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DRAGON SEED  作者: みーやん
第六章
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国立図書館事件(上)

主な登場人物


ロナード…漆黒(しっこく)の髪に紫色の双眸(そうぼう)特徴的(とくちょうてき)な、傭兵業(ようへいぎょう)生業(なりわい)として居た魔術師の青年。 落ち着いた雰囲気(ふんいき)の、実年齢よりも大人びて見える美青年。 一七歳。


エルトシャン…オルゲン将軍の(おい)で、ルオン王国軍の第三(だいさん)治安(ちあん)部隊(ぶたい)副部隊(ふくぶたい)(ちょう)だったが、カタリナ王女から、新設(しんせつ)された組織『ケルベロス』のリーダーを拝命(はいめい)する。 愛想(あいそ)が良く、柔和(にゅうわ)物腰(ものごし)好青年(こうせいねん)。 王国内で指折りの剣の使い手。 二一歳。


アルシェラ…ルオン王国の将軍オルゲンの娘。 白銀(はくぎん)の髪と琥珀(こはく)(いろ)双眸(そうぼう)特徴的(とくちょうてき)な、可愛(かわい)らしい顔立ちとは異なり、じゃじゃ馬で我儘(わがまま)なお姫さま。 カタリナ王女の命を受け、新設(しんせつ)される組織に渋々加わる事に。 一六歳。


オルゲン…ルオン王国のカタリナ王女の腹心(ふくしん)で、『ルオンの双璧(そうへき)』と(しょう)される、幾多(いくた)戦場(せんじょう)活躍(かつやく)をして来た老将軍(ろうしょうぐん)。 温和(おんわ)義理堅(ぎりがた)い性格。 魔物の害に苦しむ民の救済の為に、魔物(まもの)退治(たいじ)専門(せんもん)の組織『ケルベロス』を、カタリナ王女と共に立ち上げた人物。


セシア…ルオン王国の王女、カタリナの親衛隊(しんえいたい)の一員で、魔術に長けた女魔術師。 スタイル抜群(ばつぐん)で、人並(ひとな)み外れた妖艶(ようえん)な美女。


レックス…オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)(つか)えて居た騎士(きし)見習(みなら)いの青年。 正義感(せいぎかん)が強く、喧嘩(けんか)っ早い所がある。 屋敷の中で一番の剣の使い手と自負(じふ)している。 一七歳。


カタリナ…ルオン王国の王女。 病床(びょうしょう)にある父王に代わり、数年前から(まつりごと)を行っているのだが、宰相(さいしょう)ベオルフ一派の所為(せい)で、思う様に政策(せいさく)が出来ずにおり、王位を(おびや)かされている。 自身は文武に長けた美女。 二二歳。


サムート…クラレス公国(こうこく)に住む、烏族(からすぞく)の長の妹サラサに仕える、烏族(からすぞく)の青年。 ロナードの事を気に掛けている(あるじ)の為にロナード共にルオンへ(おもむ)く。 人当たりの良い、物腰(ものごし)の柔らかい青年。


シャーナ…南半球を中心に活動(かつどう)している傭兵(ようへい)で槍の(あつか)いが得意(とくい)。 口は悪いが、サバサバとした性格で面倒見(めんどうみ)の良い姉御(あねご)(はだ)


デュート…元・トレジャーハンターの少年。 その経験(けいけん)をかわれ、ケルベロスに加わる。 飄々としていて掴みどころのない性格。 一七歳。


チェスター…エルトシャンの(はら)(ちが)いの兄で、治安(ちあん)部隊(ぶたい)総監(そうかん)補佐(ほさ)をしている。 エルトシャンと(ちが)い武芸に(うと)い、頭脳派。 とてもプライドが高い。 二五歳。


ベオルフ…ルオン王国の宰相(さいしょう)で、カタリナ王女に代わり、自身が王位に()こうと(たくら)んでいる。 相当な好き者で、自宅(じたく)別荘(べっそう)に、各地(かくち)から集めた美少年美少女を(かこ)って居ると言われている。


メイ…オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)に仕えている騎士(きし)見習(みなら)いの少女。 レックスとは幼馴染(おさななじみ)。 ボウガンの名手(めいしゅ)。 十七歳。

 (おう)()ルオンにある、オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)敷地内(しきちない)地下室(ちかしつ)……。

「だ・か・ら、アタシはただ指定(してい)された所に行って、金を(もら)って『オルゲン将軍を始末(しまつ)して()しい』って(たの)まれただけで、依頼(いらい)(ぬし)何処(どこ)(だれ)かなんて、知らないって言ってるだろ!」

オルゲン将軍の殺害(さつがい)目論(もくろ)んだ、猫人族(マオぞく)の女性は両手に手錠(てじょう)を掛けられ、逃げられぬ様に椅子(いす)(あし)から延びた(くさり)の先に付いた足枷(あしかせ)を足に付けられ、三方が分厚(ぶあつ)(かべ)に囲まれた、入り口は分厚(ぶあつ)い鉄の扉、窓は一切なく、ランプの明かりだけが頼りの、中央にテーブルが置かれ、向かい合う様に椅子(いす)が置かれただけの(せま)空間(くうかん)壁側(かべがわ)椅子(いす)に座り、取り調べをしている兵士達に向かって言った。

「そんな(はず)が無いだろう!」

取り調べをしている兵士は、バンと机を思い切り両手で叩くと、強い口調(くちょう)で言い返す。

(ころ)しの依頼(いらい)なんてそんなモンだよ。 依頼(いらい)(ぬし)だって足が付いちゃ困るから、アタシみたいな流れ者を(やと)うんだよ。 わざわざ、自分が()(かか)えてる(やつ)に頼む様な真似(まね)はしないって!」

猫人族(マオぞく)の女性は、思い切り顔を(しかめ)めながら、取り調べの兵士にそう力説する。

「その様な事、(まか)り通る訳が無い。 全く面識(めんしき)の無い(やつ)に、そんな重大な事を頼むなど……」

取り調べの兵士は、『納得(なっとく)がいかない』と言った様子で言うと、猫人族(マオぞく)の女性は特大(とくだい)溜息(ためいき)を付き、

「これだからアンタたちみたいな、平和ボケした馬鹿(ばか)な連中は困るよ。 もう少し、世間(せけん)を知ってる(やつ)はいないのかい?」

ウンザリした様な口調(くちょう)で言った。

同感(どうかん)だね。 お屋敷(やしき)(づと)めの兵士が、ここまで使えないとは思わなかったよ。 何だかんだ言って、何も進展(しんてん)が無いじゃないか」

不意(ふい)(てつ)(とびら)の向こう側から若い男の声がして、扉が音を立てながらゆっくりと開き、廊下(ろうか)の方から少し(くせ)のある明るい茶色の髪、目尻(めじり)が下がった明るい緑色の双眸(そうぼう)で、右目の下に黒子(ほくろ)、少し日に焼けた薄い赤銅(しゃくどう)(しょく)の肌、柔和(にゅうわ)な顔立ちをした青年が、ゆっくりと入って来た。

 それを見て、取り調べをしていた兵士は椅子(いす)から立ち上がり、壁際(かべぎわ)に立ち、監視(かんし)をしていた他の二人の兵士も、(あわ)てて彼に向かって(そろ)って敬礼(けいれい)をする。

 少し遅れて、少し長めの(くせ)の無いサラリとした、闇夜(やみよ)を想わせる深い漆黒(しっこく)の髪を有した、背丈(せたけ)は、一八〇センチはあると思われる長身(ちょうしん)、スラリとした手足に細身(ほそみ)、黒い春物のロングコートと、黒色のジーンズと言う出で立ちで、(むらさき)水晶(ずいしょう)丹念(たんねん)(みが)き込んだ様な深い紫色の瞳の、眉目秀麗(びもくしゅうれい)な青年が入って来た。

「おやアンタ達は……」

入って来た二人を見るなり、猫人族(マオぞく)の女性はそう(つぶや)くと、不敵(ふてき)な笑みを浮かべた。

「毎回毎回、()きもせず、同じ事をしてばかりだな。 (まった)く」

ロナードはそう言うと、軽く溜息(ためいき)を付くと、テーブルを(はさ)んで猫人族(マオぞく)の女性の前に座った。

「こう言うのを、馬鹿(ばか)の一つ(おぼ)えって言うんだよね」

エルトシャンは、苦笑(にがわら)いを浮かべ長ら言うと、兵士たちを片手(かたて)で追い払う様な仕草(しぐさ)をすると、中に居た兵士たちは(あわ)てて部屋の中から出て行った。

「それで、アンタ達はどう言う手を使う気だい?」

猫人族(マオぞく)の女性は不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら、ロナード達に問い掛ける。

「君の、そういう態度(たいど)が、何か知っているって誤解(ごかい)(あた)えてるんじゃないの?」

エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、猫人族(マオぞく)の女性にそう指摘(してき)すると、部屋の(とびら)をゆっくりと閉めた。

「どうだろうねぇ」

猫人族(マオぞく)の女性は不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら、挑発(ちょうはつ)する様な(にく)たらしい口調(くちょう)で言った。

「君の言う通り、そう言う物騒(ぶっそう)な事を傭兵(ようへい)やならず者などに声を掛けている人は、確かにいるけど、君が言った連中をちょっと()めたら、その連中も、素性(すじょう)()らない(やつ)(やと)われてしているらしいんだよね。 一人声掛けたら(いく)らってカンジで……」

エルトシャンは、落ち着き払った口調(くちょう)で、猫人族(マオぞく)の女性に自分たちが調べた事を語る。

「へぇ」

猫人族(マオぞく)の女性は不敵(ふてき)な笑みを浮かべたまま、興味津々(きょうみしんしん)の様子でそう言うと、チラリとロナードの方へと目を向ける。

「お前が何も知らないのは本当なのだろう。 実際(じっさい)(おれ)傭兵(ようへい)時代(じだい)にその様な依頼(いらい)幾度(いくど)かされた事がある。 傭兵(ようへい)暗殺者(あんさつしゃ)も金で(やと)われると言う点は一緒(いっしょ)だからな」

その視線(しせん)に気付いたロナードは、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言った。

「ふぅん。 アタシの言い分を信じてくれるんだ」

猫人族(マオぞく)の女性は、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら言うと、ニッコリと微笑(ほほえ)んだ。

「だからって、無罪(むざい)放免(ほうめん)って訳にはいかないんだよ。 君が命を狙った相手が、相手だからね」

エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、猫人族(マオぞく)の女性に言うと、

(なる)(ほど)。 次にアタシが牢屋(ろうや)から出るのは、ギロチン台へ行く時って訳だね?」

猫人族(マオぞく)の女性は、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言うと、肩を(すく)める。

「今の所はね。 この国の将軍に手を出した訳だら無事(ぶじ)には済まないよ。 シャーナさん」

エルトシャンは、苦笑(にがわら)いを浮かべたまま、猫人族(マオぞく)の女性に説明する。

「そりゃ(まい)ったねぇ……」

猫人族(マオぞく)の女性は、両手で自分の頭を(かか)え、そう(つぶや)いてから、ふと何かに気付いた様子(ようす)(おもむろ)に顔を上げ、

「って、何でアタシの名前をアンタが知ってるのさ? 名乗(なの)った(おぼ)えは無いよ?」

戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、エルトシャンにそう言った。

(ぼく)たちを、ここの兵士と同じにしないでくれるかな? その気になれは、君がルオンへ来てから、何処(どこ)(だれ)と会って、何をしていたかも分かるんだよ」

エルトシャンは不敵(ふてき)な笑みを浮かべ、(おどろ)いている様子の猫人族(マオぞく)の女性『シャーナ』に言った。

「へぇ。 そりゃ(すご)い」

エルトシャンの言葉を聞いて、猫人族(マオぞく)の女性はそう言うと、何処(どこ)挑発(ちょうはつ)的な笑みを浮かべ、

「で、アタシの何を(つか)んだって言うんだい?」

エルトシャンに問い掛ける。

「僕の伯父(おじ)オルゲン将軍は慈善(じぜん)事業(じぎょう)にも熱心(ねっしん)なんだ。 君が、自分の命を(ねら)ったのは、里に居る孤児(こじ)たちの為にお金が必要(ひつよう)だったからと言う事を知って、伯父上(おじうえ)支援(しえん)出来ないかと(おっしゃ)ってる」

エルトシャンは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、シャーナにそう語ると、

「いやでも、それはルオン国外の事で……。 しかも戦争中(せんそうちゅう)はエレンツ(てい)国側(こくがわ)(くみ)していた亜人(あじん)の話だよ? (かつ)て戦った相手の国の子供たちを支援(しえん)するって言うのは、どうなのさ?」

思いがけぬ言葉に、シャーナは戸惑(とまど)いを(かく)せない様子で、エルトシャンに言い返した。

「確かに()がルオン王国は(かつ)て、ランティアナの西側(にしがわ)諸国(しょこく)と共に、ランティアナ大陸への侵攻(しんこう)目論(もくろ)むエレンツ帝国と戦い、ここ(おう)()ルオンは戦場(せんじょう)となり、戦火(せんか)に焼かれ、多大な被害(ひがい)を受けた」

エルトシャンは複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、重々(おもおも)しい口調(くちょう)でそう語った後、真っ直ぐシャーナを見据(みす)え、

「けどそれは、帝国の一部の権力者(けんりょくしゃ)都合(つごう)によって起こされた戦争(せんそう)であって、帝国の植民地(しょくみんち)であるルエム王国の人たちは、戦争(せんそう)なんて(のぞ)んでいなかった(はず)。 でも帝国に国をボロボロにされ、(あがな)う力も無い現地の人たちは、ただ(したが)(ほか)なかった」

