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DRAGON SEED  作者: みーやん
第十二章
13/31

女学院襲撃事件

主な登場人物


ロナード…漆黒(しっこく)の髪に紫色の双眸(そうぼう)特徴的(とくちょうてき)な、傭兵業(ようへいぎょう)生業(なりわい)としていた魔術師の青年。 落ち着いた雰囲気(ふんいき)の、実年齢よりも大人びて見える美青年。 一七歳。


エルトシャン…オルゲン将軍の(おい)で、ルオン王国軍の第三(だいさん)治安(ちあん)部隊(ぶたい)副部隊(ふくぶたい)(ちょう)だったが、カタリナ王女から、新設(しんせつ)された組織『ケルベロス』のリーダーを拝命(はいめい)する。 愛想(あいそ)が良く、柔和(にゅうわ)物腰(ものごし)好青年(こうせいねん)。 王国内で指折りの剣の使い手。 二一歳。


アルシェラ…ルオン王国の将軍オルゲンの娘。 白銀(はくぎん)の髪と琥珀(こはく)(いろ)双眸(そうぼう)特徴的(とくちょうてき)な、可愛(かわい)らしい顔立ちとは異なり、じゃじゃ馬で我儘(わがまま)なお姫さま。 カタリナ王女の命を受け、新設(しんせつ)される組織に渋々加わる事に。 一六歳。


オルゲン…ルオン王国のカタリナ王女の腹心(ふくしん)で、『ルオンの双璧(そうへき)』と(しょう)される、幾多(いくた)戦場(せんじょう)活躍(かつやく)をして来た老将軍(ろうしょうぐん)。 温和(おんわ)義理堅(ぎりがた)い性格。 魔物の害に苦しむ民の救済の為に、魔物(まもの)退治(たいじ)専門(せんもん)の組織『ケルベロス』を、カタリナ王女と共に立ち上げた人物。


セシア…ルオン王国の王女、カタリナの親衛隊(しんえいたい)の一員で、魔術に長けた女魔術師。 スタイル抜群(ばつぐん)で、人並(ひとな)み外れた妖艶(ようえん)な美女。


レックス…オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)(つか)えていた騎士(きし)見習(みなら)いの青年。 正義感(せいぎかん)が強く、喧嘩(けんか)っ早い所がある。 屋敷の中で一番の剣の使い手と自負(じふ)して居る。 一七歳。


カタリナ…ルオン王国の王女。 病床(びょうしょう)にある父王に代わり、数年前から(まつりごと)を行って居るのだが、宰相(さいしょう)ベオルフ一派の所為(せい)で、思う様に政策(せいさく)が出来ずにおり、王位を(おびや)かされている。 自身は文武に長けた美女。 二二歳。


サムート…クラレス公国(こうこく)に住む、烏族(からすぞく)の長の妹サラサに仕える、烏族(からすぞく)の青年。 ロナードの事を気に掛けている(あるじ)の為にロナード共にルオンへ(おもむ)く。 人当たりの良い、物腰(ものごし)の柔らかい青年。


シャーナ…南半球を中心に活動(かつどう)している傭兵(ようへい)で槍の(あつか)いが得意(とくい)。 口は悪いが、サバサバとした性格で面倒見(めんどうみ)の良い姉御(あねご)(はだ)


デュート…元・トレジャーハンターの少年。 その経験(けいけん)をかわれ、ケルベロスに加わる。 飄々としていて掴みどころのない性格。 一七歳。


ベオルフ…ルオン王国の宰相(さいしょう)で、カタリナ王女に代わり、自身が王位に()こうと(たくら)んで居る。 相当な好き者で、自宅(じたく)別荘(べっそう)に、各地(かくち)から集めた美少年美少女を(かこ)っていると言われている。


メイ…オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)に仕えている騎士(きし)見習(みなら)いの少女。 レックスとは幼馴染(おさななじみ)。 ボウガンの名手(めいしゅ)。 十七歳。

 自分を囲んで居た紫色の光の柱が、セシアの(さけ)び声に共鳴(きょうめい)する様に強い光を(はな)ち、そのあまりの(まぶ)しさに思わず目を閉じた瞬間(しゅんかん)、体がフッと(ちゅう)に浮くような感覚(かんかく)見舞(みま)われ、体が物凄(ものすご)く強い力で何処(どこ)かへ()い寄せられる様な感覚(かんかく)と、まるで(もう)スピードでグルグルと回転している様な感覚(かんかく)が入り()じって、頭が(いた)くなりそうな程の物凄(ものすご)く強い(みみ)()りに見舞(みま)われた。

 どの位だろうか……多分(たぶん)、時間にしてほんの一、二分……(みみ)()りが止んだと同時に、フッとかなりの高さから身を投げ出される感覚(かんかく)があったので、ロナードは(あわ)てて目を開け、空中に投げ出されたところをどうにかして着地(ちゃくち)したのだが、それとほぼ同時に胸の奥がムカムカする様な、気持ち悪さを(おぼ)えた。

「気持ち悪っ……」

ロナードは思わず、片手(かたて)を自分の口元に()え、その場に(うずくま)ったが、昼食前だったと言う事もあり、胃の中に何も入っていなかったので、嘔吐(おうと)せずに助かった。

転送術(てんそうじゅつ)は、()れないと()うと聞いていたが……。 こう言う事か……。 確かにキツイな)

ロナードはまだ若干(じゃっかん)、胸のムカつきと、目の前がグルグル回っている様な感覚(かんかく)を覚えつつも、心の中で(つぶや)きながら、片手(かたて)で自分の胸元(むなもと)(さす)った。

 そして、幾分(いくぶん)か気持ち悪さが無くなってから、(あらた)めて周囲(しゅうい)を見回した。

 普段(ふだん)は、整然(せいぜん)と並べられている(はず)生徒(せいと)たちが使う机と椅子(いす)が、様々(さまざま)な方向に向き、(かたむ)いたり、倒れたりしていて、机の上に置かれていた、刺繍(ししゅう)の道具などが床の上に散乱(さんらん)しており、生徒(せいと)たちの(くつ)髪飾(かみかざ)りなども床の上に落ちている。

 どうやら、自分が元の体に戻る前……まだアルシェラの体であった時、授業を受けて居た教室の様だ。

 教室の中にいた、生徒(せいと)たちや(おんな)教師(きょうし)姿(すがた)は無く、(みな)何処(どこ)かへ連れて行かれた様だ。

 ロナードは(おもむろ)に、腰に下げていた剣を抜き、身を低くして、彼女たちが何処(どこ)へ連れて行かれたのかを突き止める(ため)、廊下の方へと()み出した。

 廊下には(いく)つか、使用済みの煙幕(えんまく)が入っていたと思われる、紙に包まれた(つつ)や丸い物が(ころ)がっていた。

 どうやら、これを使って(けむり)を出して、校内にいた者たちを混乱(こんらん)させ、(けむり)視界(しかい)(さえぎ)られている内に、その場にいた者たちを全員、(とら)えたのだろう。

(校内には相当(そうとう)数の生徒(せいと)が居る。 そんな大勢(おおぜい)(つか)まえて、襲撃(しゅうげき)者たちは、何をしようとしているんだ?)

ロナードは心の中で(つぶや)きながら、慎重(しんちょう)に歩みを進める。

 大勢(おおぜい)の人間が()げない様に監視(かんし)する(ため)には、出入り口の少ない、広い室内に閉じ込めてしまうのが一番手っ取り早いし、出入り口だけ見張(みは)っていれば、それ(ほど)人手(ひとで)必要(ひつよう)としない。

 しかし、(いく)(ほとん)ど戦う(すべ)を持たない、女子生徒(じょしせいと)たちばかりとは言え、国内の各地(かくち)から集まった百人近い人間を……となると、やはりこの学校を(おそ)った(やから)は、最低でも二、三十人近くはいるだろう。

 そんな事をロナードが考えていると、複数(ふくすう)の足音が向こう側から近付いて来るのが聞こえた。

 ロナードは素早(すばや)く近くの教室へ入ると、身を低くして廊下から死角(しかく)となる様に、教室の(かべ)に背中を付ける様にして(かく)れていると……。

「な~んか拍子抜けだな。 貴族(きぞく)のお(じょう)(さま)ばっかだとは聞いてたけどよ。 こんなあっさり、(つか)まっちまうなんてよ」

「周りの人間に守られてるだけだから、自分で身を守る方法を知らねぇんだよ。 きっと」

「はははっ。 そりゃ、スラムのガキ以下だな」

古着(ふるぎ)と言う次元(じげん)を通り()し、もはやボロとしか言い様のない、(いた)る所が(やぶ)れたり(ほつ)れたりした、草臥(くたび)れ、色褪(いろあ)せた衣服(いふく)に身を包んだ、手入れなど全くして無さそうなボサボサな髪に、伸ばし放題の(ひげ)の男たちが、呑気(のんき)にその様な事を言いながら、トボトボと廊下を歩いている。

 どう見ても、学生たちの保護(ほご)(しゃ)では無さそうだ。

 腰には、何処(どこ)からか(ぬす)んで来たのか、剣や短剣(たんけん)などの武器(ぶき)を下げていたが、自分たちがここを完全に制圧(せいあつ)したと思い込んでいる様で、すっかり油断(ゆだん)しきっている。

 そこでロナードは、その男たちが通り()ぎてしまうのを待って、両腕を頭の後ろに組んで、最後をトボトボと歩いていた男を背後(はいご)から切り倒し、(おどろ)いて振り返った残りの二人の内の一人を素早(すばや)(たた)き切り、突然(とつぜん)の事に身動(みうご)きとれずに、立ち尽くしていた残りの一人の背後(はいご)素早(すばや)く回り込み、乱暴(らんぼう)片手(かたて)(つか)むと()じり上げ、後ろから羽交(はが)()めにする形で、その男の首元に剣先(けんさき)()き付けた。

「んなっ……」

背後(はいご)から刃先(はさき)を首元に()き付けられた男は、突然(とつぜん)出来事(できごと)にアタフタとしている。

「命が()しければ、大人しく(おれ)の言う事を聞け」

ロナードは、その男の喉元(のどもと)に剣を突き付けたまま、背後(はいご)からドスの利いた低い声でそう(すご)むと、男は(こわ)れた人形の様に、コクコクと何度も(うなず)いて見せる。

(つか)まえた、生徒(せいと)たちは何処(どこ)だ?」

ロナードはドスの利いた低い声で言うと、

「えっと……。 とても広い部屋です」

男は、恐怖(きょうふ)に顔を引きつらせ、声を(ふる)わせながら答えた。

「メインホールか?」

ロナードは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで問い掛けると、

「何て言う場所かは、分からないです……」

男は戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、ロナードにそう答えると、彼は苛立(いらだ)った様子で舌打(したう)ちした後、

「案内しろ」

実際(じっさい)に案内させる方が早いと思ったロナードは、男にそう命じた。

「ゆっくり歩け。 (みょう)な事をすれば、背中から串刺(くしざ)しにする」

ロナードは持っていた剣先(けんさき)一旦(いったん)、男の首元から(はな)すと、男が腰に下げていた武器(ぶき)(うば)い、今度は男の背中に剣先(けんさき)を突き付けながら、ドスの利いた声でそう(すご)んだ。

 男は半泣(はんな)状態(じょうたい)で、敵意(てきい)が無い事を(しめ)(ため)か両手を上げ、ロナードに言われた通り、(とら)われて居る生徒(せいと)たちの下へと、彼を案内する(ため)にゆっくりと歩き出した。

(ひ――っ。 何でおれが、こんな目にぃ。 もしボスに見付かったら……)

ロナードに(つか)まった男は、心の中でそんな事を思いながら、どうにかして()げ出せないかと、チラリと自分の背中に剣を()き付けている相手(あいて)横目(よこめ)で見る。

(何だよ。 さっきは早過(はやす)ぎて良く分かんなかったが、えらく綺麗(きれい)な兄ちゃんじゃねぇかよ。 腕だっておれよりも細せぇし……。 こりゃ上手(うま)くいけば、(ぎゃく)にひっ(つか)まえられそうだぜ)

ロナードを見て男はふと、そんな事を思っていたが、廊下を曲がった途端(とたん)、出会い(がしら)に男の仲間と鉢合(はちあ)わせになった。

「何だ! オメェは!」

明らかに、自分たちとは(なり)(こと)なるロナードを見て、(てき)だと判断(はんだん)した鉢合(はちあわ)わせになった男は、そう(さけ)ぶなり、持っていたボウガンを素早(すばや)身構(みがま)えた途端(とたん)、まるで、その男の額に()い寄せられる様に、ロナードが投げ付けたナイフが深々(ふかぶか)()(ささ)さり、その男は、手にしたボウガンを取り落し、その場に(くず)れる様にして絶命(ぜつめい)してしまった。

