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DRAGON SEED  作者: みーやん
第四章
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妨害

主な登場人物


ロナード…漆黒(しっこく)の髪に紫色の双眸(そうぼう)特徴的(とくちょうてき)な、傭兵業(ようへいぎょう)生業(なりわい)としていた魔術師(まじゅつし)の青年。 落ち着いた雰囲気(ふんいき)の、(じつ)年齢(ねんれい)よりも大人びて見える青年。 一七歳。


エルトシャン…オルゲン将軍(しょうぐん)(おい)で、ルオン王国軍の第三治安(ちあん)部隊(ぶたい)副部隊(ふくぶたい)(ちょう)だったが、カタリナ王女から、新設(しんせつ)された組織『ケルベロス』のリーダーを拝命(はいめい)する。 愛想(あいそ)が良く、柔和(にゅうわ)物腰(ものごし)な好青年。 王国内で(ゆび)()りの剣の使い手。 二一歳。


アルシェラ…ルオン王国の将軍(しょうぐん)オルゲンの娘。 白銀(はくぎん)の髪と琥珀(こはく)(いろ)双眸(そうぼう)特徴的(とくちょうてき)な、可愛(かわい)らしい顔立ちとは(こと)なり、じゃじゃ馬で我儘(わがまま)なお姫さま。 カタリナ王女の命を受け、新設(しんせつ)される組織に渋々(しぶしぶ)加わる事に。 一六歳。


オルゲン…ルオン王国のカタリナ王女の腹心(ふくしん)で、『ルオンの双璧(そうへき)』と(しょう)される、幾多(いくた)戦場(せんじょう)活躍(かつやく)をして来た(ろう)将軍(しょうぐん)。 温和(おんわ)義理堅(ぎりがた)い性格。 魔物(まもの)の害に(くる)しむ(たみ)救済(きゅうさい)(ため)に、魔物(まもの)退治(たいじ)専門(せんもん)の組織『ケルベロス』を、カタリナ王女と共に立ち上げた人物。


セシア…ルオン王国の王女カタリナの親衛隊(しんえいたい)一人で、魔術(まじゅつ)()けた女魔術師(まじゅつし)。 スタイル抜群(ばつぐん)で、人並(ひとな)み外れた妖艶(ようえん)な美女。


レックス…オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)に仕えている騎士(きし)見習(みなら)いの青年。 正義感(せいぎかん)が強く、喧嘩(けんか)っ早い所がある。 屋敷(やしき)の中で一番の剣の使い手と自負(じふ)している。 一七歳。


カタリナ…ルオン王国の王女。 病床(びょうしょう)に有る(ちち)(おう)()わり、数年前から(まつりごと)を行っているのだが、宰相(さいしょう)ベオルフ一派の所為(せい)で、思う様に政策(せいさく)が出来ず、王位(おうい)継承権(けいしょうけん)(おびや)かされている。 自身は文武(ぶんぶ)()けた美女。 二二歳。


サムート…クラレス公国(こうこく)に住む、烏族(からすぞく)の長の妹サラサに(つか)える、烏族(からすぞく)の青年。 ロナードの事を気に掛けて居る(あるじ)(ため)に、ロナード共にルオンへ(おもむ)く。 人当(ひとあ)たりの良い、物腰(ものごし)の柔らかい青年。


ベオルフ…ルオン王国の宰相(さいしょう)で、カタリナ王女に代わり、自身が王位に()こうと(たくら)んで居る。 相当(そうとう)な好き者で、自宅や別荘(べっそう)に、各地から集めた美少年美少女を囲って居ると言われている。


メイ…オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)(つか)えている騎士(きし)見習(みなら)いの少女。 レックスとは幼馴染(おさななじみ)。 ボウガンの名手(めいしゅ)。 十七歳。

 ルオン王国の王女直々(おうじょじきじき)魔物退治(まものたいじ)専門(せんもん)とする、新しい組織を新設(しんせつ)するに当たり、人員(じんいん)募集(ぼしゅう)し、採用(さいよう)合否(ごうひ)(けっ)する(ため)、北のマイル王国との国境(こっきょう)に近い、ルオン高原(こうげん)にある森の中で、受験者(じゅけんしゃ)たちは魔物退治(まものたいじ)をしながら、一週間のサバイバルを敢行(かんこう)していた。

 その受験者(じゅけんしゃ)の一人レックス・リーヴェは、自身のミスで魔物(まもの)から()げる(さい)に、食料などの一式が入ったナップサックを紛失(ふんしつ)してしまい、三日間、飲まず食わずで、フラフラになっていたところ、試験官(しけんかん)のセシアに(なか)強引(ごういん)に、リタイアをさせられてしまった。

 彼は、最後まで試験(しけん)をやり()げる事が出来(でき)なかったと言う失意(しつい)の中、セシアに引き()られ、試験(しけん)運営本部(うんえいほんぶ)がある天幕(てんまく)(ぐん)まで()れて来られた。

(どんな顔をして、お(やかた)(さま)たちに会えって言うんだよ……)

レックスは沈痛(ちんつう)な表情を浮かべ、(うつむ)き、その場に力なくヘタリ込み、心の中で(つぶや)いていると、

(おそ)かったな」

不意(ふい)に、聞き覚えのある若者(わかもの)の声がしたので、レックスは(おどろ)いて顔を上げた。

 何故(なぜ)か自分の目の前には、まだ試験(しけん)を受けている(はず)のロナードがいて、何処(どこ)安堵(あんど)した様な表情を浮かべて彼を見下(みお)ろしていた。

「ロナード……どうして……。 まさかお前もリタイアしたのか?」

レックスは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、ロナードに問い掛けると、彼は不思議(ふしぎ)そうな顔を浮かべ、

「いや。 (おれ)試験(しけん)の中止を聞いて、(ほか)受験者(じゅけんしゃ)たちと一緒(いっしょ)昨日(きのう)からここに居るが」

ロナードは、落ち着き払った口調(くちょう)でそう答えると、レックスは(きつね)()まれた様な表情を浮かべ、

「へっ?」

「リタイアする者が続出(ぞくしゅつ)した事に加えて、受験者(じゅけんしゃ)試験官(しけんかん)との間で、不正(ふせい)なやり取りもあったらしく、急遽(きゅうきょ)昨日(きのう)の朝に試験(しけん)の中止が決定(けってい)したんだが、お前の様に試験官(しけんかん)所在(しょざい)(つか)めない(やつ)も多くて……。 それで今、試験官(しけんかん)たちが手分(てわ)けをして受験者(じゅけんしゃ)たちを(さが)しているところだ」

ロナードは、事情(じじょう)を知らされていないレックスに、簡潔(かんけつ)説明(せつめい)した。

「マジか」

レックスは、何処(どこ)拍子(びょうし)()けした様子(ようす)(つぶや)いた。

 そんな事になっているとも知らずに、父の(ため)に死んでも意地(いじ)を通そうとしていた自分が、何だか馬鹿(ばか)らしく思えて来た……。

「何にしても、無事(ぶじ)で何よりだ」

ロナードは安堵(あんど)した表情を浮かべ、レックスに言った。

(何だよコイツ。 オレの事を心配してたのかよ。 意外(いがい)と良い(やつ)じゃねぇか)

ロナードの言動(げんどう)に、レックスは心の中でそう(つぶや)いた。

(すで)にリタイアした者たちを(のぞ)くと、今、(もど)って来たのは半分くらいってトコかな……。 明日、元気に(みな)ここへ戻って来てくれるのなら良いケド……」

エルトシャンは、試験会場(しけんかいじょう)である森の方へ目を向けながら、そう言ってやって来た。

全員(ぜんいん)(むずか)しいだろうな。 ここへ戻る途中(とちゅう)(いく)つか受験者(じゅけんしゃ)と思われる死体(したい)を見たからな」

ロナードは淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、エルトシャンに言った。

 彼の言う通り、レックスもこの三日程(みっかほど)、森の中を一人で彷徨(さまよ)っている時に、何人か受験者(じゅけんしゃ)と思われる(けもの)に食い(あら)らされた形跡(けいせき)のある新しい遺体(いたい)を見付け、明日は()が身ではないかと、(きも)を冷やした事を記憶(きおく)している。

組織(そしき)好待遇(こうたいぐう)高報酬(ほうしゅう)に目が(くら)んだ、身の程知(ほどし)らずが沢山(たくさん)居たって事だね」

エルトシャンは完全に他人事(たにんごと)の様な口調(くちょう)で、肩を(すく)めながら言った。

「そもそも魔物(まもの)巣窟(そうくつ)の様な場所で、試験(しけん)を行う(こと)自体(じたい)無謀(むぼう)だったんだ。 行えば死人(しにん)が出る事くらい、()ぐに予見(よけん)出来(でき)ただろうに」

ロナードは、()(いき)()じりに言うと、

「今のルオンの役人(やくにん)なんて、金とコネでその地位(ちい)()いた様な、中身の(ともな)わない連中(れんちゅう)(ほとん)どだからね……。 まあ王国軍も大差(たいさ)ないケド。 そこまで考えてた人が、どの位いた事やら……」

エルトシャンは肩を(すく)めながら、皮肉(ひにく)たっぷりに言った。

「それより『受験者(じゅけんしゃ)試験官(しけんかん)との間で、不正(ふせい)なやり取りがあった』ってのは、どう言う事だよ? まさか、姫に手ぇ出した(やつ)始末(しまつ)しちまったって事が、(ほか)奴等(やつら)に知れて、顰蹙(ひんしゅく)をかってるとかじゃあねぇだろうな?」

レックスは不安(ふあん)そうな表情を浮かべ、エルトシャンは問い掛けると、その言葉を聞いたロナードは表情を(くも)らせる。

「そう言う事じゃないよ。 第一あれは(ほとん)事故(じこ)の様なモノでしょ?」

エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、レックスにそう答えると、

「それじゃあ、なんだよ?」

彼は真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、エルトシャンに問い掛ける。

試験官(しけんかん)の中に魔物(まもの)に付け(そこ)ねたタグを持っていて、それを受験者(じゅけんしゃ)に一つ(いく)らで売り物にして、その金を自分の(ふところ)(おさ)めてたのが何人かいてね。 それを購入(こうにゅう)した受験者(じゅけんしゃ)(さら)に、別の受験者(じゅけんしゃ)高値(たかね)で売るってカンジで……。 一度も魔物(まもの)(たお)して無いのに、合格出来(ごうかくでき)るだけのタグを持ってるって人が居る状況(じょうきょう)になっちゃって……」

エルトシャンは、(こま)()てた様な表情を浮かべながら、レックス達に理由を話すと、

「何だよそれ! 真面目(まじめ)試験(しけん)してる(やつ)馬鹿(ばか)みてぇじゃねぇかよ!」

話を聞いたレックスは、不満(ふまん)()ちた表情を浮かべ、強い口調(くちょう)でそう批判(ひはん)した。

「だから試験(しけん)を中止して、別の日に(あらた)めて試験を行うか、(まった)く別の方法で人員(じんいん)選出(せんしゅつ)するかを、今、話し合ってるって訳だよ」

エルトシャンは、溜息混(ためいきま)じりにレックスに言うと、

(なる)(ほど)

