いや、万が一の事態(じたい)(そな)えて(いそ)いだ方が良いよ。 シャーナ達の留守(るす)を狙って、魔物たちがまた村を襲撃(しゅうげき)するかも知れない」

エルトシャンが、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、ロナードに言うと、

心配性(しんぱいしょう)だな。 エルトシャン様は。 魔物がそんなに利口(りこう)な訳ねぇだろ? 昨日(きのう)ロナード一人に散々(さんざん)な目に()わされたばかりだぜ?」

レックスは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、エルトシャンにそう言い返す。

「ゴブリンだけならばな。 だが、お前も知っている様に、魔物の中にはダークエルフも居る。 連中(れんちゅう)狡猾(こうかつ)だからな。 何時(いつ)何処(どこ)で、村の様子(ようす)(うかが)っているか分からない。 用心(ようじん)するに()した事は無い」

エルトシャンと同じ事を危惧(きぐ)していたロナードは、神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで言うと、

「おいおい。 そりゃちょっと、考え過ぎじゃねぇの?」

レックスは、戸惑(とまど)いながら、ロナードに言った。

「シャーナ達が留守(るす)の間、村の人間を守れるのは(ぼく)たちだけだよ。 でも僕は怪我(けが)をしているし、多分(たぶん)、ロナードだって昨日(きのう)今日(きょう)だから、そんなに無理(むり)が出来ない(はず)。 何かあってからでは(おそ)すぎるよ。 結界(けっかい)(いそ)いで張った方が良い。 せめてこの屋敷(やしき)(まわ)りだけでも。 村の人たちが()げ込めるようにするべきだよ」

エルトシャンは相変(あいか)わらず、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでレックスに言うので、彼は深々(ふかぶか)溜息(ためいき)を付き、

「わあったよ。 (いそ)げば良いんだろ?」

レックスは、面倒臭(めんどうくさ)そうにそう言い返してから、ロナードに向かって、

「急いで作っちまおうぜ」

「ああ。 これを作り()えたらな……」

ロナードは、()(ぼう)を動かしながら、レックスに言い返した。


「ああっ! 畜生(ちくしょう)!。 ()てぇな!」

レックスは結界(けっかい)を張る準備の(ため)、雨でぬかるんでいた所に、魔物たちが(あば)れまわって()み固められ、(かわ)いて(かた)くなった地面にスコップで懸命(けんめい)(あな)()っている。

「食料の運び込み、()んだだべ」

村の男が、レックスと子供たちが()った穴に、術式(じゅつしき)を書き込んだ石を()めていたロナードに言うと、

了解(りょうかい)した」

ロナードはそう言うと、(じょ)周囲(しゅうい)を見回し、作業(さぎょう)の進み具合(ぐあい)を確認する。

「何をやってるだ?」

その様子(ようす)を見ていた、何も知らない村人が、不思議(ふしぎ)そうな顔をして、レックスに問い掛ける。

結界(けっかい)()るんだよ」

レックスはそう言うと、土まみれの手で鼻をこすると、土がベッタリと鼻や(ほお)に付く。

ロナードは、ブツブツと何か言葉を(つぶや)きながら、石を()めて言っていると、魔物に警戒(けいかい)して村の周囲(しゅうい)(じゅん)(かい)していた村の若い男たちの一人が、血相(けっそう)を変えて()け込んで来た。

「来た! 来ましたよ!」

その叫び声を聞いて、外にいた村人たちの表情が、(にわ)かに(けわ)しくなる。

 女性たちは、外で遊んでいた子供たちを連れ、大急ぎで村長(そんちょう)の屋敷の中へと()け込み、(さわ)ぎを聞き付けた村の男達は、(くわ)(かま)などを手に、ゴブリン達の襲撃(しゅうげき)(そな)える。

「マジかよ……」

レックスは、恐怖(きょうふ)に顔を引き()らせながら、そう(つぶや)く。

「嫌な予感(よかん)が、的中(てきちゅう)したな……」

ロナードは、苦々(にがにが)しい表情を浮かべ、結界(けっかい)()る作業を急ぐ。

「間に合うのかよ?」

レックスが、表情を引き()らせ、(あわ)てた様子(ようす)でロナードに声を掛ける。

「間に合わせる!」

ロナードは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでそう言い返すと、彼等(かれら)の前にフッと何か、黒い(かげ)の様な物が(よぎ)った。

