7 ヒトリ
十分時間がたったと思った頃に、ひっそりと出て家に帰るバスに乗った。感じていた恥ずかしさは、歯噛みする思いに変わって、胸の内が辛くなる。立っているのも苦しい。仕方なく、席に座った。その席は優先席だったが、今は乗客がいないから良いだろうと、座ってから思って、人が少ないことに気づいた。
学校の生徒は既にいない。寂しく思った。その一方で、また歯噛みするような感情が湧き出てきた。
それを抑えることは出来ない。
対象は、木村やクラスメートではなく、自分だった。しかし、どうしたら良かったのかも思いつかなかった。
次第に感情は消えていき、虚無の域になった。
バスを降りて歩いたいつもの道は、今日一度しか通った覚えがないのだが、気づくと家についていた。扉を開ける手が震える。頭を落ち着かせながら、家に帰ってからの構想を考えた。
普通を装えば良い。家族には...関係のないことだから。
扉を開けて、家にはいった。そこからは、走って、走って、自分の部屋にはいった。それから、ベッドに座って、「ただいま」を言い忘れていたことを思い出した。
どうでもいいことかと、横にばふんと倒れた。
それから寝た。
起きたとき、体が疲れていた。それでも体を動かし、立ち上がって、さてこれからどうするかと考えた。まず、家にいたものへの言い訳が必要だろう。記憶をたぐると、そのことを思い出して、また、歯を噛んだ。
一度の眠りでは癒えなかった。立ち直りは早いほうだと自負していたのだが、心折れるようだ。
頭が働かなくなり作戦も練らないまま、部屋を出た。すると兄がいた。兄は目だけ見てきたが、無言で通り過ぎていった。
突然背後から声がかかった。
「香、明けない夜はない、覚えとけよ」
父の声だった。機会音声ではあるが、しっかりと父の言葉だった。
振り向くと、母がいた。スマホを持って立っている。
「食べてから、やすみ」
優しい声でそう言われて、私は素直に従った。
夜飯は美味しかったと思う。食べ終わるとすぐに、部屋に戻って、またベッドに座った。今度は、そのまま思案を始めた。
まず、父の言葉について、考える。
「一つ、きっかけがあれば、夜はあける」それが、父のいつも言っていることだ。父は苦難の中にいるのだろうか。頑張って欲しいところだ。
「明けない夜はない」と言っていた。口に出して言ってみる。
「明けない夜はない」
言うと、明日ある学校も大丈夫な気がした。
もう夜は明けてしまったのかもしれない。
木村には、明日会ったら、注意しておこう。
そう思うと、眠くなって寝た。