ロナードは、落ち着き払った口調(くちょう)(つぶや)く。

「そもそも、この組織を立ち上げる事を反対(はんたい)している(やから)も少なくなくてね……。 ほら、魔物退治(まものたいじ)って、イシュタル教会の専門分野的(せんもんぶんやてき)雰囲気(ふんいき)が強いでしょ? 教会と(つな)がりが深い諸侯(しょこう)たちは、教会の(いか)りをかって、後ろ(だて)を失っては困るからね。 作って()しくないんだと思うよ」

エルトシャンは、ロナード達に何故(なぜ)、この様な事が起きたのかを説明した。

(諸侯(しょこう)らの採決(さいけつ)をしてないのか? それとも、可決(かけつ)はしたが、不満(ふまん)とする連中(れんちゅう)の中に力のある(やつ)が多いのか……)

エルトシャンの説明を聞いて、ロナードは神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで心の中で(つぶや)いた。

「つまり、試験官(しけんかん)の中に、組織の新設(しんせつ)()()したい(やから)(いき)が掛った(やつ)が居て、邪魔(じゃま)をしていると言う事か」

ロナードは思い切り(まゆ)(ひそ)め、言うと、

「そう言う事。 (ほか)にもまあ、不正(ふせい)をした理由は色々(いろいろ)とあるかも知れないけど、試験官(しけんかん)たちは多方面(たほうめん)から、急遽(きゅうきょ)集めたってカンジだからね」

エルトシャンは肩を(すく)めながら、他人事(たにんごと)の様に、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言った。

「……だろうな。 試験(しけん)を始める前、試験官(しけんかん)の中に明らかにやる気のない(やつ)も居たからな」

ロナードは、試験(しけん)が始まる前の周囲(しゅうい)雰囲気(ふんいき)を思い出しながら、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言った。

(かり)に、採用(さいよう)する人間が決まったとしても、本当にこの国の現状(げんじょう)(うれ)いて、魔物退治(まものたいじ)をしようって思ってる人なんて本当に数える程度(ていど)だと思うし、組織を内側(うちがわ)から(つぶ)そうと、殿下(でんか)と対立している派閥(はばつ)から送り込まれる人も居るかも知れない」

エルトシャンは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべつつそう語ると、ロナードは両腕(りょううで)を自分の胸の前に組み、

「あの女、受験者(じゅけんしゃ)の事はちゃんと調べてあると、(えら)そうに言っていたが、試験官(しけんかん)にまでは目が向かなかった様だな」

淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言った。

「セシアの事か? 確かにんな事言ってたな」

レックスは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべつつ、ロナードに言う。

「その点は否定(ひてい)出来ないね。 明らかに(ひと)手不足(でぶそく)だったからね」

エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべながら言うと、肩を(すく)める。

「……何故(なぜ)、そんなに(あせ)って作ろうとした? もう少し時間を掛けてじっくりと、取り掛かれば良かったものを」

ロナードは、不思議(ふしぎ)そうな表情を浮かべつつ言うと、

単純(たんじゅん)に、それだけ殿下(でんか)伯父上(おじうえ)(きび)しい立場にあるって事じゃないかな? 実際(じっさい)やり方は(きたな)いけれど宰相(さいしょう)の方を殿下(でんか)よりも世間(せけん)評価(ひょうか)しているからね。 宰相(さいしょう)の力は無視(むし)出来ないよ」

エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、自分の見解(けんかい)を口にした。

「ベオルフ宰相(さいしょう)か……」

ロナードはそう(つぶや)くと、苦々(にがにが)しい表情を浮かべる。

宰相(さいしょう)は、昔から色々(いろいろ)と黒い(うわさ)()えない人だけど、(うわ)を噂のままにしておけるだけの実力はあるからね。 伯父上(おじうえ)も色々と苦戦(くせん)しているみたい」

エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべたまま、何処(どこ)他人事(たにんごと)の様な口調(くちょう)で言う。

「ルオン内の権力(けんりょく)(あらそ)いになど興味(きょうみ)は無い。 そう言う面倒(めんどう)な事は(かか)わりたくないんだが」

ロナードは物凄(ものすご)他人事(たにんごと)の様に、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言って退()けた。

「んなっ……」

彼の無責任(むせきにん)発言(はつげん)に、レックスは不愉快(ふゆかい)さを(おぼ)え、何か言い返そうとしたが……。

「まあ、大半(たいはん)の人はそうだろうね。 自分たちの生活(せいかつ)保障(ほしょう)してくれるのならば、国王が(だれ)になろうと大した問題(もんだい)では無いからね。 それが面倒(めんどう)であればある(ほど)、関わる事を()けるものだよ」

エルトシャンはサラリと、他人事(たにんごと)の様に言うので、それを聞いてレックスは(おどろ)いたが、ロナードはこれと言った反応(はんのう)(しめ)す事も無く、

「そう言う事だ。 興味(きょうみ)半分で余計(よけい)な事に首を突っ込んで、自分の首が回らなくなっては、元も子もないからな」

淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言った。

「オメェ、すげぇシビアな?」

レックスは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、ロナードにそう言うと、

理想(りそう)綺麗(きれい)ごとは、当の昔にゴミ(ばこ)に捨てて来た。 それで腹が(ふく)れる訳でもないしな」

彼は、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)でそう言い放った。

「君の様に、明るい未来を無邪気(むじゃき)に思い(えが)ける(ほど)、彼はピュアじゃないって事だよ」

エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、レックスに向かって言うと、それを聞いたロナードはムッとした表情を浮かべ、

「……ピュアじゃ無くて悪かったな」

「別に悪いとは言って無いよ。 少なくとも、無責任(むせきにん)綺麗(きれい)ごとや理想(りそう)ばかり(なら)び立てる(やから)よりも、信用出来(しんようでき)ると(ぼく)は思うよ。 少なくとも(だれ)かよりはね」

エルトシャンはに苦笑(にがわら)いを浮かべたまま、ロナードにそう言い返すと、チラリと彼の背後(はいご)へと目を向けると、アルシェラが此方(こちら)へやって来ていた。

「お(また)たせぇ。 さっき殿下(でんか)からの伝令(でんれい)でぇ、王都(おうと)へ引き上げる事になったらしいわよ。 だから明日の朝、ここから引き上げるってぇ」

アルシェラは無邪気(むじゃき)に、エルトシャンとロナードに向かって、そう言って来た。

「それより、組織の人選(じんせん)はどうするって?」

エルトシャンは落ち着き払った口調(くちょう)で、アルシェラに問い掛けると、

「しらな~い」

アルシェラはどうでも良いのか、無責任(むせきにん)にそう言い(はな)ってから、

「何にしても良かったじゃん。 これでこんな、虫とか訳わかんないのがウジャウジャいる様な所にいる必要(ひつよう)なくなった訳だしぃ」

(うれ)しそうに声を(はず)ませながら言った。

「まあな……。 正直(しょうじき)、雨やら(どろ)やらで気持ち悪いから、早く風呂(ふろ)に入りたいとは思う」

ロナードは(かる)溜息(ためいき)を付いてから、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言った。

「確かに。 オレも風呂(ふろ)に入って、ちゃんとしたベッドで()てぇ……」

レックスも(つか)れを(かく)せない様子(ようす)で、そう(つぶや)いた。

(まった)くですわ」

セシアが片手(かたて)で自分の(かみ)を払いながら、そう言ってやって来た。

王都(おうと)に引き上げるって聞いたけど、再試験(さいしけん)はするの?」

エルトシャンは(おもむろ)に、セシアにそう問い掛けると、

「それは無いと思いますわ。 もう一度試験(いちどしけん)を行うには、時間も予算(よさん)人員(じんいん)()り無いもの。 だから書類(しょるい)選考(せんこう)推薦(すいせん)、今までの試験の様子(ようす)などを()まえての人選(じんせん)になるんじゃないかしら」

セシアは、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)でそう答えた。

「それは、どの位で終わる予定(よてい)だ?」

ロナードは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、セシアに問い掛けると、

「そうですわね……二週間くらいかしら……」

彼女は、両腕(りょううで)を自分の(むね)の前に組んで(しばら)く考えた後、そう答えた。

「二週間・……」

セシアの言葉を聞いて、ロナードはゲンナリとした表情を浮かべた。

(二週間……その間、五月蠅(うるさ)いアルシェラを何とかして、顔を()き合わせない様にしなければならないのか……最悪(さいあく)だな)

ロナードは心の中で(つぶや)くと、チラリとエルトシャンの(かたわ)らに居たアルシェラの方へと目を向け、その視線(しせん)に気付いた彼女は、ニッコリと無邪気(むじゃき)な笑みを浮かべる。

(クラレスに(もど)ろうにも、列車(れっしゃ)での移動(いどう)(ほとん)どの時間を(つい)やしてしまう……。 里には三日滞在(たいざい)出来るかどうかか……。 金と時間と労力(ろうりょく)無駄遣(むだづか)いだな)

ロナードは、アルシェラから視線(しせん)()らすと、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでその様な事を考えていた。

「夕食の準備(じゅんび)が出来ましたら、また声をお()(いた)しますわ。 もう(しばら)くお待ち下さい」

セシアは、ロナード達にそう言い残すと、その場から立ち去って行った。

「明日引き上げるって、まだ見付かってねぇ(やつ)もいるんだろ?」

レックスは、試験会場(しけんかいじょう)である森の方へ目を向けながら、エルトシャン達に問い掛けると、

「そうだけど、全員見付(ぜんいんみつ)け出すのに何日(かか)るか分からないでしょ? 持って来た食料だって限りがある。 そもそも試験は明日までなんだし。 明日中に来なかったら、どちらにしろアウト。そこまで此方(こちら)が責任は負わないと分かっていて(いど)んだんだから、自己(じこ)責任だよ」

エルトシャンは淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、戸惑(とまど)うレックスに言い返す。

「そう言う事だ。 合流(ごうりゅう)出来ただけ良かったと思う(ほか)ないだろう」

ロナードは素っ気ない口調(くちょう)で言うと、レックスは複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、

(もしかして、セシアの(やつ)……それを知ってオレを助けに……)

心の中でそう(つぶや)くと、彼の脳裏(のうり)にふと、人を見下(みくだ)す様に不敵(ふてき)な笑みを浮かべる、セシアの顔が浮かんだ途端(とたん)、自分に散々(さんざん)物言(ものい)いをした事を思い出し、

(んな訳ねぇか)

レックスはそう思って、先程(さきほど)、自分の中に浮かんだ事を否定(ひてい)した。


 翌日(よくじつ)試験会場(しけんかいじょう)から撤退(てったい)が決定し、ロナードたちは、馬車で王都(おうと)帰路(きろ)についた。

 その馬車には、アルシェラを(ふく)め、エルトシャン、そしてロナードが乗り合わせ、オルゲン将軍(しょうぐん)はまだ見付からない受験者(じゅけんしゃ)捜索(そうさく)(ため)、自身が()れて来た兵士達(へいしたち)(とも)現場(げんば)に残る事になった。