「レックス!」

ロナードは、思わず(さけ)ぶ。

 レックスと(とも)に魔物を(むか)()とうと、村長(そんちょう)屋敷(やしき)の外に農具(のうぐ)武器(ぶき)に集まっていた村の男たち数人が、短い断末魔(だんまつま)を上げ、次々(つぎつぎ)とその場に(たお)れ込む。

 ロナードはとっさに、持っていた短剣(たんけん)を黒い(かげ)の様な何かに向かって投げ付けると、金属(きんぞく)同士(どうし)が、(はげ)しくぶつかる(おと)(とも)に、昨夜(さくや)、ゴブリン達と共にこの村を襲撃(しゅうげき)した、ダークエルフの生き残りが、姿(すがた)(あら)わにする。

「ひいいっ!」

それを見て、村の男達が悲鳴(ひめい)を上げ、(あわ)てて逃げ出す。

 ダークエルフは、ニヤリと()気味(ぎみ)な笑みを浮かべ、恐怖(きょうふ)で足を(ふる)わせながらも、剣を()き、身構(みがま)えているレックスと対峙(たいじ)する。

「こんにゃろう!」

レックスは()(けっ)し、へっぴり(ごし)でダークエルフに向かって切り掛かるが、ダークエルフはヒョイっと、彼の攻撃(こうげき)()けると、力強く地面(じめん)()跳躍(ちょうやく)し、レックスの頭上を飛び越えると、後ろで結界(けっかい)を張る作業(さぎょう)を続けていた、ロナードに(おそ)い掛かる。

「ロナード! そっちに行ったよ!」

村人たちの(さわ)ぎを聞き付け、レックス達の援護(えんご)としようと()け付けて来たエルトシャンは、ロナードに向かって叫ぶ。

「チッ!」

ロナードはとっさに、(こし)に下げて居た剣を抜き、(おそ)い掛かって来たダークエルフの攻撃(こうげき)を剣で()け止める。

「ロナード! 後ろだ!」

レックスの叫び声を聞いて、ロナードはとっさに横へと(ころ)がると、彼の()(うし)ろから、別のダークエルフが(いきお)い良く、ナイフを振り上げるが、(むな)しく(くう)を切る。

 昨夜(さくや)(たたか)いで、ロナードが一番厄介(やっかい)だと分ったらしく、その後も、二匹のダークエルフは連帯(れんたい)して、執拗(しつよう)なまでに、彼を()め続ける。

「にゃろう! ロナードが(ねら)いかよ!」

レックスはそう(つぶや)き、ロナードを助けに向かおうとするが、

「ご、ゴブリンだ!」

「ゴブリン達が来た!」

村人たちの叫び声を聞いて、(あわ)てて振り返ると、森の方からかなりの数のゴブリン達が、武器(ぶき)を手に姿(すがた)(あらわ)した。

「早いね……」

エルトシャンは困惑(こんわく)した表情を浮かべ、ダークエルフと、(せま)りつつあるゴブリン達の方を見比(みくら)べながらそう(つぶや)く。

「くそっ! どうすりゃいいんだよ!」

レックスは、森の方から来るゴブリン達と、二匹掛かりで、ロナードを翻弄(ほんろう)しているダークエルフ達とを見比べる。

 ダークエルフ達は、ロナードが魔術(まじゅつ)(あつか)える事を昨晩の襲撃(しゅうげき)の時に見て知っているので、魔術を(とな)える(ひま)すら(あた)えぬ様、入れ()わり立ち替わり、ロナードを攻撃(こうげき)している。

 元々(もともと)、身のこなしが素早いダークエルフを同時(どうじ)に二匹も相手をするロナードは、彼等(かれら)攻撃(こうげき)回避(かいひ)するのが一杯(いっぱい)一杯で、とても結界(けっかい)発動(はつどう)する言葉を(つむ)余裕(よゆう)は無さそうだ。

(ヤバイ。 マジでこれは、やべぇぞ!)

レックスは、この状況(じょうきょう)を見て心の中で(つぶや)き、(あせ)りの色を()くする。

 村長(そんちょう)屋根(やね)の上からは、シャーナたちに緊急(きんきゅう)事態(じたい)を知らせる狼煙(のろし)が上がっている……。

(お願いだから早く戻って来てよ! シャーナ、デュート!)

空へと立ち上る狼煙(のろし)を見ながら、エルトシャンは心の中で(さけ)んだ。

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