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ベコウ付近をモスⅢで飛行中に、海上遠方に水柱が上がっているのをテオが見つけた。
「鳥さん、あの水柱はなんだ?ここから見えるんだから、かなり大きいと思うけど?」
「ここから東に6キロほど先、沿岸から4.5キロ先に海生生物が暴れていたようです。」
「ああ、じゃあもういないのか?」
「はい。船を襲い、船員を海に投げ出して食して満足してるように見受けられます。
「……。おい、ちょっと待て。鳥さん、それ気づいてたのか?」
「観測されてました。」
「なんで?なんで俺に言わなんいんだ?人が殺されているんだろう?!」
「私はテオ様の身の安全を第一としています。また、“星系探査基本法”の第一条にある…。」
「今はいい!生き残りがいるかわかるか?!」
「散乱している板と一緒に浮かんでいる生体反応が一つあります。ツバメから光学確認しました。人間のようです。」
「操縦を渡せ!」
モスⅢの自動飛行モードを手動モードに切り替えた。舵を回しアクセルをベタ踏みし、テオは沈没した船へ向かう。
「このモスⅢには攻撃用装備がついてません。また、レイガンも海中では威力が半減します。いつあの生物が戻ってくるかわかりません。危険です。」
「戦うつもりはない!とりあえずその人を助けるだけだ!使えるのは?!」
鳥さんのAIはテオと今までの会話をログで記録、学習しているため、少ない言葉でもテオの求めている答えを示す。
「ウィンチを展開できます。ただウィンチ先端の浮き輪に体を通してもらう必要があります。」
「つまりは、俺がウィンチで降りて、その人の体に浮き輪を通せばいいんだな?」
「危険なので推奨はしませんが。浮き輪はあの方のわき下で固定するようお願いします。」
現場に近づくとエアーブレーキを働かせ、旋回しながらスピードを落としていく。船の破片などが散乱していたが、被害者はすぐに見つかった。
「うん?子供か?」
板の上にあおむけになり、気を失っているようだ。
「浮き輪のサイズが大きいようです。替えは積載物にありませんので、このまま投下することになります。」
「いい。俺が抱きかかえる。ホバリングを任せる。」
そう言って左サイドのドアを開ける。鳥さんがモスⅢ上のブームを伸ばし、ドア前方にワイヤーを下させ、浮き輪の上にある金属の輪に足をかけて。
「おろしくれ。ああ、そうだ。 …装着!」
テオの右腕のガントレットが分解され、黒いタイツスーツとして装着された。ツバメで製作された簡易的パワードスーツの改良版だ。
とは言え。前に試した試作品と比べて、装備時の掛け声と色を変えただけなのだが。
降りていくと気を失っている人物の詳細が分かってきた。
うまい具合に木の板の真ん中に横たわっている者は、明るい茶色の髪に幼い顔つきだった。確かに子供だ。
このまま、板の上にテオが降りるとひっくり返ってしまうようだ。
テオは板の近くに着水し、板に泳いでいく。すぐ目の前だが、
「テオ様!巨大海洋生物がUターンしました!」
「食い足りないってか!」
目の前の板から子供を滑り落とす際に、水中から浮き輪を足から入れる。が、体が小さいのでやはり浮き輪ではすり抜けそうだ。
水の中でうまく身動きが取れないが、何とか子供を肩に担ぐ。
「かなり近づきました!」
片手は肩にかけた子供を肩に押し付け、片手でワイヤーを手繰り寄せ浮き輪上の金属の輪に片足を掛けようとするが、輪が浮き輪と浮いているので時間がかかった。
「よし!上昇してくれ!」
「了解です!」
モスⅢが上昇を始め、ワイヤーと一緒にテオたちも空中に上がり始めたその時、テオが大型生物が描く水上の航跡の前から勢いよく顔を出した生物と目が合った。
「やばっ!」
その生物は一回水中に顔を隠すと、また顔を出した。
テオの方向に水中から飛び上がりながら。
ぐんぐん近づいてくるそれの目だけが印象的だった。
斜め上方に上昇しているモスⅢ、それに引かれるテオたちの角度とほぼ同じなため、ぶつかると予測したテオに向かって、大きな口が開いた。
テオたちがすっぽり入りはしないだろうが、上半身は飲まれそうだ。
蛇のような頭をしているそれが口を開けると、印象的だった目は見えなくなった。
「光着!」
テオがそう叫ぶと、惑星軌道上にいたツバメから発射された光線がテオを照らし、一瞬でテオは黒い鎧をまとった。
フルアーマーの戦闘服兼まさしく鎧は、色を変えてもらった程度の改造をほどこしていた。
とは言え、テオのみが鎧に包まれているので、肩の子供はどうにもならないが。
輪にかかった足に力を入れ、大きく広がった口の上に向かってジャンプする。が、それでも上顎の内側だ。
右腰のレイガンをホルスターから取り出し、トリガー横のボタンを2回押しし、ソードモードにしてトリガーを引く。
長さ1.2m程の光の刀身がガン先から現れ、それで上顎の半分を切る。テオはそこに子どもごと飛び込んだ。
テオがぶつかった上顎がテオに飛ばされ、その生物の上面に躍り出た。蛇のように長い胴体だった。
テオの後ろに向かっていくその胴体を何回かステップで飛び、最後は転がりながら、めちゃくちゃに刀身を振り回した。
フっと、体が宙に浮く感覚。そして海に落ちた。
「まずい!子供が!」
「テオ様!落ち着いてください!今足裏の水中ファンを回して航行できるようにします!泡が向かう方向が水面です!そこを目指してください!」
一瞬、テオは言葉の意味を理解するのに使い、すぐに浮上した。
子どもの息を確認したいが、ヘルメットや手甲からでは確認できない。
「テオ様、子どもはこちらに来れば何とかなります。それより巨大生物ですが…。テオ様があちこち切り飛ばしたので、血を垂れ流しながら離れていきます。」
「あきらめたか?」
「いえ、この海域にまた違う生物たちが集まってるので、それから逃げているかと。」
「え?じゃあ俺も危ないじゃん!」
「ええ、ですから…。」
テオの目の前にワイヤーが揺れていた。
「早めに脱出しましょう。」