不正(ふせい)をした試験官(しけんかん)たちは、あの後何か話したのか? 不正(ふせい)をした理由とか(だれ)指図(さしず)だとか」

ロナードは、自分と向かい合う様に座っていたエルトシャンにそう問い掛ける。

全員(ぜんいん)では無いけど、魔物(まもの)にタグを付け(そこ)なったので、どうにかして処理(しょり)をしなければならないと思い、この方法を思い付いたってさ。 中には、始めからタグを受験者(じゅけんしゃ)たちに売ろうと思って持っていたと証言(しょうげん)した者もいたよ」

エルトシャンは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべつつ、ロナードの問い掛けにそう答えた。

(よう)は、作業後に付け(そこ)なったタグを回収(かいしゅう)して無かったのが、問題だったと言う事か」

ロナードは淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、問題点を指摘(してき)する。

「こっちとしては、タグは(すべ)て付け終えているとばかり思っていたからね。 (だれ)もその様な考えに(いた)らなかったのが、そもそもの間違(まちが)いだったんだよ」

沈痛(ちんつう)な表情を浮かべ、重々(おもおも)しい口調(くちょう)でエルトシャンはそう答えた。

「世の中の(みな)が皆、公明正大(こうめいせいだい)に生きている訳じゃない。 良からぬ事を考える(やから)が、(かなら)一定数(いっていすう)は居ると言う事を念頭(ねんとう)に置いてなくては駄目(だめ)だ」

ロナードは(あき)れた表情を浮かべながら、エルトシャンに言い返す。

「そうだよね。 そこは(ぼく)もカタリナ様も間抜(まぬ)けだったと思うよ」

エルトシャンは苦々(にがにが)しい表情を浮かべ、ロナードに語る。

「エルトを()めるの、その位にしてあげてよ。 ロナードぉ。 初めてだったんだから、仕方(しかた)がないじゃない」

エルトシャンが落ち込んでいる様子(ようす)を見て、アルシェラは気の(どく)そうな顔をして、自分の(となり)に座っているロナードに言った。

「別に()めている訳じゃない。 何処(どこ)に問題があったのか、反省会(はんせいかい)をしているだけだ」

ロナードは、落ち着き払った口調(くちょう)でアルシェラに言い返す。

「確かに(ぼく)(へこ)んでるけど、それは自分の考えの(あま)さに対してで、ロナードの所為(せい)じゃないよ」

エルトシャンは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、アルシェラに言う。

「アンタみたいに、何も(かえり)みずに、ヘラヘラ笑っていられる様な立場では無いからな。 エルトシャンも(おれ)も」

ロナードは、冷ややかな口調(くちょう)でアルシェラに言うと、

「んなっ!」

アルシェラは(いか)りの形相(ぎょうそう)でそう言うと、(いきお)い良く座席(ざせき)から立ち上がった時、馬車が急停車(きゅうていしゃ)し、車体が大きく()れたので、立って居た彼女は大きくバランスを(くず)して、(ころ)びそうになったところを側にいたエルトシャンが(あわ)てて()き止め、

大丈夫(だいじょうぶ)?」

真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、そうアルシェラに声を掛けると、彼女は不満(ふまん)そうな顔をして、

(きゅう)に何なのよ!」

強い口調(くちょう)でそう口走(くちば)ると、不意(ふい)に掛っていた黒いカーテンを片手(かたて)で払い、小窓(こまど)から外を見ようとした時、

()せて!」

何かを察知(さっち)したエルトシャンはそう(さけ)ぶと、(そば)に居たアルシェラを力任(ちからまか)せに、自分の方へと引き()せると、彼女を()きしめたまま、(いそ)いで身を(かが)めた。

 彼の(さけ)び声を聞いて、居合(いあ)わせたロナードも素早(すばや)反応(はんのう)し、(そろ)って身を(かが)めた次の瞬間(しゅんかん)、馬車に取り付けられていた小窓(こまど)硝子(がらす)が音を立てて()れると同時(どうじ)に、外から(いきお)い良く弓矢(ゆみや)が数本、中に飛び込んで来た。

「な、なにぃ?」

自分が居る場所とは反対側(はんたいがわ)、ロナードの頭上(ずじょう)(かす)めて、馬車の(かべ)()(ささ)さった弓矢(ゆみや)を見ながら、戸惑(とまど)いの表情を浮かべアルシェラはそう(つぶや)くと、好奇心(こうきしん)の強い彼女は頭を上げて小窓(こまど)から、外の様子(ようす)を見ようとするので、

「だから(あぶ)ないって!」

(そば)に居たエルトシャンはそう言って、小窓(こまど)から顔を(のぞ)かせようとしていたアルシェラの頭を、思い切り(おさ)え付けた。

「何者から、襲撃(しゅうげき)を受けている」

ロナードは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでアルシェラに簡潔(かんけつ)にそう説明すると、彼女は(おどろ)きの表情を浮かべ、

「えっ。 何で? どうしてアタシ達が(おそ)われるのぉ?」

「……理由は、アンタの父親に聞けば分かるだろ」

ロナードは身を低くしたまま、弓矢(ゆみや)でガラスが割れ、外から風が()き込み、掛けてあるカーテンが(まく)れている隙間(すきま)から、外の様子(ようす)(うかが)いつつ、落ち着き払った口調(くちょう)でアルシェラに言ってから、

「見た(かぎ)り、何処(どこ)かの兵士(へいし)の様だ」

一瞬(いっしゅん)(まど)から外を見た事をエルトシャンに言うと、

宰相(さいしょう)(はな)った兵士(へいし)だろうね。大方(おおかた)僕等(ぼくら)人質(ひとじち)にでもして、伯父上(おじうえ)隠居(いんきょ)させ、カタリナ殿下(でんか)王位(おうい)継承(けいしょう)辞退(じたい)(せま)る気なんだよ」

エルトシャンは落ち着き払った口調(くちょう)で、ロナードにそう説明する。

(なる)(ほど)。 とても分かり(やす)手口(てぐち)だな」

ロナードは(あわ)てる事も無く、落ち着き払った口調(くちょう)で言い返した。

「ちょっとぉ。 何で(だれ)も助けに来ない訳?」

アルシェラは戸惑(とまど)いの表情を浮かべつつ、ロナード達に向かって言うと、

「もう(みな)()げちゃったか、(ころ)されたんじゃないの?」

エルトシャンは、苦笑(にがわら)いを浮かべながらアルシェラに言うと、

()しくは、(てき)寝返(ねがえ)ったか……」

ロナードが、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言い返すと、

「変な事言わないで! そんな事する訳ないわよ」

アルシェラは不愉快(ふゆかい)さを(あら)わにして、ロナードに言った。

一昔前(ひとむかしまえ)までならば考えられない事だけど、最近(さいきん)はどうだろうね?」

エルトシャンは肩を(すく)め、皮肉(ひにく)たっぷりに言うと、

「エルトまで何言ってるのよ! 主君(しゅくん)とその家族を守るのが騎士(きし)役目(やくめ)でしょ! その(ため)に高いお給料(きゅうりょう)をあげてるんだから!」

アルシェラはムッとした表情を浮かべ、強い口調(くちょう)でエルトシャンに言い返すと、

理想(りそう)現実(げんじつ)(ちが)うと言う事だ。 そう言うアンタは、他人(たにん)を守る(ため)に自分の命を捨てる事が出来(でき)るのか?」

ロナードは淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、(いきどお)っているアルシェラにそう問い掛けると、彼女は困った様な表情を浮かべ、返す言葉を(うしな)ってしまう。

「……(よう)は、そう言う事だ」

返答(へんとう)(きゅう)しているアルシェラを見て、ロナードは淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言うと、彼女は助けを(もと)める様な視線(しせん)をエルトシャンに向ける。

「まあ、自分の所の家臣(かしん)を信じたい君の気持ちは分かるけど、今の(ゆる)みきったオルゲン家の兵士(へいし)たちに、そこまでの事を(のぞ)むのは無理(むり)と言うモノだよ。 ロナードの言う通り、残念(ざんねん)ながら(みな)僕等(ぼくら)を置いてさっさと()げたと考えるのが自然(しぜん)だろうね」

エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、アルシェラに言うと、

「それって、レックスもって事なのぉ?」

エルトシャンの言葉を聞いて、ショックを(かく)せない様子(ようす)のアルシェラは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、彼に問い掛ける。

「レックスねぇ……もう(ころ)されてるか、気絶(きぜつ)して()びてるんじゃない?」

エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、アルシェラにそう答えると、

同感(どうかん)だ。 あの五月蠅(うるさ)いのが静かな理由は、その位しか思いつかないな」

ロナードは、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言った。


 ロナード達の言う通り、御者(ぎょしゃ)(となり)に座っていたレックスは、馬車が急停車(きゅうていしゃ)した(さい)座席(ざせき)から(ころ)げ落ち、その(はず)みに(しばら)くの間、気を(うしな)っていた。

「いってぇ……」

(うつぶ)せになって(たお)れていたレックスは、(うめ)き声を上げながら(かす)か目を開くと、少し(はな)れた所に自分が乗っていた馬車が、数十人の武装(ぶそう)した兵士(へいし)に取り囲まれているのが見えた。

(何か、やべぇカンジだぞ)

御者(ぎょしゃ)(とも)に、馬車の前の座席(ざせき)に居た所為(せい)で、(きゅう)に止まった(はず)みに、(はな)れた(しげ)みの中へ(ころ)がったお(かげ)で、(だれ)もレックスの事には気付いていない様であった。

 きっと馬車の中に居るロナード達は、馬車が(きゅう)に止まり、いきなり外から攻撃(こうげき)を受けているので、パニックになっているに(ちが)いない。

 『助けねば』と思うが、自分一人で数十人を相手(あいて)をする事は(きび)しい……。

 自分の(ほか)に、(だれ)味方(みかた)はいないのかと、(てき)兵士(へいし)に気付かれぬ様、()せた格好(かっこう)のまま、レックスは辺りを見回す。

 自分から少し(はな)れた所に、護衛(ごえい)をしていた兵士(へいし)負傷(ふしょう)し、地面の上に(たお)れているのが見えた。

 生存(せいぞん)している護衛(ごえい)の兵士たちは、数では(かな)わないと思ったのか、武器(ぶき)を捨て、両手(りょうて)を上げ、降伏(こうふく)しているのが見えた。

(マジかよ……)

主君(しゅくん)の娘を守る事を放棄(ほうき)し、(おのれ)保身(ほしん)に走った、オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)兵士(へいし)たちを見て、レックスは深い絶望(ぜつぼう)感を(いだ)いた。

「お前たちは(すで)包囲(ほうい)されている! 大人しく中から出て来い!」

突如(とつじょ)襲撃(しゅうげき)して来た兵士(へいし)たちの中の一人が、馬車の中に居る、ロナードたちに向かってそう(さけ)ぶのが聞こえた。

(確かに、(ふくろ)(ねずみ)だけどよ……)

レックスは心の中で(つぶや)きながら、馬車の方へ注視(ちゅうし)する。

 このまま、ロナード達が相手(あいて)要求(ようきゅう)(おう)じなければ、馬車に火を掛けられ、馬車の中に閉じ込められたまま、丸焼(まるや)きにされる可能性(かのうせい)がある。

 だからと言って、大人しく外へ出て行こうとすれば、(とびら)を開けた瞬間(しゅんかん)射殺(しゃさつ)されるかも知れない。

 そう言う危機的(ききてき)状況(じょうきょう)にも関わらず、オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)兵士(へいし)たちは、(あるじ)の娘たちを助ける様子(ようす)は無さそうだ。

(どうする気だよ?)

