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そんな待つこともなく、ドクはかえってきて、ベニート町長の承諾を持ってくる。
街中の移動だけなので早いのは当然だが、テオは少し気が重い。
「行きましょう。」
そう言ってアレックスが扉を開けて歩き始める。
テオもしょうがなく付いていく。
「ベニートさんは元貿易船の船長でした。うちで働いていたこともあるんですよ。」
「声が大きいから怖く感じる人もいるそうです。でも気さくな方なんです。」
そんな説明をアレックスから聞きながら歩いていると、大きなお屋敷前に着いた。
門の内側にいた守衛がアレックスを確認し、門を開ける。
挨拶をして玄関へ向かうと、ガタイのいい老執事が待っていた。
「いらっしゃいませ、アレックス様。そちらがテオスト様でしょうか?」
「そうです。こちらがテオスト様、テオさんです。」
変な言い方になったがアレックスが肯定すると、その老執事がテオに向き直る。
「テオスト様。私はベニートの執事長、ネアン=トラタールと申します。以後、お見知りおきを。」
そう言ってきれいなお辞儀をする。
「テオスト=ゴグールです。丁寧なあいさつ、ありがとうございます。」
と言ってテオもお辞儀をする。
「では、ベニート様もお待ちしていますで、こちらにどうぞ。」
ベニート町長は会ってみると、日焼けした肩幅の広い、50代位の男だった。
テオたちはソファーに座らされ、対面にベニートが座る。
「本当に肩に鳥を乗せているんだな!」
ベニートが鳥さんを見ながら言う。
「ええ。俺の相談相手です。」
「そんななりで、頭がいいのか?」
「ええ、俺よりも頭いいですよ。」
俺が鳥さんを見ると、
「恐縮です。」
と鳥さんが答える。ベニートが目を丸くして驚く。
「その話はまた今度。話が長くなります。」
そうテオは言って、アレックスを見やる。
「おお、そうだな!アレックス、元気そうじゃないか!」
「はい、元気でやっています。ベニート様もお元気そうで。」
「はははは!自分で言うのもなんだが、当分死にそうにないわ!」
元気で声が大きい。生命力あふれる御仁だとテオは感心する。
「それでなんだ!なにか緊急のようがあるというのか!」
「はい、それんですが…。」
アレックス、中盤以降はテオが説明して現状を知ってもらう。
「いや!いきなりそう言われても中々信じられんな!」
状況説明を聞いたベニートが正直な感想を言う。
「大体、どうやってそんな情報をしいれたんだ?!
それにその船の武装や人数まで!?
見てきたと言うのも本当か!?」
大声でベニートに疑問を投げかけられ、でも怒っているのではなく、うさん臭いと思っていることを、テオは理解した。
「事実です。
俺としてはここで知り合った人たちがむやみに殺されたり、奴隷になるのを防ぎたい思いからお話ししています。」
「ではどうやって船まで行って、向こうの奴らと話したというんだ!」
「それに対しては答えられないけど、見て、会ってきたのは事実なので、信じて欲しいとしか言えない。」
「そうは言ってもな!これだけで信じて、国に報告とはいかんぞ!」
大声だが困惑しているベニートにアレックスがとりなすが、やはり、信用できないようだ。
「テオ様、私から提案をよろしいでしょうか?」
鳥さんがテオをみて言う。しかもウィンクしていたのだが、テオから観れば普通のまばたきにしか見えない。
「いいよ、話して。」
テオが短く返事をすると鳥さんが話し始める。
「もう、テオ様は身分を隠さなくてもいいのではないでしょうか?
アレックスさん達のために明かしましょう。テオ様はジャカン国の外交特別大使であると。」
テオは思わず『あ、そっか』と言いそうになったが、それを抑えて頷く。
「え!? テオさんって外交官だったんですか?」
アレックスが心底驚く。ベニートも目を丸くする。
「そうです。ジャカン国王様からの任命書と勲章もあります。」
テオは鳥さんのしゃべるのを見守ることにした。
「もし、ベニート町長からの紹介をもらえないのであれば、直接議事堂に言って話してみたらどうでしょうか?
テオ様を信じるかどうかは分かりませんが。
元々テオ様がこちらの国をひいきにするから行っている行為です。義理ははたせる程度で考えましょう。
ですが、テオ様がこの争いに参加、手を貸すことはできません。場合によっては、ジャカン国を争いに巻き込むことになります。」
「ありがとう、分かっているよ。」
鳥さんはテオがこの争いに参加したくないことを知っていて、だから、参加できない理由を作った。
テオがひそかに舌を巻く。
「むむむむ!」
ベニートが考え込んだ。
「テオ君が直接行って、もし信用されたら、私が無能者扱いされる!
疑って申し訳ないが、勲章を見せてくれ。」
そうベニートが言うので、モスⅢに積んである任命書と勲章をフィーに持ってきてもらった。
フィーは「どうぞ。」と言ってそれらをテオに渡すと、テオの座っているソファーの後ろに行儀よくたった。
これも権威付けとしては効果的だ。使用人をつけるほどの金や地位を持っていることを示すのだから。
テオから受け取った任命書を見て、勲章を見て、ベニートは悩む。
「これが本物かどうかわからん!だが、この勲章は作りが丁寧で手間がかかっているのはわかる!」
「本当だ…。」
アレックスは見とれているようだ。まあ、だからテオはこれを”もらっちゃった”のだから。
「では、テオ殿!議会まで行ってもらえるか!先ぶれは出しておこう!もちろん、私の名でな!」
テオ君からテオ殿に変わったと言うことは、信じてもらえたようだ。
鳥さんの計算だと、船がベコウに着くには2か月ほどかかるそうだ。
普通にベコウからツバイ首都、議会まで行くには、馬車で20日程、早馬で10日程だそうだ。
一応間に合いそうだ。
「では、今から早馬で先ぶれを出しておく。テオ殿はいつぐらいに出発するのか?」
「出発は特に決めてませんが。そうですね。早馬で伝令が着いた翌日には着くようにしましょう。」
「ん?じゃあ、今出るのか?」
「いや、俺が移動すれば半日位で到着できるので。伝令後がいいだろうと思っただけです。」
「は?何を言っているんだ?」
ベニートが意味が分からないとアレックスを見れば、アレックスが首をふる。
「ベニート様、テオさんの話しに嘘はないと保障します。伝令到着後なので、11日目には到着するでしょう。」
「なんだそれは。ジャカン国ではそんな高速移動できる乗り物があるのか?魔法か?」
テオがあー、と言って答える。
「まあ、どちらかです。なので伝令には、到着後の翌日に訪ねる旨、伝えておいてほしいかな。」
「まあ、分かった。とりあえず。理解した。」
と、言いながら納得できない様子であるベニートであるが、気を取り直して必要事項をテオに伝える。
「書状は今書いて伝令に渡す。宛先はケーログ子爵だ。話が分かる人だからな。」
テオが頷くと、話は終わったとばかりにベニートは書状を書くために席を外す。




