彼の敗因は素直じゃなかったことにある。
彼の敗因は素直じゃなかったことにある。
彼自身、捻くれた思想の持ち主だと言うことは理解していたらしいが、いざその場面に直面するとどうしても素直になれなかった。
幼少期の頃に喧嘩になって友達を叩いてしまったこと。
素直に謝れなかった。
小学生になり宿題を忘れてしまったこと。
素直に忘れたと言えず、やってきてないと意地を張った。
中学生になり初めて好きな人ができたこと。
素直に好きだと伝えられなかった。
高校生になり言ってはいけないことを言ってしまったこと。
今だ素直に謝れなかった。自分の不甲斐なさに恥じた。
大学生になり彼自身、何も成長してないと感じた。
そして今、彼は社会の歯車として長年使われてきた。
青年だった彼も、いい年をしたおっさんだ。
そして、彼は負け続けてきた。
天邪鬼を貫いて良いことなど何一つとしてなかった。
そして彼はまだ負け続けるのであろう。
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一度だけ彼が正直になろうとした時がある。
一生に一度の初恋の人への告白。
放課後の夕日に照らされた二人しかいない教室。
「話って?」
彼女は薄々勘付いていたのだろう。
「…君に彼氏とかいるの?」
これが彼なりの最大限の努力だった。
「…いないけど好きな人はいるよ」
彼は戸惑った。そんなこと聞いてない。
そして、彼の口からは…
「…また今度君に伝えるよ」
彼は逃げたのだ。
「ふぅん…」
彼女の目はよく見えなかった。
いつか、また伝えよう。まだチャンスはあるはずだ。
彼はそう思っていた。そう思い込んでいた。
彼女はその後交通事故で死んだ。
彼は伝え損なってしまったのだ。
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まだ初恋の人を想う。彼は負けたのだ。
彼の敗因は素直じゃなかったことにある。