レックスは、不安(ふあん)そうな表情を浮かべながら、ロナード達が乗っている馬車の方を見つめる。

 そうこうしている間に、敵兵(てきへい)たちが馬車へ近付き、馬車のドアノブを(つか)み、外から(とびら)を開けて、中に居るロナード達を無理矢理(むりやり)に外へ引き()り出そうとしている。

 その時、ドゴッと言う轟音(ごうおん)と共に、いきなり馬車の扉と共に近くにいた兵士(へいし)たちが、数メートル後ろへ(いきお)い良く()()んだ。

 それには敵兵(てきへい)たちは勿論(もちろん)降伏(こうふく)意志(いし)(しめ)し、遠巻(とおま)きに様子(ようす)を見ていた、オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)兵士(へいし)たちも一様(いちよう)(おどろ)き、戸惑(とまど)う。

 突然(とつぜん)の事に、何が起きたのか理解(りかい)出来ずに、敵兵(てきへい)浮足立(うきあしだ)っている間に、エルトシャン、ロナード、アルシェラの順に馬車の中から飛び出して来て、アルシェラを守りながら、二人は近くにいた敵兵(てきへい)たちを片っ(ぱし)から問答(もんどう)無用(むよう)で次々と(たた)き切っていく……。

(ひる)むな! (はな)て!」

それを少し(はな)れた場所でそれを見た(てき)指揮官(しきかん)が、仲間(なかま)兵士(へいし)たちにそう(さけ)び、片手(かたて)合図(あいず)(おく)ると、遠巻(とおま)きに馬車を取り(かこ)んでいた弓兵(ゆみへい)たちが、一斉(いっせい)にロナード達に向かって弓矢(ゆみや)(はな)った。

 (はな)たれた弓矢(ゆみや)は、雨の様に(たが)いの背を向け合い、一カ所(いっかしょ)に固まっていたロナードたちの頭上(ずじょう)()(そそ)いだ。

 これでは一溜(ひとたま)りも無いだろうと思われたその時、ロナードが(おもむろ)片手(かたて)(かか)げると、自分たちの頭上(ずじょう)を守る様に、半円形(はんえんけい)(えが)く様にして、光沢(こうたく)のある(うす)い緑色の(かべ)の様なモノが現れ、その上に降り注ぐ無数(むすう)の矢が、グラスを指で(はじ)いた時の様な音を立てながら(はじ)き飛ばされ、(むな)しく地面の上に()らばった。

「なっ……」

それを見た(てき)指揮官(しきかん)は、驚愕(きょうがく)の表情を浮かべ、(つぶや)いた。

 (ほか)敵兵(てきへい)やオルゲン侯爵家(こうしゃくけ)兵士(へいし)たちも、一様(いちよう)(おどろ)きと動揺(どうよう)の表情を浮かべ、その場に立ち()くしている。

「ご無事(ぶじ)ですかっ!」

そこへ、先行(せんこう)していたセシアが物凄(ものすご)(いきお)いで馬を走らせつつ、そう(さけ)びながら、自分と一緒(いっしょ)に先行していたオルゲン家の兵士(へいし)たちを引き()れ、(もど)って来た。

「チッ」

それを見た(てき)指揮官(しきかん)が、苦々(にがにが)しい表情を浮かべ、舌打(したう)ちする。

「何をしているの! 早く反撃(はんげき)なさい!」

セシアは、浮足立(うきあしだ)敵兵(てきへい)たちを魔術(まじゅつ)()ぎ倒しながら、ロナード達が敵兵(てきへい)たちに(おそ)われている様を傍観(ぼうかん)していた、オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)兵士(へいし)たちに向かって(さけ)ぶと、彼等(かれら)(あわ)てて、自ら地面の上に投げ捨てた武器(ぶき)を拾った。

 それを見たレックスは(いそ)いで立ち上がり、武器(ぶき)を手にロナード達の下へと()け出した。


「若様」

不意(ふい)頭上(ずじょう)から、(みみ)馴染(なじ)みの若い男の声がしたが、アルシェラとエルトシャンは(おどろ)いて、慌てて頭上(ずじょう)を見上げた。

「若様。 お怪我(けが)御座(ござ)いませんか?」

ロナード達の前に降り立ったサムートは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、ロナードに問い掛ける。

「見ての通りだ」

ロナードは落ち着いた口調(くちょう)で、サムートの問い掛けにそう答える。

「セシアを呼んで来たのは、君?」

エルトシャンは、(するど)()った石の(つぶて)を魔術で()り出し、敵兵(てきへい)たちを次々と倒していくセシアを目で追いながら、サムートに問い掛けると、彼は(うなず)き返し、

「ええ。 若様が乗られている馬車にオルゲン侯爵家(こうしゃくけ)の者では無い、見慣(みな)れぬ不審(ふしん)な兵士たちが接近(せっきん)しているのが空の上から見えましたので、(いそ)ぎ、呼び(もど)しました」

落ち着き払った口調(くちょう)で、そう答えた。

「ナイスな判断(はんだん)だね」

エルトシャンはそう言って、サムートを称賛(しょうさん)すると、彼はこれと言った表情を浮かべず、

恐縮(きょうしゅく)です」

淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言った。

「ざっと見た所、どうにか出来そうな数だが、(ほか)伏兵(ふくへい)は?」

ロナードは、武器(ぶき)を手に自分たちを取り(かこ)敵兵(てきへい)たちを見回し、落ち着き払った口調(くちょう)でサムートに問い掛ける。

(わたし)が空から見下(みお)ろした(かぎ)り、(てき)は、ここに居るので全てと思われます」

サムートは、敵兵(てきへい)たちの動きに注意しつつ、ロナードを背で(かば)う様にしながら、落ち着き払った口調(くちょう)で答えた。

「パッと見、三〇いるかいないかって所だね。 何とかなるんでしょ?」

エルトシャンは、自分たちの前に立ち(ふさ)がる敵兵(てきへい)たちを見回しながら、不敵(ふてき)な笑みを浮かべて、そう言った。

「そうだな」

ロナードは淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言うと、(こし)に下げていた剣を手にする。

「あれ?。 お得意(とくい)魔術(まじゅつ)は使わないの?」

それを見たエルトシャンは、意外(いがい)そうな表情を浮かべ、ロナードに問い掛ける。

「その辺の雑魚(ざこ)蹴散(けち)らせば良いのだろう?」

ロナードは、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言った。

「それはそうだけと、怪我(けが)しないでよ?」

ロナードの発言(はつげん)を聞いて、エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、何処(どこ)小馬鹿(ばか)にした様な口調(くちょう)で彼に言うと、彼はムッとした表情を浮かべる。

「ご心配なく。 (あぶ)ない時は私がお助けしますので」

サムートが自分の胸元(むなもと)片手(かたて)を添え、落ち着き払った口調(くちょう)で、エルトシャンに言った。

「アル。 (ぼく)(そば)から(はな)れないで」

エルトシャンは、背でアルシェラを(かば)いつつ、背中越(せなかご)しに真剣(しんけん)面持(おもも)ちで彼女に言った。

「う、うん」

アルシェラは、不安(ふあん)そうな表情を浮かべつつ、(うなず)き返す。

(かか)れっ!」

(てき)指揮官(しきかん)がそう(さけ)ぶと、ロナード達を取り(かこ)んでいた敵兵(てきへい)たちが、一斉(いっせい)(おそ)い掛かって来た。

(みな)!。 馬車を背にして(たたか)うんだ!」

エルトシャンは、近くにいたロナード達に向かって(さけ)びながら、自分に剣を振り下ろして来た敵兵の攻撃(こうげき)()け、剣で(どう)(ばら)いをして切り倒し、返り()ちにする。

「お見事」

それを見たサムートが、エルトシャンにそう声を掛ける。

「まあね」

エルトシャンは、自慢(じまん)げに片手(かたて)で自分の鼻を(こす)りながらそう言っている後ろで、ロナードが自分に向かって来る敵兵(てきへい)たちを何の躊躇(ちゅうちょ)いも無く、バッサバッサと虫けらの様に、次々と切り倒していっている事に気付いたエルトシャンは、

(何か、(ぼく)よりも仕事をしてる様な……)

心の中でそう(つぶや)くと、苦笑(にがわら)いを浮かべる。

「?」

エルトシャンの視線(しせん)に気付いたアルシェラは、小首を(かし)げつつ後ろを振り返った。

 自分の背後(はいご)無数(むすう)敵兵(てきへい)たちが、苦しそうに(うめ)き声を上げ、地面の上に倒れているので(おどろ)いた。

「ひいいっ!」

「ば、化け物だ」

敵兵たちは、ロナードの大立(おおた)ち回りに、(そろ)って(なさ)けない声を上げ、思わず後退(あとずさ)りしている。

「若様。 やり()ぎです……」

サムートが片手(かたて)を自分の(ひたい)に当て、ゲンナリとした表情を浮かべ、ロナードに向かって(つぶや)いた。

(ぞろ)いに揃ってこの程度(ていど)か。 ルオンの兵士も落ちたものだな」

ロナードは、手にしていた剣を軽く払い、剣に付いて来た血糊(ちのり)を落としながら、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言った。

(人間も魔物(まもの)も、自分に向かって来る(やつ)容赦(ようしゃ)なしかよ)

ロナード達の下へ()()っていたレックスは、ロナードの(つぶや)きを聞いて、心の中でそう(つぶや)いたが、倒れている敵兵(てきへい)(うめ)き声を上げたので、(おどろ)き、(あらた)めて良く見て見ると、敵兵(てきへい)たちは血を流して倒れてはいるが、全員生きている。

(どう言う事だよ?)