真剣(しんけん)にそう語る。

「……」

シャーナは真剣(しんけん)に自分を見据(みす)え、熱心(ねっしん)に語るエルトシャンを(だま)って見ている。

「悪いのは(すべ)て、武力(ぶりょく)で世界を支配(しはい)しようと考えていた、当時のエレンツ帝国の皇帝(こうてい)とその側近(そっきん)たちで、帝国(ていこく)国民(こくみん)植民地(しょくみんち)の人たちには(つみ)は無い。 (むし)被害(ひがい)(しゃ)だと伯父上(おじうえ)はお考えなんだよ」

エルトシャンは、自分を見極(みきわ)めようとしている様子(ようす)のシャーナに、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでそう続けた。

「話には聞いていたけど、ここまでお人好(ひとよ)しな(じい)さんだとは思わなかったよ」

エルトシャンの話を聞き終わった後、(しばら)くの沈黙(ちんもく)の後、シャーナは軽く溜息(ためいき)を付いてから、(あき)れた様な表情を浮かべ、彼にそう言い返した。

(おれ)もそう思う」

ロナードも(うなず)きながら、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言うと、それを聞いてエルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべる。

伯父上(おじうえ)は先の戦争(せんそう)で大切な物を沢山(たくさん)失った。 だから自分と同じ様に、戦争(せんそう)で大事な物を失い、傷付いている子供たちの事を放って置く事は、出来ないんだと思う」

エルトシャンは沈痛(ちんつう)な表情を浮かべ、()し目がちでそう言った。

(なる)(ほど)ね」

シャーナは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべているエルトシャンを見ながら、何処(どこ)納得(なっとく)した様子(ようす)(つぶや)いた。

「でも、大変なのは何もルエム王国だけじゃない。 このルオン王国も多くの人たちが、エレンツ帝国が持ち込んだ魔物(まもの)被害(ひがい)に苦しんでいる。 それを解決(かいけつ)する組織を伯父上(おじうえ)は立ち上げようとしているのだけど、敵対(てきたい)勢力(せいりょく)妨害(ぼうがい)などもあって、優秀(ゆうしゅう)な人材がなかなか集まらないと言うのが現状(げんじょう)なんだ」

エルトシャンは伏し目がちなまま、重々(おもおも)しい口調(くちょう)でシャーナに語る。

「それで、このアタシの腕を見込んで、その組織に入らないかって事かい?」

シャーナは、エルトシャンの意図(いと)理解(りかい)したのか、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら、何処(どこ)か上から目線(めせん)で言った。

流石(さすが)(さっ)しが良いね」

シャーナの言動(げんどう)を見て、エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべながら言うと、

「君の言う通り、魔物(まもの)を相手にする以上、(ぼく)たち人間だけでは限界(げんかい)があるからね。 君たち亜人(あじん)の力を是非(ぜひ)とも()りたいんだ」

真剣(しんけん)な表情を浮かべ、そう付け加えた。

「……まあ、考えて置いてやるよ」

シャーナは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで何やら(しばら)思慮(しりょ)した後、両腕を自分の胸の前に組み、(えら)そうな口調(くちょう)でエルトシャンにそう返した。

「お前は、(おれ)たちの依頼(いらい)(ことわ)れば、断頭(だんとう)(だい)行だと言うのを分かっているのか? お前が自身の命を()しいと思った時点(じてん)選択肢(せんたくし)など存在(そんざい)しない」

ロナードは、冷ややかな口調(くちょう)でシャーナに言った。

「ロナード……。 言い方……」

エルトシャンは、苦笑(にがわら)いを浮かべながらロナードに言ってから、シャーナの方へ向き、

(ぼく)は、強要(きょうよう)するのは好きじゃないんだけど、まあ……(よう)はロナードの言う通りだね。 そうで無くても、ベオルフ宰相(さいしょう)の手の者じゃないかと思われているんだから、助かる見込みは無いと思うよ」

エルトシャンは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、シャーナにそう言うと、

「やれやれ……。 (そろ)って(やさ)しそうな顔して、残酷(ざんこく)なことを(せま)るねぇ……。 アンタたちは」

シャーナは、軽く溜息(ためいき)を付くと、ボリボリと片手で頭を()きながら、そう(つぶや)いた。


 閑静(かんせい)(じゅう)宅地(たくち)が立ち並ぶ一角(いっかく)に、青色の屋根(やね)、赤レンガの外壁(がいへき)(つた)(から)み付いた、その外観(がいかん)からして、元は、一階は食堂兼(しょくどうけん)酒場(さかば)、二階が宿屋(やどや)だったと思われる、古い店舗(てんぽ)改装(かいそう)したと思われる建物(たてもの)の前に、トランクを片手にロナードは居た。

 この建物(たてもの)に、カタリナ王女(おうじょ)(きも)いりの、魔物(まもの)退治(たいじ)専門(せんもん)の組織のメンバー達が今日、集結(しゅうけつ)すると言う。

 彼は一抹(いちまつ)の不安を(いだ)きつつも、建物(たてもの)の入り口に立ち、玄関(げんかん)(とびら)をノックすると中から若い女の声で中に入って来るよう返事があったで、戸惑(とまど)いつつも扉を開け、(おもむろ)建物(たてもの)の中へと足を()み入れた。

 明りが点いていない薄暗(うすぐら)い内部は思った通り、一階部分は酒場(さかば)だった様で、歩くと音を立てて(きし)板張(いたば)りの床の上には、カウンターテーブルや大きな丸テーブルが、そのまま置かれていた。

「こんにちは。 また会いましたわね。 ロナード様」

カウンターテーブルの前の椅子(いす)に座り、昼間だと言うのに(さか)(びん)を開け、グラスに(そそ)がれた赤ワインを口に運びながら、若い女が妖艶(ようえん)な笑みを浮かべながら、そう声を掛けて来た。

 新設(しんせつ)される組織の採用(さいよう)試験(しけん)の際、試験官(しけんかん)(つと)め、カタリナ王女の親衛隊(しんえいたい)だと言う、セシアと名乗(なの)ったていた女は、妖艶(ようえん)な笑みを浮かべながら、やって来たロナードを見ている。

「そうだな……」

ロナードは、何処(どこ)警戒(けいかい)した様子(ようす)で、自分に微笑(ほほえ)み掛けるセシアに問い掛けた。

「そう警戒(けいかい)なさらずとも……。 取って食べたりはしないと、前にも申し上げた(はず)です。 これから、仲間として仲良くしていきましょう」

彼女は、(おだ)やかな口調で言うと、ニッコリと笑みを浮かべた。

 『仲良く』と言われたが、ロナードはどうもこの『セシア』と言う女が、何となく苦手(にがて)であった。

(ほか)の人たちは、随分(ずいぶん)とのんびり屋さんの様ですわね。 暇潰(ひまつぶ)しに、(みんな)が集まるまで、ご一緒(いっしょ)如何(いかが)でして?」

セシアはそう言って手に持っていた、ワインが入ったグラスを(かか)げて、彼に酒に付き合う様に(さそ)う。

(初っ(ぱな)から、酒の(にお)いをプンプンさせるなど、不謹慎(ふきんしん)だろ)

ロナードは、心の中で(つぶや)いてから、

遠慮(えんりょ)する」

彼は、片手で(さえぎ)る様な仕草(しぐさ)をしながら、セシアに言い返す。

「心配しなくても、()(つぶ)れた同僚(どうりょう)に、手を出したりはしませんわよ?」

セシアはクスクスと笑いながら、相変(あいか)わらず、自分の事を警戒(けいかい)している彼に言った。

「信用ならないな」

彼は相変(あいか)わらず警戒(けいかい)した様子(ようす)で、セシアにそう言い返すと、彼女が居る場所から少し(はな)れた部屋の壁際(かべぎわ)にあるカウチソファーの側にトランクを置くと、カウチソファーの上に腰を下ろし、(おもむろ)に片足を組み、暇潰(ひまつぶ)しに馬車の中で読んでいて降りる際、手に持ったままだった、分厚(ぶあつ)い古びた本を開ける。

 彼のその様子(ようす)を、セシアは目を細めて微笑(ほほえ)みを浮かべ、赤ワインが入ったグラスを時折(ときおり)傾けながら、静かに見守(みまも)っている。

 ロナードはその視線(しせん)に気付いていたが、()えて気付かない振りをしていると、玄関(げんかん)の扉が勢い良く開け放たれる音共に、バタバタと中に入って来る足音がしたので、彼は『何事か』と警戒(けいかい)し、表情を(けわ)しくし、(おもむろ)に本から顔を上げる。

「やべぇ。(おそ)くなっちまった。」

一八〇センチ近い長身(ちょうしん)で、ガッチリとした、筋肉(きんにく)(しつ)な体付き、ちょっと目尻(めじり)が吊り上った青色の双眸(そうぼう)、短く切り(そろ)えられた青色の短髪(たんぱつ)、両耳には、金色のリングピアス、良く日に焼けた赤銅(しゃくどう)(しょく)の肌を有した、年の頃は、一六、七歳と思われる青年が(つぶや)く。

 薄手(うすで)の茶色のジャケット、白の丸首のTシャツ、紺色(こんいろ)のジーンズに、茶色の皮のブーツと言う出で立ちと、目付きが悪い事に加え、彼が(まと)雰囲気(ふんいき)などから、その辺の(がら)の悪いチンピラと言った印象(いんしょう)を与える青年が息を切らせ、駆け込んで来た。

(何だ。 レックスか)

ロナードは、駆け込んで来た相手を確認すると、拍子抜(ひょうしぬ)けした様子で心の中で(つぶや)くと、再び本へと視線(しせん)を落とす。

 相変(あいか)わらず、落ち着きのない子ね。」

セシアはその青年を見るなり、(あき)れた表情を浮かべながら言った。

「あれ? 来てるの、お前等(まえら)だけなのか?」

レックスは一頻(ひとしき)り室内を見回してから、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、先に来ていた二人に問い掛ける。

「その様ね」

セシアは、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言うと、ワインを口に運ぶ。

「待っていれば、その内集まるだろ」

荷物(にもつ)を手に、何処(どこ)へ落ち着いたら良いのか分からずに、入り口付近で立ち()くしているレックスに、ロナードは、落ち着き払った口調(くちょう)で言った。

()いているわよ。 ここ」

セシアは穏やかな口調(くちょう)で、レックスに言うと、自分の(となり)の空いている椅子(いす)の上に片手を置く。

「ん、ああ……」

レックスは、荷物(にもつ)を部屋の(すみ)に置くと、流石(さすが)に、採用試験の一件(いっけん)もあるので気が引けて、ロナードとセシアの間にある椅子(いす)に腰を下ろした。

 二人は、レックスが席に着いた事を認めると、そのまま口を(つぐ)み、ロナードは読書の続きを、セシアはワインをまた飲み始めてしまった。

 レックスは(しばら)く、二人の様子(ようす)を見ていたが、あまりに沈黙(ちんもく)が長いので、()えきれなくなり、

「な、なあ、二人は何時(いつ)からここに来てんだ?」

(おもむろ)に、二人にそう問い掛けると、

(わたくし)は、一時間くらい前から……。 ロナード様は、貴方(あなた)とそう変わらない位に来たわ」

セシアが、ワイングラスを優雅(ゆうが)(かたむ)けながら、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)でそう答えた。

随分(ずいぶん)と早くから、来てんだな?」

レックスは、苦笑(にがわら)い混じりにセシアに言うと、

「前の仕事柄(しごとがら)、人より早く来て、現場(げんば)下見(したみ)を一通りしないと、落ち着かない性分(しょうぶん)なの」

彼女は苦笑(にがわら)い混じりに、レックスにそう答える。

「へぇ。 やっぱ、王女の親衛隊(しんえいたい)ともなると、色々(いろいろ)と大変なんだな」

レックスは、感心(かんしん)した様子(ようす)で言うと、

「そうね。 殿下(でんか)よりも先に現場(げんば)到着(とうちゃく)して、まずは可笑(おか)しな点は無いか、一頻(ひとしき)り見て回るのよ。 その習慣(しゅうかん)が身に()み付いていてつい、この中を全て確認してしまったわ。 これは、その時に地下室(ちかしつ)から見付けたの」

セシアは苦笑(にがわら)()じりにそう語ると、ワインボトルを手にする。

「だからって、飲まなくてもよ……」

レックスは(あき)れた表情を浮かべ、セシアに言っていると、玄関(げんかん)の扉が開く音がして、

(おそ)くなり、(もう)し訳ないス!」

不意(ふい)に、玄関(げんかん)から若い男の声がしたので、三人は一斉(いっせい)にそちらの方へと目を向けた。

「はあ……。 やっぱ、何度聞いてもここかぁ……。 おっ!」

再び、若い女の声が玄関(げんかん)の方から聞こえて来た。

「なんだよ! 人居るじゃないか! 何時(いつ)の間に来てたんだい? アタシがさっき来た時は、スッカラカンだったのにさ」

髪はオレンジ色のショートカット、猫の目の様に大きな緑色の双眸(そうぼう)、全身に何かの模様(もよう)の様な、文字の様な不思議(ふしぎ)刺青(いれずみ)のある、猫の耳の様な形をした耳に、銀色のリングピアスをし、猫の尻尾(しっぽ)の様なモノを生やし、体にピッタリとした黒いサーコートに身を包み、首元に黒いスカーフを巻いた、活発(かっぱつ)そうな小柄(こがら)な女性が、こちらへ駆け込んで来るなり、一同(いちどう)を見回し、そう言って来た。

(あれ? コイツ何処(どこ)かで……)

