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ゴスタス=オルタはその日、王都で開かれる領主の集まりに参加していた。この集まりは他領主との関係を深くするためのものである。
会では最初に長方形の長いテーブルにそれぞれ席につき、領地の状況を述べていくもので、質問は都度されていくものである。
ここ何回では、ゴスタスの発言が注目されている。ゴグール商会の商品を小出しに紹介するからだ。
石鹸やシャンプーを紹介した際は特に反応がなかったが、その後の使用感が各領主に広がった。
マヨネーズ、醤油などは保存も効くのでその場で反響があったりした。
コスタスからすれば、もうさすがにもうネタが尽きてきた。なのでもうテオは卸さない微振動ナイフを持って説明を領地内報告後に始めた。
角材を持って、領主たちの目の前でチーズを切るようにその角材を切る。一瞬息をひそめた全員が次には感心の唸り声をあげた。
「これが普及すれば開拓ももっと進むのではないか?」
「兵士の鎧も切れるのでは?」
「革命的ではないか!」
等々、会が騒然となる中、ドアから大きなノックの音が鳴り響いた。
「ジャカン国王様がはいります!」
ドア向こうから大きな声が聞こえると、すべての領主が立ち上がり、椅子をテーブルに入れてひざまずいた。
ドアが開き、静まり返っている部屋にジャカン王が入り、普通に話すように「邪魔するぞ。」と言う。
それを聞き、一番上座の会議長が立ち上がり、席を引き、「王よ。大した椅子はございませんが、こちらにどうぞ。」と対応した。
王が歩き、椅子に座るまで誰も話さず、身動きしない静粛な空間ができた。
「表をあげよ。」
王がそういうと、やっと皆顔を見た。ニコニコと楽しそうだ。
基本的に王と領主は年に一回、国事で形式的に顔を合わせる程度の交流しかなく、そんなに近くで顔を見れない。ましてやニコニコ顔など。
「まあ、席につけ。会議中だったのであろう。」
王にそう言われ、会議長が皆に席に座るよう指示する。
皆席に着いたが、どうすればいいのか分からず、王と会議長をを見る。
「なんということもない。近頃の領主会はどのよう事をしているかと思ってな。参加しようと思っただけだ。いいだろう、ザミトー?」
王からザミトーと問いかけられた、会議長は「もちろんでございます。」と頷いた。
「では、続きをはじめてくれ。」
そう言われたから、皆はゴスタスを見る。ゴスタスはゴスタスで、内心「ええー!?」と思いながら説明を続けることにした。
「こちらのナイフもゴグール商会の製品でしたが、遺跡内の材料切れで生産終了しています。わが家で19本程集められましたが、あとは市井に売られたようです。」
普段は発言後、色々と気ままに聞きたいことをそれぞれが発言したりするのだが、今は王がいるために場内は静まり返る。皆、ちらちらとザミトー会議長を見る。
王をチラ見は不敬だからだ。
王が訝しい様子でそのナイフを見て、
「そのナイフがどうかしたのか?」
と話し始めた。会議長が催促するように「ご説明しなさい」と続く。
「はい。こちらはそのゴグール商会の者が見つけた遺跡内での材料でできています。そのため、普通のナイフと違うのであります。」
そうゴスタスが説明し、もう一度角材を切り落とすのを見せた。
「おお!それを貴公は19本持っていると言うのか?もっと作れないのか?」
「はい。材料がないためにもう製作できないと聞いています。」
実際はテオ側がオーバーテクノロジー兵器に関するものはやめようと考えて、資金がたまった段階で販売しないようにしたものである。
「そうか…。残念だな。ところでさっき言っていたゴグール商会と言うのはなんだ?」
「テオスト=ゴグールが若干13歳で立ち上げた卸問屋になります。テオストは小さい時に夢で見た遺跡を探し出し、その知識といくつかの物を持ち出して商売をしています。」
その後、ゴスタスは王からの続けざまの問いに答えて、テオの近状まで説明した。それを聞いた王は、
「娘の家庭教師を頼むほどの関係なら、召し抱えればいいではないか?」
と、王からしたら至極当然の疑問を口にした。
「それが…。テオストは旅に出ると言ってききません。家庭教師すら渋々引き受けたくらいですので。無理やり士官させたら勝手に出ていきかねないのです。」
「変わったやつだな…。」
ゴスタスを含め、王もなぜテオが士官、召し抱えられるのがイヤなのか理解できない。15歳で領主に雇われるのは光栄なことなのだ。
ただ、テオは違う。思っているのは、『もう十分働いたから。このまま働き続けるのはごめんだ。』というのが真相であった。
王は少し考えて疑問に思った。
「他国に旅に行くと行って、もう帰ってこないとかはないのか?それほどの者なら本国にいてもらいたいものだが?」
「親や家族が我が領地にいますので、大丈夫と思うことしかできません。我が家族にも多少の情はあるでしょう。」
「まあ、そうかもな。
ああ!今話していて思い出したぞ!近頃の余の食事にもマヨネーズと言う物が使われているであろう!そうか、シャンプーとかも。
最近、変わってきたことを思いだせば、そのテオストに行きつくのか!」
ゴスタスは軽く腰を折って、「ご推察の通りと思われます。」と返事をした。
「うーん、では弱いぞ。情だけで本国に縛るのは。余ならそんな者がきたら嫁や側室、爵位でがんじがらめにするぞ。そうだ、だれか年頃の娘と結婚させるとかするか。」
王が考え始めたので、ゴスタスは慌てた。
「王よ。テオストはもう来週には旅にでるとのことで、その話は間に合わないかと思われます。」
「なんと!ではもう引き止めれはしないと申すか?」
「急いでいないはずなので、数日は引き止められるとは思いますが…。」
「では何もかもが遅いのだな…。」
このジャカン国王は、決断力が弱いと陰で言われることもあるのだが、実は家臣や部下の立場を理解できる王であった。そのため、引き止めろとか連れてこいとの無茶と思える命令はしないのであった。
それでいて、いやそれだからこそ、策士なところも持っている。
「ならば…。ならば、もうテオストを士官させよう。余の名のもとに外交大使とし、我が国家臣の勲章を渡せばいい。ついでに士官証明証もつけよう。」
「おお!それは名案にございます。」
ゴスタスは理解した。それはテオストがジャカン国の国民で士官もしている証明となり、また、テオの身の安全もある程度は守ってくれるだろう。どこかの国に入るのでも問題ないはずだ。あればテオだって助かるはずだし、恩も売れる。
王が配下に確認すると、勲章、士官証明書をすぐ作るとのことで、翌日には受け取れるそうだ。
「では、ゴスタスよ。これを受け取ったらすぐにそのテオストとやらに渡してこい。間に合おうな?」
「はっ!必ずや間に合わせます!」
ほぼ話が決まったであろうその時、ザミトー会議長から質問が飛んだ。
「王よ。テオとはどんな者か私たちも見てもいません。そんな輩を国として、大使と任命、身の保証をするようなことをして大丈夫でしょうか?」
「なに、大丈夫だろう。その者に娘を預ける父親をみれば大体わかることだ。」
そう言って王はゴスタスをみて笑い始めたから、周りもそうかと納得し、笑いあったのだった。




