表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

世代交代

作者: なぬーく

「うっす……」

 出勤していつものようにこっそりとデスクにつくと、ポカンと音とともに頭に軽い衝撃が走った。

聞太(ぶんた)くん、また寝坊?」

 声のほうを見ると、紙筒を持った上条さんが立っていた。

「十分や二十分の遅刻ならまだしも、もうお昼過ぎよ? 少しはちゃんとしなさい」

 すんません、と言って俺――渡部聞太(わたべぶんた)はペロッと舌を出した。

朝早い仕事は苦手だった。俺は学生時代に夜勤のアルバイトを掛け持ちしており、今でもその生活リズムから抜け出せないでいた。

就職活動もこれといってやりたいこともなく、なんとか拾ってもらったのがここの葬儀会社だった。

「まったく。午前休にできる回数だって限られてるんだからね」

 上条さんは頭に手を当ててため息をついた。

「今日はお通夜とか入ってないんすか? なんとか夜勤としてカウントしてもらえないっすかね」

「そういうと思って、急遽入ったお通夜、あなたを副担当にしておいたから。今夜よろしくね」

「よっしゃ!」

「人の不幸を待ち望むような言い方をしない!」

 そうして俺は先輩からお客様に関する書類を渡された。

 聞太は心の中でにやりと笑った。

 実は、俺がこの書類を手に入れたいがために、寝坊癖をわざとそのままにしていることは誰も知らない。

 人の生死に関する情報は結構金になるのだ。この間も芸能人の死をいち早く仲介業者に知らせたことで、俺の口座にお金が振り込まれた。

 先日会社に訪れていた家族を何組か想像しながら俺は質問した。

「事前に相談のあった方ですか?」

「いいえ、新規の方よ。花とか棺の準備はできているから、聞太くんは御家族が到着してからのサポートをお願いね」

「わかりました。……あれ、今回のお客様、名前以外の記載がないんすけど」

「ああそれ、御家族の希望なの。あまり個人情報を公にしたくないみたい」

組野(くみの)家』

 これは大物においがプンプンするぜ。

 俺はさっそく仲介屋に一報を入れることにした。



 日が沈み始めたころ、故人と御家族を乗せた車が斎場に到着した。

 斎場の入り口にはすでに名前が掲げられ、『故 組野誠一(くみのせいいち)』と札が立っている。

 黒いスーツを着た恰幅のいい男性が車から次々と降りてくる。まるで政治家が到着したような、テレビでしか見たことがない物々しい様子だった。

 かなりの大物のようだ。俺は先輩の後ろから顔をのぞかせて、誰が出てくるのか期待しながら見ていた。

 男たちが後部座席の扉を開ける。そこから出てきたのは、細身で長身の男性だった。喪服なのに黒色というだけで彼の足がとても長く見える。顔立ちも整っており、モデルをしていると言われても納得のスタイルだ。