「ひっ……」

それを見た、ロナードに捕まり、生徒(せいと)たちの下へ案内する様に(おど)されている男は、みるみる顔から血の気が引き、(なさ)けない声を上げる。

「なんだ?」

「どうした?」

一瞬(いっしゅん)の内に、ロナードが投げたナイフで命を()たれた男の(さけ)び声と、落ちたボウガンが床にぶつかる音を聞いて、近くにいた男の仲間たちがそう言って、武器(ぶき)を手に()け付けて来た。

「チッ」

ロナードはそう舌打(したう)ちすると、自分が(とら)えていた男を思い切り蹴飛(けと)ばした。

 突然(とつぜん)の事に、その男は受け身を取れず、顔からベチンと床に倒れた。

「この野郎(やろう)!。 何処(どこ)から()いて来やがった?」

駆け付けた男の仲間の一人がそう言いながら、ロナードに向かって思い切り剣を振り下ろすが、彼は軽々とそれを()けると、すれ(ちが)い様にその男の首筋(くびすじ)(たた)き切り、続けざまに、向かって来た別の男の攻撃(こうげき)を振り向き様に剣で受け止める。

 そして、素早(すばや)く身を(かが)め、(あし)(ばら)いをすると、バランスを(くず)してスッ(ころ)んだその男の土手(どて)っ腹に、躊躇(ちゅうちょ)なく持っていた剣を突き立てた。

「ぐえっ」

ロナードに剣で腹を串刺(くしざ)しにされた男は、短い断末魔(だんまつま)を上げ絶命(ぜつめい)すると、みるみる廊下に血だまりが広がる。

(体が元に(もど)ったばかりだからか、本能的に相手(あいて)(ころ)す方に体が動いてしまう……)

ロナードは、自分がとっさに(あや)めてしまった男たちを見下ろしながら、心の中で(つぶや)いた。

 普段(ふだん)なら、相手(あいて)が死なない程度(ていど)にするのだが、どうも体が言う事をきかない……。

 ロナードは軽く(いき)(はず)ませつつも、(おそ)ろしい位に(すず)しい顔をして、剣に付いた血糊(ちのり)を振り払った。

(ば、ば、化け物だ!)

地面に倒れたまま、顔だけを上げ、一部(いちぶ)始終(しじゅう)を見ていた男は、心の中でそう(つぶや)くと、背中に大量の冷や(あせ)を流す。

「全員がこの程度(ていど)なら、(おれ)一人(ひとり)でどうにか出来そうだな……」

ロナードは、ポツリと(つぶや)いてから、道案内の(ため)(とら)えた男の方へと目を向けると、彼はギクリと身を強張(こわば)らせ、恐怖(きょうふ)に満ちた目で自分に近付いて来る彼に向って、

「た、た、(たの)む。 何でも言う事を聞く。 だから……どうか、(ころ)さないでくれ。 頼む。 お願いだ!」

彼の足を(つか)み、そう言って懇願(こんがん)する。

無駄(むだ)口を叩いてないで、さっさと立て」

ロナードは、冷ややかな口調(くちょう)で言うと、その男の(くび)()っこを(つか)むと、乱暴(らんぼう)に立ち上がらせる。

 自分よりも細腕(ほそうで)だと言うのに、自分の(くび)()っこを(つか)み持ち上げたロナードが、予想(よそう)外に力が強かった事に、男は戸惑(とまど)っていると、

「ロナード!」

不意(ふい)に若い男の声がしたので、男とロナードは(おどろ)いて振り返った。

 そこには、少し(くせ)のある明るい茶色の髪、目尻(めじり)が下がった明るい緑色の双眸(そうぼう)で、右目の下に黒子(ほくろ)があり、少し日に焼けた、(うす)赤銅(しゃくどう)(しょく)(はだ)優男(やさおとこ)が立っていた。

「エルトシャン。 お前……どうやって……」

ロナードは突然(とつぜん)(あらわ)れた彼に向って、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら、そう問い掛ける。

「君一人では心配だから、セシアに無理(むり)を言って、君と同じ方法で来たんだ」

エルトシャンは、ニッコリと笑みを浮かべ、戸惑(とまど)っているロナードにそう答えた。

(そのお(かげ)で、セシアは完全にダウンしちゃったけどね)

エルトシャンは心の中で(つぶや)くと、苦笑(にがわら)いを浮かべる。

「それよりも……」

エルトシャンは言いながら、ロナードの下へと歩み寄ると、

(もど)って良かったね――。」

ロナードにそう言いなり、満面(まんめん)笑顔(えがお)を浮かべて、(いた)い位に思い切り、彼の体を抱きしめた。

「お、おい……」

ロナードは剣を片手(かたて)に持ったまま、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、思い切り自分にハグをするエルトシャンに声を掛ける。

「も――ホント、君がアルと入れ()わっていた間、最悪(さいあく)な毎日だったんだから」

エルトシャンは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、どうして良いのか分からず、固まって居たロナードに言うと、背中をポンポンと何度か(かる)(たた)いてから、彼から自身の身を(はな)した。

 エルトシャンは感情(かんじょう)表現(ひょうげん)(ゆた)かで、(うれ)しい時は男女(だんじょ)()わず抱き付く事は、この一カ月程の共同(きょうどう)生活(せいかつ)で知っていたが、まさか自分もその洗礼(せんれい)を受けるとは、ロナードは思いもしていなかった。

 それだけ、エルトシャンは自分の事を心配してくれていたのだと、ロナードは思う事にした。

「やっぱり、君はこうじゃなきゃね」

(おどろ)戸惑(とまど)っているロナードを余所(よそ)に、エルトシャンは(うれ)しそうに言って、微笑(ほほえ)み掛ける。

「心配を掛けて、()まなかった」

ロナードは(もう)し訳なさそうに、エルトシャンに言い返す。

「良いんだよ。 君が元に戻ったのならそれで」

エルトシャンは本当に(うれ)しそうに、ロナードに言っていると……。

(今の内だ)

二人のやり取りを見ていた、ロナードに(つか)まっていた(ぞく)は心の中で(つぶや)くと、二人に気付かれぬ様にこっそりと、その場から(はな)れようとしたが……。

「ってかロナード。 その人逃げるよ」

その事に気付いたエルトシャンが、男の方を指差(やゆびさ)し、男に背を向けていたロナードに言ったので、彼が(おもむろ)に振り返ると、男は顔を青くして、

「に、逃げるなんて、め、め、滅相(めっそう)もない!」

(あわ)てふためきながら、ロナードにそう弁明(べんめい)する。

「って言うか、それに道案内をさせてたの?」

エルトシャンは(おもむろ)に、(すき)を見て逃げようとしていた男を指差(やゆびさ)しながら、ロナードにそう問い掛ける。

「ああ。 コイツはこの中の事を、(くわ)しくは知らないみたいだからな」

ロナードは、しれっと逃げようといた男を見ながら、落ち着き払った口調(くちょう)で、エルトシャンの問い掛けに答えた。

「あのさぁ(ぼく)治安(ちあん)部隊(ぶたい)に居た時に、何度か警備(けいび)状況(じょうきょう)の確認の(ため)にここへ来た事があるから、この中の事には(くわ)しいよ。 そのおじさんに、(つか)まっている人達が何処(どこ)にいるのか、漠然(ばくぜん)とした所で良いから聞き出しちゃった方が、連れ回すよりも、手っ取り早いんじゃないかな?」

エルトシャンは落ち着き払った口調(くちょう)で、ロナードに言うと、

「確かに。 その方が身軽(みがる)だな」

彼は、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言うと、それを聞いた男は、用が()めば(ころ)されると思い、みるみる顔から血の気が引き、

「そ、そ、そんな……」

(なさ)けない声で(つぶや)いた。

「と言う訳だから、大人しく教えてくれるのなら、命までは取らないよ?。 (ぼく)たち」

エルトシャンはニッコリと笑みを浮かべ、ロナードが(とら)えていた男に言って()め寄る。

(め、目が(わら)ってねぇぞ。 この兄ちゃん……)

エルトシャンを見て男は、恐怖(きょうふ)に顔を引き()らせつつ、心の中で(つぶや)く。

「何でも、(おれ)の言う事を聞くんじゃなかったのか?。 命が()しくないのか?」

ロナードが(うな)る様な、ドスの利いた声でそう言って、持っていた剣をチラつかせながら、男を(さら)に追い込む。

(あきら)めよう。 ()げられねぇ)

自分よりも背が高く、武器(ぶき)を手にしている二人に(すご)まれた男は、心の中で(つぶや)くと、

「は、はい。 それはもう。 (よろこ)んで」

半泣(はんな)きになりながら、恐怖(きょうふ)に顔を引き()らせつつも、愛想(あいそ)(わら)いを浮かべ、そう答える(ほか)なかった。

「一階の突き当たりにある広い部屋に、(つか)まえた女の子たちは、みんないますです。 はい」

男は素直(すなお)に、自分たちが(とら)えた生徒(せいと)たちの所在(しょざい)をロナード達に伝えた。

「聞いたか?」

ロナードは、そうエルトシャンに問い掛けると、彼は(うなず)き返し、

「多分、メインホールだろうね。 何処(どこ)か分かるよ」

真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、ロナードに言い返した。

(うそ)を言ってないだろうな?」

ロナードは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、男にそう()め寄ると、彼は(あわ)てふためきながら、

「そ、そんな事、言う訳が無いですよぉ。 自分の命が(かか)ってるんですよ?」

必死(ひっし)形相(ぎょうそう)で、ロナードにそう言い返した。

「って言うか、(わざ)(さわ)ぎを起こして、(えさ)(むら)がる(あり)みたいに、(ぞく)たちが出て来た所をやっつけながら辿(たど)れば、(つか)まっている人達の所に辿(たど)り着くんじゃない?」

エルトシャンはふと、ポンと手を(たた)くと、思い立った事を口にする。

「……それだと、(つか)まっている生徒(せいと)たちに、危険(きけん)(およ)ばないか?」

エルトシャンの発言(はつげん)を聞いて、ロナードは(あき)れた表情を浮かべ、彼に言い返すと、

「まあ、(ぼく)たちが生徒(せいと)たちの所まで行き着けば、そこに居る(ぞく)たちが、生徒(せいと)たちを何人か人質(ひとじち)にして、ギャーギャー言うかも知れないけど、君と(ぼく)なら、どうにかなるでしょ?」

彼は、完全に他人事(たにんごと)の様な、物凄(ものすご)淡々(たんたん)とした口調(くちょう)でロナードにそう答えた。

却下(きゃっか)だ。 お前、本当に治安(ちあん)部隊(ぶたい)副隊長(ふくたいちょう)だったのか? こういう場合、人質(ひとじち)無事(ぶじ)最優先(さいゆうせん)事項(じこう)だろう?」

ロナードは(あき)れた表情を浮かべ、無責任(むせきにん)過ぎる事を言うエルトシャンに言い返した。

「う~ん。 全員(ぜんいん)無事(ぶじ)にって言うのは、ちょっと(きび)しくない? 『被害(ひがい)を最小に(とど)める』で、どう?」

エルトシャンは、困った様な表情を浮かべ、ロナードに言うと、

「……お前な」

彼は、片手(かたて)を自分の(ひたい)()え、(あき)れた表情を浮かべ、力なく(つぶや)く。

「まあ()(かく)、この人をさっさと(しば)り上げて、メインホールへ行ってみれば良いんじゃない?」

ロナードの反応(はんのう)余所(よそ)に、エルトシャンは緊張(きんちょう)感の無い、呑気(のんき)口調(くちょう)でそう言って来た。

「それはそうだか……」

ロナードは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべつつ、言い返すと、

「はい決まり♪」

エルトシャンは言うと、廊下の上に絶命(ぜつめい)している(ぞく)たちがしていた、剣ベルトを外すと、()れた手付(てつき)きでロナードが(とら)えていた男を後ろ手にして、猿轡(さるぐつわ)をし、近くの(はしら)(しば)り付け始めた。

手慣(てな)れたものだな」

その様子(ようす)を見ていたロナードは、感心して言った。

「まあ、治安(ちあん)部隊(ぶたい)ってさぁ基本的(きほんてき)に、スリとか犯罪者(はんざいしゃ)捕縛(ほばく)連行(れんこう)だからね。 入隊(にゅうたい)して最初に教え込まれるのが、対象(たいしょう)拘束(こうそく)する方法なんだよ」

エルトシャンは苦笑(くしょう)()じりに、ロナードにそう説明しながら、男を(しば)り付けている。

(なる)(ほど)

