それはまさしく、この世の終わり
「終わった・・・ 世界の終わりだ・・・」
帰宅ラッシュ真っ只中の電車で座席に座りそうこぼすのは一人の青年。 あんまりにもな内容の独り言だったため周囲の人も視線を向けるが、青年にそんなことを気にしている余裕はない。
童顔で本来なら可愛らしい印象を与えるはずのその顔は、疲れ切った目と高身長を損なう猫背によって台無しになっている。バイト終わりなのか仕事道具のようなものをバッグにつめたその姿はくたびれた中年男性に見えなくもないが、かろうじて大学生だという推測を人から受けることができるのはその綺麗な肌のおかげだ。
そんな青年が眺めているのは彼のスマホ。先ほどの物騒な発言の原因はこの画面にあるのだろう、そう思った青年の前に立つ仕事終わりの男性が、興味本位でバレないように覗き込む。
そこには・・・
そう、不可、落単である。大学生諸君がもっとも・・・まあ個人差はあると思うがあえて言い切ろう。そう、もっとも恐れている不可という文字が画面にはあった。しかもしっかりばっちり語学である。必修単位なのである。
見てはいけないものを見てしまった心持ちで男性は視線を外す。ドンマイと心の中で青年を応援しつつ、目的の駅に着いたので自分の日常へと戻っていった。もちろん青年はこれを見た人がいるなど気づいていない。そんなことを気にしている余裕はないのだ。
まあ別に単位であれば別に次の年にとればいい。それだけの話なのだ。ドンマイ、気を取り直していこう、次があるさ。
だが青年にとってこれはそんなことで済む話ではない。なぜってそりゃあ鬼のせいである。
そう、この世には鬼がいる。しかも学費を払ってもらっている手前どうしても反抗できない鬼の存在が・・・。様々な学生曰く普段は自分たちとも仲が良く、金銭面やご飯や掃除など色んなことを助けてもらっているそうだ。だが、なにか言い訳のできない不始末をした際はもう、なんか、すごい。まるでツノがほんとうに生えてきたように怒るのだ。しかも全部正論。わかるよ、怖いよねほんと。
ともかく、青年は落単という事実ではなく、そんな鬼に怯えているのだ。
どうにかして鬼からこの事実を隠蔽しなければならない。そのための策略をさっきからずっと頭に巡らせている。
どうやって隠す? 鬼は非常に鋭い、しかもどこにそんな情報源があるのか自分たちの学校のイベントなどの情報をいつの間にか握っているのだ。そろそろ成績が開示されることも知っていると考えていい。聞かれたら終わりだ。その時にまだだといったところで事態の先延ばしにすぎない。つまり・・・勘付かれてはいけない。あれ、無理じゃね?これいわゆる負けイベでは?
そんな結論に至ったところで青年の最寄駅についた。家まで徒歩3分。もう考えている暇はない。
ひとまずこっちからは言わないように、なおかつ大学の話に繋がりそうな会話は全部避けよう。そんな曲がった決意をして青年が玄関をくぐると・・・
「あんた今日成績開示でしょ? どうだったの?」
----Bad End--------