レックスは思わず、思い切り顔を(しか)めながら心の中で(つぶや)きつつ、マジマジと亜人(あじん)の女性を見る。

「やっぱ、ここで良かったんじゃないスか。 シャーナさん」

亜人(あじん)の女性にそう言いながら姿を(あらわ)したのは、長めの黄緑色の髪で、前髪の一部を赤色に染めた、緑色の双眸(そうぼう)に、良く日に焼けた赤銅(しゃくどう)(しょく)の肌、背丈(せたけ)はロナードやレックスよりも頭一つ分ほど低く、ヒョロッとした頼りなさそうな体付き、何処(どこ)かチャラそうな雰囲気(ふんいき)の少年だ。

 髪を染めている事もそうだが、その服装も、太股(ふともも)の所に大きなポケットが付いた、ダボッとした青いジーンズを腰の辺りまで下げて()いて、ド派手な柄のトランクスが見え隠れしており、胸元(むなもと)が大きく開いた派手な柄のTシャツの上に、白いパーカーの(すそ)を腕まくり、自分で空けたのか、獣の牙の様な形のピアスが耳たぶを貫通(かんつう)していて、それが、とても痛そうに見える。

 彼を見た瞬間(しゅんかん)、ロナードとレックスは、ドン引きした。

「ちゃんと、案内書には地図を()せてあったでしょう?」

セシアは(あき)れた表情を浮かべ、駆け込んで来た亜人(あじん)の女性に言った。

「書いてあったけど、ここど~見ても、酒場(さかば)ってカンジだったからさ。 シェアハウスだとは思わなくて。 それらしい建物(たてもの)を探して、後ろにいるこのデュートと、ずっとこの辺をウロウロしてたのさ」

亜人(あじん)の女性は、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、二人が遅れてやって来た理由を語った。

「それは、大変でしたわね」

セシアは苦笑(にがわら)しながら、彼女に言い返した。

「まあ()(かく)、見付かって良かったよ。 アタシゃてっきりさ、アタシが亜人(あじん)だから、からかわれてるのかと思っちまったよ」

亜人(あじん)の女性は、安堵(あんど)の表情を浮かべた後、ケタケタと笑いながら言った。

「少なくともカタリナ様は、その様な差別(さべつ)をなさる御方(おかた)では無くってよ」

セシアは、苦笑(にがわら)いを浮かべたまま、亜人(あじん)の女性に言い返した。

「そりゃ良かった。 折角(せっかく)あり付けた好条件(こうじょうけん)の仕事なのに、『亜人(あじん)』だからって、(つま)み出されちゃあ、(たま)らないからね」

亜人(あじん)の女性は苦笑(にがわら)()じりに言うと、()いている椅子(いす)沢山(たくさん)あるのに、()()かロナードの横に腰を下ろす。

「あ――オメェ、この前の!」

レックスは、何処(どこ)かで会った事があると思い、必死(ひっし)に自分の記憶(きおく)を引っ張り出していたのだが、思い出した途端(とたん)、思わず彼女の事を指差(ゆびさ)しながら、(さけ)んでいた。

 彼女は、(かり)に出掛けたオルゲン将軍の命を(ねら)襲撃(しゅうげき)して来たのだが、()え無くロナードに返り()ちにされ、その後、オルゲン家の兵士たちに捕縛(ほばく)され、屋敷の地下(ちか)(ろう)投獄(とうごく)された様だが、それから彼女がどうなったのか、レックスは知らなかった。

 ここに居ると言う事は大方(おおかた)、槍の腕を見込まれ、オルゲン将軍にでも懐柔(かいじゅう)されて、この組織に入る事になったのだろう。

「この前はど~も。 アタシはシャーナって言うんだ。 アンタの名前、ちゃんと聞いて無かったねぇ。 黒髪のイケメンくん」

戸惑(とまど)った顔をして、自分を見ているロナードに向かって、ニカッと笑みを浮かべ、亜人(あじん)の女性はそう声を掛けた。

「ロナード……」

ロナードは、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で彼女に言った。

「ふ~ん。 でもそれってさ、名前じゃなくない? 『ロナード』ってさ普通、母親が自分の子供に対して使う言葉でしょ? アタシら亜人(あじん)の言葉で、『私の(ぼう)や』とか『可愛(かわい)い子』って意味だよ?」

シャーナは、苦笑(にがわら)()じりにそう言うと、それを聞いて可笑(おか)しかったのか、デュートが小馬鹿(ばか)にした様な顔をして、片手(かたて)で自分の口元(くちもと)(おさ)え、吹き出すのを(こら)える。

「知っている」

ロナードは、ムッとした表情を浮かべ、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、シャーナに言い返した。

「ロナード様は、(おさな)くしてご家族を()くされているの。 だから……」

セシアは複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、シャーナに事情(じじょう)を語ると、彼女は物凄(ものすご)くバツの悪そうな表情を浮かべ、

「ご、御免(ごめん)よ! 本当に御免(ごめん)! アタシ、そんな事情(じじょう)だとは知らなくて……。 軽く、からかうつもりで……。 悪意(あくい)はなかったんだ」

(あわ)てて、座っていたソファーから立ち上がり、アタフタしながら、ロナードにそう言って謝罪(しゃざい)する。

「あ~あ~。 シャーナさん。 (はな)からやっちまったスねぇ? すげぇカンジ悪いスよ?」

デュートは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、シャーナに向かって言った。

「分かっている。 亜人(あじん)は大体、この名前を馬鹿(ばか)にするか、からかうからな……」

ロナードは、(さし)して気にしている様子も無く、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、かなり反省(はんせい)している様子の彼女に言い返した。

「マジで御免(ごめん)……」

シャーナは、(しか)られた猫の様に、シュンと耳を下げ、申し訳なさそうにロナードに言った。

「気にしていない」

ロナードは、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)でシャーナに言い返すと、本の方へと目を向ける。

「はあ……(はな)っからやっちまったよ……。 アタシさぁ、何時(いつ)もこんなカンジなんだよねぇ……。 ホラ、アタシ亜人(あじん)だからさ。 なかなか向こうから声かけてくれないからさぁ。 仲良(なかよ)くなろうと思って、自分から声を掛けるのは良いけどさぁ、墓穴(ぼけつ)()ってばっかで……」

シャーナは、ガックリと肩を落とし、ロナードの横にストンと力なく座ると、意気消沈(いきしょうちん)と言った様子(ようす)(つぶや)く。

(別に聞いてねぇのに、良く(しゃべ)るな……)

レックスは、シャーナの方を見ながら、(なか)呆気(あっけ)にとられつつ、心の中で(つぶや)いた。

(前から思っていたが、五月蠅(うるさ)(やつ)だ)

ロナードは、心の中でそう(つぶや)きながら、本に目を落としたまま、シャーナの話を完全に聞き流している。

「これで、全員スか?」

デュートは、シャーナの愚痴(ぐち)適当(てきとう)に聞き流しつつ、部屋の中を軽く見回してから、ロナード達にそう問い掛ける。

「いや……あと二人は(おく)れて来るぜ。 姫が学校から(もど)ったら来るってよ」

荷物(にもつ)()きながら、レックスがそう答えると、

「アルシェラ様……ね……。 別に居なくても良いのではなくって?」

セシアは、どーでも良さそうな口調(くちょう)で言うと、

(おれ)もそう思うが、そう言う訳にもいかないんだろう?」

セシアの言動(げんどう)に、ロナードは内心(ないしん)は『同感(どうかん)だ』と思いつつ、()(いき)()じりに彼女に言い返した。

「居ても居なくても、大差(たいさ)は無いと思いますけれど……」

セシアは、苦笑(にがわら)い混じりにそう言うと、レックスも物凄(ものすご)く不安そうな表情を浮かべ、深々(ふかぶか)溜息(ためいき)を付いた。

「なに? 何か、問題でもあるんスか?」

三人の様子(ようす)を見て、デュートは戸惑(とまど)気味(ぎみ)に問い掛ける。

「オルゲン将軍の娘が加わる予定(よてい)ですけれど、それがチョット……。 色々(いろいろ)と問題が……」

セシアは(しぶ)い表情を浮かべ、歯切(はぎ)れ悪く言うと、

戦闘(せんとう)経験(けいけん)はほぼ無い事に加え、人格的(じんかくてき)にも(なん)ありだ。 彼女には、彼女なりの事情(じじょう)があるのだろうが、正直(しょうじき)邪魔(じゃま)にしかならないだろう」

ロナードは、困った様な表情を浮かべ、デュートにそう説明すると、特大(とくだい)溜息(ためいき)を付く。

「あの性格だから、オルゲン将軍も随分(ずいぶん)と手を焼いていらっしゃる様ですわ」

セシアは苦笑(にがわら)いを浮かべつつ、気の毒そうに言うと、

(なる)(ほど)。 (おれ)たちは(てい)よく、その馬鹿(ばか)娘の子守(こも)りにされた訳か」

ロナードは(あき)れた表情を浮かべ、()め息混じりにそう指摘(してき)する。

流石(さすが)のエルトシャン様も、お(やかた)(さま)とカタリナ様に言わちゃ、『嫌です』とは、言えねぇもんな?」

レックスは肩を(すく)めながら、苦笑(にがわら)い混じりに、二人に言い返した。

「まあ貴方(あなた)が居るだけ、まだマシだけど……。 私も貴方(あなた)と立場的には、あまり変わらないのよね……。 本当に(みょう)な役を押し付けられたものだわ」

セシアは、()め息混じりにロナードに言うと、(さか)(びん)を手に取り、空になったワイングラスに、ワインを(そそ)ぐ。

「それで昼間から、自棄酒(やけざけ)を飲んでいるのかい?」

シャーナは、(あき)れた表情を浮かべ、セシアに言うと、

「これは偶然(ぐうぜん)、この中を物色(ぶっしょく)していたら見付けたから飲んでいるだけよ。 こんな所に、ずっと置きっ放しにされていたから、あまり、良い状態(じょうたい)ではないけれど。 折角(せっかく)見つけたのだから、飲んであげないとワインが可哀想(かわいそう)でしょう?」

彼女は、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、シャーナに言い返した。

「オレは、オメェにとやかく言う気もねぇし、言える立場でもねぇけど、(しょ)(ぱな)からそう言う態度(たいど)はあまり良くは思わねぇと思うぜ」

レックスは、(あき)れた様な口調(くちょう)で、セシアに言った。

真面目過(まじめす)ぎよ。 (みんな)

セシアは、ワイングラスに(そそ)がれたワインを眺めながら、苦笑(にがわら)い混じりに言った。

「……アンタがいい加減過ぎるだけだ。 渋々(しぶしぶ)と加わったと言う雰囲気(ふんいき)(にじ)み出ているぞ」

ロナードが(あき)れた表情を浮かべ、セシアに言い返す。

(たん)なる顔合わせなんだから、そんなに(かしこ)まる必要は無いよ」

不意(ふい)に若い男の声がしたので、一同(いちどう)が振り返ってみると、少し(くせ)のある、明るい茶色の髪、目尻(めじり)が下がった明るい緑色の双眸(そうぼう)で、右目の下に黒子(ほくろ)があり、少し日に焼けた薄い赤銅(しゃくどう)(しょく)の肌、レックスと同じ位の背の高さだが、横幅(よこはば)は一回り小さく、無駄(むだ)な筋肉が付いておらずシャープな体付き、女性ウケの良さそうな、柔和(にゅうわ)な顔立ちをした青年が、苦笑(にがわら)い交じりにロナードに言った。

 何時(いつ)もは、ルオン王国軍の軍服に身を包んでいるのだが、今は、白色のスエットの上にカーディガンを羽織(はお)っており、紺色(こんいろ)のジーンズ、茶色の革靴(かわぐつ)と言う出で立ちなので、レックスは一瞬(いっしゅん)、彼が(だれ)なのか分からなかった。

「エルトシャン様……」

セシアは彼を見て、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ(つぶや)いた。

「やあ。 (ひさ)しぶり」

エルトシャンはニッコリと笑みを浮かべ、片手を上げて、セシアに気さくに挨拶(あいさつ)をする。

「……随分(ずいぶん)と、(おそ)到着(とうちゃく)だな……」

ロナードは淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、エルトシャンに言うと、

御免(ごめん)。 ごめん。 そんなに(ぼく)の事が(こい)しかったの? ロナード」

彼はヘラヘラと笑いながらロナードに答えると、彼の前に歩み寄り、ニッコリと笑みを浮かべる。

「別に」

ロナードは思い切りそっぽを向き、冷ややかな口調(くちょう)で答えると、

「も――。 素直(すなお)じゃないなぁ。 君は。 ま、そう言う所も可愛(かわい)いけど」

エルトシャンは、ヘラヘラと笑いながら言うと、片手(かたて)でクシャクシャとロナードの頭を()でる。

()めろ」

ロナードは、自分の頭を()でるエルトシャンの手を払いつつ、物凄(ものすご)く嫌そうな顔をして言った。

「ご機嫌(きげん)(なな)めだね? 何かお気に()さない事でもあった?」

エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、ロナードに問い掛けると、

「人を待たせて置いて、アンタが緊張感(きんちょうかん)なく、ヘラヘラと笑いながら現れたから腹が立っただけだ。 リーダーのアンタがそんなのでどうするんだ?」

ロナードは、ムッとした表情を浮かべ、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)でエルトシャンに言い返すと、

「だから御免(ごめん)て。 アルを(むか)えに学校に行ったら、あの子、補習(ほしゅう)を受ける為に居残(いのこ)りしなくちゃならなくなったらしくて……。 そんな事、(ぼく)は知らなくてさ。 結構(けっこう)待ったんだけど、終わる気配(けはい)無いからこっちに来たって訳だよ」