ロナードは『納得(なっとく)』と言った様子(ようす)で、(つぶや)いた。

「さてと。 これでまず、自力(じりき)で逃げる事は出来ないからね。 後でみっちりと、治安(ちあん)部隊(ぶたい)犯行(はんこう)動機(どうき)だの何だのと、聴取(ちょうしゅ)されたら良いよ」

エルトシャンは、男がちゃんと(しば)れているか確認してから、ニッコリと笑みを浮かべて言った。


 ロナード達は、この学校を襲撃(しゅうげき)した賊たちに気付かれぬ様、慎重(しんちょう)に進みながら、女子(じょし)生徒(せいと)たちが集められ、監禁(かんきん)されていると思われるメインホールの側まで来た。

 流石(さすが)に、メインホールへ出入りする扉の前には、外部(がいぶ)からの侵入(しんにゅう)警戒(けいかい)して、武器(ぶき)を手にした(いか)つい男たちが、見張(みは)りとして立っていた。

流石(さすが)に、厳重(げんじゅう)警備(けいび)しているね」

ロナード共に物陰(ものかげ)から様子(ようす)(うかが)いながら、エルトシャンが(つぶや)く。

「注意を()らす事が、出来れば良いんだが……」

ロナードは、(かべ)に背中を押し付ける様な格好(かっこう)(つぶや)く。

「だったら(ぼく)(おとり)になるよ。 折角(せっかく)、二人居るんだから、その辺を()かさないとね」

エルトシャンはニッコリと笑みを浮かべ、(みずか)(おとり)になる事を提案(ていあん)して来た。

大丈夫(だいじょうぶ)か?」

ロナードは、心配そうな表情を浮かべ、エルトシャンに問い掛けると、彼はニッコリと笑みを浮かべ、

大丈夫(だいじょうぶ)。 大丈夫(だいじょうぶ)。 こう見えて()げ足は(はや)いからね。 追い()けて来た所を、一人一人振り向き様に倒す事にするよ」

余裕(よゆう)すら感じらせる様子(ようす)で答えると、その表情を見たロナードは意を決し、

「悪いが頼む」

(まか)せて」

エルトシャンはそう言うと、出入り口に立って居た男たちの前へと歩み出る。

「な、何だお前」

何処(どこ)から入って来た?」

(かく)れてたのか?」

エルトシャンを発見(はっけん)した男たちはそう言うと、エルトシャンはダッとその場から()け出した。

「あ、こら待て!」

(つか)まえろ!」

「逃がすな!」

その場に警備(けいび)にいた数人の男たちは、間抜(まぬ)けにもそう言って、(いそ)いで、逃げ出したエルトシャンの後を追い駆けた。

 その光景(こうけい)はもう(ほとん)どコントの様であった。

「えっ。 あ、おい」

取り(のこ)された一人が、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、仲間たちを呼び止める。

(一人なら、何とかなるな)

ロナードはそう心の中で(つぶや)くと、取り残された男に向かって駆け出した。

「やっぱり仲間が!」

取り残された男はそう言うと、自分に向かって来るロナードを(むか)()つ。

 男が持っていた(おの)を振り下ろすが、ロナードはヒラリとそれを()けると、振り向き様にその男を背後(はいご)から(たた)き切った。

 男は(おの)を手にしたまま、前のめりになって、その場に倒れる。

上手(うま)くやってくれよ。 エルトシャン)

ロナードは、(おとり)になってくれたエルトシャンが逃げた方へと目を向けつつ、心の中で(つぶや)くと、メインホールの扉を開こうとするが、どうやら中から(かぎ)が掛けられているようだ。

「おい。合言葉を言え」

扉の反対(はんたい)(がわ)にも人がいた様で、扉を開けようとする音を聞いて、突然(とつぜん)、そう言って来た。

(そんなモノ知るか!)

ロナードは心の中で(つぶや)くと、風の魔術を()り出して、それを思い切り扉へとぶつけると、(かた)そうな扉は(くだ)()り、(そば)に居た男も一緒(いっしょ)()き飛ばした。


 突然(とつぜん)、大きな音を立てて、外側(そとがわ)から入り口の扉が吹き飛び、(そば)に居た見張(みは)りの男が吹き飛ぶ様を見て、中に(とら)えられて居る生徒(せいと)たちの間から、どよめきが起きた。

 少し(おく)れて、廊下の方から一人、背の高いスラッとした、黒髪の若者(わかもの)が剣を手に飛び込んで来た。

 普段(ふだん)はダンスなどの練習に使われるこの講堂(こうどう)の中には、生徒(せいと)たちが後ろ手にロープで(しば)られ、隅の方から、講堂(こうどう)中央(ちゅうおう)を囲む様にすし詰め状態(じょうたい)で座らされており、中央(ちゅうおう)だけは、円形状に周りの生徒(せいと)たちと距離(きょり)を取る様にして、真ん中に(がく)園長(えんちょう)普段(ふだん)座っている大きく立派な椅子(いす)が置かれていて、そこに、赤みがかった茶色の長い髪を有し、綺麗(きれい)化粧(けしょう)をした、男性の格好(かっこう)の女性が片足を組んで座っていて、その周囲(しゅうい)には可愛(かわい)らしい顔立ちの、一〇歳くらいの男の子たちが数人おり、彼女の手足(てあし)に真っ赤なマニキュアを()っていた。

 物音(ものおと)を聞いて、(いか)つい顔をした男たちが武器(ぶき)片手(かたて)に、その人物を守る様に侵入(しんにゅう)(しゃ)の前に立ち(ふさ)がる。

「あら。随分(ずいぶん)可愛(かわい)らしい(ぼう)やが飛び込んで来たわね」

中央(ちゅうおう)で、(がく)園長(えんちょう)椅子(いす)に座っていた、赤みがかった茶色の長い髪を有した人物は、中へ飛び込んで来たロナードを見て、そう言った。

 遠目(とおめ)から見るとその人物は、背丈(せたけ)もそれほど高くなく、体付きも華奢(きゃしゃ)な方なので、ちょっとガタイの良い男装(だんそう)をしている女性かと思ってしまうが、声色(こわいろ)は明らかに男だった。

 (ぞく)(ひき)いているボスは、筋肉(きんにく)ムキムキの(いか)つい顔の男と想像(そうぞう)していたロナードは面食(めんく)らう。

「良く、ここまで来られたわね?。 貴方(あなた)一人(ひとり)なのかしら?」

赤みがかった茶色の長い髪を有した人物は、何処(どこ)余裕(よゆう)に満ちた様子(ようす)で、ロナードにそう問い掛けて来た。

「そんな馬鹿(ばか)な問い掛けに、素直(すなお)に答える訳が無いだろう」

ロナードは剣を手に身構(みがま)え、周囲(しゅうい)にいる武器(ぶき)を持った男たちの動きを注意しつつ、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)でそう答えた。

「それもそうね」

赤みがかった茶色の長い髪を有した人物はそう言うと、不敵(ふてき)な笑みを浮かべる。

「死に目に()いたく無ければ、今直(います)ぐに、生徒(せいと)たちを解放(かいほう)しろ」

ロナードは、剣を手にしたまま、真っ直ぐに赤みがかった茶色の長い髪を有した人物を見据(みす)え、落ち着いた口調(くちょう)で言う。

「そうねぇ……。 貴方(あなた)が、この子たちの親に交渉(こうしょう)して、お金を持って来てくれるって言うのなら、無傷(むきず)解放(かいほう)して上げなくも無いわよ?」

赤みがかった茶色の長い髪を有した人物がそう言うと、(そば)に居た男たちに合図(あいず)を送った。

 すると、(そば)に居た男たちは、近くに座っていた生徒(せいと)たちに近付く。

 生徒(せいと)たちは恐怖(きょうふ)に顔を引き()らせ、悲鳴(ひめい)を上げながら、男たちに乱暴(らんぼう)に引き()られ中央(ちゅうおう)に連れて来られると、男たちは、彼女たちの首元に刃先(はさき)を突き付けると、ロナードに向かって(うす)()みを浮かべる。

「くっ……」

ロナードは、それを苦々(にがにが)しい表情を浮かべて見ている。

「ここに、どれだけの生徒(せいと)が居ると思ってるの?。 貴方(あなた)一人で、ここに居る全員(ぜんいん)を助けるなんて、無理(むり)な話よね?。 嫁入(よめい)り前のこの子たちの顔に、一生消()えない(ひど)(きず)(のこ)したい訳?」

赤みがかった茶色の長い髪を有した人物は、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら、苦々(にがにが)しい表情を浮かべて自分を(にら)んでいるロナードに言った。

「いやぁ!」

「助けて……」

「死にたくない……」

男たちに(つか)まり、首元に刃先(はさき)()き付けられている生徒(せいと)たちは、(なみだ)を流しながら、必死(ひっし)形相(ぎょうそう)でロナードにそう(うった)えて来る。

「ですってよ」

赤みがかった茶色の長い髪を有した人物は、ロナードにそう言うと、クククッと(しの)(わら)いをする。

「何してるのよ! ロナード! 早く魔法を使って助けなさいよ!」

不意(ふい)何処(どこ)からか、アルシェラの(さけ)び声が聞こえて来た。

(あの馬鹿(ばか)……)

ロナードは心の中で(つぶや)くと、苛立(いらだ)った表情を浮かべる。

「あらあら。 ご親切(しんせつ)に教えてくれてど~も」

赤みがかった茶色の長い髪を有した人物は、とっさに(さけ)んだアルシェラに向かって、不敵(ふてき)な笑みを浮かべて言った。

「何でそんな事、教えちゃったんですか」

「そう言う大事(だいじ)な事は、相手(あいて)に知られちゃ駄目(だめ)ですよ」

「バレちゃったら、意味(いみ)が無いですよ」

思わず、アルシェラの取り巻きの三人も、不満(ふまん)に満ちた表情を浮かべ、彼女に思い切り批判(ひはん)する。

五月蠅(うるさ)いわね!」

アルシェラは、取り巻き達に批判(ひはん)され、ムッとした表情を浮かべつつ、強い口調(くちょう)で彼女たちに言い返してから、

貴方(あなた)たち大人しく降参(こうさん)しなさい!。 ロナードはこう見えて、すっごい魔術師(まじゅつし)なんだから! 貴方(あなた)たちなんて、その気になれば、一瞬(いっしゅん)で吹っ飛ばされちゃうんだから!」

アルシェラは()りずに、自分たちを(とら)えている、赤みがかった茶色の長い髪を有した人物たちに向かってそ(さけ)んだ。

「あらあら。 随分(ずいぶん)期待(きたい)されてるじゃない」

赤みがかった茶色の長い髪を有した人物は、ケラケラと笑いながら、ロナードに言うと、彼はギリッと(くちびる)()み、

(だま)っていろ! この阿呆(あほう)! ベラベラと(おれ)の手の内を教えやがって!」

(いか)りに満ちた表情を浮かべ、思い切りアルシェラを怒鳴(どな)り付けた。

「んなっ……。 何ですってぇ!」

ロナードに怒鳴(どな)り付けられ、アルシェラはカチンと来て、声を(あら)らげ、彼に怒鳴(どな)り返すと、

「お前みたいな馬鹿(ばか)は、何年でも留年(りゅうねん)していろ!」

彼は、思い切り五月蠅(うるさ)そうな表情を浮かべ、強い口調(くちょう)で言い放った。

「あはははは。 あらあら。 本当にお馬鹿(ばか)ちゃんなのねぇ 。貴女(あなた)

赤みがかった茶色の長い髪を有した人物は、ケラケラと声を上げて笑いながら、小馬鹿(ばか)にした様な口調(くちょう)でアルシェラに言った。

「ロナードのぶぁ―――かっ! お父様に言って、クビにして(もら)うんだから!」

アルシェラは()ずかしさのあまり、顔を真っ赤にして、ロナードにそう怒鳴(どな)り返した。

勝手(かって)に言っていろ」

ロナードがそう言っていると、廊下の方からバタバタとかなりの人数の足音(あしおと)がしたと思った次の瞬間(しゅんかん)武装(ぶそう)した兵士(へいし)たちが中に雪崩(なだれ)れ込んで来た。

 その(すき)を見て、何人かの生徒(せいと)が廊下の方へと()げ出すのが見えた。

「これまでだ! 無駄(むだ)抵抗(ていこう)は止めて、武器(ぶき)を捨て投降(とうこう)しろ!」

治安(ちあん)部隊(ぶたい)と思われる兵士(へいし)が、(じゅう)片手(かたて)に、赤みがかった茶色の長い髪を有した人物たちに向かってそう(さけ)んだ。

「あ~ら。 これは大変♪」

赤みがかった茶色の長い髪を有した人物が、不敵(ふてき)な笑みを浮かべて言うと、近くに居た男が(きゅう)に、()らえていた生徒(せいと)の首元を刃物(はもの)()き切った。