レックスは、ロナードが(だれ)一人(ひとり)(ころ)していない事に気付き、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、彼の方を見る。

 ロナードたちの下へ()け付けたレックスが、(おもむろ)彼等(かれら)に声を掛けようとした時、馬に乗ったセシアがやって来て、

(みな)無事(ぶじ)でして?」

真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、ロナード達に問い掛けた。

「どうにかね。 (もど)って来てくれて助かったよ。 セシア」

エルトシャンは、ホッとした表情を浮かべ、彼女に言い返した。

「あとは兵士たちに(まか)せて、私たちは馬で(いそ)ぎ、この場から離脱(りだつ)しましょう。 この辺りは日が沈むと狂暴(きょうぼう)魔物(まもの)が多く出ますわ。 その前に最寄(もよ)りの村か町に着きたいですから」

セシアは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言った。

「おい。 ちょっと待ってよ。 『兵士たちに(まか)せる』って、もし日暮(ひぐ)れまでに近くの村に逃げ込めなかったら、(のこ)った連中(れんちゅう)はヤベェ事になるじゃねぇかよ」

不意(ふい)合流(ごうりゅう)して来たレックスが、そう指摘(してき)すると、彼の声に(おどろ)いて(みな)一斉(いっせい)に振り返った。

「レックス」

無事(ぶじ)だったか」

エルトシャンとロナードは、レックスの姿(すがた)確認(かくにん)するなり、そう(つぶや)いた。

勝手(かって)(ころ)すなっての!」

レックスはムッとした表情を浮かべ、口を(とが)らせ、ロナード達に言い返す。

「そうだとしても、彼等(かれら)はさっきまで(おそ)われてる僕等(ぼくら)見捨(みす)てようとしてたんだよ? そんな連中(れんちゅう)僕等(ぼくら)が気に掛ける必要(ひつよう)は無いでしょ?」

エルトシャンは(あき)れた表情を浮かべ、戸惑(とまど)っているレックスに言い返すと、

「先に見限(みかぎ)ったのはアイツ等だからな。 同じ事をされても文句(もんく)は言えないだろ。 自業自得(じごうじとく)だ」

ロナードも淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、そう続けた。

同感(どうかん)です。 (あるじ)のお身内(みうち)見捨(みす)てるなど、騎士(きし)風上(かざかみ)にも置けません。 彼らは(おのれ)のした事を()じるべきです」

サムートも、(いきどお)りを(かく)せない様子(ようす)で言った。

 三人の言葉を聞いて、レックスは戸惑(とまど)いの表情を浮かべつつ、(おもむろ)にアルシェラの方を見ると、彼女は複雑(ふくざつ)な表情を浮かべている。

「アルの安全(あんぜん)が第一だよ。 ()む終えない」

エルトシャンは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでそう言った。

「エルトシャン様の言う通りだわ。 それとも、主君(しゅくん)の娘を見捨てようとした薄情(はくじょう)な兵士たちと(とも)に、魔物(まもの)(おび)えながら野宿(のじゅく)をしろと?。」

セシアは淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、レックスに問い掛けると、

「そんなの絶対(ぜったい)(いや)よぉ!」

レックスの代わりに、アルシェラが思い切り(いや)そうな顔をして、力一杯(ちからいっぱい)にそう言い放った。

「ならば決まりね。 (いそ)いで離脱(りだつ)するわよ」

アルシェラの発言(はつげん)を聞いたセシアが、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)でロナード達に言うと、戸惑(とまど)っているレックスを余所(よそ)に、(ほか)面々(めんめん)(うなず)き返した。

「セシア。 ここから最寄(もよ)りの村か町へは、どの位掛(くらいかか)る?」

ロナードは、何やら思慮(しりょ)している様子(ようす)で、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでセシアに問い掛けると、

「馬の(あし)で三時間……と言った所ですわね」

彼女は冷静(れいせい)にそう答えると、ロナードは思い切り眉間(みけん)(しわ)を寄せ、片手(かたて)を自分の口元(くちもと)()えながら、(さら)に何か考えている様子(ようす)で、

「その次は?」

続けて、セシアに問い掛けた。

(さら)に一時間半……いいえ、二時間は掛るとみるべきね」

セシアは、チラリとアルシェラを見てから、そう答えた。

(今から五時間……。 全力(ぜんりょく)で馬を走らせれば、日暮(ひぐ)れまでには何とか間に合うか……)

ロナードは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、心の中で(つぶや)いてから、

「二番目に近い村か町へ行こう。 最寄(もよ)りの集落(しゅうらく)には(おそ)らく、襲撃(しゅうげき)を受けて(おれ)たちが逃げ込んで来る事を想定(そうてい)して、兵士を配置(はいち)している可能性(かのうせい)がある」

(おもむろ)に顔を上げ、セシアたちにそう提案(ていあん)した。

「確かに。 (ぼく)なら、しくじった事を想定(そうてい)して、近くの集落(しゅうらく)に兵士を配置(はいち)するよ」

エルトシャンは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、自分の考えを()べると、

「んな事言ったら、その次の町にだって兵士を置いてるかも知れねェじゃねぇか」

レックスが不満(ふまん)そうな表情を浮かべつつ、そう言い返すと、

「そんな事言い出したらキリが無いでしょ?。 少なくとも、ここから一番近い集落(しゅうらく)よりは、配置(はいち)されている兵士の数は少ないだろうし、相手もそんなに警戒(けいかい)していないと思うよ。 まあ、絶対(ぜったい)とは言えないけど、でも『(ねん)(ため)』的な要素(ようそ)が強いと(ぼく)は思うから、ロナードの意見に賛成(さんせい)するよ」

エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、レックスに言い返した。

「確かに……」

セシアは、自分の(あご)の下に手を()え、神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで(つぶや)く。

「けどよ、次の村までとなると、日没(にちぼつ)に間に合うか?」

レックスは不安(ふあん)そうな表情を浮かべつつ、そう指摘(してき)する。

全力(ぜんりょく)で馬を走らせる(ほか)ないだろ。」

ロナードは淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言うと、アルシェラは物凄(ものすご)(いや)そうな表情を浮かべ、

「え~っ。 そんな無茶振(むちゃぶ)()めてよぉ。お(しり)(いた)くなっちゃう」

口を尖らせ、不満(ふまん)を口にする。

「そのくらい我慢(がまん)しなよ。 少しでも、安心してベッドの上で()られる方が良いでしょ?」

エルトシャンは、彼女の我儘(わがまま)に困った様な表情を浮かべつつ、そう言って彼女を説得する。

「それは、そうだけどぉ……」

アルシェラは、不満(ふまん)そうな表情を浮かべつつ(つぶや)くと、それ以上は何も言わなかった。

殿(しんがり)(わたくし)(つと)めますわ。 レックス。 貴方(あなた)は先頭を行って頂戴(ちょうだい)

セシアは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでレックスに言うと、

「おう。 (まか)せろ」

レックスは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで(うなず)き返し、そう言ったが、

「いや、ちょっと待って。 二手に分かれた方が良いよ」

エルトシャンは不意(ふい)に、その様な提案(ていあん)をしたので、(みな)戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、彼の方を見る。

「えっ……。 けどよ、それじゃ万が一、(てき)(かこ)まれたら一溜(ひとたま)りもねぇだろ?」

レックスは戸惑(とまど)いの表情を浮かべつつ、エルトシャンに言い返すと、

「その辺はパワーバランスを考えて、(ぼく)はロナードはサムートと一緒(いっしょ)に行くから、二人はアルシェラを守ってよ」

エルトシャンは、戸惑(とまど)うレックスに言うと、ニッコリと笑みを浮かべる。

全然(ぜんぜん)パワーバランス、取れて無くね?」

レックスは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべて言い返すが、

「はい。 じゃあ決まり」

エルトシャンはニッコリと笑みを浮かべ、そう()し切ってしまったので、(ほか)の者たちは(あせ)る。

「って訳だから、君たちが先に行ってよ。 (ぼく)たちは後から、君たちの後ろを追跡(ついせき)する、害虫(がいちゅう)蹴散(けち)らしてあげるから」

周囲(しゅうい)反応(はんのう)などお(かま)いなしに、エルトシャンはそう続ける。

「わ、分かったぜ……」

レックスは、エルトシャの意図(いと)理解(りかい)出来ないままであったが、ここで()める場合では無いは思い、彼の意見(いけん)(したが)う事にした。

 何より、ロナードが何も言わないと言うのが気に掛る……。

「ねぇ、後ろを三人に(まか)せて、良かったの?」

エルトシャンの提案(ていあん)(だま)って(したが)うセシアに、アルシェラが思わず問い掛ける。

「エルトシャン様は何かお考えがあるのでしょう。 そうで無ければ、この様な無茶振(むちゃぶ)りはしてこないと思いますわ」

セシアは、心配そうな顔をしているアルシェラに言い返した。

貴女(あなた)がそう言うのなら……」

アルシェラは、エルトシャンの提案(ていあん)不安(ふあん)(いだ)いている様ではあったが、セシアの意見に(したが)う事にした。


貴方(あなた)も、人が悪いですね」

先に馬に乗り、現場(げんば)から離脱(りだつ)したアルシェラ達を見送(みおく)りながら、サムートはボソリと、エルトシャンに言った。

「何のこと?」

エルトシャンは(わざ)とらしく(とぼ)けた表情を浮かべて、サムートに言い返す。

(おれ)たちが、アルシェラ達を追跡(ついせき)する連中(れんちゅう)蹴散(けち)らした後、別ルートから先回りして、待ち()せている(てき)始末(しまつ)していけば良い……そう言う事だろう?」

ロナードは、淡々(たんたん)とし口調(くちょう)でそう言いながら、アルシェラ達が使わなかった、道幅(みちはば)(せま)く、足元(あしもと)も良くない谷の上を通る道の方へと目を向ける。 

「分かってるじゃない。でもそれをアル達に言ったら、『危険(きけん)だ』と止められるだろうと思って、(ぼく)は言わなかったんだよ。 それは君も同じでしょ?」

エルトシャンはニッコリと笑みを浮かべ、ロナードに言った。

(コイツは……本当に()け目が無いな……)

ロナードは、ヘラヘラと笑って居るエルトシャンを見ながら、心の中で(つぶや)いた。

「でも(ぼく)たちが思ってる(ほど)簡単(かんたん)じゃあ無さそうだけどね……。 本気で馬で行く気なの?」

エルトシャンは、自分たちが進もうとしている、谷の上にある道の方へと目を向けながら、ロナードに言った。

(わたし)が居れば、どの様な悪路(あくろ)も関係ないでしょう」

サムートはニッコリと笑みを浮かべ、エルトシャンに言うと、彼は戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、

「君が、(ぼく)たち二人を(かか)えて飛ぶって事?」

「ええまあ、()た様な事です」

サムートは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、エルトシャンに言い返すと、

大丈夫(だいじょうぶ)なの? それ」

彼は、物凄(ものすご)不安(ふあん)に満ちた表情を浮かべ、サムートにそう問い掛ける。

「ご心配なく。 正確(せいかく)には(わたし)巨大(きょだい)(からす)変化(へんげ)して、お二人を背中(せなか)に乗せるので」

サムートはニッコリと笑みを浮かべ、落ち着き払った口調(くちょう)で言うと、

(すご)いね。 それ!」

話を聞いたエルトシャンは、小さな子供の様に目を(かがや)かせ、興奮(こうふん)した様子(ようす)で言った。

「高いのは、大丈夫(だいじょうぶ)なのか?」

ロナードは、心配そうにエルトシャンに問い掛けると、

(ぼく)見縊(みくび)らないで()しいね。 これでも小さい(ころ)は、(りゅう)騎士(きし)になる(ため)飛竜(ひりゅう)に乗って訓練(くんれん)してたんだから」

彼は両手(りょうて)を自分の(こし)()え、胸を()らし、不敵(ふてき)な笑みを浮かべ、ちょっと自慢(じまん)気にロナードに言い返した。

「……ならば問題ないな」

ロナードは、これと言った表情を浮かべず、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言った。

(何だよ。 もう少し『(すご)いな』とか、言ってくれたって良いのに……)

ロナードの反応(はんのう)が思いの外薄(ほかうす)かったので、エルトシャンは不満(ふまん)そうな表情を浮かべ、心の中で(つぶや)いた。

「そう言っている(はし)から、追っ手ですよ」

サムートは徐に、追跡(ついせき)して来た敵兵(てきへい)を見ながら、落ち着いた口調(くちょう)でロナードたちに告げる。


 ロナード達は、先に現場(げんば)から離脱(りだつ)したアルシェラたちの後を追っていた敵兵(てきへい)たちを一頻り蹴散(けち)らしてから、予定(よてい)通り、谷底(たにそこ)の馬車などが通れる様に整備(せいび)された道では無く、道幅(みちはば)(せま)く、足場の悪い、谷の上を行く道へ、巨大(きょだい)な烏に変化(へんげ)したサムートの背に乗り移動(いどう)した。

