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「で、なんでガリウスがいるんだ?」
「様をつけろ!様を!」
今日の授業にはフィルの兄、ガリウスも参加する気のようだ。
「お兄様も受けるべきと私が誘いました!」
フィルが元気に答える。兄弟仲はいいんだようだ。
「で、ガリウス、様には優秀な教師がついてるし学校も行ってるんでしょう?」
ガリウスも見て、テオが話しかける。
「もう敬語を期待するのもあきらめた…。妹の話しぶりから受けた方がいいとおもったからだ。さあ、お前の好きなように始めろ。」
「分かりました。では私を先生と言うことから始めてください。」
「ぐっ。わかった。先生、始めてくれ。」
嫌々な顔をしたガリウスをいじったら、案外素直に聞いてくれた。しょうがないのでテオも始めることにした。
「分かった。じゃあ、最初の一歩だが。
この国にはない言葉だが、“敵を知り、己を知れば百戦危うからず”という言葉がある。これは敵、相手の情報と味方・自分の情報をすべて知っているならば、戦いは負けることはないという意味だ。」
「はい!先生!」
元気にフィルが手をあげる。どうぞとテオは頷く。
「敵、味方の情報をすべて知るのは不可能では?それにこれ、戦争の話ですよね?」
「まったくその通り。まず、すべての情報を得られない。でも情報を集めることは諦めてはいけない、と考えてくれ。すべてを知っていれば勝つ。つまり、多くの情報を集めれば勝率は上がるということだ。
それと、戦争と言ったね?人と人の争いの極限が戦争だ。戦争から学ぶことは領地経営にも重要なことと言うことです。」
「戦争で考えるって先生は言うけど、じゃあ、1000人対10人ではいくらやっても勝てないでしょう?」
「いい質問だね。ここは勝つをゴールと変えて考えよう。ゴールが1000人の国を10人で取る、では難しい。では、10人の村が生き残るをゴールに変えれば勝ち目もある。」
「それはただの言い換えだ!」
ガリウスが横やりを入れる。今度からは手をあげて、私が許可してから発言するようにといい、テオは話を続ける。
「勝ち方は一つではない。まずはそこから考えられるようになって欲しい。すべての情報が集まれば、どれができてどれができないかが分かってくる。そのいくつもの勝ち筋に、自分の目的があっているもの、近いものを選ぶ。すべての情報があるならば、選んだ後の未来もある程度予測できる。
もし、1000人の国を10人で取ったとしても、その後の統治ができるか、なんて疑問もわくだろう?」
20世紀にあった植民地支配という例もあるが、ここで説明のしようがない。
「まあ、統治機能を残しておき、上が入れ替わればできるかもしれないが。その方法をとるにも情報が大事だと分かると思う。」
「これが最初の一歩、ですか。」
「そう、最初の一歩だ。領地経営などをするときは領地の事をつぶさに知っておくこと、記録しておくことだ。まあ、俺の村は数十人だったから、最初は楽だった。知っていたからな。」
「じゃあ、敵と言うのは?」
「この場合、ここの領民となる。」
「敵ですか!?」
もうフィルと普通に会話形式になっていたが、いつも通りなのでテオは面白がっていた。
「領地の情報を得るまで、掌握するまでは、領民が敵だ。敵と言っても戦う敵、ではないよ。情報収集相手、対象の相手という意味でだ。
もしかしたら、先ほどの“敵を知り…”の格言は適切でなかったかもしれない。でも考え方を変えられるような柔軟さがあれば、これが端的に本質を言っているのがわかるだろう。」
「ちょっと、意味が分からなくなってきました。」
「細かく考えてみるいい。味方をオルタ家にしてみよう。オルタ家はこの領地が最高と思っている。では、領民は?ここで情報を得る対象ができる。
領民はどれくらいいるか?そのうちどれくらいがここを最高と思っているか?犯罪率とかだと、街や村で犯罪率の差はあるか?
それを調べてから領地経営をするのが最上と言うことだ。」
「そんなの調べきれない!」
ガリウスが叫ぶ。ちゃんと聞いてるようで、少し安心した顔でテオは続ける。
「君たちのお父様はその経営をしてるんだ。だから、本当の先生は君たちのお父様だと俺は思う。実際にやっている人は大きい存在なんだ。」
「あ、そっか。お父様と話せばいいのね!」
フィルが納得した顔で言う。
「ありゃりゃ、俺の授業は“お父様に聞け”で終わっちゃった。」
「いや、先生の話しも聞かせてくれ。実際に村を発展させたのだからな。」
ガリウスがテオを真っ直ぐにみてそう言う。その顔をみて、テオは満足げに頷き、フィルを見る。
「私も先生の授業が聞きたいです!」
この二人は良い生徒になりそうだった。