 彼女の首から(いきお)い良く血が()き出し、そのまま力なく、その場に倒れた。

 それを見て、近くでそれを見た生徒(せいと)たちは失神(しっしん)し、周りに居た生徒(せいと)たちの間から悲鳴(ひめい)が起きる。

「くそっ!」

目の前で生徒(せいと)を殺され、ロナードも(くや)しそうな表情を浮かべ、赤みがかった茶色の長い髪を有した人物を(にら)み付ける。

武器(ぶき)を捨てなきゃなんないのは、そっちの方よ。 こっちには人質(ひとじち)一杯(いっぱい)()るの。 一人ずつ、(ころ)してあげましょうか?」

赤みがかった茶色の長い髪を有した人物は、不敵(ふてき)な笑みを浮かべ、生徒(せいと)たちを助けに来た、治安(ちあん)部隊(ぶたい)兵士(へいし)たちに向かって言った。

(何やってるんだ。 人が折角(せっかく)奴等(やつら)の注意を引きつけていたって言うのに、何で正面(しょうめん)から……)

ロナードは忌々(いまいま)し気に、どうして良いのか分からず、立ち尽くしている治安(ちあん)部隊(ぶたい)兵士(へいし)たちを見回しつつ、心の中で(つぶや)くと、考え無に()っ込んで来た治安(ちあん)部隊(ぶたい)無能(むのう)さを(のろ)う。

「はいはい。 貴方(あなた)武器(ぶき)を捨てなさい。 魔法使いの(ぼう)や」

赤みがかった茶色の長い髪を有した人物は、座っていた椅子(いす)から立ち上がると、ロナードの背中に銃口(じゅうこう)を押し付けながら、不敵(ふてき)な笑みを浮かべて言った。

 ロナードは苦々(にがにが)しい表情を浮かべつつも、言われた通りに、持っていた剣を足元に投げ捨て、両手を上げる。

「ロナード!」

ロナードがメインホールの中に入る(ため)、入り口を見張(みは)っていた男たちの注意を引き付ける役を買って出ていたエルトシャンが(もど)って来て、ロナードが人質(ひとじち)に取られたのを見て、顔を青くして声を上げる。

「なにしてるんだ! ロナードまで人質(ひとじち)に取られたじゃないか!」

エルトシャンは(いか)りに満ちた表情を浮かべ、近くに居た兵士(へいし)問答(もんどう)無用(むよう)で胸ぐらを(つか)み上げ、強い口調(くちょう)(ののし)る。

「んな事、自分に言われても……。 指揮官(しきかん)は自分では無いので……」

エルトシャンから突然(とつぜん)胸ぐらを(つか)まれ、怒鳴(どな)り付けられた若い兵士(へいし)は、困った様な表情を浮かべ、彼に言い返す。

救助(きゅうじょ)要請(ようせい)を受けたご息女(そくじょ)たちは、我々(われわれ)突入(とつにゅう)すると同時に逃げ出し、保護(ほご)した。 よって我々(われわれ)の当初の目的は()たされた。 これより(ぞく)掃討(そうとう)を開始する」

この部隊(ぶたい)指揮(しき)していると思われる、肉付(にくづ)きの良い、ブルドックの様な顔をした中年の男は、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、後方から兵士(へいし)たちに向かってそう命じた。

「んなっ……。 ま、待って! まだ中に、こんなに大勢(おおぜい)の女の子たちが居るのが見えないのか! 彼女たちを見殺(みごろ)しにする気か!」

その言葉を聞いたエルトシャンは、驚愕(きょうがく)の表情を浮かべ、指揮官(しきかん)と思われる男に向かって(さけ)ぶ。

我々(われわれ)は、人質(ひとじち)全員(ぜんいん)(たす)けよと言うな命令(めいれい)は、受けていない」

指揮官(しきかん)と思われる男は、エルトシャンに淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言い返す。

((くる)ってる!)

エルトシャンは、心の中でそう(つぶや)くと、顔を青くした。

「やれ!」

指揮官(しきかん)と思われるその男は、攻撃(こうげき)するべきか戸惑(とまど)っている兵士(へいし)たちに向かって、無情(むじょう)にもそう言い放った。

「し、しかし……。 中にはまだ、生徒(せいと)たちが……」

「このまま発砲(はっぽう)しては、彼女たちにも当たってしまいます」

近くに居た兵士(へいし)たちが、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、指揮官(しきかん)と思われる男に言い返す。

(かま)わん。 やれ」

指揮官(しきかん)と思われる男は、冷ややかな口調(くちょう)で、戸惑(とまど)兵士(へいし)たちにそう命じる。

()めろ――――っ!」

エルトシャンの(さけ)び声が(ひび)く中、メインホール内に(いく)つもの(かわ)いた銃声(じゅうせい)の音が鳴り響き、残された生徒(せいと)たちの悲鳴(ひめい)が上がる。


 辺りに硝煙(しょうえん)火薬(かやく)(にお)いが(ただよ)う……。

 (あわ)れ、ロナードは生徒(せいと)たちと賊たちと(とも)(はち)()に……と思われたが、どう言う訳か、兵士(へいし)たちが放った弾丸(だんがん)(すべ)て、見えない空気の(かべ)(はば)まれ、空中で止まっている。

「なっ……」

「ど、ど、どうなって……」

目の前の出来事(できごと)兵士(へいし)理解(りかい)出来ず、呆然(ぼうぜん)とした様子(ようす)(つぶや)く。

「あ、アンタ……」

ロナードの背中に銃口(じゅうこう)を突き付けていた、赤みがかった茶色の長い髪を有した人物は、メインホールの中にいた全員(ぜんいん)弾丸(だんがん)の雨から守った彼に、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、そう声を掛ける。

「この外道(げどう)がっ!」

ロナードは(いきどお)りを(かく)せない様子(ようす)で、兵士(へいし)たちと、彼等(かれら)を指揮していた男に向かって(さけ)んでから、自分の背中に銃口(じゅうこう)を突き付けていた、赤みがかった茶色の長い髪を有した人物に向かって、

「お前たちとは一時(いちじ)休戦(きゅうせん)だ。 この性根(しょうね)まで(くさ)った木偶(でぐ)どもをぶっ飛ばすのが先だ。 戦闘(せんとう)に巻き込まれたく無ければ全員、(おれ)の後ろにいろ。」

背中に銃口(じゅうこう)を突き付けられているというのに、(おそ)ろしく落ち着いた口調(くちょう)で言うと、兵士(へいし)たちに敵意(てきい)()き出しのロナードを見て、赤みがかった茶色の長い髪を有した人物は、その雰囲気(ふんいき)圧倒(あっとう)され、戸惑(とまど)いながらも(うなず)き返し、思わず銃口(じゅうこう)を下ろした。

「お前たちに、八つ()きか、消し(ずみ)か、好きな方を(えら)ばせてやる」

ロナードは、自分の前にいる、治安(ちあん)部隊(ぶたい)兵士(へいし)たちに向かって、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言うと、

「ちょ、ちょっと待って! (ぼく)は、どちらも御免(ごめん)だよ!」

エルトシャンが、動揺(どうよう)している兵士(へいし)たちを()き分け、そう言いながら、(あわ)てた様子(ようす)でロナードの前に歩み出てきた。

「エルトシャン」

自分の前に歩み出て来エルトシャンの無事(ぶじ)姿(すがた)を見て、ロナードはそう呟くと、ホッとした表情を浮かべる。

「けどさぁ。 流石(さすが)に消し(ずみ)はマズイんじゃない?」

エルトシャンはロナードの(となり)に来ると、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、彼に言った。

「知るか。 消し(ずみ)になるかどうかは、コイツ()次第(しだい)だ」

ロナードは、自分達と対峙(たいじ)している、治安(ちあん)部隊(ぶたい)兵士(へいし)たちを見据(みす)えたまま、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言い返す。

「あ~あ~。 後で山の様に始末書(しまつしょ)を書かされても、(ぼく)は知らないよ?」

エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、ロナードに言った。

「やっちゃえ~っ!」

何時(いつ)の間にか、ロナードの側にアルシェラがやって来て、兵士(へいし)たちに向かって(こぶし)()き出し、(えら)そうにロナードに言っている。

「……アルシェラ。 お前、後でみっちり説教(せっきょう)してやるから、覚悟(かくご)してろよ?」

それに気付いたロナードは、ジロリと彼女を(にら)み付け、ドスの利いた声で言うと、

「えっ……」

アルシェラはそう(つぶや)き、恐怖(きょうふ)に顔を引き()らせ、顔を青くして、その場に固まってしまった。

「あははは。 昨日(きのう)、君が面白(おもしろ)がってそこら中に、ロナードの香水(こうすい)()()いた事、相当(そうとう)(おこ)ってるみたいだね」

アルシェラの反応(はんのう)を見て、エルトシャンは声を上げて笑いながら言うと、それを聞いたロナードは(ひたい)青筋(あおすじ)を浮かべ、(さら)(いか)りに満ちた表情を浮かべて、彼女を思い切り(にら)んでいる。

「なに、余計(よけい)な事をロナードに言ってるのよぉ!」

アルシェラは激怒(げきど)し、声を(あら)らげて、エルトシャンにそう言うと、彼は反省(はんせい)する様子(ようす)も無く、肩を(すく)めながら、

(ぼく)が言わなくたって、後で香水(こうすい)の減り具合(ぐあい)をみれば、直ぐに分かる事でしょ」

(いきどお)っているアルシェラに、意地悪(いじわる)く言い返した。

「さて。 覚悟(かくご)は決まったか?」

ロナードは淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、目の前にいる兵士(へいし)たちに問い掛ける。

(かか)れ―――っ!」

指揮官(しきかん)と思われる男が、兵士(へいし)たちにそう命じると、それまで戸惑(とまど)っていた兵士(へいし)たちはハッとして、(あわ)てて(じゅう)(かま)える。

 だが次の瞬間(しゅんかん)、ロナードが片手(かたて)で前方を()ぎ払う様な仕草(しぐさ)をした途端(とたん)何処(どこ)からか物凄(ものすご)突風(とっぷう)が吹き()れ、前方にいた兵士(へいし)たちを吹き飛ばしてしまった。

「んなっ……」

それを見た指揮官(しきかん)と思われる男は、目を丸くする。

「今のは、ほんの挨拶(あいさつ)だ。 次は本気でいく」

淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、兵士(へいし)たちに言うロナードの手に、紅蓮(ぐれん)(ほのお)()らめいているのが見えた。

「ほらほら。 (いそ)いで()げないと、今度はバーベキューにされるよ?」

エルトシャンが不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら、兵士(へいし)たちに向かって言っていると、ロナードの足元から(いきお)い良く炎の(はしら)()い上がる。

「うわあああ!」

「ま、マズイ」

()げろ!」

ロナードの手に(ほのお)()らめいているのを見て、兵士(へいし)たちは青い顔をして(つぶや)く。

「て、て、て、撤退(てったい)!」

指揮官(しきかん)と思われる男も、(あわ)てて兵士(へいし)たちに向かってそう(さけ)ぶと、兵士(へいし)たちは我先(われさき)にと、メインホールから逃げ出す。

 一息(ひといき)(おく)れて、ロナードが片手(かたて)兵士(へいし)たちがいる、入り口の方へと向けると、火炎(かえん)放射(ほうしゃ)の様に紅蓮(ぐれん)(ほのお)(うず)を巻きながら、兵士(へいし)たちの方へと()り出された。

「あちっ! あちっ!」

「ひ―――っ」

「マジで、やって来やがった!」

()(おく)れた兵士(へいし)たちは、自分の髪や服、(しり)などに引火(いんか)した火を、そう言いながら、両手で(あわ)てて消している。

「何をしておるか!」

(さわ)ぎを知ったカタリナ王女が、親衛隊(しんえいたい)たちとケルベロスの(のこ)りのメンバー達を引き()れ、やって来た。

「で、殿下(でんか)

何故(なぜ)ここに……」

突然(とつぜん)のカタリナ王女の登場(とうじょう)に、兵士(へいし)たちは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、(つぶや)く。

危険(きけん)です殿下(でんか)。 中に凶暴(きょうぼう)魔術師(まじゅつし)が……」

指揮官(しきかん)兵士(へいし)が、(あせ)りの表情を浮かべ、カタリナ王女にそう説明している所に、メインホールの中にいた(はず)のロナードが(あらわ)れたので、兵士(へいし)たちは恐怖(きょうふ)に顔を引き()らせ、思わず後退(あとずさ)りをする。

