2-17
そんなある日。
夕方前に、中国拳法の突きのを反復練習しているとき。
数十回続けて、続けて同じように突きを終えた瞬間。
テオは何かが体を通り抜ける感覚を覚えた。
「えっ?」
もう一度、同じように突きをすると、その感覚はない。
もう一度。感覚はない。
もう一度。感覚はない。
もう一度。また同じ感覚があった。
もう一度。感覚はない。
もう一度。感覚はない。
もう一度。感覚があった!
なにかすごいことができているとテオには思えて。
ひたすらに突きを何十回も打つ。
「テオ様?」
鳥さんが声をかける。
「ちょっと待って。」
テオは感覚を覚えようとさらに何十回も突きを打ち続けた。
そしてついに疲れ果てて、地面に大の字に寝転がった。
2、3回に1回はできるようになってきた。
「気を、打てている、と思う。」
息も絶え絶えにテオは鳥さんに話す。
「気かどうかわかりませんが…。数回に一回、模範映像と骨や体幹が完全に一致することがありました。」
冷静に事実のみを鳥さんは伝える。
「っっっしゃ~~!」
寝転がったまま、テオはこぶしを空に突き上げるのだった。
では刀に関しては。
大体、男に刀を渡せばもう振り回すことしかしない。
無意味に鞘から出したり戻したり。
ましてや周りに人のいない、夜の森では。
枝を切ったり、木が切れなかったり。
数日して、テオも気づく。
「これって、ただ刀に慣れ親しんだだけだな」と。
それからは、刀の鍛錬はひたすら型を反復した。
足さばきや抜刀の仕方をしてみて、意味を説明している動画を見て、理解して稽古を続ける。
近頃は藁束を切ったりして、技術が上がっていることを実感し始めていた。
光着スーツで全身VRでの、仮想相手との稽古も始めた。
何度も同じ切りかかり方をする相手に、色々なよけ方や受け方、返し方を試す。
光着スーツはテオが切られた際のダメージを弱く再現し、内臓モータはつばぜり合いも再現する。
超高度なシュミレータで達人と言われている人たちの動きを真似して、VR稽古からは動きのチュートリアル。
VR内のAIによる達人との試合などで、テオの技量が確実に上がっていった。
ただ、テオにとってはある意味、高度なゲーム感覚と言うのが本音でもある。
それは継続するという意味ではいいことであり、そう思わせるこのシステムもテオにあっているということだった。
刀に相性がいいのが、柔術、合気道であるようだ。
武芸十八般という言葉があるように、江戸時代までは、武士は刀を学ぶ際に他の武術を学んでいた。
そんな鳥さんの説明を聞いて、テオも鍛錬し始めたのだが…。
こちらはさすがにVRの限界がある。
受け身や技をかける感覚、かけられる感覚を味わえるのだが、飛ばされることなどの再現が難しいようだ。
「対戦相手を作らなければいけませんね…。」
鳥さんが言う。文字どうり、作るつもりのようだ。
この星の教育レベルを超えているテオからすれば(カンニングも鳥さんにお願いできる)、これ以上勉学に時間をかける必要が無く、
アレックスの商店手伝いも軌道にのっている。
冬の空いてる時間の有効利用として、テオはテオなりの合理主義で動いている。
アレックスと仕事量の事を話してみると、まだ夜まで残業になっているようだ。
集計が夕方なので、しょうがないところもあるが。
テオが仕事をさらに分担するかを問うたところ、アレックスは満足しているのでとのことなので。
そんな話だけなので、御昼前に時間の空いたテオは中庭で刀を振る。
腰を回して刀を抜く所作から、順番にゆっくりと確かめる。
光着スーツでの感覚を身に着ける準備運動みたいなものだ。
「また変わったのやってんなぁ、テオは。」
アウロラが大剣を肩に持って、怪訝な顔で中庭にやってきた。
「まあ、ここら辺ではない武器だからね。」
刀を鞘に収める所作までやって、テオをアウロラをみる。
「そんなゆっくりやって、意味あるのか?」
ヘラっとアウロラが笑う。
「早く正確に動くためには必要さ。」
「正確にではなく、臨機応変に動かなければだめだろう」
「型を正確に覚えれば、実践では臨機応変に動けるものさ。」
「じゃあ、見せてくれよ。」
「早く動けってことか?」
「いや、ちょっとアタイと剣を合わそうということよ。」
そう言って、アウロラが建屋に引っ込むと、大剣と剣の木刀をもってきた。
アウロラが投げた木刀を受け取りながら、テオが失笑した。
「なんでこんなものがあるんだ?」
「お前のいう脳筋連中が話し合うのに必要なのさ。」
話し合いじゃないよなと、テオは笑う。
「じゃあ、少し相手をしてくれよ、」
アウロラが凄みのある笑顔で言う。
テオとしては、迷惑と思う反面、一人で鍛錬した結果を試してみたい。
「わかった。ルールは?」
「なに、ケガはしょうがないが殺すようなことをしなければいいくらいよ。」
「了解。」
そう言って、二人は中庭真ん中で互いに構えた。
テオは少しまずいと感じた。
刀なら巻き取って弾くなどの技などが使えるが、大剣では難しそうと感じたし、また手にもつ木刀は剣を模倣しているため、そりがない。
リーチの長さも厄介だ。
そんなテオを隙ありと思ったのか、アウロラが横から大剣を振り回す。
まるでバットをフルスイングしてるような軌道だ。
テオが慌てて正面から受けようと剣を合わせる。
が、剣が弾き飛ばされる。何とか右手をしがみつかせた。
アウロラは素早く一回転して、また横から大剣を振り回す。
伸びきった体のままに、後ろに飛ぶ。目の前を大剣が通り過ぎる!
「おい!殺す気か!」
テオがそう叫ぶが、アウロラはニヤっとしたままの笑顔で近づてくる。まだやる気だ。
少しイラっとしてテオが構え直す。
また、横からのフルスイング。テオは前に出てかがみ、足を狙おうとした瞬間、大剣の角度が下に変わった。
テオが頭上に剣を横にして大剣を滑らす。
やり過ごしたテオは即、刀をアウロラのひざ下に当てにいく。
と、その瞬間にアウロラの足が上に消えた。
テオがはっと見上げると。
空中で回転して刃を叩き下ろそうとするアウロラが見える。
横っ飛びでよけて、すぐに足を丸める。
バランスが崩れて、2回転程地面を転がるテオ。
すぐに立ち上がり、一瞬でアウロラを探す。
アウロラの大剣は地面に斜めに刺さり、こちらを見ていた。
「へぇ~、中々やるじゃん。」
『怖えーよ』とテオが思っていると、ズカズカとアウロラが近づいてくる。
それからしばらく“話し合い”が続くのだった。