「思った通り、待ち()せてるね」

崖沿(がけぞ)いの悪路(あくろ)岩陰(いわかげ)(かく)れ、アルシェラ達が谷底(たにぞこ)の道を来るのを待ち()せている敵兵(てきへい)たちを、上空から見付けると、エルトシャンは(つぶや)いた。

蹴散(けち)らすぞ」

ロナードはエルトシャンに言うと、敵兵(てきへい)に気付かれぬ様、少し(はな)れた場所で結構(けっこう)な高さから、何の躊躇(ちゅうちょ)もなく、サムートの背中(せなか)の上から飛び降りた。

「えっ。 あ、ちょっ……」

それを見てエルトシャンは(あせ)り、そう言いながら(あわ)てて、思い切り飛び降りたロナードの方を見下(みお)ろすが、彼は(ねこ)の様に全く(あぶ)な気なく地面の上に着地する。

(まった)く……。 この高さから飛び降りようって言う神経(しんけい)もだけど、軽く着地(ちゃくち)しちゃう運動能力(うんどうのうりょく)もどうかしてるよ)

その様子(ようす)を見たエルトシャンは、(あき)れた表情を浮かべながら心の中で(つぶや)くと、(あぶ)なくない高さまで降りたサムートの背中(せなか)から飛び降り、先に降りたロナードの下へと()け寄る。

 そして二人は、相手が自分たちに気付いていいない(すき)に、思い切り背後(はいご)から切り掛り、(あわ)てふためく相手を崖下(がけした)()り落とした。

 敵兵(てきへい)たちは情けない声を上げ、(そろ)って崖下(がけした)へと落ち、地面に体を強く(たた)き付け、絶命(ぜつめい)した。

 不意(ふい)に、絶命(ぜつめい)した兵士を(しず)かに見下ろしていたロナードの脳裏(のうり)に、“人殺(ひとごろ)し”と(さけ)ぶ、少女の声が(ひび)いたので、彼はハッとする。

(何をしているんだ。 (おれ)は……)

ロナードは、沈痛(ちんつう)な表情を浮かべ、心の中で呟いた。

“パパを……パパを返してよ!”

ロナードの脳裏(のうり)に、悲痛(ひつう)()ちた少女の声と(とも)に、雪が降り積もった地面の上に(おびただ)しい血を流し、力なく倒れている男の(そば)両膝(りょうひざ)を付き、少女が(いか)りに身を(ふる)わせ、(にく)しみに満ちた目で彼を(にら)んでいる光景(こうけい)(よみがえ)る……。

 もう無暗(むやみ)に人を(ころ)さないと、心に決めたのに……。

(これで何人目だ? あれだけ(なや)み苦しんだのに、(おれ)は何も……変わって無いじゃないか……)

ロナードは、悲痛(ひつう)な表情を浮かべ、心の中でそう(つぶや)くと、ギュッと(くちびる)()み、剣を持っていない左手を強く握り()める。

「若様?」

ロナードが、崖下(がけした)に落ちた敵兵(てきへい)見下(みお)ろしたまま、物凄(ものすご)く思い()めた表情を浮かべている事に気付いたサムートは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、おずおずと彼に声を掛ける。

「顔色が悪いよ。 大丈夫(だいじょうぶ)?」

エルトシャンも、ロナードの様子が可笑(おか)しい事に気付き、心配そうに声を掛ける。

「えっ……。 あ、ああ……」

二人に声を掛けられ、ロナードはハッとして、とっさにそう返事を返した。

「……確かに、自分たちにとって(てき)でも、人を(あや)める事は良い気分がしないよね……」

エルトシャンは、ロナードの胸中(きょうちゅう)(さっ)し、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべそう言うと、ロナードはとても複雑(ふくざつ)な表情を浮かべる。

「若様……」

ロナードが、傭兵(ようへい)生業(なりわい)としていた(ころ)、自分が生きる(ため)他者(たしゃ)(だま)し、命を(うば)う事に対し、強い(つみ)意識(いしき)(さいな)まれ、やがて心が()んで自殺(じさつ)未遂(みすい)をし、その後も普通(ふつう)に生活出来る様になるまで、半年以上の時間を(よう)した事を知っているサムートは、とても複雑(ふくざつ)な表情を浮かべる。

(ぼく)は、自己満足(じこまんぞく)(ため)にしている事だから。 でも君が、僕の我儘(わがまま)に付き合う必要は無いよ」

(やさ)しい口調(くちょう)で言ったので、ロナードは予想(よそう)外の言葉に(おどろ)き、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、彼を見る。

「試験の時、アル達を助ける(ため)に受験者を(ころ)してしまった時も、君は随分(ずいぶん)と自分を()めていたからね。 本当は人を(ころ)す様な事はしたくはないんだろうって言うのは何となく、気付いていたよ」

エルトシャンは、落ち着いた口調(くちょう)でロナードにそう指摘(してき)すると、彼は、とてもバツの悪そうな表情を浮かべ、(うつむ)いた。

「そう思うのは、人としてとても普通(ふつう)な事だと思うよ。 人の命を取って置いて、何とも思わない人の方が可笑(おか)しいからね」

エルトシャンは、(おだ)やかな口調(くちょう)でロナードに言うと、ニッコリと笑みを浮かべる。

 そして、話題(わだい)を変える(ため)、アルシェラ達を待ち(かま)えていた敵兵(てきへい)を見下ろしながら、

「なかなか、用意周到(よういしゅうとう)だね」

苦笑(にがわら)()じりに、エルトシャンは言った。

「話には聞いていたが、本当に宰相(さいしょう)と関係が悪いんだな」

ロナードも、絶命(ぜつめい)して動かなくなった、崖下(がけした)(ころ)がっている敵兵(てきへい)たちを見下(みお)ろしながら、淡々(たんたん)とし口調(くちょう)で言った。

宰相(さいしょう)は、次期(じき)ルオン国王の座を狙っているって(もっぱ)らの(うわさ)だからね。自分が王位に()くには、カタリナ殿下(でんか)と、その腹心(ふくしん)伯父上(おじうえ)邪魔(じゃま)仕方(しかた)が無いんだよ」

エルトシャンは『やれやれ』と言った様子で、肩を(すく)めながらロナードにそう説明する。

「王女も、大人しく(だれ)かに、王位を(ゆず)る様なタマでは無い様だしな……」

ロナードは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら言い返すと、

「そうだね。 伯父上(おじうえ)宰相(さいしょう)は、そこまで関係が悪かった訳じゃないんだけど……。 殿下(でんか)宰相(さいしょう)の事を昔から毛嫌(けぎら)いしているらしいんだ。 だから……ね」

エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべたまま、自分の見解(けんかい)を語った。

「水と油……ですね」

エルトシャンの話を聞いて、サムートは淡々(たんたん)とし口調(くちょう)で言うと、

「まあ、そんな所だよ。 伯父上(おじうえ)に関わるのだから、君も気を付けた方が良いよ」

エルトシャンはそう言って、ロナードに注意を(うなが)すが、

(おい)のアンタの方こそ、気を付けなくてはならないんじゃないのか?」

ロナードは、思い切り眉間(みけん)(しわ)を寄せながら、エルトシャンに言い返した。

「僕は……。 まあ、何て言うか……。 僕は軍人(ぐんじん)だし、所詮(しょせん)(おい)だからね。 それにアルシェラの方が(つか)まえた後も(ぎょ)(やす)いし、伯父上(おじうえ)への精神的(せいしんてき)なダメージも大きいだろうからって言う考えが、向こうにあるから、あまり(ねら)われた事は無いよ」

エルトシャンは時折(ときおり)歯切(はぎ)れ悪く、苦笑(にがわら)いを浮かべて誤魔化(ごまか)しながら、ロナードにそう説明する。

「確かに。 アンタよりもアルシェラの方が、色んな意味でチョロそうだ」

ロナードは、かなり言いにくい事をズバッと言ったので、それを聞いたエルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべる。

「若様……。 その発言(はつげん)は、あんまりかと思いますが……」

サムートは、ゲンナリとした表情を浮かべつつ、ロナードに言うが、彼は無視(むし)を決め込む。

「そう言う事だから、(ぼく)従兄(いとこ)として、何時(いつ)もこんな風にアルシェラに(たか)五月蠅(うるさ)いハエを追い払う係りって訳だよ。 彼女に何かあると此方(こちら)にも被害(ひがい)(およ)ぶからね」

苦笑(にがわら)いを浮かべながら、ロナード達に向かって、エルトシャンは言った。

「大変だな」

ロナードは、本当に他人事(たにんごと)の様に、エルトシャンに言うと、

「まあ、伯父上(おじうえ)ほどではないけどね」

彼は、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言うと、自分の剣を(さや)(おさ)めた。

「オルゲン将軍は見るからに、気苦労(きぐろう)()えない様ですからね」

サムートは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、そう言うと、

「そうだね。 騎士(きし)なんて名ばかりの給料(きゅうりょう)泥棒(どろぼう)の集まりたいな家臣(かしん)に、平和ボケした王宮(おうきゅう)の騎士たちを(まと)めなきゃならないし、宰相(さいしょう)一派(いっぱ)の動きには注意しなきゃだし……。 娘は『あんなの』だし」

エルトシャンは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言った。


「また、こんな所に人が倒れてるぜ……」

レックスは、前方(ぜんぽう)に人が倒れている事に気付き、それを指差(ゆびさ)しながら言った。

「また、ベオルフ宰相(さいしょう)の所の兵士ね……」

セシアは、倒れている兵士(へいし)(よろい)(きざ)まれていた、帆船(はんせん)を背にした人魚(にんぎょ)家紋(かもん)を見て、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)(つぶや)く。

「何がどうなってるのぉ?」

アルシェラは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべつつ、セシアに問い掛ける。

 セシアは、倒れている兵士の体を注意深(ちゅういぶか)観察(かんさつ)しつつ、兵士の背中(せなか)切傷(きりきず)を見て、

「こちらも、背中(せなか)からバッサリと切り付けられているわ」

神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで言った。

「何か知らないけどぉ。 このアタシを(おそ)う様な真似(まね)をするからぁ、天罰(てんばつ)が下ったのよぉ。 きっと。 いい気味(ぎみ)ぃ」

物凄(ものすご)能天気(のうてんき)なアルシェラは、ヘラヘラと笑いながら言った。

(ぜってぇ、ちげーだろ)

レックスは(あき)れた表情を浮かべつつ、心の中でそう(つぶや)くと、(おもむろ)にチラリとセシアの方へと目を向けると、彼女は無言で(うなず)き返した。

「どうやらエルトシャン様たちが、別ルートで先回(さきまわ)りをし、待ち()せていた(てき)始末(しまつ)してくれている様ですわね」

レックスが勘付(かんづ)いた事をセシアが、落ち着き払った口調(くちょう)で言うと、

「どーやって? エルト達はアタシ達の後から来ていて、追っ手をやっつけてる(はず)でしょ?」

アルシェラは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべつつ、セシアにそう問い掛ける。

(おそ)らく、サムートに(たの)んで巨大(きょだい)(からす)変化(へんげ)させ、二人はその背に乗って、空から移動(いどう)しているのでしょう。 そうで無ければ、こんなに早く私たちを追い抜き、先々(さきざき)(てき)始末(しまつ)する事など(むずか)しいですもの」

セシアは、落ち着き払った口調(くちょう)で、アルシェラにそう説明する。

「アイツ等、始めからそのつもりで、二手に分かれる事を提案(ていあん)したのか……」

レックスは、二人のとっさの判断(はんだん)力に感心(かんしん)(つぶや)いた。

流石(さすが)はエルトね」

アルシェラは、そう言って素直(すなお)に、エルトシャンの判断(はんだん)力を称賛(しょうさん)すると、

「確かに提案(ていあん)者はエルトシャン様かも知れないですけれど、サムートが居なければ、こうも上手くはいかなかった(はず)だわ」

セシアは、落ち着き払った口調(くちょう)で、そう指摘(してき)すると、

「やっぱり、持つべきモノは優秀(ゆうしゅう)家臣(かしん)よねぇ……」

と、シミジミとした口調(くちょう)で言った。

(いくら家臣(かしん)優秀(ゆうしゅう)でも、(つか)える主君(しゅくん)馬鹿(ばか)だと、その力を十分に発揮(はっき)する事が出来ないと分かっていて、言っているのかしら?)