彼は、申し訳なさそうに、(おく)れた理由を説明すると、

「何の補習(ほしゅう)ですの?」

セシアはワインを一口飲んでから、エルトシャンに問い掛ける。

「アルの友達の話だと、定期(ていき)試験(しけん)の点が悪かったらしくて、その補習(ほしゅう)だって。 しかも、一教科じゃないから、まだ時間が掛るだろうって言われてね……」

彼は、苦笑(にがわら)いを浮かべながら語ると、

「……初っ(ぱな)遅刻(ちこく)の理由がそれって、残念(ざんねん)過ぎだろ。 そのお姫様……」

シャーナは、(あき)れた表情を浮かべ、()(いき)()じりに言った。

「そう言う事だからさ、彼女が来るまでゆたっりと待っとこ? あ、何なら、今から部屋割(へやわ)りでも決める? 決めちゃう感じ?」

エルトシャンは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、集まった仲間たちに言う。

「ホント……(すく)えないな……。 アルシェラは」

「だな。 話を聞いてるこっちが()ずかしいぜ」

ロナードとレックスが、特大(とくだい)溜息(ためいき)を付きながら、ゲンナリとした表情を浮かべ、そう呟いた。


 すっかり日が(かたむ)き、(まど)から差し込んだ夕日に()らされ、部屋の中が赤く色づき始めた頃……。

(おく)れちゃって御免(ごめん)なさぁ~い。 帰ろうと思ったらぁ先生に(つか)まっちゃってぇ。 補習(ほしゅう)授業受けてたのぉ。 直ぐに終わらせようと思ったんだけどぉ、何か、全然(ぜんぜん)分かんなくてぇ。 てへへへ」

フリルをふんだんに使ったピンクの縁取(ふちど)りがされた、黒色のゴシックロリータ風のワンピースに、黒色のロングブーツと言う格好(かっこう)をした、アルシェラが、まるで友人との待ち合わせに(おく)れた時の様な感じで、ヘラヘラと笑いながらやって来た。

「……そう言う、()ずかしい事を堂々(どうどう)と言わないでくれる? アル。 まあ、(みんな)もう君の頭が残念(ざんねん)だって事は知ってるけど」

エルトシャンが、ゲンナリした表情を浮かべ、彼女に言い返す。

「はぁ? なに勝手(かって)にそう言うキャラ設定(せってい)してんの? エルト。 有り得ないんですけどぉ」

アルシェラは、(いか)りに満ちた表情を浮かべ、ドスの利いた低い声でエルトシャンにそう言い返すと、

「キャラ設定(せってい)も何も……。 事実(じじつ)だから仕方(しかた)ないでしょ……」

彼は、特大(とくだい)溜息(ためいき)を付いて、アルシェラに言った。

「オルゲン将軍……こんな馬鹿(ばか)な娘を持って、さぞ苦労(くろう)なさっておられるのね……」

セシアは、(わざ)とらしく自分の目元を(ぬぐ)う様な仕草(しぐさ)をしつつ言うと、

天下(てんか)のオルゲン家も、こんなのが跡取(あとと)りだと、お先真っ暗だな……」

ロナードも、(あき)れた表情を浮かべ、ボソリとそう(つぶや)いた。

「あ、アタシがアルシェラ・フォン・オルゲンよ。 (よろ)しくぅ」

アルシェラは、ロナード達のボヤキなど聞こえていないのか、自分の胸元(むなもと)に片手を()え、実に軽い口調(くちょう)で、その場に居た面々(めんめん)に向かって言うと、ニッコリと笑みを浮かべ、片手をヒラヒラと振る。

「……この子もかい……」

「マジ有り得ねぇス……」

それを聞いて、シャーナとデュートが、ゲンナリした表情を浮かべ、ボソッと(つぶや)いた。

「アタシたちぃ。 これから一緒(いっしょ)の組織の仲間だから、仲良くしましょ」

アルシェラは緊張感(きんちょうかん)なく、ヘラヘラと笑いながら、その場に居た面々(めんめん)に向かって言った。

「いや、仲良しサークルじゃないからね? 仕事の仲間だよ。 この人たち」

エルトシャンは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべつつ、軽いノリのアルシェラに言った。

魔物退治(まものたいじ)専門(せんもん)とする組織って聞いてるけどさ、この中で、魔物退治(まものたいじ)経験(けいけん)者って、どの位いる訳? アンタも魔物退治の経験(けいけん)あんの?」

シャーナは(おもむろ)に、アルシェラにそう問い掛けると、

「アタシは侯爵家(こうしゃくけ)の姫よ? そんな野蛮(やばん)な事する訳無いでしょ」

アルシェラは、自分の胸元(むなもと)に片手を()え、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、何処(どこ)かシャーナを小馬鹿(ばか)にした様な口調(くちょう)で答えた。

「この前、ゴブリンに散々(さんざん)追い掛け回されて、スッ(こけ)けて、全身(ぜんしん)泥塗(どろまみ)れになってたけどね」

エルトシャンが肩を(すく)めながら、ポツリとそう言うと、ロナードもウンウンと(うなず)く。

五月蠅(うるさ)いわね! エルトは(だま)ってて!」

アルシェラはジロリと彼を(にら)み付け、強い口調(くちょう)怒鳴(どな)り付ける。

「この人、要るスか? 居なくても良くないスか?」

デュートは、『理解(りかい)不能(ふのう)』と言った様子(ようす)で、一同(いちどう)に思わず問い掛けると、

「それを言うな……」

ロナードは、自分の(ひたい)片手(かたて)()え、ゲンナリとした表情を浮かべつつ言った。

「何よ! こう見えてもアタシ魔術は使えるしぃ! (じゅう)だって使えますけどぉ!」

アルシェラはムッとして、強い口調(くちょう)でデュートに言い返す。

「……本当に、焼け石に水程度(ていど)だかな……」

ロナードが、ボソリとそう言うと、

「ちょっとぉ! 自分がすこ~し人より魔術が使えるからってぇ、(えら)そうに言わないでくれるぅ? アタシだってその気になればぁ、直ぐに貴方(あなた)くらいになれるんだからぁ!」

アルシェラは、ムッとした表情を浮かべたまま、強い口調(くちょう)で言う。

(ぼく)としては、『その気になれば』が何時(いつ)来るのか、是非(ぜひ)とも知りたい所だけどね」

エルトシャンは、(ひたい)青筋(あおすじ)を浮かべつつも、ニコニコと笑みを浮かべながら、アルシェラに言った。

「何にしても、こんな実戦(じっせん)経験(けいけん)すら無いお姫さまが、魔物退治(まものたいじ)をする組織に加わるたぁ、世も末だね……」

シャーナは、ゲンナリした表情を浮かべ、ボソリと(つぶや)いた。

同感(どうかん)だ)

ロナードは、心の中で(つぶや)いた。

「アル。 頼むから、僕等(ぼくら)迷惑(めいわく)を掛けない様にしてよね」

エルトシャンは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、アルシェラに言った。

(だよなぁ……。 試験の時も色々(いろいろ)とやらかしてくれたもんな……)

レックスも、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、心の中で(つぶや)く。

「何それ! アタシが何時(いつ)、エルトたちに迷惑(めいわく)を掛けたって言うのよ!」

アルシェラはムッとした表情を浮かべ、強い口調(くちょう)でエルトシャンに言い返す。

「試験の時に、ロナードとレックスに散々(さんざん)迷惑(めいわく)かけたし、この前の(かり)の時だって、(ぼく)たちが助けに来なかったら、間違(まちが)いなくゴブリンたちの夕食になってたよ?」

エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、アルシェラに言い返すと、彼女はジロリと彼を(にら)む。

「……(あきら)めろ。 エルトシャン。 コイツは(にわとり)一緒(いっしょ)だ」

ロナードは、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言った。

(まった)く。 魔物(まもの)退治(たいじ)未経験者(みけいけんしゃ)って言うだけでなく、見るからに、頭の弱そうな娘にアンタ達は何を(のぞ)んでんのさ? アタシ等を馬鹿(ばか)にするのも大概(たいがい)にして欲しいね!」

シャーナは、不愉快(ふゆかい)そうな表情を浮かべ、強い口調(くちょう)でエルトシャンに言い返してから、

「王女の親衛隊(しんえいたい)をしてる、エリートさんのアンタは、どー思ってるのさ?」

セシアに問い掛けると、

「……カタリナ様がアルシェラ様を組織に加えた事には、何か考えがあっての事でしょう。 (わたくし)はその采配(さいはい)(したが)いますわ」

彼女は、落ち着き払った口調(くちょう)で、シャーナに言い返すと、彼女は拍子抜(ひょうしぬ)けした様子で、ポリポリと自分の鼻の頭を()く。

不満(ふまん)(もっと)もだけど、この子は日中学校へ行ってるから、実際はそんなに現場(げんば)に出て来ないと思うよ」

エルトシャンは、落ち着き払った口調(くちょう)で、シャーナたちに言い返す。

「んじゃ、この子は見習(みなら)いって事かい?」

シャーナは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、エルトシャンに問い掛ける。

「んまぁ……そんな所かな……。 だから、長い目で見て()しいな」

エルトシャンは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら答える。

(しばら)くは、それで(ため)してみると良い。 もし、それでも()に落ちないのなら、(あらた)めて話し合えば済む話だ。 まだ何もやって無いのだから、結論(けつろん)を出すのは時期早々(じきそうそう)だろう」

(だま)って話を聞いていたロナードが、落ち着き払った口調(くちょう)で、色々(いろいろ)と文句(もんく)ばかり言っているシャーナに言った。

「んまぁ……それもそうだね。 ()らない気もするけど、アンタがそう言うなら、仕方(しかた)ないねぇ」

ロナードの指摘(してき)を受け、シャーナはポリポリと鼻の頭を()きながら言った。

有難(ありがと)う」

エルトシャンは、ホッとした表情を浮かべ、シャーナ達に言うと、

頑張(がんば)ってねぇ~。 エルトぉ」

アルシェラは完全に他人事(たにんごと)の様に、ニッコリと笑みを浮かべ、無責任(むせきにん)に言い放った。

頑張(がんば)るのは、アンタだ!」

頑張(がんば)るのは、君なの!」

アルシェラの能天気ぶりに、ロナードとエルトシャンが思わず、声を(そろ)え、強い口調(くちょう)で彼女に言い返した。

 二人が口を(そろ)えて同じ事を言ったので、周囲に物凄(ものすご)微妙(びみょう)な空気が(ただよ)い、ロナードとエルトシャンも思わず、(たが)いの顔を見合わせる。

「と、()(かく)、君もメンバーの一人なんだから、それ相応(そうおう)の振る()いが求められる事を理解(りかい)してくれなきゃ困るよ。 同じ組織に(くみ)している僕達(ぼくたち)まで、君と同レベルに思わちゃあ、迷惑(めいわく)以外の何ものでも無いからね」

エルトシャンは、真剣(しんけん)な表情を浮かべながら、アルシェラにそう言って(くぎ)()した。

「それは言えてますわ。 もっと、しっかりして頂かないと。」

セシアは、ワイングラスを口に運びながら、何処(どこ)意地(いじ)の悪い笑みを浮かべ、アルシェラに言った。

五月蠅(うるさ)いわね! (えら)そうにこのアタシに指図(さしず)しないで!」

アルシェラはムッとした表情を浮かべ、強い口調(くちょう)で、セシアに言い返すと、

「だ・か・ら、そういう所が駄目(だめ)だって言ってるでしょ? 僕等(ぼくら)は、君の事を想って言ってるんだから、その位、聞き入れる度量(どりょう)を持とうよ。 (ぎゃく)()れするなんて見苦(みぐる)しい」

エルトシャンは、困った様な表情を浮かべながら、アルシェラにそう(さと)す。

馬鹿(ばか)に付ける(くすり)は無いと言うが……。 本当だな」

それを聞いて、ロナードが()(いき)()じりにボソリと(つぶや)いた。

「やれやれ。 先が思いやられるねぇ……。 大丈夫(だいじょうぶ)かい? この組織」

シャーナも、ゲンナリした表情を浮かべ、(ため)息混(いきま)じりに(つぶや)いた。


 血の様に赤く不気味(ぎみ)(かがや)きを放つ、満月の夜、街中(まちじゅう)に逃げ(まど)う人々の悲鳴(ひめい)(ひび)き渡り、木材が焼き()げる(にお)いと、(すす)けた臭いが立ち込め、充満(じゅうまん)する(けむり)息苦(いきぐる)しさを覚えつつ、辺り一面に散乱(さんらん)する瓦礫(がれき)と、無残(むざん)斬殺(ざんさつ)され、息絶(いきた)え、通りに(ころ)がる沢山(たくさん)の人たちの(しかばね)の上を乗り越え、必死(ひっし)にその幼子(おさなご)は走り続けた。

 (おおかみ)の形をした、無数(むすう)の青い炎が街中(まちなか)を駆け回り、その炎に焼き出され人々を何処(どこ)からやって来たのか分からない、青い(よろい)を身に(まと)い、武器を手にした兵士たちが、手当(てあ)たり次第(しだい)、目についた人たちを無慈悲(むじひ)に殺していく……。

 彼が見慣(みな)れた、多くの人たちで活気(かっき)づき、赤レンガで舗装(ほそう)された通り、白壁(しらかべ)(とう)(いつ)され、綺麗(きれい)整備(せいび)された街並(まちな)みは今、多くの建物(たてもの)(くず)れ落ち、その姿は一変していた。

 何処(どこ)をどう通って来たのか、自分が何処(どこ)へ向かっているのか……何が何だか、(おさな)い彼には分からなかった。

 例え、この惨状(さんじょう)から(のが)れる事が出来たとしても、もう、彼を温かく包み込んでくれる母も、雨風(あめかぜ)(しの)ぎ、安眠(あんみん)を与えてくれる家も無い。