「お前は?」

カタリナ王女は、ロナードを見るなり、戸惑(とまど)いの表情を浮かべながら問い掛ける。

「えっ……。 彼の事をご(ぞん)じ無いのですか?」

カタリナ王女の反応(はんのう)を見て、エルトシャンは戸惑(とまど)いの表情を浮かべつつ、彼女に問い掛けると、

「うん?」

カタリナ王女は、キョトンとした表情を浮かべる。

「彼が、殿下(でんか)伯父上(おじうえ)が呼び寄せたロナードです」

戸惑(とまど)いなからもエルトシャンがそう言うと、

「ほう。 お前がそうか。 随分(ずいぶん)と良い(つら)(がま)えになったな」

エルトシャンの説明を受けると、カタリナ王女はまるで品定(しなさだ)めでもする様に、一頻(ひとしき)りロナードを見回してから、不敵(ふてき)な笑みを浮かべながら、彼を真っ直ぐ見据(みす)えて言った。

「アンタは?」

ロナードは、自分を見据(みす)え、不敵(ふてき)な笑みを浮かべているカタリナ王女に向かって言うと、それを聞いたエルトシャンが慌てた様子(ようす)で、

「何を言ってるんだよ! カタリナ殿下(でんか)だよ! この国の王女の!」

ロナードにそう説明すると、それを聞いた彼は特に(おどろ)く訳でも、(あわ)てる訳でも無く、静かに彼女を見据(みす)え、

随分(ずいぶん)(おそ)いお出ましだな」

ロナードは落ち着き払った口調(くちょう)で、カタリナ王女に言うと、

「コイツ(とう)が出発に手間取(てまど)ってな。 で、(ぞく)何処(どこ)だ?」

彼女は自分の後方に控えている、親衛隊(しんえいたい)たちへと目を向けながら、ロナードに言った。

(おれ)の魔術を目の当たりにして、すっかり戦意(せんい)喪失(そうしつ)して投降(とうこう)したぞ」

ロナードは、すっかり自分に(おび)えている兵士(へいし)たちを見ながら、落ち着き払った口調(くちょう)で、カタリナ王女に報告(ほうこく)した。

「そうか。 大儀(たいぎ)だったな」

カタリナ王女は、落ち着き払った口調(くちょう)でロナードに言うと、彼の下へと歩み寄ると、(ねぎら)う様に、ポンポンと彼の肩を(たた)く。

「そこの馬鹿(ばか)たちが、考え無に()っ込んで来た所為(せい)で、生徒(せいと)が一人、犠牲(ぎせい)になった」

ロナードは、治安(ちあん)部隊(ぶたい)兵士(へいし)たちの方へ目を向けつつ、カタリナ王女にそう語る。

「そーなんですよぉ。 聞いて下さい。 カタリナ様。 ホールの中にまだ私たちが居たのにぃ、この兵士(へいし)たち、(ぞく)一緒(いっしょ)にアタシ達まで()(ころ)そうとしたんですよぉ。 マジで(しん)じられない」

メインホールの中から、(とら)えられていた生徒(せいと)たちと共に出て来たアルシェラが、不満(ふまん)そうな表情を浮かべながら、カタリナ王女に言った。

「なんだと? この者が言う事は事実(じじつ)か?」

カタリナ王女はそう(つぶや)くと、ギロリと治安(ちあん)部隊(ぶたい)兵士(へいし)たちを(にら)み付ける。

「ひっ……。 あ、いいえ。 その……」

兵士(へいし)は、彼女の有無(うむ)も言わせる迫力(はくりょく)()され、恐怖(きょうふ)に顔を引き()らせながら口籠(くちごも)る。

此方(こちら)魔術師(まじゅつし)の方は、止める様に言ったのにも関わらずです!」

「この人が魔法で(わたくし)たちを守ってくれなければ、私たちは(みんな)大怪我(おおけが)をしているか、死んでいます」

「悪いのは、治安部隊(ちあんぶたい)の人たちで、この魔術師(まじゅつし)さんではありません」

アルシェラの取り巻きたちもそう言って、彼女を援護(えんご)する。

 治安(ちあん)部隊(ぶたい)兵士(へいし)たちは一様(いちよう)に、バツの悪そうな顔をして、カタリナ王女やロナードたちと目を合わそうとしない。

「彼女たちの証言(しょうげん)は、(ぼく)()(しょう)します。 ロナードが居なかったら、もっと多くの生徒(せいと)たちが犠牲(ぎせい)になるところでした」

エルトシャンも真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、カタリナ王女に言った。

「何と言う事だ……」

それを聞いて、カタリナ王女は(ひたい)片手(かたて)()え、顔を青くして(つぶや)いてから、

()隊長(たいちょう)(ただ)ちに()べ」

カタリナ王女は、近くに居た親衛隊(しんえいたい)にそう言った後、

(ほか)の者は、(ぞく)捕縛(ほばく)と、(とら)えられていた生徒(せいと)たちの解放(かいほう)怪我人(けがにん)の手当に行け」

落ち着き払った口調(くちょう)で、自分の後ろに(ひか)えていた、(のこ)親衛隊(しんえいたい)たちと、(ほか)のケルベロスのメンバー達に向かってそう命じた。

怪我(けが)は無いか?」

カタリナ王女は、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでロナードに問い掛ける。

「コイツ等の所為(せい)(きも)を冷やしたが、見ての通りだ」

ロナードはチラリと、(ぞく)たち諸共(もろとも)自分たちも()(ころ)そうとした、治安(ちあん)部隊(ぶたい)兵士(へいし)たちを見ながら、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で答えた。

(治安(ちあん)部隊(ぶたい)がした事に相当(そうとう)(おこ)ってるね。 まあ、(ぼく)もだけど)

ロナードが何時(いつ)になく、気が立っているのを見て、エルトシャンは心の中でそう(つぶや)くと、自分たちを(ころ)そうとしていた治安(ちあん)部隊(ぶたい)兵士(へいし)たちへと目を向ける。

「お前が一人で乗り込んだと聞いて(あせ)ったぞ。 無茶(むちゃ)な事をする」

カタリナ王女は苦笑(にがわら)いを浮かべながら言うと、ロナードの服についていた(ほこり)を、手で軽く(たた)き落とし、持っていたハンカチで、返り血が付いた彼の(ほお)(やさ)しく(ぬぐ)ってから、

「だが、良くやってくれた」

満足(まんぞく)そうな笑みを浮かべ、ロナードの肩をポンポンと軽く(たた)いた。

「アンタも、こんな馬鹿(ばか)たちの上に立たねばならないとは、大変だな」

ロナードは、治安(ちあん)部隊(ぶたい)兵士(へいし)たちを(にら)んだまま、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)でカタリナ王女に言った。

「そう思うのなら、しっかり(わたし)()くせ。 オルゲンばかり苦労(くろう)はさせられんだろう?」

カタリナ王女は、苦笑(にがわら)いを浮かべながらロナードに言うと、

「努力はするつもりだ」

ロナードは淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で、カタリナ王女に言い返すと、

「少なくとも今回は、上出来(じょうでき)と言って良いだろう」

彼女はニッと笑みを浮かべ、ロナードに言うと、ポンポンと彼の肩を軽く(たた)いた。


「アタシは(そそのか)されただけよ!」

(ほか)の仲間たちと(とも)に後ろ手にされ、ロープに(しば)られて、メインホールから出て来た、赤みがかった茶色の長い髪を有した、今回の襲撃(しゅうげき)事件(じけん)主犯(しゅはん)(かく)と思われる人物は、そう(さけ)ぶ。

適当(てきとう)な事を言うな!」

彼の(そば)に居た兵士(へいし)怒鳴(どな)り付け、持っていた(じゅう)()で、彼のこめかみ辺りを思い切り(なぐ)った。

 思い切り(なぐ)られ、赤みがかった茶色の長い髪を有した人物は、その場に倒れ込んだ。

「ボス!」

「テメェ! 何しやがる!」

それを見た、赤みがかった茶色の長い髪を有した人物の仲間たちが、表情を(けわ)しくし、彼を(なぐ)った兵士(へいし)に向かって怒鳴(どな)る。

「本当だよ! お願いだから、アタシの話を聞いて頂戴(ちょうだい)

赤みがかった茶色の長い髪を有した人物は身を起こし、髪を()(みだ)しながら、周りに居た兵士(へいし)達に必死(ひっし)にそう(うった)える。

「何の(さわ)ぎだ?」

少し(はな)れた場所に居て、親衛隊(しんえいたい)たちを連れて引き上げようとしていたカタリナ王女が、赤みがかった茶色の長い髪を有した人物の(さけ)び声を聞いて、思い切り眉間(みけん)を寄せ、(つぶや)く。

(そそのか)された、何だのと……言っている様です」

治安(ちあん)部隊(ぶたい)を指揮していた男がそう言うと、カタリナ王女は何を思ったのか、赤みがかった茶色の長い髪を有した人物の方へと歩を進め、彼の周囲(しゅうい)に居た兵士(へいし)たちを()退()け、

「その話、この(わたし)が今ここで(くわ)しく聞いてやろう」

カタリナ王女は、赤みがかった茶色の長い髪を有した人物に、落ち着き払った口調(くちょう)で言った。

駄目(だめ)よ! 王女さま。 アタシの(そば)に来ちゃ駄目(だめ)だ!」

赤みがかった茶色の長い髪を有した人物は、何かに気付いた様にハッとした表情を浮かべ、(ひど)(あわ)てた様子(ようす)で、自分の(そば)へ歩み寄ろうとしたカタリナ王女に向かって(さけ)ぶ。

可笑(おか)しな事を言う。 王女である(わたし)(みずか)ら、お前の言い分を聞いてやると言っているのだぞ?」

カタリナ王女は苦笑(にがわら)いを浮かべ、赤みがかった茶色の長い髪を有した人物にそう言って、彼の方へと歩み寄ろうとした時、

「ダメ――っ!」

殿下(でんか)!」

赤みがかった茶色の長い髪を有した人物の(さけ)び声と、エルトシャンの危機(きき)(せま)る声、そして(かわ)いた銃声(じゅうせい)が辺りに(ひび)いた。

 カタリナ王女は、弾丸(だんがん)の様に駆け付けたエルトシャンに思い切り横へと突き飛ばされ、思い切り地面の上に(ころ)がったが、ハッとした表情を浮かべ、(あわ)てて身を起こした。

 見ると、少し(はな)れた所に、自分を思い切り()き飛ばしたエルトシャンが、地面の上に倒れていた。

 周囲(しゅうい)は、水を打った様に(しず)まりかえっている。

「エルトシャン!」

「エルト!」

近くに居たロナードとアルシェラが、悲鳴(ひめい)に近い声を上げ、倒れている彼の下へと駆け寄る。

「にゃろう!」

カタリナ王女が先程(さきほど)まで立っていた場所の対角(たいかく)線上(せんじょう)になる建物(たてもの)屋根(やね)の上に、日の光に反射(はんしゃ)して何かがキラッと光り、それを持って(あわ)ててその場から立ち上がる人影(ひとかげ)を見付けたレックスはそう(さけ)ぶと、その人物を(つか)まえようと、その場から()け出す。

「どうしたんだい?」

それを見たシャーナが(おどろ)いて、レックスにそう声を掛けると、

()ったのは、アイツだ!」

レックスは、建物(たてもの)屋根(やね)の上で何かを(かか)えて、走って()げている人影(ひとかげ)指差(ゆびさ)しながら、シャーナに()げると、

「アタシに(まか)せな!」

シャーナはそう言うと、力強(ちからづよ)地面(じめん)()り大きく跳躍(ちょうやく)すると、素早(すばや)建物(たてもの)の側に立っている木へと飛び(うつ)り、まるで(ねこ)の様に素早(すばや)く屋根の上へと移動(いどう)すると、レックスが言う(あや)しい人影(ひとかげ)の後を追いかける。

「しっかりしろ!」

カタリナ王女は(あわ)てふためき、自分を(かば)って銃撃(じゅうげき)を受け、倒れているエルトシャンの体を()き起す。

 銃弾(じゅうだん)は、エルトシャンの右の背面(はいめん)上腕部(じょうわんぶ)(あた)りから入り、右の鎖骨(さこつ)よりも少し下の辺りに貫通(かんつう)しており、(おびただ)しい量の血が(したた)り、エルトシャンの顔からはすっかり血の気が失せ、(いた)みに顔を(ゆが)めている。

(だれ)か早く止血を!」

カタリナ王女は、エルトシャンの傷口(きずぐち)を手で押さえつつ、鬼気(きき)(せま)る表情を浮かべ、近くに居た者たちに向かって(さけ)ぶ。

退()け!」

ロナードがそう言って、近くに居た兵士(へいし)たちを()し退け、(すべ)り込む様にして、エルトシャンの側に(ひざまず)くと、自分が羽織(はお)っていた上着(うわぎ)(そで)()き、それをエルトシャンの傷口(きずぐち)に押し当て、止血(しけつ)(こころ)みる。