セシアは、アルシェラの方へ目を向けたまま、(あき)れた表情を浮かべつつ、心の中でそう(つぶや)いた。


 ()がすっかり(かたむ)き、(あかね)(いろ)から空が薄暗(うすぐら)くなって来た(ころ)、アルシェラ達は何とか予定(よてい)通り、最寄(もよ)りの村では無く、その次にある少し大きな町に到着(とうちゃく)した。

「もー最悪(さいあく)ぅ。 お(しり)(こし)がいたぁ~い。」

アルシェラは、レックスに手を貸してもらいながら、ゆっくりと馬の背から降りると、うーんと背伸(せの)びをしながら、そうぼやいた。

「お(つか)れ様」

セシアは、(おだ)やかな口調(くちょう)でアルシェラに言っていたが、前方から人が近付いて来る気配(けはい)を感じると、セシアとレックスは、表情を(けわ)しくし、武器(ぶき)()に手を掛けながら振り返る。

「お待ち下さい。 (わたし)です。 サムートです」

二人の反応(はんのう)に、サムートは両手(りょうて)を上げながら、(あわ)てた様子(ようす)で言った。

「何だよ」

(おどろ)かさないで」

辺りが薄暗(うすぐら)くなり、遠目(とおめ)では顔の確認(かくにん)(むず)しくなってきたので、彼の言葉に拍子(びょうし)抜けし、レックスとセシアは(つぶや)くと、サムートは苦笑(にがわら)いを浮かべてから、

「お待ちしておりました。 宿(やど)手配(てはい)しておりますので、そちらへ案内致します」

一息置(ひといきお)いてから、落ち着き払った口調(くちょう)で、アルシェラ達に向かって言った。

「その様な気まで(つか)わせて、悪かったわね」

セシアは(もう)し訳なさそうに、サムートに言った。

「いいえ。 お二人がお(つか)れの様子(ようす)でしたので、(わたし)独断(どくだん)宿(やど)を取らせてもらいました」

サムートは苦笑いを浮かべながら、セシアに簡潔(かんけつ)に宿を取った理由を説明した。

「な~にぃ。 アタシよりも先に二人は休んでるのぉ? 有り得ないしぃ……」

話を聞いて居たアルシェラは、不満(ふまん)そうな表情を浮かべサムートに言うと、彼は物凄(ものすご)く困った様な表情を浮かべる。

我々(われわれ)(ため)に、(ひそ)んで居た敵兵(てきへい)をやっつけてくれていたのですから、(つか)れて当然(とうぜん)ですわ」

セシアは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、アルシェラに言うと、

「そんな事くらいで(つか)れないでよぉ。 (そろ)いに揃って情けないわねぇ。 フツー、か弱いアタシが休むのが先でしょ?」

彼女は軽く溜息(ためいき)を付いてそう言うと、(えら)そうに言った。

相変(あいか)わらずの物言(ものい)いね。 (まわ)りを(いたわ)わる心を持ち合わせていないのかしら)

アルシェラの物言(ものい)いに、セシアは(あき)れた表情を浮かべ、心の中で毒づいた。

(何なんだ。 この人は。 自分を守る(ため)奮闘(ふんとう)した二人に対して、感謝(かんしゃ)の一つも出来ないのか?)

アルシェラの、物凄(ものすご)く上から目線な台詞(せりふ)を聞いて、サムートは戸惑(とまど)いの表情を浮かべつつ、心の中で(つぶや)いた。

 どうやらアルシェラは、自分の父親が王女の腹心(ふくしん)である(ため)、自分も父親と同じくらい(えら)いと勘違(かんちが)いしてしまっているようで、周りに守られ、(つく)される事が当たり前だと思っている様だ。

 サムートに案内され、一階は酒場(さかば)、二階は宿屋になっている建物(たてもの)到着(とうちゃく)し、一番奥の部屋の前に来た。

「アルシェラ様たちが、到着(とうちゃく)なさいました」

サムートは部屋に入る前に一言、中に居るロナード達に向かってそう声を掛けてから、ゆっくりと部屋の(とびら)を開いた。

「ああ。 来たね」

エルトシャンは、サムート達が部屋に入って来るのを見ながら、彼等(かれら)にそう声を掛けると、ソファーに座ったまま、背凭(せもた)れに(もた)れ掛かる様な格好(かっこう)で、(かす)かに寝息(ねいき)を立てて、(ねむ)ってしまっているロナードに毛布(もうふ)を掛ける。

(おそ)くなりましたわ」

最後に部屋に入ったセシアは扉を閉めながら、エルトシャンに向かって言った。

()みません。 エルトシャン様。 お気を(つか)って(いた)いて……」

サムートは恐縮(きょうしゅく)した様子で、(ねむ)ってしまったロナードに毛布(もうふ)を掛けたエルトシャンに言った。

「んもう! マジで()てるぅ! 信じらんない!」

アルシェラは、自分の到着(とうちゃく)も待たずに、(ねむ)ってしまったロナードに対して(はら)を立て、口を(とが)らせて言った。

「さっきまて頑張(がんば)って起きてたんだけど、流石(さすが)に術師の彼には、ハードな事だったみたいだね」

エルトシャンは、すっかり寝入(ねい)ってしまっているロナードを見ながら、苦笑(にがわら)()じりに言った。

「お二人とも、お怪我(けが)などはなくって?」

セシアは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、エルトシャンに問い掛ける。

(ほとん)不意(ふい)打ちばかりだったからね。 大丈夫(だいじょうぶ)だよ」

エルトシャンは(おだ)やかな口調(くちょう)で、セシアの問い掛けにそう答えた。

(わたくし)の気が回らなかったばかりに、お二人には面倒(めんどう)役回(やくまわ)りをさせてしまい、大変申し訳ございませんでしたわ」

セシアは申し訳なさそうに、エルトシャンに言うと、

「気にしないで。(ぼく)も正直、ここまで上手(うま)くいくとは思ってなかったから」

彼は苦笑(にがわら)いを浮かべながら、セシアに言ってから、

上手(うま)くいったのは、ロナードとサムートのお(かげ)だよ。 僕一人(ぼくひとり)じゃあ、こんなに手際(てぎわ)良くは出来ないからね。 流石(さすが)だよ」

サムートとロナードへ目を向けながら、そう付け加えた。

「お役に立てて、何よりです」

サムートは恐縮(きょうしゅく)した様子で、エルトシャンに言い返した。

(さいわ)い、この町には兵士は配置(はいち)されて無い様ですけれど、油断(ゆだん)禁物(きんもつ)ですわね」

両腕(りょううで)(むね)の前に組み、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでセシアは言った。

「そうだね。 相手(あいて)(ぼく)たちの事を(さが)しているに(ちが)いないから、不要(ふよう)な外出は()けるべきだね」

エルトシャンも真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言うと、

「え――っ。 折角(せっかく)退屈(たいくつ)な森から(はな)れたのにぃ」

アルシェラは、物凄(ものすご)不満(ふまん)そうな表情を浮かべ、そうぼやいた。

「ご自分の置かれている状況(じょうきょう)を分かっていて、その様な事を(おっしゃ)っているのかしら? (ねら)われているのは(ほか)でもない、貴女(あなた)なのよ?」

セシアは(あき)れた表情を浮かべてから、強い口調(くちょう)で、危機感(ききかん)の無さそうなアルシェラにそう言った。

「分かってるわよぉ。 でも、ご飯を食べるにはちょっと早いしぃ、ご飯を食べたらぁ、()ちゃうって言うのも、何だかつまらないじゃない?」

アルシェラは、ムッとした表情を浮かべつつ、セシアに言い返すと、彼女は深々(ふかぶか)溜息(ためいき)を付き、

「さっきまで、『お尻が痛ぁ~い』と、(おっしゃ)っていたのは何方(どなた)でして?」

片手(かたて)(ひたい)()え、ゲンナリとした表情を浮かべ、アルシェラに言った。

「って言うか、君はそう言う元気があるんだろうけど、(ぼく)は早くご飯を食べて、早く(ねむ)りたいよ」

エルトシャンは、ゲンナリした表情を浮かべて、我儘(わがまま)ばかり言うアルシェラにそう言うと、足を投げ出す様にし、ソファーの上で(ねむ)っているロナードの(となり)(おもむろ)に座ると、(いきお)い良く彼が座ったので、ソファーのクッションが思い切り(はず)んだので、ロナードは(おどろ)いて目を開けた。

「あ、御免(ごめん)

エルトシャンはとっさに、目を覚ましてしまったロナードに、そう言って(あやま)ると、彼はボンヤリした様な表情を浮かべ彼を見てから、何も言わずソファーの背に(もた)れ掛かり、また眠ってしまった。

「……相当(そうとう)(つか)れてんな。 コイツ」

ロナードの様子を見て、レックスは苦笑(にがわら)いを浮かべながら呟いた。

「試験の(つか)れもあるでしょうが、それ以上に()れない土地で、良く知らぬ方々(かたがた)行動(こうどう)を共にする事は、(わたくし)達が思っていた以上に、ロナード様に神経(しんけい)を使わせていたのかも知れませんわね」

セシアは、落ち着き払った口調(くちょう)で言った。

(だれ)かと(ちが)って、繊細(せんさい)そうだもんね」

エルトシャンは、チラリとアルシェラの方を見てから、意地(いじ)の悪い笑みを浮かべながら言うと、

「何で、アタシを見て言ってんのよぉ! マジむかつく!」

彼女はムッとした表情を浮かべ、エルトシャンに言うと、彼は笑って誤魔化(ごまか)した。

王都(おうと)までは、あと二日の道のりですが、一本道ですので今日の様に待ち伏せされている可能性(かのうせい)は十分に考えられますわ。 用心(ようじん)しながら進みましょう。」