彼はサングラスの下からあたりを窺っていた。ちらりと覗く二重が左右に動く。細目なこともあり、まるで周囲を警戒する狐のようだ。

アイツ、親族か? ボンボンなだけでもムカつくのにルックスもいいとかほんとイラつく野郎だ。

彼は後ろを振り返り、後から降りてくる老人に声をかけている。

「おじいちゃん、腕に捕まってください」

「ああ。一徹(いってつ)、ありがとう」

 袴姿で降りてきた老人は、一徹と呼ばれた孫の腕につかまりながら杖をついてこちらへやってきた。

この老人が今回の喪主『組野功一(くみのこういいち)』だろう。亡くなった誠一は、どうやら功一の息子で、一徹の親らしい。

 二人がそろったところで、俺と先輩は挨拶をする。

「この度は誠にご愁傷さまでございます」

「突然の話でしたのに無理を聞いていただきありがとうございました。本日はどうぞよろしくお願いします」

 功一はそういうと俺たちに頭を下げた。一徹もサングラスを胸ポケットにしまうと、功一にならい恭しく頭を下げる。

功一は八十三歳と記載があったので、一徹は二十代後半くらいだろうか。しかし立ち振る舞いに二十代とは思えない貫禄がある。

「ではまず故人を霊安室へお運びしますね。聞太くん、ご案内して。それから本日の段取りについてお話しさせていただきますので、功一様はこちらへお願い致します」

 先輩と組野功一を見送り、俺は地下にある霊安室へ向かった。後ろから遺体をのせた台車と孫の一徹がついてくる。

「こちらになります」

 扉を開けるとひんやりとした空気が流れてきた。蛍光灯の明かりが、窓のない部屋を薄暗く照らしている。中には業務用の冷蔵庫に似た銀色の引戸が並んでおり、ブーンという電気音のみが静かに響いていた。

外との気温差のせいか、ここに来るといつも鳥肌が立った。

 俺は指定された棚を引き出し、足が奥になるように遺体をそこへ寝かせた。

 遺体の様子を見て、俺は心の中で舌打ちをする。顔を確認したかったが、頭全体が布で隠されていたのだ。

 死因は火災かなんかか? そうでなければずいぶん徹底しているな。

 少しでも見えないかと数秒凝視していたが、鼻と顎の突起があるだけで何もわからない。

 ふと顔を上げると、一徹と目が合った。彼は俺に向かってにっこりと笑う。先ほど見た鋭い表情とは一転、目尻が下がった柔和な笑顔だった。

 この場にふさわしくない表情に、俺は戸惑った。

 父親が死んだってのに、泣くどころか笑顔だと?

「……では、功一様のもとへご案内します」

 さっきより気温が下がったような気がして、俺は遺体をのせた担架をさっさと奥へ押し込んだ。



『おい、まだなのか? その“大物”の身元は』

「すいません、まだ顔も見れてなくて……」

 斎場の裏にある喫煙スペースで俺は仲介屋に電話をしていた。

 この斎場は地元の地区会館を改装して使用しており、大手葬儀屋に比べると比較的小さな建物だった。正面から入ってすぐに受付とスタッフ控室があり、その奥が葬儀場となる。葬儀場の隣が会食ホール、反対隣りは親族控室となっている。喫煙スペースに行くには、受付横の廊下を抜け、外へ出る必要があった。

 喫煙スペースの隅、裏口の扉から死角になっている場所で俺は会話していた。

『早くしてくれよ。君が大物だっていうから、先方にはトップニュースの枠だって用意してもらってるのに。これで分かりませんでしたじゃ、こっちだって困るんだよ』

「はい、そうですよね。すんません」

 俺はスマホを耳に当てながら、口先だけで謝罪を述べた。

情報を掴んでくるのはこっちだってのに、仲介屋の上からな態度には毎回腹が立つ。

俺はイライラを落ち着けるため、タバコの煙を深く吸い込んだ。

『そいつが特定できる情報を掴むんだぞ? 顔を確認するとか、職業、会社名が分かるものとかな』

「はい、分かってます。すんません、これからお通夜の準備なんでまた連絡します」

『たくっ、急いでくれよ。これだから若者は……』

 そこまで話したところで、ガチャリと誰かが扉を開ける音がした。

 誰だ?