 けれど、彼の本能(ほんのう)が告げていた。

 『生き抜かねば』と……。

 母は死に(ぎわ)必死(ひっし)形相(ぎょうそう)でありったけの声を振り絞り、呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしていた彼に『逃げて』と叫んだ。

 普段(ふだん)は、とても(おだ)やかで(やさ)しく、決して声を(あら)らげる事のない、悲痛(ひつう)な母の叫び声が、幼い彼の耳に残って(はな)れない。

 何時(いつ)もは、春の日差しの様に暖かく優しく彼を見つめる母だが、最後に目を合わせた時、その目は無言(むごん)で『何があっても、生き抜け』と、強く(うった)えていた。

 彼は、(むらさき)水晶(ずいしょう)丹念(たんねん)に磨き込んだ様な美しい双眸(そうぼう)から、()め止めと無く流れ落ちる大粒(おおつぶ)(なみだ)を小さな手の(こう)(ぬぐ)いながら、(くちびる)を強く()みしめ、本能(ほんのう)(おもむ)くままに(まち)の外を目指した。

 多くの者が炎と兵士の手から逃れる為、街を(かこ)城壁(じょうへき)の外へ出ようと、東西南北(とうざいなんぼく)にある門の前に、集まっていた。

 けれど、人々がそこへ逃げて来る事は、街を(おそ)った兵士たちもお見通しで、門から出ようとする者たちを待ち(かま)えており、斬殺(ざんさつ)していた。

(ここは、駄目(だめ)だ)

兵士に(ころ)されていく人々を見て、(おさな)い彼は本能(ほんのう)的にそう判断した。

 けれど、敵から街を守る為、四方を高い城壁(じょうへき)に囲まれたこの街から出るには、どうしても城壁(じょうへき)()えねばならない……。

 街の中に(とど)まっていては何れ、(おおかみ)の姿をした、青い炎に焼かれて死ぬか、兵士に(ころ)されるかだ。

何処(どこ)か……。 何処(どこ)か……。 外へ出られる所……)

彼は、心の中でそう(つぶや)きながら、(きびす)を返し駆け出すと、出ようと思っていた門から遠ざかる。

 建物(たてもの)を焼く炎の熱気(ねっき)が、幼い彼の体を容赦(ようしゃ)なく(あぶ)る。

 闇夜(やみよ)に溶け込みそうな程、見事な黒髪は少し焼け()げ、何度も(なみだ)(ぬぐ)う小さな手の(こう)は、涙と、建物(たてもの)が燃え、舞い上がる(はい)(すす)付着(ふちゃく)して混じって、黒くなっている。

 無論(むろん)、両目の下や(ほお)も、手の甲と同じ位に真っ黒で、(のど)の奥は、(けむり)を吸ってイガイガ、ヒリヒリして、とても(のど)(かわ)いている。

(熱い……。 水……水が……飲みたい)

彼は息を切らせ、フラフラになりながらも、走る事だけは止めなかった。

 多分(たぶん)……走る事を止めてしまったら……もう、二度とその場から動けなくなる……そんな気がしたからだ。

 しかし、こんな混沌(こんとん)とした状況(じょうきょう)の中を当ても無く、逃げ(まど)う事は、幼い体には過酷(かこく)だ。

 彼の想いとは裏腹(うらはら)に、走っているつもりなのだが、その足はもう(ほとん)ど、歩いている速度と変わりなかった。

 ドンと、彼は目の前に立つ『何か』とぶつかった。

 その感触(かんしょく)は、(かべ)の様な(かた)さでも無く、立ち木でも無く……(なま)(あたた)かくて、(やわ)らかな衣服を(まと)った人の様な肌触(はだざわ)り……。

 彼は、物凄(ものすご)く嫌な予感(よかん)を感じつつも、(おそ)る恐る、自分の目の前に立っているモノを見上げた。

 そこには、(くせ)のある焦げ茶色の髪を後ろで一つに(たば)ねた、ポッチャリとした体形(たいけい)のあまり背の高くない、中年の女性が(おどろ)いた顔をして彼を見ていた。

大丈夫(だいじょうぶ)かい?」

その女性は疲弊(ひへい)しきった彼に、そう声を掛けて来た。

 相手が、(まち)の人たちを斬殺(ざんさつ)して回っている兵士では無いと判ると、彼はホッとしたのと同時に気が抜けて、ヘナヘナとその場に座り込んでしまった。

 その様子を見て、その女性は(あわ)てて、近くにいた自分の夫を呼んだ。

 (しばら)くして、ガタイの良い茶色の短髪(たんぱつ)の上からタオルを巻いた、良く日に焼けた赤銅(しゃくどう)(しょく)の肌の、職人風(しょくにんふう)の中年の男がやって来た。

 彼等(かれら)は、力なくヘタリ込んでしまった彼の事を心配して、持っていた水筒(すいとう)の水を分け与え、朦朧(もうろう)とする意識の中で、彼は水を夢中(むちゅう)で飲み、その後、気を失ってしまった。


(また、『あの時』の夢だ……)

ロナードはふと目を覚ますと、心の中でそう(つぶや)き、特大(とくだい)溜息(ためいき)を付いた。

 どうやら随分(ずいぶん)(うな)されていた様で、寝具(しんぐ)も背中も汗でグッショリと()れており、眠っていた(はず)なのに、ドッと疲労感(ひろうかん)が押し寄せて来る。

 最悪な目覚めである。

 このままでは、風邪(かぜ)をひいてしまうので、ロナードは重怠(じゅうだる)い体をゆっくりと起こし、汗まみれの服を()ぎ、着替える事にした。

「お~い。 何時(いつ)まで寝てんだ?」

そう言いながら、レックスがノックもせずに、いきなり(とびら)を開け、部屋に入って来た。

「うお! わりぃ……」

入って来るなり、ふと見たロナードが服を()いで上半身(じょうはんしん)(はだか)だったので、レックスは(あわ)てて(あやま)ると、急いで部屋から出た。

「ノック位しろ」

ロナードは(あき)れた表情を浮かべ、扉の向こう側にいると思われるレックスに言った。

「わりぃ。 てっきり()てるかと思ってよ」

レックスは扉に背を向け、廊下(ろうか)の方を向いたまま、ロナードに言い返す。

 ロナードは物凄(ものすご)く朝が弱く、(だれ)かが起こしに来ない限り、昼近くまで(ねむ)っているのが普通だ。

 サムートの話では、里に居た時から夜型(よるがた)人間(にんげん)で、(はや)()きは苦手(にがて)だったらしい。

 今朝も、稽古(けいこ)の時間になっても、一向(いっこう)に庭へ下りてくる気配(けはい)が無いので、ご立腹(りっぷく)のエルトシャンに(うなが)され、レックスは起こしに来たのだ。

 (めずら)しく早く起きて来ても、(しばら)くはボーとしている事が多く、目を(はな)せば直ぐに、二度(にど)()してしまう。

 昼間も、本を読んでいるかと思えば、何時(いつ)の間にか眠っている……。

 (ひま)があれば(ねむ)っているので、本当に猫の様な(やつ)だと、レックスは(あき)れている。

「ほれ! 早く行くぞ」

レックスは、ぼーとした様子(ようす)で剣を片手(かたて)に、着替(きが)えを済ませて部屋から出て来たロナードにそう声を掛け、ベシベシと片手で彼の背中を叩く。

「あー。 やっと起きて来たね」

レックスの後ろから、トボトボとした足取りで階段を下りて来たロナードを見て、エルトシャンは苦笑(にがわら)い混じりに言った。

「先に、やってて良いのに……」

ロナードは、寝坊(ねぼう)した事を反省(はんせい)している様子も無く、ボソリと言った。

馬鹿(ばか)かオメェ? (あさ)稽古(けいこ)をするのも仕事の内だろ」

レックスは、(あき)れた様な表情を浮かべ、ロナードに言い返す。

何時(いつ)から(あさ)稽古(けいこ)強制(きょうせい)参加(さんか)になったんだ? (おれ)は聞いてないぞ。 朝は苦手(にがて)なんだ」

ロナードは、迷惑(めいわく)そうな表情を浮かべ、そう言ってごねると、

「オメェは吸血鬼(きゅうけつき)か!」

レックスは(あき)れた顔をして言い返すと、ロナードの後頭部(こうとうぶ)を軽く(はた)いた。

(ぼく)だって(はや)()きは(いや)だよ。 君は半年以上、不規則(ふきそく)な生活をしていたって聞いてるよ。 だから早く生活リズムを(ととの)えて(もら)わないと、これから一緒(いっしょ)に仕事をする僕等(ぼくら)も困るんだ」

エルトシャンは、呆れた表情を浮かべ、ロナードに言う。

(それな。 大体(だいたい)(よる)(おそ)くまで起きてんのが悪りぃ)

レックスは心の中で(つぶや)きながら、ロナードを見る。

 シャーナ(いわ)く、魔物(まもの)夜行性(やこうせい)が多い為、傭兵(ようへい)をしていた(ころ)はロナードも魔物の活動(かつどう)()(かん)に合わせて夜型(よるがた)生活(せいかつ)していたであろうから、長年に渡り()みついた習慣(しゅうかん)が抜けないのではないかとの事だ。

 魔物(まもの)退治(たいじ)を専門とする組織なのだから、その生活でも(かま)わないのではないかと、彼女は言っているが、エルトシャンは、日を()びない生活をするのは体に悪いと思っており、こうして毎回、ロナードを無理(むり)やり起こしていると言う訳だ。

 朝方こそ、こんな風にボケっとしているが、その気になれば亜人(あじん)であるシャーナと対等(たいとう)にやり合える(ほど)身体(しんたい)能力(のうりょく)が優れており、おまけに魔術(まじゅつ)も使え、魔物退治(まものたいじ)経験(けいけん)豊富(ほうふ)なロナードは、間違(まちが)いなく戦闘(せんとう)(かなめ)と言えよう。

 そんな彼だからこそ、エルトシャンも色々と気に掛けいる様だが、当人(とうにん)からすれば、余計(よけい)世話(せわ)である様だ。

 当初(とうしょ)予想(よそう)に反して、レックスよりもロナードの方が問題児(もんだいじ)である事に、エルトシャンは頭が痛いようだが、元・トレジャーハンターのデュートが言うには、ソロで傭兵(ようへい)をしている(やつ)大体(だいたい)自己(じこ)中心的(ちゅうしんてき)協調性(きょうちょうせい)(とぼ)しいらしい。

 それはそうだろう。

 強さが全ての世界で、(あえ)えて一人でいる事を選ぶ様な(やから)なのだから、自分に絶対(ぜったい)の自信があるのは当然(とうぜん)で、自分自身を生かす事が(すべ)てなのだから、周りなど(かま)っている場合ではないだろう。

 だが、エルトシャンやレックスはそうではない。

 早い者は十代前半で、騎士(きし)見習(みなら)いとして親元(おやもと)(はな)れ、(りょう)での集団(しゅうだん)生活(せいかつ)余儀(よぎ)なくされる。

 毎日、(たが)いに気持ちよく生活をする為には、どうしても妥協(だきょう)協調性(きょうちょうせい)が求められる。

 共に(きそ)い合い、時には助け合い、支え合う。

 それが当たり前の環境(かんきょう)に長く居たエルトシャンから見れば、ロナードやシャーナはその和を(みだ)す、問題児に思えてしまうのは仕方(しかた)がないのかも知れない。

 意外(いがい)な所に、思いもしなかった落とし穴が存在(そんざい)する事をを知り、みんな戸惑(とまど)っているというのが、共同(きょうどう)生活(せいかつ)を始めたばかりの彼らの現状(げんじょう)だ。

 それでも、エルトシャンと(はげ)しく衝突(しょうとつ)する事が無いのは、ロナードやシャーナが、ソロで傭兵(ようへい)をしていた(わり)には、協調性(きょうちょうせい)があり、聞き訳が良いからだろうが、その内、どちらかが()えかねて派手(はで)喧嘩(けんか)になるのではと、レックスはこっそり期待(きたい)していて、その時は、エルトシャンの味方について、ドサクサに(まぎ)れて、ロナードの()かした顔にパンチを叩き込んでやろと思っていた。


 数日後……。

「さてさて(みんな)、お待ちかねの最初のお仕事だよ」

朝の稽古(けいこ)を終え、二日酔(ふつかよ)いで起きられないシャーナを(のぞ)き、一同(いちどう)がリビングで朝食を取る為に集まった所、エルトシャンがニコニコと笑みを浮かべながら、そう言って来た。

「……別に、待ってはいないが……」

ロナードがボソリとそう(つぶや)くと、それを聞いたデュートが思わず、苦笑(にがわら)いを浮かべる。

「今朝、伯父上(おじうえ)から、相談事(そうだんごと)を持ち掛けられたんだよね。 ちょっと悪いけどロナード、君さ、現場(げんば)へ行ってくれる?」

エルトシャンは、ニコニコと笑いながらロナードに言うと、

何処(どこ)へ?」

彼は不思議(ふしぎ)そうな表情を浮かべ、エルトシャンに問い返す。

国立(こくりつ)図書館(としょかん)

エルトシャンは、ニッコリと笑みを浮かべロナードに言うが、彼は困惑(こんわく)した様子(ようす)で、

「……そう言われても、(おれ)はこの(まち)は初めてだ。 それが何処(どこ)にあるか知らないぞ」

「それなら、レックスに道案内をさせるよ。 どうせ(ひま)でしょ?」

エルトシャンはニッコリと笑みを浮かべ、レックスの(ことわ)りなく、勝手(かって)にその様な事を言うので、

「なに勝手(かって)に人の事を暇人(ひまじん)(あつか)いしてんだよ! 自分が行けば良いじゃねぇかよ!」

レックスはムッとした表情を浮かべ、強い口調(くちょう)でエルトシャンに文句(もんく)を言う。

「そう言うからには、それを(ことわ)るだけの正当(せいとう)な理由があるの? レックス」

エルトシャンは、ニッコリと笑みを浮かべながらレックスに言い返すが、声はドスの利いた低い声で、彼を見るその目は決して笑っておらず、『良いから行け!』と無言(むごん)威圧(いあつ)して来ていた。