セシアが、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで仲間(なかま)たちに向かって言うと、彼等(かれら)一様(いちよう)真剣(しんけん)面持(おもも)ちで(うなず)き返した。


 翌日(よくじつ)の朝、ロナードは(しばら)くの間、ベッドの中で何度か寝返(ねがえ)りを打った後、まだ寝惚(ねぼ)けつつも、ゆっくりと身を起こした。

「あ、おはよう」

不意(ふい)に、聞き()れない若い男の声がしたので、ロナードは(おどろ)いて、声がした方へと振り返った。

「えっ。 なに? 寝惚(ねぼ)けてるの? 君」

ロナードの反応(はんのう)を見て、(となり)のベッドの上に座り、自分の武器(ぶき)の手入れをしていたエルトシャンが、可笑(おか)しそうにクスクスと笑いながら言った。

「ロナード様。 顔を洗って来ては如何(いか)です?」

その様子(ようす)を見たセシアは、(あき)れた表情を浮かべつつ、ベッドの上に座ったまま、ぼーとして居るロナードに言うと、持っていたタオルを彼に投げ(わた)した。

 ロナードは、ボンヤリとセシアから(わた)されたタオルを(しばら)くの間見ていたが、その内、睡魔(すいま)見舞(みま)われ、コロンとベッドの上に身を横たえてしまった。

()ないで下さいな!」

それを見て、セシアは強い口調(くちょう)で、二度(にど)()しようとしているロナードに向かって(さけ)ぶと、その様子(ようす)を見て、エルトシャンはクスクスと笑ってから、

 「まだ、(ねむ)り足りないみたいだね。」

可笑(おか)しそうに、セシアに向かって言った。

「ロナード様、起きて下さい!」

セシアはロナードの(そば)へ歩み寄ると、彼の肩を(つか)み、そう言いながら彼の体を()らす。

(ねむ)らせてやれよ」

ロナードの二度(にど)()阻止(そし)しようとしているセシアに向かって、レックスは(あき)れた表情を浮かべ、そう言った。

「そう言う訳にもいきませんわ。 うかうかしていると、敵兵(てきへい)が私たちの居場所(いばしょ)()き止めるかも知れませんわ」

セシアは真剣(しんけん)な表情を浮かべ、生真面目(きまじめ)にレックスに言い返した

「その時は、その時だよ」

エルシャンは、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、何とかして、ロナードの目を覚まさせようとしているセシアに言った。

 そこへ、外の様子(ようす)を見に行っていたサムートが、部屋に戻って来て、

(みな)さん、そろそろ朝食にしましょう。 外には追っ手らしき者はいませんでしたが、念の為、何時(いつ)でも動ける様にしていた方が良いでしょう」

穏やかな口調(くちょう)で、部屋にいる仲間(なかま)たちに向かって言うと、

「ねぇ。 ロナード様が起きないのよ。 どうにかならなくて?」

セシアは、困り()てた様子(ようす)で、サムートにそう問い掛けると、

「若様は昔から、朝は弱いですからね……」

彼は、苦笑(にがわら)いを浮かべながら言った。

「そうか? 試験の時は普通(ふつう)に起きてたけどな」

レックスは、自分と行動(こうどう)を共にしていた時の事を思い出しながら、サムートに言い返すと、

「それは、気を張っていたからでしょう」

彼は、苦笑(にがわら)いを浮かべたまま、レックスに言ってから、部屋の中を見渡(みわた)し、アルシェラの姿が無い事に気付くと、

「おや。 アルシェラ様は、如何(いか)なさいました?」

「……()こして来るわ。 あなた方はロナード様を起こして、先に下の食堂(しょくどう)へ行って下さい」

セシアは『はあ』と溜息(ためいき)を付いてから、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)でサムートに言うと、部屋から出て行った。

「やれやれ……。 無理(むり)に起こすと機嫌(きげん)が悪いのですが……」

サムートは、目の前のベッドの上で小さな寝息(ねいき)を立て、(ねむ)ってしまっているロナードを見ながらそう(つぶや)くと、特大の溜息(ためいき)を付いた。


「あー。 マジ(つか)れた……」

レックスは言うと、椅子(いす)()(もた)れに身を(もた)れ掛ける。

「お(つか)れ」

そう言いながら、メイが声を掛けて来ると、テーブルを挟んで向かいの席に(こし)を下ろした。

 オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)の兵士と使用人(しようにん)たちが利用(りよう)する食堂(しょくどう)には、夕食を取る為に、多くの兵士たちが集まり、思い思いの席に座り、夕食の時間を楽しんでいる。

 先程(さきほど)戻って来て、騎士団の自室に荷物(にもつ)を置いたレックスは、一息つこうと食堂(しょくどう)に来ていた。

「おう。 (ひさ)しぶり」

レックスは片手(かたて)()げ、一週間以上顔を合わせていなかったメイの顔を見て、何処(どこ)かホッとした様な表情を浮かべつつ、そう返事を返した。

「試験、ど~だった?」

メイは、何時(いつ)もの調子(ちょうし)でニコニコと笑いながら、レックスに問い掛けると、彼は物凄(ものすご)重々(おもおも)しい溜息(ためいき)を付くと、

「マジ地獄(じごく)だった……。 何回死ぬかと思ったか分かんねぇ」

ゲンナリとした表情を浮かべ言い返した。

「そ、そうなんだ……」

レックスの反応(はんのう)に、メイは苦笑(にがわら)いを浮かべながら言ってから、

「で、試験の結果(けっか)はどうなの?」

興味津々(きょうみしんしん)と言った様子(ようす)で、レックスに問い掛けると、彼は、グラスに(そそ)がれたオレンジの果実(かじつ)(しぼ)ったジュースを飲んでから、深々(ふかぶか)溜息(ためいき)を付き、

「わかんねぇ。 色々トラブって、最終日前日に試験が中止になっちまったから……」

「えっ。 じゃあ再試験(さいしけん)?」

レックスの話を聞いて、メイは戸惑(とまど)いの表情を浮かべつつ、彼に問い掛けると、

「それも分かんねぇ 。オレには良く分からねぇ事情(じじょう)があるみてぇだし」

レックスは溜息(ためいき)混じりにそう言うと、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながらそう語る。

「そっか……何か良く分かんないけど、大変だったんだね」

レックスの疲弊(ひへい)具合(ぐあい)や表情などから、かなり大変な目に()って来た事は理解(りかい)出来たので、メイは気の(どく)そうな表情を浮かべつつ、彼に言った。

「ああ。 レックス。(さ が)しましたよ」

不意(ふい)に、背後(はいご)から聞き覚えのある若い男の声がしたので、

「え、あ?」

こんな所に居る(はず)も無い人物に声を掛けられ、レックスは物凄(ものすご)く驚いて、間抜(まぬ)けな声を上げながら(あわ)てて振り返った。

 そこには、ロナードと共にクラレス公国(こうこく)から来た、烏族(からすぞく)の青年サムートが静かに(たたず)んでいた。

(コイツ何時(いつ)の間に……。 (まった)気配(けはい)がしなかったぜ)

レックスは、自分の背後(はいご)何時(いつ)の間にかいたサムートに、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら見る。

「この人って、クラレスからのお客様のお付の……」

メイは、『何故(なぜ)、この様な所に来たのだろう』と言う様な顔をして(つぶや)いた。

「若様から伝言(でんごん)です。 『(つか)れているだろうから、今日はこちらの事は(かま)わず、ゆっくり休んでくれ。 また明日から(たの)む。』との事です」

レックスが(おどろ)いているのを余所(よそ)に、サムートは落ち着き払った口調(くちょう)でそう()げて来た。

「えっ。 いや……。 お館様(やかたさま)からも一応(いちおう)護衛(ごえい)を言い(わた)されてんだけど……」

サムートの思いがけぬ言葉に、レックスは戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら言い返した。

「オルゲン将軍には、(わたし)からお話をしておきます。 ですから、若様のご好意(こうい)素直(すなお)にお受けになられるべきだと思いますよ。 無理(むり)をしないで休んで下さい」

サムートは落ち着き払った口調(くちょう)で、困っている様子(ようす)のレックスに言うと、ニッコリと笑みを浮かべた。

「は、はあ……」

サムートは(おだ)やかに微笑(ほほえ)みながらも、彼の話を飲む以外に無さそうな雰囲気(ふんいき)に、レックスは戸惑(とまど)いながらも、()え切れていない様な、曖昧(あいまい)な返事を返した。

「あと(わたし)は明日には、()(あるじ)への報告(ほうこく)(かね)ねて、クラレスへ(もど)ろうと思っています。 ですから若様の事、(よろ)しくお願いします」

サムートは、(おだ)やかな笑みを浮かべながら、サラリと言ったが、レックスは(おどろ)きの表情を浮かべ、

「えっ……。 マジで?」

「はい。 若様から『もう帰って良いぞ』と(おっしゃ)られましたので」

サムートは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、レックスにそう語った。

我儘(わがまま)(やつ)だな」

レックスは、(あき)れた表情を浮かべつつ言い返す。

多分(たぶん)……私たちの事を気遣(きづか)って下さったのだと思います」

サムートは複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、ポツリと言って来たので、レックスは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、

気遣(きづか)う?」

「ええ。 私の本来(ほんらい)(あるじ)烏王(からすおう)さまの(いもうと)(ぎみ)、サラサ様ですので、私が居ない間、サラサ様にご不便(ふべん)()いているのではないかと、若様は思われたのでしょう」

サムートは複雑(ふくざつ)な表情を浮かべたまま、レックスにそう語ると、

(やさ)しい」

サムートの話を聞いて、メイは感激(かんげき)した様子で、思わず(つぶや)いた。

「お(やさ)しいですよ。 若様は。 ただ不器用(きよう)なので、なかなか相手に伝わらないと言うだけです」

サムートは、(おだ)やかな笑みを浮かべ言った後、何処(どこ)(うれ)いを(ふく)んだ表情を浮かべた。

(そりゃ、余所(よそ)の国に若様を一人だけ置いて、国に帰るのは抵抗(ていこう)があるよな……)

サムートの様子を見たレックスは、心の中で(つぶや)くと、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべる。

「そんなに、心配しなくたって大丈夫(だいじょうぶ)だって」

サムートの様子を見て、レックスはニッと笑みを浮かべ、彼に言った。

「大事な若様を異国(いこく)の地に一人にするのは心配でしょうけれど、私たちが、若様が(さび)しい想いをなさらない様、出来る限りの事はしますよ」

メイも、愛想(あいそ)良く笑みを浮かべながら、穏やかな口調(くちょう)で、サムートに言った。

(コイツ、サムートに気に入られて、ロナードの警護(けいご)()こうとしてねぇか?)

レックスは心の中で(つぶや)きながら、何時(いつ)も以上にサムートに対して親切(しんせつ)(しん)全開(ぜんかい)のメイを見る。

(よろ)しくお願いします」

サムートはレックス達に向かって言うと、深々(ふかぶか)と頭を下げた。

「はい♪」

メイが、ニッコリと笑みを浮かべ、(こころよ)く返事を返すと、

(オメェに対してじゃねぇよ!)

レックスは、(あき)れた表情を浮かべながら、心の中で呟いた。

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