扉からこちらは見えないはずだが、俺はその場で身を小さくする。

社内で喫煙するのは俺だけ。組野家の誰かだろうか。

足音が近づいてくる。

 電話を切るのと、その人物が目の前に現れたのはほとんど同時だった。

「聞太くん?」

 顔を上げると、上条さんが立っていた。

 緊張した様子の俺を見て、彼女は怪訝そうな顔をする。俺は固まっていた肩の力が抜けるのを感じた。

「喫煙スペースに行ったって聞いたから来てみれば……。ほんとにサボってるなんて!」

「すんません、今行きまーす」

「これからお通夜なんだから早くしなさい!」

 俺はへらへらと謝りながら、持っていたタバコを灰皿スタンドに押し付けた。



 お通夜に参列する人たちがちらほらと会場に集まり始めた。

 外の喧騒とは打って変わって、斎場の周辺はフィルターがかけられたかのように静かだった。

 入り口で案内をしながら、俺はチラチラと組野功一の様子を窺っていた。

 どうにか故人の情報を得て仲介屋に連絡をしなければならない。仲介屋に言われた嫌味を思い出し、俺は顔をしかめた。

組野功一は斎場の隅から祭壇を静かに眺めていた。俺はその視線の先に目を移す。

 祭壇は白や黄色の菊の花がたくさん飾られており、真ん中には机が置かれていた。そこには火のついた線香が供えられ、煙がまっすぐ上っている。

比較的小さい会場の割にとても豪華にセッティングされていた。しかしその花々の中央、四角い枠の中は空っぽだった。一番メインとなる故人の顔写真が額に飾られていない。

 急に亡くなったとしても、遺影くらいどうにか用意できるもんじゃないのか? それとも飾りたくないのか……。

 ここまで素性を隠した葬式を担当するのは初めてだ。きっと名前も偽名に違いない。

「組野、大丈夫か?」

 組野功一に声をかけたのは、参列でやってきた二人の老年の男性だった。

 旧友なのか、三人は親しげに会話を始める。

「誠一くん、残念だったな。五十六だろう? まだまだこれからじゃないか」

「惜しい人を亡くしたなぁ」

「彼、腕も人望もあったから」

 どうやら誠一は仕事のできる人物だったようだ。

「困ったことがあれば何でも言えよ。次期会長候補も考え直しだろう?」

「ああ、また内部で勢力争いが始まって大変だよ。色々と金が動いている」

「そうだろうな。お前んところは本当にでかい組織だから……」

推測するに、功一から誠一に会長の座を譲る予定だったようだ。社内で抗争があるなんて相当大きな会社なのだろう。

 功一と会話を終えた彼らは「また後で」と言うと、少し離れた場所へ移動した。

「まさか誠一くんがこうなってしまうとは予想外だったよ……」

「我々もいつ同じ目にあってもおかしくないぞ。気をつけねば。あの家は本当に……」

 そう言って二人は会食ホールへ入っていく。

誠一は事故死ではないのだろうか? 話の続きが気になり後をつけようと一歩踏み出したところで、目の前にぬっと誰かが現れた。

俺より頭一つ分ほど身長差のある一徹が「少しよろしいですか?」と俺を見下ろしている。老人たちの会話を聞き逃したため、苛立ちが募る。睨まないように気を付けながら彼を見ると、霊安室の時と同じ笑顔をこちらに向けていた。

「親族控室のお湯が切れてしまったのですが、どちらで補充できますか?」

彼は手にしていたポットを俺に見せた。

そんなことで呼び止めるんじゃねぇよ、と心の内で毒を吐きつつ俺は一徹からポットを受け取る。

「俺が新しいの持ってくんで、部屋で待っててください」

「ありがとうございます」

一徹は俺の不愛想な対応にもずっと笑顔を崩さない。それが余計にムカついた。こいつの笑顔は気味が悪い。

給湯室に向かいながらどうすれば組野誠一の素性が掴めるか、俺の頭はそれでいっぱいだった。

水を汲んでいると上条さんがやってきた。定型のあいさつを交わしたあと、俺はぼそりとつぶやいた。

「組野誠一ってどんな人だったんすかね?」

「聞太くん、そういう個人情報は詮索しちゃダメ。特に今回は御家族のそういう希望なんだから。前にも言ったでしょう?」

上条さんは厳しく注意した。俺が水を汲んでいる様子を見て言葉を続ける。

「それと親族控室には入っちゃだめよ。そのポットも扉の前で渡すこと!」

 そう言って水を一杯飲むと上条さんは忙しそうに出ていった。俺はポットを持って、上条さんに言われた通り、控室の前に立っていた一徹にそれを渡す。

また持ち場に戻ったところで、ポケットに入れていたスマホが振動する。おそらく仲介屋からの催促だろう。いつもは当日に故人の写真を確認して終わりなのに、今日はなかなか思うようにいかない。ポケットの中で着信を止めても、すぐにまたバイブが鳴り出す。それが余計にイライラを煽っていた。

クソッ。少し待ってろよ!