(目が……笑って無いのが、(こわ)いんだが……)

エルトシャンの表情を見て、ロナードは心の中でそう(つぶや)き、顔を引き()らせる。

「べ、別にねぇけど……」

エルトシャンの無言(むごん)威圧(いあつ)に、レックスは目を泳がせながら、(ひたい)(うっす)らと冷や汗を浮かべ、言い返した。

「だったら、つべこべ言わずに行こうか?」

エルトシャンは額に青筋(あおすじ)を浮かべ、ニッコリと笑みを浮かべたまま、ピシャリと強い口調(くちょう)でレックスに言い放った。

「わぁったよ! 行けば良いんだろ? 行けば!」

レックスは、物凄(ものすご)不満(ふまん)そうな表情を浮かべ、エルトシャンに言い返した。

「いや……。 当人(とうにん)の気が進まないのなら、無理(むり)に行かせなくても……」

ロナードは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、エルトシャンに言った。

「レックスは半人前(はんにんまえ)で、この組織にも見習(みなら)いとして入ってるんだよ。 甘やかすと、当人(とうにん)の為にならないから、ビシバシ使ってあげないと……ね?」

エルトシャンは、ニッコリと笑みを浮かべつつも、ピシャリとロナードに言い放った。

「そ、そこまで言うのなら……」

ロナードは、エルトシャンの有無(うむ)も言わさぬ雰囲気(ふんいき)圧倒(あっとう)され、戸惑(とまど)いつつもそう答える(ほか)なかった。

 デュートは、レックスに気の毒そうな表情を浮かべつつも、エルトシャンに何も言い返せずにいた。

伯父上(おじうえ)……もとい、オルゲン将軍の話では、フォレスター館長(かんちょう)(たず)ねれば、事情(じじょう)を説明してくれるそうだよ」

エルトシャンは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、ロナードにそう説明すると、

了解(りょうかい)した」

ロナードも真剣(しんけん)面持(おもも)ちでエルトシャンに言って、(うなず)き返す。

「レックスだけでは心許(こころもと)ないわ。 申し訳ないけれどデュート。 貴方(あなた)一緒(いっしょ)に行ってもらえないかしら?」

セシアが、不安そうな表情を浮かべて言うと、デュートは戸惑(とまど)いつつも、

「まあ、別に良いスけど……。 どうせ(ひま)だから」

そう言い返すと、セシアは済まなさそうな表情を浮かべ、

有難(ありがと)う。 本当は(わたくし)が行くべきなのでしょうけれど、どうしても手の(はな)せない仕事があるの」

「ってかお前、オレを何だと思ってんだ! 道案内くらい、ガキでも出来るだろうがよ!」

セシアの発言を聞いて、レックスは(おこ)って、強い口調(くちょう)で彼女に抗議(こうぎ)すると、

貴方(あなた)は何かと喧嘩(けんか)早いですから。 貴方(あなた)が引き起こした面倒事(めんどうこと)に、ロナード様が巻き込まれては(たま)りませんもの」

セシアは、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、レックスに言い返すと、

「んなっ……」

彼女にそう言い返され、レックスは益々(ますます)(いか)り、セシアに何か言い返そうとすると、デュートがとっさに彼の腕を(つか)み、

「良いから。 さっさと行って、用事を済ませるスよ」

苦笑(にがわら)いを浮かべ、レックスに言うと、側にいたロナードの腕も(つか)み、半ば強引(ごういん)に二人を引き()る様にして、その場から(はな)れていった。


「何だよ! デュート! アイツ等たちの言う事を大人しく聞いてたら、オレ等は何時(いつ)も使い走りにされっぞ!」

シェアハウスの玄関(げんかん)の外まで来ると、デュートは歩みを止め、パッと二人の腕から手を(はな)すと、()かさず、レックスが強い口調(くちょう)抗議(こうぎ)した。

「そうは言うけどスね、レックス。 エルトシャンは一応(いちおう)、オレ等の上司(じょうし)な訳スから。 (ただ)でさえ、人が少ないんだから協力し合わなきゃ、組織として回らなくなるスよ?」

デュートは、『はあ』と溜息(ためいき)を付いてから、落ち着き払った口調(くちょう)で、レックスに言い返すと、彼の言う通りなので、彼はグッと言葉を飲み込み、(だま)ってしまった。

「デュートの言う通りだ」

ロナードは、両腕を頭の後ろに組み、ウンウンと(うなず)きながら、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)でレックスに言った。

(お前に言われたくねぇ)

レックスは、ムッとした表情を浮かべ、ロナードを見ながら心の中で(つぶや)いた。

「上から目線(めせん)命令(めいれい)されて、気に入らないのは分かるスけど、レックスも組織の一員なんだから、その辺は()り切らなきゃ駄目(だめ)スよ? 大体(だいたい)騎士(きし)見習(みなら)いしてたなら、先輩(せんぱい)たちからのパシリなんて何時もの事でしょ? 子供みたいな事言わないで欲しいス」

デュートは、子供っぽい駄々(だだ)をごねるレックスに、(あき)れた表情を浮かべ(たしな)める。

 デュートは、見た目こそ奇抜(きばつ)だが、人並(ひとな)みに協調性も常識(じょうしき)もある様だ。

「レックスと二人だけで大丈夫(だいじょうぶ)かと思っていたが、同行(どうこう)を引き受けてくれて助かった」

ロナードは、デュートに向かって、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言うと、

「引き受けるに決まってるスよ。 二人は何処(どこ)か抜けてるスからね! 危なっかしくて放っていられないスよ」

エデュートは苦笑(にがわら)いを浮かべ、ロナードに言い返すと、彼の発言を聞いて、レックスはカチンと来て、何か言い返してやろうとするが、それより先に、

「……()せない部分はあるが、一応(いちおう)心遣(こころづか)いに感謝(かんしゃ)しておく」

ロナードがムッとした表情を浮かべつつ、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、デュートに言い返した。

「本当に『一応(いちおう)』なんスね。 まあ手当(てあ)たり次第(しだい)()み付いて来るレックスよりは、マシだけどス」

ロナードの言動(げんどう)に、デュートは額に青筋(あおすじ)を浮かべ、ニッコリと笑みを浮かべつつ、彼にそう言った。

「こんな阿呆(あほう)一緒(いっしょ)にするな」

ロナードはレックスを指差(ゆびさ)しながら、ムッとした表情を浮かべ、デュートに言い返すと、

「んだと!」

レックスは(おこ)って、ロナードに()み付こうとすると、デュートが()かさず二人の間に()って入り、

「また、そうやって誰振(だれふ)(かま)わず()み付こうとする! 一々、そう言う事に反応しないスよ! そんな事をしてたら、仕事が(はかど)らないス」

ゲンナリした表情を浮かべ、レックスに言うと、彼は不満(ふまん)そうな表情を浮かべ、チッと舌打(したう)ちをしつつも、ロナードの胸ぐらを(つか)もうと伸ばし掛けた腕を引っ込める。

(まった)く。 付き合わされるこっちの身にもなって()しいスよ」

デュートも、ゲンナリとした表情を浮かべ、レックスに言った。

「二人だけじゃあ、こんな調子(ちょうし)だろうスからねぇ……。 オレがちゃんと付いて行ってあげるスから、サクサクと用事を済ませようス」

デュートは、軽く溜息(ためいき)を付くと、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、ロナードとレックスに言った。

「子ども(あつか)いされる事には(しゃく)だが、アンタの言う通り、こんな阿呆(あほう)に長々と付き合うのも、馬鹿(ばか)馬鹿(ばか)しいのは確かだ」

ロナードは、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言うと、それを聞いたレックスはカチンと来る。

「……だから、そうやって一々、レックスを(あお)る様な事を言わないスよ!」

デュートは、ウンザリした表情を浮かべて、ロナードに言い返した後で、すぐさまクルリと(きびす)を返しレックスの方へ向き、

「ほらまた、そうやって、一々腹を立てないスよ!」

レックスの表情を見て、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、彼に言って(なだ)める。

(ホントにもう! この二人マジで()りが合わないスね……)

デュートは心の中でそう(つぶや)くと、溜息(ためいき)を付いた。


 ロナード達は、エルトシャンから頼まれた用事を済ませる為、街の外れ、北側にある、国立(こくりつ)図書館(としょかん)到着(とうちゃく)した。

 エレンツ(てい)国軍(こくぐん)侵略(しんりゃく)を受けた際、戦火(せんか)(まぬが)れた、数少ない建物(たてもの)である。

 青い三角屋根(やね)と白い(かべ)、ステンドグラスの窓が特徴的(とくちょうてき)非常(ひじょう)に美しい建物(たてもの)で、地上(ちじょう)二階建て地下(ちか)一階と言う造りだ。

一階部は、市民などに開放(かいほう)されており、(だれ)でも閲覧(えつらん)可能(かのう)な本が並び、二階は、ルオンの(れき)史書(ししょ)や古い資料(しりょう)など、重要(じゅうよう)書類(しょるい)保管(ほかん)され、本を守る為に、窓には分厚いカーテンがされ、日中でもうす暗く、許可(きょか)が無いと一般人(いっぱんじん)の立ち入りは、(きん)じられている。

 地下は(さら)に、重要(じゅうよう)な書物が保管(ほかん)されていると、言われている。

 このランティアナ大陸の中でも、古い図書館の一つだ。

「立派な建物(たてもの)だな」

ロナードは目の前に(そび)え立つ、国立(こくりつ)図書館(としょかん)を前にして、感嘆(かんたん)の声を()らす。

「だろ? オメェならぜってぇ、一日中入り(びた)ってそうな場所だぜ」

レックスはニッと笑みを浮かべ、ロナードに言うと、入り口の観音(かんのん)(びら)きの(とびら)を開いた。

 (あか)絨毯(じゅうたん)()()めた贅沢(ぜいたく)空間(くうかん)に、本が収められた本棚(ほんだな)(せい)(ぜん)と並び、入り口を入って直ぐ右手に受付(うけつけ)のカウンター、その向かいの広いスペースには、読書を楽しむ為のテーブルと座り心地(ここち)の良さそうなイスが配され、壁際(かべぎわ)にはソファーまである。

(良いな。 ここ。 一日中(ついたちじゅう)()られそうだ)

それを見たロナードは、目を(かがや)かせながら、心の中で(つぶや)いた。

「こんな所、オレは昼寝(ひるね)場所(ばしょ)にしか使わないスけど」

デュートは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、呟いた。

「おはようございます。 国立(こくりつ)図書館(としょかん)へようこそ。ここへは、どの様なご用件(ようけん)でお見えですか?」

入り口を入って直ぐ、人の出入りを監視(かんし)する為か、入り口の右側に受付(うけつけ)カウンターの後に立っていた女性が、愛想(あいそ)良く笑みを浮かべ、穏やかな口調(くちょう)で、やって来たロナード達にそう問い掛けて来た。

「オルゲン将軍の紹介(しょうかい)でここへ来た。 ここの館長(かんちょう)と、お会い出来ないだろうか」

ロナードは落ち着き払った口調(くちょう)で、受付(うけつけ)の女性に言うと、

館長(かんちょう)ですね? (しばら)く、そちらにお掛けになって、お待ち下さい」

彼女は、ニッコリと笑みを浮かべ、ロナードにそう言うと、カウンターの向かいの壁際(かべぎわ)に置かれている、ソファーに座って待っている様に(うなが)される。

「ちょっと、良い男じゃない」

「ホント。 イケメン❤」

「黒髪とかそそるわぁ」

一緒(いっしょ)に居た、別の受付(うけつけ)の女性たちが、ロナードの方をチラチラと見ながら、小声でそんな事を言っているのが、レックスに聞こえた。

(何で、オレらは眼中(がんちゅう)にねぇんだよ)

レックスは、心の中で(つぶや)くと、ムッとした表情を浮かべていると、

「何で、ロナードだけなんスか? オレ等は眼中(がんちゅう)に無いんスか?」

デュートが不満(ふまん)そうな表情を浮かべ、口を(とが)らせ、レックスが思っていた事を口にする。

 三人は、受付(うけつけ)の女性に言われた通り、カウンターの反対側(はんたいがわ)の場所で館長(かんちょう)を待つ事にした。

 その場所は、テーブルや椅子(いす)、ソファーなどが配置(はいち)されており、お茶や、談話(だんわ)などが出来る様な空間(くうかん)になっていた。

「そう言えばロナードって、ルオンへ来る前って何処(どこ)に居たんスか? 何かこの国の人じゃない的な事を聞いたんスけど」

デュートは、近くの椅子(いす)に腰を下ろしながら、ロナードにそう問い掛ける。

(んまぁ、髪や目の色は、この大陸の(やつ)じゃねぇわな)

レックスは、心の中でそう(つぶや)くと、チラリとロナードを見る。

 そう言うレックスも祖父母(そふぼ)が、海を(はさ)んで南のイルネップ王国と言う、国土の大半(たいはん)岩地(いわち)砂漠(さばく)という地域(ちいき)からの移民(いみん)だ。

