プロローグ
船のブリッジから、惑星を見ている。
この小型惑星探査船、”ツバメ”からである。
小型と言っても200m級で、艦内には工作機器から食料製造装置まで詰まっているので、1人のりである。
「ここまで来るのにどれくらいかかったんだ?」
ツバメのAIに聞いてみる。
「距離でしょうか?距離でしたら31光年、所要時間でしたら361日程です。」
「そんなに寝てたの、俺?」
コールドスリープから起きたばかりなので、1日たった感覚しかない。
「この星には人はすんでるのか?」
「すでに原住民が住んでいるようです。地球環境と近く、酸素が21.5%あります。」
「え?まるで同じなの?」
「地球は20.9%です。しかし偶然でしょうか。ワタル様を起こす前に投下したドローンのセンサーからの値です。」
「ふーん。それで原住民って人間っぽい?」
「人類といっても差し支えないほどに。地球人と繁殖できるほどかはデータ不足でわかりません。」
「そこはまだいいや。降りても問題ないなら降りてみるよ。モスを用意してくれ」
モスとは探査船から惑星に降りる超小型連絡船で、6m程の長さがあり、大気圏を往復できる。
「了解しました。整備・燃料補給で、30分程で用意します。」
「任せた。こっちも準備しておく。」
ブリッジを離れ、自室でレイガン(光線銃)、微振動ナイフを装備し、タブレットと念のため非常食など入れたバッグを背負った。
微振動ナイフは刃が細かく振動して切れ味をましている探査人員の必需品だ。
母船をでて次の日に探査惑星に降りる感覚がやはり不思議だ。
一回ブリッジに戻り、自分の帰りを待つ間に資源を集めておくように命令してから、格納庫にむかう。
スライドドアを開いてモスに乗り込み。後部座席に荷物を投げる。
この連絡船は前後に座る2人乗りだ。
「いきなり現地人と会うのは怖いから、人がいなそうな場所の指示をくれ。」
「了解しました。いくつか最適と思われるデータを送ります。」
「どれどれ。お。富士山みたいな山が海近くにあるな。ここにするか。火山活動はないよな?」
「データ不足ですが、硫黄等の成分は出ておらず、噴煙もありません。」
「じゃあ此処ね。行ってくる。ゲートを開けてくれ。」
「了解です。お気をつけて。」
モスは宇宙空間をでて、大気圏に突入した。
ワタルは森の開けた場所を探し、モスを着陸させた。生物探知機では半径5㎞程には小動物程度しかいないようだ。
「海のほうに来ちゃったな。先に海から観てみるか。ツバメ、モスを念のため隠してくれ。」
モスとツバメAIはつながっている。
「了解です。モスを地中に潜らせます。浮上時の合言葉を決めておきますか?」
「いつも通りでいいだろ。」
「了解です。……たまにはまじめな合言葉をとは思いますが」
「いいんだよ、どうせ俺をみたらすぐわかるだろ?」
ワタルは返事も聞かずに歩き出した。
けものみちをナイフ片手に20分程歩くと海が見えてきた。
地球の海と変わらないのはタブレットで確認してある。
タブレットは持ち歩くだけで周囲環境をセンサーで分析してくれる。
ゴツゴツした岩場の浅瀬で気を抜いたのがいけなかった。
ザブザブと歩きながらタブレットを確認していた。
深い穴が開いていて、寄せ返す波でよく見えなかったため、足を取られ、前に倒れる先に少しとがった岩に頭をぶつけてしまった。
うつぶせに動かなくなったワタルの体を、波が沖へと連れていった。