「エルト……。 エルト……。 エルト……」

アルシェラは、自分に近しいエルトシャンが血を流し、グッタリしている姿を見て、すっかり動転(どうてん)して、顔面蒼白(がんめんそうはく)でそう(つぶや)きながら、小刻(こきざ)みに体を(ふる)わせている。

「アルシェラっ! 治癒(ちゆ)魔法(まほう)!」

そんな彼女に向かって、ロナードが怒鳴(どな)りつける。

「えっ……」

突然(とつぜん)、ロナードに怒鳴られ、彼女は茫然(ぼうぜん)とした表情を浮かべながら呟く。

「早く!」

ロナードは表情を険しくし、強い口調(くちょう)動揺(どうよう)している彼女に向かって叫ぶ。

「む、む、無理……」

アルシェラは顔面蒼白(がんめんそうはく)のまま、首を左右に振り、今にも泣きそうな顔をして、ロナードに言い返す。

「良いから!」

ロナードは、すっかり怖気(おじけ)づいているアルシェラに向かって叫ぶ。

無理(むり)……」

アルシェラは、足をと声を(ふる)わせ、泣きそうになりながら言い返す。

「エルトシャンを(ころ)す気か!」

ロナードは、鬼気(きき)(せま)る表情を浮かべ、止血(しけつ)の為に押さえいる自分の手がエルトシャンの血で真っ赤になっているのも(かか)わらず、アルシェラに向かって怒鳴(どな)る。

「姫……」

血を流しているエルトシャンを前にして、足が(ふる)えて動けなくなっているアルシェラを見て、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら(つぶや)く。

「良いから、(おれ)の言う通りにしろ! 早く!」

ロナードは鬼気迫(ききせま)る表情を浮かべたまま、立ち尽くしているアルシェラに向かって叫ぶ。

「行こう。 姫」

見かねたレックスが、アルシェラにそう声を掛けると、(ふる)えている彼女の手を取り、血塗(ちまみれ)れになって倒れているエルトシャンの(かたわ)らへと連れて行く。

「手を、エルトシャンの上に置け」

ロナードは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、エルトシャンの止血(しけつ)をしながら、側に来たアルシェラに言うと、彼女は小刻(こきざ)みに(ふる)えている手をエルトシャンの上に乗せた。

(おれ)が言った言葉をそのまま言え」

ロナードは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでアルシェラに言うと、彼女は顔面蒼白(がんめんそうはく)のまま、小さく(うなず)き返した。

 ロナードは落ち着いた口調(くちょう)で、聞き()れぬ言葉を口ずさみ始めると、アルシェラが少し(おく)れて、同じ言葉を(つむ)ぐ。

 すると、アルシェラの手から(かす)かに水色の光がポウと(あらわ)れた。

(良いぞ!)

それを見て、(そば)にいたレックスが心の中で(つぶや)く。

 アルシェラの(てのひら)から(あらわ)れた水色の光は、少しずつ大きくなっていき、エルトシャンの傷口を(おお)(ほど)の大きさになっていた。

 これまで何度かアルシェラは、セシアに水の魔法(まほう)(なら)い、治癒(ちゆ)魔法(まほう)練習(れんしゅう)もしてきたのだが、今まで一度も成功(せいこう)した事が無かった。

 セシアが言うには、治癒(ちゆ)魔法(まほう)は、(きず)の大きさや深さによって、一定(いってい)時間(じかん)、そこに魔力(まりょく)(そそ)ぎ込む作業(さぎょう)必要(ひつよう)なのだが、アルシェラは魔力(まりょく)にムラがあり、安定(あんてい)した状態(じょうたい)で一か所に(とど)めておく事が出来る(ほど)の集中力と技量(ぎりょう)が無い(ため)傷口(きずぐち)(ふさ)がる前に術が消えてしまうらしい。

 ロナードは真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、エルトシャンの傷口(きずぐち)の上に手を(かざ)しているアルシェラの手を(にぎ)りしめ、一緒(いっしょ)に術の詠唱(えいしょう)を繰り返しているお(かげ)か、今まで一度も成功(せいこう)しなかったアルシェラの治癒(ちゆ)魔法(まほう)が、維持(いじ)されている。

 (しばら)く、魔法による治療(ちりょう)を続けていると、(いき)()()えだったエルトシャンの呼吸(こきゅう)安定(あんてい)し、彼から流れ出ていた血も止まり、顔色も良くなってきた。

「うう……。 二人とも……。 もう、大丈夫(だいじょうぶ)……だから……」

エルトシャンは、(かす)れた声でそう言うと、自分の傷口(きずぐち)の上に手を(かざ)していた二人の手のをそっと(にぎ)った。

「うええええっ~。 エルトぉ~。」

エルトシャンの声を聞いて、それまで無心(むしん)で術の詠唱(えいしょう)をしていたアルシェラが、ボロボロと両目から大粒(おおつぶ)(なみだ)を流し、声を上げて泣き出すと、フッと彼女の(てのひら)から出ていた水色の光が消えてしまった。

 すると、(ひたい)(たき)の様に(あせ)を流していたロナードが、フッと糸が切れた様に、そのまま横に倒れ込みそうになったのを、(そば)で見守っていたカタリナ王女が(あわ)てて()き止めた。

(え? え? どういう事だよ?)

それを見て、レックスは戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、(つら)そうな顔をしているロナードの方へと目を向ける。

 良く見てみると、アルシェラは術を使ったにも関わらず、(つか)れた様子(ようす)も無く、ケロッとしている。

「ロナードがずっと、自分の魔力(まりょく)をアタシに流し込んで、魔力(まりょく)をコントロールしてくれてたの」

アルシェラが、何故(なぜ)ロナードが、こんなに疲弊(ひへい)しているのか理解(りかい)出来(でき)ずにいたレックス達に向かって、落ち着いた口調(くちょう)で言った。

「そう言う事かよ……」

彼女の説明を聞いて、レックスは苦笑(にがわら)いを浮かべ、思わずそう(つぶや)いた。

「つまり、お前はロナードの魔力(まりょく)()りて、治癒(ちゆ)魔法(まほう)(ほどこ)していた……と言う事か?」

カタリナ王女は戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、アルシェラに問い掛けると、彼女は(うなず)き返し、

「じゃなきゃアタシ、こんなに長く術を使えないもん」

()()かドヤ顔でそう言った。

「そんな事、出来るのかよ……」

レックスは、戸惑いの表情を浮かべながら呟くと、

魔術(まじゅつ)の事は良く分からんが、出来たのだから、可能(かのう)なのだろうな……」

カタリナ王女も、戸惑(とまど)いを(かく)せない様子(ようす)で言った。

「え……。 (ぼく)結局(けっきょく)、ロナードに助けられた感じ?」

エルトシャンは、戸惑いの表情を浮かべながら、そう問い掛けると、

「アタシが、エルトを助けたの! ア・タ・シ・が!」

アルシェラは、自分の胸元(むなもと)片手(かたて)()え、ドヤ顔でそう言うが、

「……(おれ)が居なければ、何も出来てないだろ。 アンタ」

カタリナ王女に体を(ささ)えらたれ格好(かっこう)のロナードは、(ひど)く疲れた表情を浮かべたまま、冷ややかな口調(くちょう)でアルシェラに言い放った。

(やっぱ、そうなのかよ。 じゃねぇと、練習(れんしゅう)失敗(しっぱい)(つづ)きだった事が、いきなり出来る様になる訳ねぇもんな……)

レックスは、チラリとアルシェラを見ながら、心の中で(つぶや)いた。

「っさいわね! そんな(こま)かい事はどうだって良いでしょ!」

アルシェラはムッとした表情を浮かべ、苛立(いらだ)った口調(くちょう)でロナードに言い返す。

「いやいやいや……。 そこ、重要(じゅうよう)だと思うけど?」

エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、アルシェラにそう言って突っ込む。

「っさいわね!」

アルシェラは苛立(いらだ)った様子(ようす)で、強い口調(くちょう)でエルトシャンに言う。

五月蠅(うるさ)いのはアンタだろ……」

ロナードは、ゲンナリした表情を浮かべ、(つか)れた様な声で言った。

「ま、まあ……。 助かったから良かったじゃねぇかよ」

レックスは苦笑(にがわら)いを浮かべながら、下らない事で言い(あらそ)っている二人に向かって言った。


殿下(でんか)。 また狙撃(そげき)を受ける危険(きけん)もあります。 安全が確保(かくほ)されるまで、こちらへどうぞ」

治安(ちあん)部隊(ぶたい)指揮官(しきかん)の男は、カタリナ王女にそう言ってから、

怪我(けが)人を安全な場所へ移動(いどう)させる。 担架(たんか)を用意しろ」

近くに居た兵士(へいし)たちにそう命じる。

貴方(あなた)も、休んで下さい」

治安(ちあん)部隊(ぶたい)指揮官(しきかん)の男は、ロナードの(そば)に来てそう声を掛けて来た瞬間(しゅんかん)、彼の(すそ)の下に、何かがキラリと光る事に気付いたレックスはハッとして、

「あぶねぇ! ロナードっ!」

とっさに、ロナードに向かって叫ぶ。

 レックスの叫び声にロナードはハッとしたが、(すで)に彼の()()いに治安(ちあん)部隊(ぶたい)指揮官(しきかん)の男が入り、反応(はんのう)出来(でき)ずにいると、突如(とつじょ)(だれ)かが素早(すばや)く自分の前に現れたと思った途端(とたん)、ロナードは(いきお)い良く後ろに押し倒され、彼を支えていた王女も横にスッ(ころ)んだ。

 半秒(はんびょう)(おく)れて、周囲(しゅうい)に居た王女の親衛隊(しんえいたい)たちの怒鳴(どな)声がした。

 ロナードは(いきお)い良く背中を打ち付け、思わず(うめ)き声を上げ、(いた)みに顔を(ゆが)めたが、()ぐにハッとして、自分の上に(おお)(かぶ)さった相手(あいて)を見る。

 ちょっと目尻(めじり)が吊り上った青色の双眸(そうぼう)、短く切り(そろ)えられた青色の短髪(たんぱつ)、両耳には金色(きんいろ)のリングピアス、良く日に焼けた赤銅(しゃくどう)(しょく)(はだ)の青年……。

「……か」

苦痛(くつう)に顔を(ゆが)ませたレックスの顔が、直ぐ目の前にあり、彼はそのまま、茫然(ぼうぜん)としているロナードに()き付く様な形で(もた)れ掛かって来た。

「レックス!」

ロナードは悲痛(ひつう)に満ちた声で(さけ)ぶと、(あわ)てて自分の上で、顔面(がんめん)蒼白(そうはく)で動けずにいるレックスの下から()い出る。

 彼の胸元(むなもと)には、レックスから流れ出たと思われる、鮮血(せんけつ)がベッタリと付いていた。

「くそっ!」

それを見て、ロナードは苦々(にがにが)しい表情を浮かべ、レックスの上半身(じょうはんしん)を抱き起すと、思い切り彼の(みぎ)(こし)()さっている短剣(たんけん)を引き()く。

「うぐっ……」

レックスの苦痛(くつう)に満ちた声が上がる。

「レックス!」

アルシェラが血相(けっそう)を変えて、レックスの下へと()け寄ると、自分が持っていたハンカチを彼の傷口(きずぐち)に当てるが、真っ白なハンカチはみるみる赤く()まり、レックスの顔からみるみる血の気が()せていく。

 ロナードが、ハンカチの上から傷口(きずぐち)力一杯(ちからいっぱい)に押え付け、止血(しけつ)(こころ)みているが、血は一向(いっこう)に止まる様子(ようす)は無く、レックスはロナードに身を(あず)ける様な形で、グッタリしている。

 その(かたわ)らで、ロナードを(おそ)おうとした、治安(ちあん)部隊(ぶたい)指揮官(しきかん)の男が、王女の親衛隊(しんえいたい)たちに、両腕を()じり上げられ、地面の上に取り押さえられていた。

殿下(でんか)。 ここは危険(きけん)です! お下がりください」

周囲(しゅうい)警戒(けいかい)しながら、カタリナ王女を守る様にして背を向けている親衛隊(しんえいたい)たちの一人が、表情を(けわ)しくしてそう言った。

「お早く!」

別の親衛隊(しんえいたい)の一人も(けわ)しい表情を浮かべ、カタリナ王女の腕を(つか)み、彼女を立ち上がらせる。

貴方(あなた)たちも!」

近くに居たロナード達に、王女の親衛隊(しんえいたい)がそう声を掛ける。

「早く中に!」

先行(せんこう)していた王女の親衛隊(しんえいたい)が、近くの教室に(だれ)もいない事を確認すると、カタリナ王女たちに向かって(さけ)ぶ。

 ()れない事をして、(いちじる)しく消耗(しようもう)しているロナードは、近くに居た王女の親衛隊(しんえいたい)に手を()り、彼を(かば)って負傷したレックスは、別の親衛隊(しんえいたい)(かか)え上げ、アルシェラが心配そうに付き()ってい、急いで教室内に移動(いどう)する。