俺は発信者の確認もせず、スマホの電源を切った。気持ちを落ち着けるため、何度か肩で大きく深呼吸をする。

 あまり使いたくはなかったが、俺は最終手段をとることにした。

 カバンに入れておいた機械を取りにスタッフ控室へと向かう。こんなこともあろうかと、盗聴器を用意しておいたのだ。

 絶対に情報を掴んでやる。

 俺は遺影のない祭壇を睨みつけた。



 お通夜が始まった。

 僧侶が中央に座り、大きく鐘をつく。会場全体にお経を読む声が響き渡る。みな神妙にそれを聞いているが、俺には何を言ってるのかさっぱりだった。

 斎場は用意した席の半分ほどが埋まっていた。前方に親族が並び、後方には参列者が並んでいる。俺は上条さんと一緒に後方の入り口で待機していた。

 お経を聞き流しながら、俺は先ほど確認した録音内容を思い返していた。

 俺が用意した盗聴器は録音機能付きだった。

 受信端末でリアルタイムに盗聴を行うことはもちろん、送信端末にメモリーカードを挿しておけば録音しておくこともできる。

 万が一の場合に備え、組野一家が到着する前に親族控室の隅に目立たないように設置していたのだ。

 イヤホンを受信端末に挿し、周波数を調節する。

『……一徹、正直今回は……』

『……んですよ? だからそれに従って…………だけです』

『だが、………………ないだろう。トップを目指すなら、………………』

 受信端末からは功一と一徹の声が聞こえてきた。しかし、電波が悪かったのか受信した内容では何の話をしているのかまでは確認できない。

『そんなのは分かってます。だけど、今まで…………、……をここまで弱らせてしまった』

『…………。上手くいけば、…………に持ち込むことができた』

ときどき他の親族の声も聞こえてきたが、肝心な部分のほとんどにノイズ音が混じっている。

苛立ちが抑えられず、俺は近くの壁を拳で叩いた。

いつもはこんなことはないのに。無線式だからか電波状態に左右されるようだ。

仕方ない、本体を取りに行こう。

 録音内容を確認するには送信端末を回収してメモリーカードを回収しなければならない。つまり、親族控室に入る必要があるのだ。

 ゴーンと鐘が鳴り我に返った。

僧侶が持っていたりん棒をばちに持ち替え、木魚を叩き始める。隣にいた上条さんは前方に座っている組野功一のそばへ行き、お焼香をするよう声をかけている。

 俺はそれを見計らって斎場から抜け出した。

 受付のあるエントランスはとても静かだった。斎場からお経の声が漏れ聞こえるものの、誰もいないこともあって妙に静まり返っている。

 自分の鼓動が妙に大きな音を立てていた。

 俺は親族控室の前に立った。

 誰もいないと分かっていたが、改めて周囲を確認する。

『親族控室には入っちゃだめよ』

 頭の中で上条さんの声がこだまする。俺はその声を振り払って、扉に手をかけた。



 親族控室は十二畳ほどの和室となっており、中央を襖で仕切られていた。

 皆斎場に出払っていると分かっていても、俺は慎重に奥の部屋へ進む。

お経の声はここまでは届かなかった。体重をかけた分だけ、畳の軋む音が部屋に響く。

 耳の奥に心臓があるのではないかと思うほど、ドクドクと大きな音が鳴っていた。

 襖を少しだけスライドさせ、中の様子を確認する。

 電気はついたままだった。

 中央に四人用の座卓があり、隅に座布団が重ねて置かれている。先ほどまで組野家がここを使用していたはずなのに、湯飲みも座布団も使用された形跡がない。

 俺は数時間前に設置しておいた盗聴器を探した。床の間の隅に目をやると、設置したままの状態でそれは置かれていた。

 置き型のプラスチックのデジタル時計。俺はそれを手にすると、一目散に出口へと向かう。

 部屋から出るとき周囲を確認し忘れたが、幸いにも受付には誰もいなかった。

 俺は男子トイレに飛び込み、個室の扉に鍵をかけた。