 彼の祖父母(そふぼ)の時代では、イルネップ王国は地下(ちか)資源(しげん)利権(りけん)(めぐ)り、国内の貴族(きぞく)富豪(ふごう)たちの間で大小の(あらそ)い事が()えず、(ひど)(すさ)んでいたらしく、現状(げんじょう)()えかね、一つの村や(まち)規模(きぼ)で、新天地(しんてんち)を求め、異国(いこく)密出国(みつしゅっこく)する事が頻繁(ひんぱん)に行われていたらしい。

 無論(むろん)、国を見限(みかぎ)り、秘密(ひみつ)()(はな)れた誰もが、レックスの祖父母たちの様に新天地(しんてんち)辿(たど)り着けたわけではないし、辿(たど)り着いた先々(さきざき)でも、先住者(せんじゅうしゃ)たちからの差別(さべつ)や病気、飢饉(ききん)など、様々(さまざま)困難(こんなん)直面(ちょくめん)する事が(ほとん)どであった。

 そんな困難(こんなん)を祖父母たちが乗り越え、この地に根を下ろし、父が騎士(きし)(こころざ)して一念発起(いちねんほっき)して努力した結果(けっか)、今のレックスがある訳である。

隣国(りんこく)の、クラレス公国(こうこく)に居た」

ロナードも、近くの椅子(いす)に腰を下ろしつつも、あまり以前(いぜん)の事に()れられたくないのか、少し暗い表情を浮かべ、歯切(はぎ)れ悪く、デュートにそう答えた。

「へぇ。 じゃあ、ルオンへは列車(れっしゃ)スか?」

デュートは、そんなロナードの様子(ようす)に気付いているのか、いないのか、呑気(のんき)口調(くちょう)で彼に問い掛ける。

「ああ。 そうだが」

ロナードは、これと言った表情を浮かべず、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、デュートの問い掛けに答える。

列車(れっしゃ)の旅かぁ……。 良いな。 オレは生まれてこの方、列車(れっしゃ)に乗った事が無くてよ……。 何時(いつ)か、一等(いっとう)車両(しゃりょう)に乗って豪華(ごうか)異国(いこく)を旅してぇんだよな。 良くね?」

レックスは、まだ知らぬ列車(れっしゃ)での旅に(おも)いを(ふく)らませている様で、ウットリとした表情を浮かべながら、ロナードにそう語る。

「オレもっス。 でも……オレ等庶民(しょみん)には(ゆめ)のまた夢スね……」

デュートも声を(はず)ませながら言っていたが、最後には、ショボンとした表情を浮かべる。

「長い間、ただ(すわ)っているだけだぞ? やる事が無くて、レックスなんて一時間も乗っていられないと思うが」

ロナードは、ゲンナリした表情を浮かべ、レックスに言い返すと、自分の夢を(こわ)す様な発言に、彼はムッとする。

「でも、馬の背に長時間乗ってるよりは、(はる)かにマシでしょ?」

デュートは、苦笑(にがわら)混じりに言うと、レックスは(いや)そうな表情を浮かべ、

「んな事したらケツの皮が(やぶ)れて、(いた)くて椅子(いす)に座れなくなるぜ?」

「それは、そんなに馬に乗った事が無い(やつ)がなる事だ」

ロナードは、(あき)れた表情を浮かべ、レックスに向かって言うと、

「オレたち騎士(きし)見習(みなら)いは、そんな馬に乗らねぇって。 移動(いどう)は基本的に自分の足だしよ。 給料(きゅうりょう)(やす)いし、その割に先輩(せんぱい)たちに()き使われて、結構(けっこう)大変なんだぜ」

彼は、『はあ』と溜息(ためいき)を付きながら、ロナードに言い返す。

雨風(あめかぜ)(しの)げて、安心して眠れる(あたた)かい寝床(ねどこ)があって、三食きちんと食えて、定期的(ていきてき)に決まった金が手に入る……。 オレ等みたいな流れ者から見すりゃあ、贅沢(ぜいたく)な悩みスね」

デュートは、イラッとした様な眼差(まなざ)しを向け、()ややかな口調(くちょう)でレックスに言い返すと、

「お前は、自分が如何(いかが)に恵まれた環境(かんきょう)にいるか、イマイチ分かっていない様だな?」

ロナードも、不満(ふまん)に満ちた表情を浮かべ、強い口調(くちょう)でレックスに言うと、彼は、バツの悪そうな表情を浮かべ、

「わりぃ。 そう言うつもりで、言った訳じゃねぇんだ……」

「そう言う事に、しとていやるか」

ロナードは、まだ何か言いたそうな顔をしていたが、軽く溜息(ためいき)を付くとそう言った。

「そう言えばロナードは元・傭兵(ようへい)だったらしいスね? どうして傭兵(ようへい)をしていたんスか? クレーエ伯の若様(わかさま)なら、そんな事をする必要(ひつよう)は無いっしょ?」

デュートは純粋(じゅんすい)に、ロナードがなぜ傭兵(ようへい)なとどいう、(おのれ)実力(じつりょく)(すべ)ての、厳しい世界に身を置いていたのかが気になり、問い掛けた。

「ラシャの所に身を()せたのは(わり)と最近の話だ。 (おさな)(ころ)戦火(せんか)に巻き込まれ、(たが)いに連絡(れんらく)を取る(すべ)を持たなかったからな……。 (おれ)(たたか)(こと)以外(いがい)に、生きる方法を知らなかったし、(まわ)りの大人たちからも、(ほか)の生き方を教えて(もら)えなかった。 だから、傭兵(ようへい)をして食っていくしかなかったんだ」

ロナードは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべつつも、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、デュートの問い掛けにそう答えた。

(なる)(ほど)ス……。 それは……気の(どく)な話スね……」

デュートは、気の毒そうな表情を浮かべ、ロナードに言うと、

仕方(しかた)が無い。 その時は、それしか道が無かったのだから……」

ロナードは淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、デュートに言い返した。

 彼が発した言葉が、レックスの胸にズシリと重く(ひび)いた。

 もしも自分が、ロナードと同じ立場だったら……彼と同じ様な事を()たして自分は、そんな風に割り切る事が出来ただろうか……。

 自分の不遇(ふぐう)を世の中や周りの人間の所為(せい)にして、現実(げんじつ)直視(ちょくし)せず、受け止める事を(こば)んでいるのでは無いだろうか……。

 普段、自分たちが当たり前の様に享受(きょうじゅ)している事は、実は当たり前の事では無いのだ。

 戦争(せんそう)貧困(ひんこん)疫病(えきびょう)奴隷制(どれいせい)……。

 世の中には様々(さまざま)な理由で、現状(げんじょう)を変えたくても、その(すべ)を持たず、(あた)えられず、その選択(せんたく)を選ぶ他ない人たち、(おのれ)の人生を己で決める事が(かな)わず、周囲に翻弄(ほんろう)されて生きている人たちが、沢山(たくさん)にいる。

 (おさな)かったロナードもまた、自分自身の力では、どうする事も出来ない状況(じょうきょう)に、ただ翻弄(ほんろう)され続けていたのだろう。

 自分が今まで、何の不自由(ふじゆう)も無く育って来たのは、(ひとえ)(りゅう)騎士(きし)をしていた父親が残してくれていた貯金(ちょきん)と、(ちち)()き後、(かしこ)く立ち振る舞ってくれている母親のお(かげ)なのだと言う事を、レックスは(あらた)めて思い知った。

 レックスの母親は、田舎(いなか)子爵(ししゃく)(れい)(じょう)として育った為、家事(かじ)もしたことが無く、庶民(しょみん)大差(たいさ)ない身分で、女手(おんなで)一つでレックスを育てる事は、人並(ひとな)み以上の苦労(くろう)があったに(ちが)いない。

 母親は何時(いつ)も明るく、笑顔(えがお)を絶やす事が無かったので、(おさな)かったレックスは、その笑顔(えがお)の下で母がどんな苦労(くろう)をしているかなど、考えもしなかった。

 『母は偉大(いだい)なり』

と言う言葉があるが、本当にそうだとレックスは思った。

「ああ。 あなた(がた)ですか。 お待たせして(もう)し訳ない」

ふと、自分たちに向かって何者(なにもの)かが声を掛けて来たので、レックスは声がした方へ振り返る。

 白髪(しらが)()じりの長い髪をオールバックにし、後ろで一つに(たば)ね、黒縁(くろぶち)丸眼鏡(まるめがね)を掛けた中肉(ちゅうにく)中背(ちゅうぜい)

 丹念(たんねん)にハの字に整えられた口髭(くちひげ)、白いワイシャツの上に、ベージュ色のベストを着ており、ベストと同色のスラックス、茶色の革靴(かわぐつ)()き、両腕には服の(すそ)が汚れぬ為か、黒い筒状(つつじょう)の布を付けている。

 如何(いかが)にも司書(ししょ)と言った雰囲気(ふんいき)の、知的(ちてき)真面目(まじめ)そうな壮年(そうねん)の男性だ。

「アンタが、フォレスター館長(かんちょう)スか?」

デュートは、(おもむろ)椅子(いす)から立ち上がると、自分たちに声を掛けて来た、その男性に問い掛ける。

「はい。 私がここの館長(かんちょう)(つと)めております、フォレスターと申します」

その男性は、愛想(あいそ)の良い笑みを浮かべ、デュートの問い掛けに丁寧な口調(くちょう)でそう答えると、胸元(むなもと)に片手を()えて、軽く頭を()れた。

「オルゲン将軍に、アンタに協力する様に言われて来た。 (おれ)はロナードと言う」

ロナードは、座っていたソファーから立ち上がると、落ち着き払った口調(くちょう)で、フォレスター館長(かんちょう)にそう名乗(なの)った。

「将軍に……。 では、(れい)(けん)で?」

フォレスター館長(かんちょう)はそう言うと、神妙(しんみょう)な表情を浮かべ言うと、

「……(くわ)しくは、聞いていないが……」

ロナードは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべつつ、フォレスター館長(かんちょう)にそう言い返した。

「そうですか。 とにかく、こちらへ」

フォレスター館長(かんちょう)は、ロナードに言うと、何処(どこ)かへ案内するつもりのようだ。

 彼等(かれら)は、フォレスター館長(かんちょう)何処(どこ)(おび)えている様子(ようす)なので、戸惑(とまど)いの表情を浮かべつつも、付いて行く事にした。


 フォレスター館長(かんちょう)に案内され、ロナード達は付いて行くと、地下(ちか)へと通じる階段(かいだん)の前に来た。

 階段の前には、行く手を(はば)む様にパーテーションポールが置かれており、ポールに掛けられた(うす)い板には、『関係者(かんけいしゃ)以外(いがい)、立ち入り禁止(きんし)』と、黒い文字で書かれていた。

 フォレスター館長(かんちょう)は、そのポールを(すみ)()けると、カンテラを手に階段を下り始めたので、ロナードは無言(むごん)でその後に付いて行く……。

 それを見てデュートとレックスも、その後をゆっくりとした(あし)()りで続いた。

「あ、あの……。 オレ等、ここへ入っても良いんスか? 『関係者(かんけいしゃ)以外(いがい)、立ち入り禁止(きんし)』って、書いてあったスけど……」

(しばら)く階段を下った後、デュートがずっと思っていた事を、先導(せんどう)するフォレスター館長(かんちょう)に問い掛ける。

「ええ。 口で説明しても(おそ)らく、理解(りかい)して頂けないと思いますので……」

フォレスター館長(かんちょう)は、カンテラの明かりを(たよ)りに、ゆっくりと階段を下りながら、そう答えた。

「どう言う事スかね……」

デュートは、思い切り(まゆ)(ひそ)め、(しぶ)い表情を浮かべ、後ろから来ているレックスに問い掛ける。

「んな事、オレに聞かれても分かる訳ねぇだろ」

レックスは、迷惑(めいわく)そうな表情を浮かべ、彼に言い返す。

 先程(さきほど)から、フォレスター館長(かんちょう)の後に続き、自分たちの前を行くロナードが、物凄(ものすご)(けわ)しい表情を浮かべ、無言(むごん)でいるのが気にはなるが……。

元々(もともと)は、治安(ちあん)部隊(ぶたい)の方に相談(そうだん)をしたのですが、取り合って頂けず、どうして良いものかと(なや)んでいた所、オルゲン将軍と偶然(ぐうぜん)、お会いする機会(きかい)がありまして」

フォレスター館長(かんちょう)(おもむろ)に、今回の経緯(けいい)を語り始めた。

「それで、ご相談(そうだん)し、将軍にもお見せしたのですが、何なのか、お分かりにならなかった様でして……。 将軍は、分かりそうな方を後日、こちらへ(つか)わして下さると(おっしゃ)ったので(おそ)らく、あなた方ならば何なのか、分かる物なのだと思います」

フォレスター館長(かんちょう)は、落ち着いた口調(くちょう)で、何故(なぜ)ロナードがここへ行くように、エルトシャンに言われたのか、その理由をザックリと語ってくれた。

「って事は、オマケに付いて来たオレ等には、分かんねぇモノかも知れねぇって事だよな?」

レックスは小声で、自分の前を行くデュートに、そう声を掛ける。

多分(たぶん)そうスね」

デュートは、()けない様に足元(あしもと)に注意しつつ、レックスにそう答えた。

 やがて、地下(ちか)へと通じる階段が終わり、真っ暗な広い空間(くうかん)に出ると、先導(せんどう)していたフォレスター館長(かんちょう)は、壁際(かべぎわ)(そな)えられた蝋燭(ろうそく)()てにカンテラの火を(うつ)し、辺りを明るくしながら、先へと進む。

 すると、目の前に重厚(じゅうこう)な、観音(かんのん)(びら)きの鉄の扉が現れ、フォレスター館長(かんちょう)は、(おもむろ)に腰に下げていた鍵束(かぎたば)の中から、一つの(かぎ)を取り出し、その扉の(かぎ)を開けると、力一杯(ちからいっぱい)、その扉を押す。

