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村に正確な地図はない。この世界では正確な地図は作成されてないのかもしれない。
大雑把な手書き地図(ガタンに聞いて書いた)、コンパスを頼りに歩き続けることになる。
幸い、ツンデ山まで道はないが、途中までは道なり進める。ツンデ山を避けて右にズレ始める所から森に入ることになっていた。
とは言え、初日の午後にはもう道はズレ始めていた。
「左にツンデ山が見えたら適当に森に入れって…。もうそろそろいいのかな…?」
地図が適当なら、森に入るタイミングも適当になるしかない。9時の方向ではないが、森に入ることにした。
コンパスで方向を確認し、目印の木を決めて入り始める。
これが思ったより時間がかかる。目的に木まできたら、またコンパスを確認し、目標を決めるの繰り返しだからだ。
「タブレットだったか、あれ欲しいなぁ…。」
独り言をぶつぶついいながら夕方前まで歩いた。
着火で火床をつくり、魔法で水を作り、浅鍋を火にかける。沸騰まで時間がかかりそうなので、罠を周辺に作っておく。
そのついでに食べれる野草を集めた。香草類が多いようだ。
沸騰したお湯に塩漬け肉をいれ、香草を入れ灰汁を取る。
それを肴に硬いパンを食べる。
まずくはない。おなかがすいているのだから。
この村周辺は、多分赤道より北へ上がっている程度なので、寒くなることはあまりない。
ただ、夜の森の中は肌寒い。魔除け香を燃やし、寝る準備をして横になるとすぐに眠ってしまった。
罠にかかっただろう小動物の悲鳴を聞いても目が覚めなかった。
翌朝の罠につかまっていたオオトカゲの解体に、ガタンから借りているナイフは悩んだが使わなかった。
22日間程歩いたところ、夢でみた大きさにまでツンデ山が見えてきた。これもかなりうろ覚えだが。
ツンデ山の南から西にかけてが海に近い。森には目印的なものはあったとしてもなくなっている可能性が高いので、海沿いを歩くことにした。
広めに見たいので、真南に歩き始めると2時間程かかり、岩場の海岸につく。
ここから西へ海岸沿いにあるいて、みたことのある風景を探さなければならない。
色々無理あるかと思うが、4年間我慢したんだから何か月かかろうと見つけてやると覚悟を決める。
「あ、その前にモリと釣り竿つくろ。釣り針は村で作ってもらってたし。」
このころになると、もう独り言は話し声なみに大きくなっている。無音は耐えられないものだ。
食事が海藻や魚、エビモドキも増え、素材でいえば豪華になった。
海岸伝いに北西に歩き続けて4日後、あまりにツンデ山から離れすぎていることに、もう目を背けられなかった。認めざるを得ない。
「わっかんね~!わかるわけない!」
もう一度確認のために引き返すことを決め、大声で叫ぶ。崖などは論外であるが、岩場だらけの海岸は多々あった。ただ、特徴的なものもないので何処だか探し出すので難しい。
「いや、これは少し難しい、な。」
ガタンに言われたことを思い出し、独り言でも言い直した。
「もうしょうがない。ゆっくりと、今度は海と陸地を見ながら戻るしかないか。4日間かかったなら8日かけて戻ればいいや。」
もう近頃は海鮮物ばかりだが、飢えないだけありがたい。そう考えて引き返し始める。
『あるよな、あるんだよな。』
今度は心の中で不安をつぶやきながら。