 緊張と走ったせいで、心臓が悲鳴を上げている。

 深呼吸をしながら、俺は達成感に包まれていた。

 俺だってやればできるんだ。思わずガッツポーズをしていた。握りしめていた時計を改めて見る。これが大金に化けると思うと、早く内容を確認したかった。

ここなら上条さんも来ることはないだろう。

俺はイヤホンを取り出し耳に入れた。

 先ほどのようなノイズ音は全くなかった。時々衣擦れの音がするが、功一と一徹がすぐ近くにいるような臨場感がある。

『一徹、正直今回はやり過ぎだ』

『どうしてです?』

『どうしてって、お前には情というものはないのかね?』

『ルールを破ったんですよ? だからそれに従って僕は罰を与えただけです』

『だからと言って、ここまでする必要があったのか?』

『僕は今までのやり方を真似ただけだ。おじいちゃんだってそうやって来たんでしょう?』

『だが、こんなやり方じゃ若衆たちがついてこないだろう。トップを目指すなら、ムチだけじゃダメなんだ』

『そんなのは分かってます。だけど、今までアメの時間が長すぎたんだ。だから父さんは禁忌を犯し、ウチの組をここまで弱らせてしまった』

『あれは仕方なかった。上手くいけば、長く続いてきた反者(はんしゃ)組との抗争を休戦に持ち込むことができた』

『でもダメだった。結果がすべてなんですよ、おじいちゃん。父さんは負けたんだ』

『だからって実の父親を殺さなくても……』

 ――父親を殺しただと?

 一徹の狐のような目と不気味な笑顔を思い出し背筋が凍った。

『それはさておき、どうやらネズミが居るみたいですね』

『やはりか。どうにも臭いと思っとったわ』

『チーズは自分で用意してくれたようなので、式が終わるまでには始末できるでしょう』

 そういうと、コンコンとプラスチックを叩くような大きな音がイヤホンから響いた。

『諦めたほうがいいですよ』

一徹の声が急に大きくなる。彼は時計型盗聴器を指ではじき、俺に向かって語りかけたのだ。

俺の盗聴がばれていた!?

冷汗が噴き出す。

俺は猫ににらまれたネズミのように手が震えて動くことができなかった。

どうしよう、どうしよう、どうしよう。一徹は俺が設置した盗聴器に気づいていた。ここに来るのも時間の問題だ。

俺はパニックで真っ白になった頭をどうにか動かし、お通夜の儀式が終わるまでの時間を計算した。

 よくてあと十五分程度。まだ見つかっていないとすれば、今すぐ出れば何とか逃げられるか……?

 俺は身体の震えを抑え込み立ち上がった。

 個室のカギを開け、慎重に扉を開ける。

 誰もいないようだ。

 ほっとして一歩踏み出したところで、ぬっと目の前に人が現れた。

「おや、今回はトイレでしたか。また喫煙スペースで電話をかけていると思っていました」

 一徹の声が頭上から響く。俺は息を飲みこんだ。先ほど止まった震えが、また手足に現れる。正直立っているだけで精一杯だった。

「まずは盗聴器とスマホ。渡してもらいましょうか」

 俺は震える手でポケットから取り出し、それを一徹に渡した。

「俺を、どうするんだ……?」

 勇気を振り絞って一徹を見上げる。

「どうって、会話を聞いたなら予想がつくでしょう?」

 彼は笑顔をみせる。鋭い目が細くなり、目尻が下がる。まるで狐のような笑顔。しかし、今まで見たどの笑顔よりも本気で笑っているように見えた。

「それでは、さようなら」

 一徹が手を振る姿を最後に、俺の視界は真っ暗になった。

(了)




最後まで読んでいただきありがとうございます!

最後の主人公のドキドキ感は伝わりましたかね…?

よければ評価・感想など頂けると嬉しいです^^

後日、これを原作にしたショート漫画をTwitterのほうでアップする予定ですので

そちらも読んでいただけたら嬉しいです!

ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