 年の所為(せい)か、なかなか扉が開かないのを見て、デュートとレックスが手を貸すと、その鉄の扉は鉄が(きし)む様な音を立てながら開いた。

 その中は、天井(てんじょう)に付きそうな程の、大きな本棚(ほんだな)(せい)(ぜん)と並んでいて、ロナード達は、フォレスター館長(かんちょう)先導(せんどう)の下、本棚(ほんだな)の森の中を歩いて行く……。

「ここは、ルオン王国の創建(そうけん)以前(いぜん)からの書物などが保管(ほかん)されている、とても貴重(きちょう)な場所でして……。 外の空気が入ると、書物が湿気(しっけ)を吸い、カビなどが生えて(いた)んでしまうので、私も滅多(めった)に入らない場所なのです」

フォレスター館長(かんちょう)は、ロナード達にそう語る。

(すご)いス。 仕事とはいえ、そんな貴重(きちょう)な所に入れるなんて!」

デュートは、天井(てんじょう)近くまで聳え立つ本棚(ほんだな)に、整然(せいぜん)と並べられている、古い本を見回しながら、興奮(こうふん)気味(ぎみ)に言った。

(もっと)も、ここにある書物の多くが古代(こだい)文字(もじ)によって(しる)されている為、読める者など、私を(ふく)現在(げんざい)のルオン人の中には(だれ)一人(ひとり)いませんが……。 考古学的(こうこがくてき)非常(ひじょう)価値(かち)がある物なので、こうして厳重(げんじゅう)保管(ほかん)しているのです」

フォレスター館長(かんちょう)は、苦笑(にがわら)混じりにそう語った。

「……この列は、魔道書(まどうしょ)専門(せんもん)なのか? 歴史を(しる)した物ではなさそうだか」

ロナードは、自分たちが歩いている通路(つうろ)の左右に並んでいる本の背表紙(せびょうし)を見ながら、フォレスター館長(かんちょう)に問い掛ける。

流石(さすが)はロナード。 何の本なのか分かるスか?」

デュートは素直(すなお)に、ロナードに向かって感嘆(かんたん)の言葉を掛ける。

一応(いちおう)、魔術師だからな。 これが古代(こだい)文字(もじ)では無く、魔術(まじゅつ)文字(もじ)だと言う事くらいは分かる」

ロナードは、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)でそう答える。

「私も、流石(さすが)にその位は分かりますよ」

フォレスター館長(かんちょう)は、ロナードに(みょう)対抗(たいこう)(しん)を持った様で、苦笑(にがわら)混じりにデュート達に言い返すので、それを聞いて、レックスは苦笑(にがわら)いを浮かべ、

現役(げんえき)の魔術師と張り合って、どーすんだよ(じい)さん……)

心の中で、こっそりとそう(どく)を吐いた。

 広い部屋の奥へと進んで行くと、やがて金属(きんぞく)に何か大きな物が強くぶつかる様な、大きな音が(おく)の方から(ひび)いて来た。

「な、なにスか?」

フォレスター館長(かんちょう)が持っているカンテラの明かりだけが(たよ)りの、暗くて、ヒンヤリとした、()気味(ぎみ)に静まり返った空間(くうかん)で、突如(とつじょ)(ひび)き渡る音にデュートは(こわ)くなり、恐怖(きょうふ)に顔を引き()らせ、青い顔をしてそう呟くと、思わず、自分の前を歩いていたロナードの腕にしがみ付く。

「何か……(いや)な魔力が()れ出ているな……」

ロナードは、不気味(ぎみ)な音が(ひび)いて来る、奥の方を(けわ)しい表情を浮かべ、見据(みす)えながら(つぶや)いた。

 彼の言う通り、音が(ひび)いて来る奥の方から、背筋(せすじ)が寒くなる様なヒンヤリとした、何となくだが、近付かない方が良さそうな、(あや)しく、危険(きけん)な空気が(ただよ)っい来る。

 肝試きもだめしにお化け屋敷やいわく付きの場所に踏み込んだ時の感覚に似ている。

ロナードはサクサクと歩みを進めるのに対し、レックスデュートは本能(ほんのう)的に何か良く無い空気を(さっ)して居り、足取(あしど)り重く、周囲に注意を払いながら、ゆっくりと歩みを進めて行くと、やがて、(なぞ)の扉の前に辿(たど)り着く。

「この最近、()気味(ぎみ)(うな)り声や物音(ものおと)が聞こえて来て、それで何処(どこ)から声がするのか突き止めてみると、どうも、この中からの様で……」

フォレスター館長(かんちょう)はそう言うと、(おもむろ)に、持っていたカンテラを(かざ)し、目の前を照らす。

 この部屋の入口に備え付けられていた、鉄の扉と同じ位、分厚(ぶあつ)く、重そうな扉の前に三段も鉄製の(かんぬき)が掛けられており、何か中に居るのか、外へ出ようと、(しき)りに鉄の扉に音を立ててぶつかっている。

 幸い、分厚(ぶあつ)い鉄の扉と、堅固(けんこ)な三つの(かんぬき)のお(かげ)で、中に居る何かは出ては来られない様だが、扉にぶつかる音からして、中には何か相当(そうとう)大きなモノがいる事は、間違(まちが)いなさそうだ。

 デュートはすっかり(おび)え、ロナードにしがみ付いている。

 良く見ると、鉄の扉には何やら、文字の様な模様(もよう)がビツシリと(きざ)まれており、分厚(ぶあつ)い鉄の(かんぬき)にも、同じ様な文字が並んでいる。

 そして扉の前には、黄ばんでボロボロになった紙が(いく)つもあり、赤色で何か、文字の様なモノが書かれている。

 素人(しろうと)のレックスたちの目から見ても、何かを封じている様に見えた。

「明りを借りても?」

ロナードは(おもむろ)に側に立っていた、フォレスター館長(かんちょう)にそう声を掛ける。

「ええ、はい」

フォレスター館長(かんちょう)は、戸惑(とまど)いの表情を浮かべつつ、ロナードに自分が手にしていたカンテラを手渡(てわた)す。

 ロナードは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、カンテラの明かりを頼りに、その扉の周囲を調べ始めた。

 レックス達はその様子を少し離れた場所から見守り、トレジャーハンターだったデュートは、謎解(なぞと)きよりも恐怖(きょうふ)心が(まさ)るのか、恐怖(きょうふ)に顔を引き()らせながら、その様子を見ている。

 やがて扉の前の床にも、文字が刻まれている事に気付いたロナードは、それをカンテラで()らしながら……。

「……何人も、この封印(ふういん)を解く事無かれ……。 ここに有るは、大いなる(わざわい)元凶(げんきょう)なり」

ロナードは、一緒(いっしょ)に居たフォレスター館長(かんちょう)(おどろ)くほどスラスラと、そこに書かれていた文字を読み上げた。

「おお! スラスラと! 考古(こうこ)学者(がくしゃ)もびっくりス!」

デュートは、ロナードが(なん)なく解読(かいどく)したのを見て、感嘆(かんたん)の声を上げる。

「ケル……ベロス……」

ロナードは眉間(みけん)(しわ)を寄せつつ、そう呟いてから、(おもむろ)に立ち上がり、(いく)つか引き千切られた様子の、扉の前に()り付けられた紙を見て、

(だれ)かが、封印(ふういん)を解こうとしている?」

そう(つぶや)くと、表情を(けわ)しくする。

 突如(とつじょ)分厚(ぶあつ)い扉の向こう側から、腹の奥が震え、背筋(せすじ)が凍りそうな程、殺気(さっき)に満ちた、とても大きな(けもの)(うな)り声が(ひび)いて来た。

 その声を聞いたレックスたちは(きも)を冷やして、恐怖(きょうふ)のあまり、小刻(こきざ)みに身を(ふる)わせながら、その場から後退(あとずさ)りしていると、フォレスター館長(かんちょう)戦々恐々(せんせんきょうきょう)とした様子で身を震わせ、

私共(わたしども)(ふく)め、利用者たちも気味(ぎみ)が悪くて……。 どうにかならないかと思いまして、オルゲン将軍に、ご相談(そうだん)した言う次第(しだい)です」

ロナードにそう語る。

「あ、あのさ……。 こ、この中には……何があるスか?」

デュートは(おそ)る恐る、ロナードに問い掛けると、

「足元に書かれている事が本当ならば、ケルベロスが封印(ふういん)されているらしい」

ロナードは先程(さきほど)まで、自分が解読(かいどく)した、足元の文字が書かれている辺りを見下ろしながら、落ち着いた口調(くちょう)で答えた。

「それって何だよ? つーか、それ、オレ等の組織の名前だろ?」

レックスは小首を(かし)げ、ロナードに問い掛ける。

「ケルベロスは冥府(めいふ)……つまり、死後(しご)の世界の入り口を守る三つ首の巨大(きょだい)な犬で、性格はとても獰猛(どうもう)死者(ししゃ)では無い者が近付くとたちまち食い殺すらしい。 そんな危険(きけん)なモノが外に放たれれば、幾多(いくた)の命が奪われる事は確実だ。 それを(うれ)いてここに封じられたのだろう」

ロナードはまるで他人事(たにんごと)の様に、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、レックスにそう説明した。

「そ、それって、絶対(ぜったい)開けちゃいけないモノなんじゃあ……」

彼の話を聞いて、デュートは恐怖(きょうふ)に顔を引き()らせ、すっかり(おび)えた様子(ようす)で、声を(ふる)わせロナードに言った。

「まあ、そうだな……」

ロナードは、本当に何処(どこ)他人事(たにんごと)の様な口調(くちょう)で言い返すので、レックスは(あき)れた顔をして、

「『まあ、そうだな』って、お前、(まった)危機感(ききかん)ねぇじゃねぇかよ!」

封印(ふういん)されて、出て来られない様な間抜(まぬ)けな(やつ)を、必要(ひつよう)以上に(おそ)れるのもどうかと思うが」

ロナードは、落ち着いた口調(くちょう)で言いながら、鉄の扉に書かれている文字に目を向ける。

「この文を読んだ(かぎ)りでは、この建物(たてもの)が造られた頃のルオンで夜な夜な(あらわ)れては、通り魔的に街の人たちを食い散らかしていたらしい」

ロナードは、扉に書かれて居た文字を、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で読む。

 当時のルオンの街は、その(うわさ)所為(せい)で外部から人が寄り付かなくなり、交易(こうえき)途絶(とだ)え、多くの交易(こうえき)(せん)停泊(ていはく)している(はず)(みなと)は、閑散(かんさん)としていた。

 事態(じたい)を重く見た当時のルオン国王が、高名な賢者(けんじゃ)に頼み、(つの)った勇気(ゆうき)あるルオンの騎士たちと共に、ケルベロスと三日(みっか)三晩(みばん)戦い続けた(すえ)、ここに(ふう)じる事に成功(せいこう)した。

 ケルベロスによる被害(ひがい)者は甚大(じんだい)で、街の者たちは勿論(もちろん)討伐(とうばつ)に参加した多くの騎士たちの命が奪われ、封印(ふういん)される寸前(すんぜん)には、高名な賢者(けんじゃ)もその牙に掛り、賢者(けんじゃ)諸共、この扉の奥に封じられた。

 扉には、その犠牲(ぎせい)になった人々の名が刻まれている。

 そして最後に、『この様な危険(きけん)(きわ)まりない生き物が、二度と世に出る事が無い様、切に願う』と、鉄の扉には、その様な言葉が刻まれて居た。

「マジでやべぇな……そいつ」

ロナードの解読(かいどく)を聞いたレックスは、青い顔をして、顔を引き攣らせながら(つぶや)く。

「それで、どうする気なんスか? ロナード」

デュートは、不安に満ちた表情を浮かべ、ロナードにそう問い掛ける。

「まあ……中に居るコイツをどうするか、場所が場所なだけに、(おれ)たちだけで決めて良い事では無いのは確かだな。 一度、この(けん)は持ち帰って、オルゲン将軍かカタリナ王女に相談(そうだん)し、どうするか指示(しじ)(あお)ぐのが、賢明(けんめい)だろう。 倒すにしてもそれ相応(そうおう)の準備も必要だ」

ロナードは、静かに分厚(ぶあつ)い鉄の扉の向こう側を見つめながら、落ち着き払った口調(くちょう)で言う。

「そうスよね……。 オレもそれが良いと思うス」

デュートも、神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで言った。

「ついでに、ここの封印(ふういん)を解こうとしている(やつ)(だれ)なのか、調べた方が良いかもな」

ロナードは、引き千切(ちぎ)られた札を見ながら、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言うと、

「えっ……」

レックスは、物凄(ものすご)く驚いた表情を浮かべ、思わず、彼の方を見た。

「そ、そんな、(おそ)ろしい事を考えている者が、いるのですか?」

ロナードの言葉を聞いて、フォレスター館長(かんちょう)戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、彼に問い掛ける。

「そうで無ければ、(いく)ら古くなったとは言え、こんなに大量の(ふだ)が、破られている筈が無い。 (だれ)かが故意(こい)封印(ふういん)を解こうとしているのは、明白(めいはく)だ」

ロナードは、引き破れている札を指差(ゆびさ)しながら、おこ口調(くちょう)でそう説明する。

「もし封印(ふういん)が解かれたら、大変な事になるんじゃねぇのか? 早くどうにかした方が良いぜ!」

レックスは、恐怖(きょうふ)に表情を強張(こわば)らせつつ、強い口調(くちょう)でロナードに言うと、

「私も、この事を治安(ちあん)部隊(ぶたい)再度(さいど)相談(そうだん)する事にします」

フォレスター館長(かんちょう)真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、ロナードに言った。

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