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それから2年ほどがたった。
テオの畑仕事も剣術と魔法の修行も続いている。
畑仕事はテオストに強い肉体を与えてきている。なるべく体を使うクワ仕事や水汲みをしてるからだ。父からは褒美だと木剣をつくってくれた。
剣術と魔法については、多い時には10人程まで増えた子供たちも、今では3人程に減っている。
この村に貴族はいない。皆が畑仕事をしながらの参加なので、辛いからやめてしまうのだ。
『その点、俺は目標があるから続いてるな。具体的な年数も決めてるし。』
などとテオは思う。この先に宇宙船に乗れる自分を思うから続いているのだ。
「だんだん、修行が厳しくなってきたな。」
話しかけるのは一緒に修行をしているカネッツだ。同い年でもある。
背が低いのがコンプレックスなのか負けず嫌いだとテオは見ている。
「初級が分かれば中級、上級と上がるものさ。」
とテオは答える。修行をしてから男らしい言葉使いになってきて、母に友達ができたからねと呆れられている。
「そうは言ってももう無理そうなことばかりになってきているし…」
もう一人のライルが答える。こちらはテオストの1歳上になる、見た目は頭脳派で、必要とわかっているのでこの修行を受けている。この三人だけが今も続けて修行を続けている。ただ、いつでもだれでもがこの修行を受けれるようにというが村長の条件なので、たまに他の子供もくる。
「まあ、強くなるにはしょうがないさ。」
強くなりたいテオには願ってもないことであった。ただ驚いたのは、ガタンはかなりの腕利きだった。この星での戦闘スタイルは剣士が魔法を使って戦うものが多いため、個人の戦闘能力は高い。
ガタンはその魔力を器用に使えるタイプのようで、魔力重視ではない。これは魔力の少ないといわれる平民たちの理想である。ガタンはそれを体現している。
「さて、昨日は皆の成果を確認した。今日は違う戦闘技術を教えよう。」
テオが話している門横の開けた場所にガタンが来ていった。仕事の合間との条件なので、ガタンの手があくまでは3人で教えられた型や技、魔法を練習している。
「今日は高いところにいる敵や弱点を持っている魔獣に使うものだ。まず腰まで含めて強化魔法をかける。イメージは筋肉強化と骨強化だ。」
そういうと、ガタンの下半身が少し黄色の光を帯びる。
「そして、そのまま上に飛ぶのではなく横にある木や壁にとびかかり、その反動でさらに高いところへ切りかかるっ!」
言いながら近くの大木に向かい、向かって飛び、大木を蹴った反動でさらに上に上がり剣を振って降りてきた。相当の高さからの着地を決める。皆すごい!と歓声をあげる。
「さあ、今日からこれも練習してみようか?」
ニカっと笑ってガタンは言う。機嫌よく言うが、これはかなりの大技だった。
「これは…。できるわけないじゃん!」
「無理無理無理~!」
「………。」
カネッツ、ライルが同時に叫ぶ。テオストは三角飛びっぽいからできるのかと一度自分の頭で考えているので声がでない。
「まあ、順番的に強化魔法の部分掛けから。あと低いところでコツを掴むために魔法無しでやってみろ。」
三人は顔を見合わせてはい!と返事をする。
「よし! ただ、そうだな…。」
ガタンは少し困ったような顔で3人に顔を巡らせる。
「これからはお前ら、出来ないとか無理とか言うな。少し難しいと言うようにした方がいいぞ。」
「え、でも無理なものは無理では?」
カイルが答える。やはり少し困った表情でガタンは説明する。
「そうだな、無理なものは無理。失敗もする。でもその言葉を聞いた他人はお前を無能と思う。だから少し難しいというんだ。結果はどちらも失敗しても印象が違うものになるからな。」
「えっと…。」
「無理と言って失敗する。ああ、やはり失敗したのは無能だからだと他人は思うだろう。少し難しいと言って失敗すると、できたかもしれないのに失敗したと思うだろう。」
「それに違いが?」
とテオは聞き返す。
「テオ自身が100%無理、と分かっても、他人にはわからないだろう。すべてを正直に言う必要もないし、思わせることもない。」
三人が頷く。
「だから、自分で100%無理と思っても、少し難しいと言えばいい。相手は、今回失敗した、でもできたかもしれないと勝手に思う。他人から過小評価されていいことはないからな。」
「そうか。同じ失敗でも、相手のなかの評価はまるで違うものになるんだ。」
一人ごち気味にテオはつぶやく。
「そうだ。俺は冒険者などしていたからなめられないようにそうしてきた。戦うすべをもつなら、それくらいの気概はもっておけって話だ。まあ覚えとけ。」
少し恥ずかしそうに話してたガタンに、はい!と三人で答える。
この日から強化魔法、部分強化魔法、そして三角飛び(日本人知識でテオが命名)の修行が加わった。