 少し(おく)れて、エルトシャンも担架(たんか)に乗せられて来た。

「どうやら、治安(ちあん)部隊(ぶたい)兵士(へいし)の中に、ベオルフ宰相(さいしょう)命令(めいれい)を受けた連中が、かなり(まぎ)れていてるみたいだ。 連中は、出張(でば)って来た王女さまを殺害(さつがい)する様に言われてるみたいだよ」

最初にカタリナ王女を屋根(やね)の上から狙撃(そげき)した人物を(とら)え、その人物をボコボコにして目的を聞き出していて、この(さわ)ぎを聞いて(もど)って来たシャーナが、状況(じょうきょう)を飲み込めていないカタリナ王女と彼女の親衛隊(しんえいたい)たち、そしてケルベロスのメンバーたちにそう()げる。

様子(ようす)可笑(おか)しいとは思ってたけど、そう言う事だったんだね……」

アルシェラが治癒(ちゆ)魔法(まほう)で軽く傷口(きずぐち)(ふさ)いだだけなので、傷が(いた)むのか、エルトシャンは時折(ときおり)顔を(しか)めながらも、応援(おうえん)に来た治安(ちあん)部隊(ぶたい)様子(ようす)可笑(おか)しい事を感じていた(ため)苦々(にがにが)しい表情を浮かべ、(つぶや)いた。

「まんまと、してやられた感じだな……」

ロナードも、苦々(にがにが)しい表情を浮かべながら(つぶや)く。

 そんな事を言っていると、治安(ちあん)部隊(ぶたい)の兵士たちが武器を手にゾロゾロと、彼等(かれら)が逃げ込んだ教室を包囲(ほうい)し始めた。

「どうする? 見た所、かなりの数だよ?」

それを、身を低くして窓から見ているシャーナは、治安(ちあん)部隊(ぶたい)兵士(へいし)たちの動きに警戒(けいかい)しながら、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、カタリナ王女たちに問い掛ける。

 カタリナ王女も、苦々(にがにが)しい表情を浮かべ、自分たちが立て()もっている教室に(せま)り来る兵士(へいし)たちを見ている。

「何で……」

不意(ふい)に、アルシェラから、か細い声が聞こえて来たので、エルトシャンたちは思わず、彼女の方へ振り返る。

 彼女は、ロナードと共に先程(さきほど)要領(ようりょう)で、レックスに治癒(ちゆ)魔法(まほう)での治療(ちりょう)(こころ)みていたのだが……。

「血が止まらない……」

アルシェラと共に、レックスに治癒(ちゆ)魔法(まほう)(ほどこ)していたロナードは、顔面(がんめん)蒼白(そうはく)(つぶや)く。

「何だって?」

シャーナは表情を(けわ)しくして言うと、床の上に横たわっているレックスの側へ歩み寄り、(おもむろ)に彼の体を動かすと、彼が受けた背中の傷口(きずぐち)が変色しているのを発見(はっけん)し、(くや)しそうな表情を浮かべ、

下衆(げす)がっ!」

彼女が突然(とつぜん)(いか)りを(あら)わにして(さけ)んだので、カタリナ王女やエルトシャン達は(おどろ)いた顔をして彼女を見る。

最悪(さいあく)だよ! アイツ、相手(あいて)確実(かくじつ)仕留(しと)める(ため)に、()に血が固まるのを阻害(そがい)する毒物(どくぶつ)()ったくってやがった!」

シャーナは、事情(じじょう)が呑み込めていない者たちに向かって、表情を(けわ)しくして説明すると、それを聞いたロナードは、自分が(ねら)われていた事を思い出し、ゾッとした。

「何だと?」

シャーナの言葉を聞いて、カタリナ王女は驚愕(きょうがく)の表情を浮かべ、(つぶや)く。

「だからまず、その毒を中和(ちゅうわ)しないと、(いく)治癒(ちゆ)魔法(まほう)を使っても、()して効果(こうか)が無いんだ」

シャーナは、苦々(にがにが)しい表情を浮かべながら、そう語った。

「そんな……」

アルシェラは、今にも泣きそうな顔をして(つぶや)き、その(かたわ)らに居るロナードも、どうして良いのか分からないようで、(ひど)(どう)(よう)している。

 レックスは顔面(がんめん)蒼白(そうはく)で、(つら)そうに顔を(ゆが)め、苦しそうに呼吸(こきゅう)を繰り返しているだけで、床の上に力なく横たわっており、思いの傷が深く、失血(しっけつ)(ひど)い様で、意識も(すで)朦朧(もうろう)としている様だ。

(あのクソ(からす)! なにモタモタしてんだよ!)

シャーナは、重篤(じゅうとく)状態(じょうたい)のレックスを見ながら、苛立(いらだ)った表情を浮かべ、心の中でそう(つぶや)いていると、(つい)にベオルフ宰相(さいしょう)(いき)が掛った兵士(へいし)たちが、一斉(いっせい)にこちらへ発砲(はっぽう)して来た。

 ヒステリックに窓ガラスが()れる音共に、硝子(がらす)破片(はへん)が辺りに散乱(さんらん)する。

「くそっ! (つい)()って来た!」

王女の親衛隊(しんえいたい)が、苦々(にがにが)しい表情を浮かべながら(つぶや)いていると、反対(はんたい)側の裏庭(うらにわ)に面した方にも、(すで)兵士(へいし)が回り込んで来ており、廊下に面した窓ガラスも、(はげ)しい銃弾(じゅうだん)の音共に、ヒステリックな音を立てながら、廊下の上に(くだ)()っている。

「キャ―――っ」

アルシェラは、銃声(じゅうせい)と共に硝子(がらす)が次々と割れる音に恐怖(きょうふ)し、両目に(なみだ)を浮かべ、悲鳴(ひめい)を上げ、両手で自分の両耳を(ふさ)ぎ、その場に(うずくま)り、(ふる)えて居る彼女を(かば)う様に、側にいたシャーナが(おお)(かぶ)さる。

 ロナードは表情を(けわ)しくし、とっさに側に横たわって動けないレックスを飛び()るガラス(へん)から(かば)う様に、彼の上に(おお)(かぶ)さった。

「王女さま! 何とかしないと全員ここで(はち)()だよ! レックスだって助からない!」

シャーナも身を(かが)めたまま、危機(きき)(せま)る表情を浮かべ、カタリナ王女に向かって大声で(さけ)ぶ。

 (しばら)くして、(たま)装填(そうてん)する(ため)か、銃声(じゅうせい)が止まった。

「今の内に、(てき)に気付かれぬ様、別の教室へ移動(いどう)しましょう」

カタリナ王女の親衛隊(しんえいたい)が、(そば)に居た王女にそう声を掛けると、彼女は真剣(しんけん)面持(おもも)ちで(うなず)き返す。

「出て来いカタリナ! そうすれば、(ほか)の連中は見逃(みのが)してやるぞ!」

先程(さきほど)、ロナードを(おそ)った、治安(ちあん)部隊(ぶたい)指揮官(しきかん)の男が、苛立(いらだ)った様な口調(くちょう)でそう叫んで来た。

 カタリナ王女は思わず、この(さわ)ぎにすっかり巻き込まれ、負傷したレックスとエルトシャン、そして恐怖(きょうふ)に顔を引きつらせ、泣きながら(ふる)えているアルシェラ、苦々(にがにが)しい顔をして外を(なが)めている、ロナードとシャーナの順に目を向ける。

(おう)じては駄目(だめ)です。 殿下(でんか)

彼女の様子(ようす)を見た親衛隊(しんえいたい)の一人が、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでカタリナ王女に言った。

「そうです! 殿下(でんか)にもしもの事があれば、ルオン王家の血は途絶(とだ)えてしまいます!」

(ほか)親衛隊(しんえいたい)真剣(しんけん)面持(おもも)ちで、カタリナ王女に言った。

(わたし)一人(ひとり)の命で、ここに居る全員が助かるのならば、悪い取引(とりひき)ではない」

カタリナ王女は、淡々(たんたん)とした口調(くちょう)で言うと、それを聞いた親衛隊(しんえいたい)たちは、予想(よそう)外の彼女の言葉に絶句(ぜっく)する。

「そんな事を考えては駄目(だめ)だよ。 王女さま」

シャーナが真剣(しんけん)面持(おもも)ちでカタリナ王女に言うと、エルトシャンも(うなず)きながら、

相手(あいて)約束(やくそく)を守るかも、(うたが)わしいです」

真剣(しんけん)面持(おもも)ちでカタリナ王女に言い返すと、ロナードも(うなず)き、

「二人の言う通りだ。 そもそも、アイツらがアンタとの約束(やくそく)を守らねばならない義理(ぎり)も無い」

落ち着いた口調で言った。

「だからって、アンタも()めときなよ」

シャーナは、何かに気が付い様子で、とっさにロナードの手を(つか)み、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言うと、彼は(おどろ)いた様な顔をして見る。

「大方、敵陣(てきじん)召喚(しょうかん)した(げん)(じゅう)突撃(とつげき)させようとか思ってるんだろ」

シャーナは表情を(けわ)しくし、(しか)り付ける様な口調(くちょう)で言うと、ロナードはギクリと身を強張(こわば)らせた。

「そんな事をしてご(らん)よ。 ここら一帯(いったい)更地(さらち)になっちまうよ」

シャーナは表情を険しくしたまま、ロナードにそう(さと)す。

「……」

ロナードは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、押し(だま)る。

「レックスの状態(じょうたい)を見て、(あせ)るのは分かるけど、だからって、全部ふっ飛ばすのは流石(さすが)にどうかと思うよ」

エルトシャンは、苦笑(にがわら)いを浮かべながらロナードに言う。

()まない……」

ロナードは、レックスの身を心配し、(あせ)りが先行(せんこう)して冷静(れいせい)さを()いていた事に対し、謝罪(しゃざい)した。

随分(ずいぶん)(あせ)っておいでの様ですね。 (みな)さん」

自分たちの背後(はいご)から、不意(ふい)に若い男の声が聞こえたので、ロナードとシャーナ、そして親衛隊(しんえいたい)たちは表情を(けわ)しくして、振り向き様に身構(みがま)えた。

「おっと……。 助けに来たのに、随分(ずいぶん)手荒(てあら)歓迎(かんげい)ですね」

ロナード達の反応(はんのう)を見て、サムートは敵意(てきい)が無い事を(しめ)(ため)、両手を上げながら、苦笑(にがわら)いを浮かべ、彼等(かれら)に言った。

(おどろ)かさないでよ……」

エルトシャンは(てき)ではないと分かると、安堵(あんど)の表情を浮かべ、サムートに言ってから、ハッとした表情を浮かべ、

「って君、どうやってこの中に入って来たの? 外は(てき)だらけでしょ?」

戸惑(とまど)いながら問い掛けた。

裏手(うらて)にいた敵兵(てきへい)には、(ねむ)って(もら)いました」

サムートはニッコリと笑みを浮かべ、エルトシャンの問い掛けにそう答えた。

 それを聞いて、エルトシャンやカタリナ王女、王女の親衛隊(しんえいたい)たちは、(そろ)って(おどろ)戸惑(とまど)う。

(おそ)いんだよ! 応援(おうえん)を連れて来るのに、どれだけ掛ってるんだい! 背中のその羽はお(かざ)りかい?」

シャーナは苛立(いらだ)った口調(くちょう)で、サムートに言うと、

失敬(しっけい)ですね。 (おそ)くなったのは(わたし)所為(せい)では無いですよ。 オルゲン侯爵家(こうしゃくけ)兵士(へいし)たちが、出撃(しゅつげき)手間取(てまど)っていたからです」

サムートはムッとした表情を浮かべ、シャーナに言い返すと、

「オルゲンが、来ているのか?」

カタリナ王女は、安堵(あんど)の表情を浮かべながら、サムートに問い掛けた。

「もう少しすれば、前方の兵士(へいし)蹴散(けち)らしてくれる事でしょう。 怪我(けが)人も居ますので、ここで大人しく待機(たいき)されるのが賢明(けんめい)かと思われます」

サムートは落ち着き払った口調(くちょう)で、カタリナ王女にそう提案(ていあん)した。

「すまん。 助かった」

カタリナ王女が、サムートにそう言うと、

「……」

サムートは、何か言いたそうな表情を一瞬(いっしゅん)()かべたが、直ぐにロナードの方へと振り返り、

「元に(もど)られた様で何よりです。 若様」

サムートは、自分の胸元(むなもと)に片手を()え、ホッとした表情を浮かべながら言った。

「済まなかった。 心配をかけたな」

ロナードは、(もう)し訳なさそうに言うと、

「いえ。 若様(わかさま)が無事ならば、私はそれで……」

サムートは、(かす)かに笑みを浮かべ、(やさ)しい口調(くちょう)で返した。

「しかし、レックスのこの状況(じょうきょう)は、良くないですね……。 私が先にセシア殿の下へ連れて行きましょうか?」

サムートが、顔面(がんめん)蒼白(そうはく)で、グッタリとしているレックスを見て、真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言った。

「頼むよ」

シャーナが真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言うと、

「血が固まりにくい(どく)(やいば)に用いられていた。 解毒(げどく)治癒(ちゆ)魔法(まほう)(いそ)ぐように伝えてくれ」

ロナードも真剣(しんけん)面持(おもも)ちで言った。

「分かりました」

サムートはそう言うと、自分が羽織(はお)っていた上着をレックスに被せ、彼を抱え上げると、セシアの下へと急いだ。

大丈夫(だいじょうぶ)だよ。 レックスは助かる」

レックスを(かか)え、()って行くサムートの背中を、不安そうな顔をして見送(みおく)っていたロナードの肩に片手(かたて)を乗せ、シャーナが落ち着いた口調(くちょう)でそう声を掛けた。

 ロナードは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべつつも、(だま)って(うなず)き返した。


 その後、サムートが言う通り、オルゲン将軍が私兵(しへい)を率いて、カタリナ王女の首を取ろうとしていた、ベオルフ宰相(さいしょう)(いき)(かか)った治安部隊(ちあんぶたい)兵士(へいし)たちを掃討(そうとう)したお(かげ)で、ロナード達は窮地(きゅうち)(だっ)する事が出来た。

「レックス!」

シェアハウスに戻るなり、ロナードは大声でそう言いながら、レックスの姿(すがた)を探す。

「っせ~な。 んな大声で(わめ)かなくたって、聞こえてるって」

リビングの(すみ)にある、何時(いつ)もはロナードが陣取(じんど)っているカウチソファーの方から、レックスの声がしたので、ロナードは急いで彼の下へと()け付けた。

 そこには、カウチソファーの上に横になっているレックスと、その側に(つか)れた様子のセシアが居た。

 レックスは、着ていた服が血みどろになっていたため、白いシャツに着替えており、顔色もすっかり良くなっていた。

「良かった……」

レックスの元気な姿を見て、ロナードはそう(つぶや)くと、心底(しんそこ)ホッとした表情を浮かべる。

「んな(かん)(たん)に、くたばる訳ねぇだろ」

レックスは苦笑いを浮かべながら、ロナードに言った。

「ったく。 一人でサッサと行っちまって……。 余程(よほど)、レックスの事が心配だったんだねぇ」

(おく)れてやって来たシャーナが、苦笑(にがわら)いを浮かべながら、そう言ってロナードをからかう。

(ちが)っ……」

ロナードは、()ずかしそうな表情を浮かべ、とっさにそう言い返した。

「ったく。 素直(すなお)じゃないねぇ……」

シャーナは苦笑(くしょう)しながら、ロナードに言う。

(オレを心配して、あんな(いそ)いで(もど)って来たのかよ)

レックスは、ロナードを見ながら、心の中でそう(つぶや)いてから、

「へへへ……」

とても(うれ)しそうな顔をすると、ロナードは()(くさ)いのか、レックスから顔を背けた。

「何にしても、(みな)、お(つか)れ様」

セシアは、(おだ)やかな笑みを浮かべながら、無事に戻って来た仲間たちに向かって言った。

「あ~あ~。 ロナード、血みどろじゃないスか」

転移(てんい)魔法(まほう)を使った所為(せい)魔力(まりょく)大幅(おおはば)(しょう)()し、休んでいたセシアと共に、留守番(るすばん)をしていたデュートが、(おく)調理場(ちようりば)から出てくると、ロナードを見るなり、そう言った。

 彼の言う通り、負傷(ふしょう)したエルトシャンやレックスの治療(ちりょう)(ため)止血(しけつ)などを行ったり、学校に侵入(しんにゅう)した(ぞく)と戦った(さい)に返り血を浴びたりして、ロナードの手は勿論(もちろん)(ほお)や服などにも、(かわ)いた血がこびりついている。

「ほら。 (いそ)いで風呂(ふろ)に入って来なよ」

シャーナは、ホッとして気が抜けたのか、(ひど)(つか)れた様子(ようす)のロナードの背中を軽く(たた)きながら言う。

(ねむ)い……」

ロナードは、気怠(けだる)そうに(つぶや)く。

「いやいや……。 そのまま格好(かっこう)()たら駄目(だめ)でしょ」

デュートは苦笑(にがわら)いを浮かべながら言うと、ロナードの腕を(つか)むと、(つか)()てた様子(ようす)のロナードを立ち上がらせ、彼の部屋へと連れて行く。

一時(いちじ)はどうなるかと思ったけど、何とかなって良かったよ」

アルシェラを、オルゲン家へ送って来たエルトシャンが、そう言いながらリビングへと来た。

「今日のはクーデターだろ? この先、どうなっていくのかねぇ……」

シャーナは、ゲンナリとした表情を浮かべ、そう(つぶや)いた。

殿下(でんか)への攻撃(こうげき)主導(しゅどう)した、第一(だいいち)治安(ちあん)部隊(ぶたい)隊長(たいちょう)も、学校を襲撃(しゅうげき)した(ぞく)の頭も拘束(こうそく)したけど、()たして、何処(どこ)まで話してくれるか……」

エルトシャンは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、そう(つぶや)いた。

「何も語らずに獄中(ごくちゅう)で、自殺(じさつ)と見せ掛けて、(ころ)される可能性(かのうせい)の方が高いんじゃないのかい?」

シャーナは、真剣(しんけん)面持(おもも)ちでそう指摘(してき)すると、

「そんな事にならない様に、殿下(でんか)伯父上(おじうえ)がしっかり見張(みは)らせるとは思うけど……」

エルトシャンは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべながら返す。

「べオルフ宰相(さいしょう)は、とても狡猾(こうかつ)だって聞いてるよ。 結局(けっきょく)は、蜥蜴(とかげ)尻尾(しっぽ)()りになるのがオチだろうよ」

シャーナは肩を(すく)めながら、皮肉(ひにく)たっぷりに言った。

「……」

エルトシャンは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、()(だま)る。

「今までは、こんな公然(こうぜん)と、殿下(でんか)(おそ)われる事は無かったのですけれど……」

セシアは、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、重々(おもおも)しい口調(くちょう)で語る。

「アタシ等が実績(じっせき)()んで、その存在(そんざい)国民(こくみん)支持(しじ)される様になって、それを切っ掛けに殿下(でんか)が力を付ける前に、始末(しまつ)しようと考えているのかもね」

シャーナは、神妙(しんみょう)な表情を浮かべ、自分の見解(けんかい)を語る。

(なる)(ほど)な。 魔物(まもの)の害は、地方(ちほう)の人たちにとっては、すげぇ頭の(いて)ぇ事だもんな。 オレ等がちゃんと解決(かいけつ)できれば、それを作った王女さまの評判(ひょうばん)も良くなるって事か」

レックスが神妙(しんみょう)な表情を浮かべ、そう(つぶや)くと、

「アンタにしちゃ(めずら)しく、()えてるじゃないか。 血の気が引いて、頭の回転(かいてん)が良くなったのかねぇ?」

シャーナが意地(いじ)の悪い()みを浮かべ、小馬鹿(こばか)にしたようにレックスに言うと、

「んだと!」

シャーナに小馬鹿(こばか)にされ、レックスはカッとなって、横になっていたカウチソファーから起き上がろうとすると、突然(とつぜん)、目の前が真っ白になり、(あや)うく頭から(ゆか)に倒れそうになる。

「ちょっと! まだ起き上がっては駄目(だめ)よ!」

倒れ込みそうになったレックスを(あわ)てて()き止めると、セシアは強い口調(くちょう)で彼にそう(しか)り付けた。

「ははは……。 まあ、それだけ元気になったのなら、一安心(ひとあんしん)だよ」

何時(いつ)もの調子(ちょうし)に戻ったレックスを見て、エルトシャンは苦笑(にがわら)いを浮かべながら言っていると……。

「セシア! セシア急いで来てス!」

デュートがバタバタと(あわただ)しく、階段を下りて来ると、血相(けっそう)を変えてそう言ってきた。

「どうしたの?」

セシアは、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、(あわ)てているデュートに問い掛ける。

「ロナードの様子(ようす)が変なんだ」

デュートは、(いき)を切らせながら、セシアに言うと、

「何ですって?」

セシアはそう言うと、(あわ)ててロナードが居る、二階の彼の部屋へと駆け出した。

「何があったんだい?」

シャーナが、表情を(けわ)しくして問い掛ける。

「何か、変な(つた)って言うか、(つる)……?。 ()(かく)、体に変な模様(もよう)(あら)れて、(うずくま)ってしまって、顔も真っ青で、物凄(ものすご)具合(ぐあい)が悪そうなんスよ!」

デュートは、すっかり動転(どうてん)している様子(ようす)で、そう答えた。


「何てこと……」

デュートに言われ、ロナードの部屋に駆け付けたセシアは、上半身(じょうはんしん)(はだか)で、風呂場(ふろば)がある扉近くくの(かべ)に片手を付き、フラフラと危なっかしい(あし)()りで、何とか立ち上ろうとしているロナードの背中を見て、呟いた。

「せし……あ……」

彼女が部屋に入って来た事に気付いたロナードは、物凄(ものすご)くバツの悪そうな顔をして、(つぶや)く。

 まるで、これを(だれ)にも見せたくなかった様な……そんな反応(はんのう)だった。

貴方(あなた)! それは何時(いつ)からなの?」

セシアは、ガバッとロナードの両肩(りょうかた)(つか)むと、物凄(ものすご)(あせ)った表情を浮かべ、そう問い掛けた。

「……」

ロナードは、自分に質問するセシアから顔を()らす。

「答えて!」

セシアは、ロナードの両肩(りょうかた)をガッシリと(つか)んだまま、何時(いつ)になく鬼気(きき)(せま)る表情を浮かべ、強い口調(くちょう)で言った。

「ロナード……。 それは……」

(おく)れてやって来たエルトシャンも、ロナードの背中だけでなく、(ほとん)ど全身に()かび上がっている、銀色の(つた)の様な模様(もよう)を見て、戸惑(とまど)いの表情を浮かべ、(つぶや)いた。

「……何でも……ない……」

ロナードは、(つら)そうに呼吸(こきゅう)を繰り返し、顔面(がんめん)蒼白(そうはく)のまま、(かろ)うじて聞き取れる様な声で答えた。

「この何処(どこ)が、『何でも無い』よ!」

セシアは、ロナードの両肩(りょうかた)を掴んだまま、(しか)り付ける様な強い口調(くちょう)で言い返す。

「セシア……」

ロナードは、(つら)そうな表情を浮かべながらも、セシアの手を片手(かたて)(つか)むと、首を左右に振った。

「――っ……。 貴方(あなた)ね!」

ロナードの反応を見て、セシアは物凄(ものすご)複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、(つぶや)く。

 そう言っている間に、ロナードの体に浮かんでいた(みょう)模様(もよう)は、少しずつ(うす)れていっている……。

 それに伴い、(つら)そうにしていたロナードも、少しずつ落ち着いて来た。

大丈夫(だいじょうぶ)だから」

ロナードは、落ち着いた口調で、駆け付けた仲間たちに言うと、自分で立ち上がり、風呂場(ふろば)への扉を開くと、(なか)()げる様に中に入り、内側から入って来れない様に(かぎ)を掛けた。

「なっ……」

その行動(こうどう)を見て、エルトシャンは戸惑(とまど)う。

「セシア。 ロナードのあれは一体、何なんだい?」

シャーナは、真剣(しんけん)な表情を浮かべ、セシアに問い掛けると、

「……御免(ごめん)なさい。 (わたくし)の口からは言えないわ」

そう言って()げる様に部屋から出たセシアは、物凄(ものすご)(どう)(よう)していて、自分の口元(くちもと)片手(かたて)()え、真っ青な顔をしていた。

「……」

シャーナとエルトシャンは、公然(こうぜん)(かく)し事をされ、何とも言い(がた)い、複雑(ふくざつ)な表情を浮かべ、その場に立ち()くしかなかった。

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