6 サキバシリ
幻の恋から覚め、さっぱりとした気持ちで6月の上旬を迎えた。梅雨のしっとりさとは対象的だ。
体育祭が近くなり、見たとこの男子や、熱い女子の気合が溢れてくる。その中に、木村の姿も見受けられる。
木村は勉強会の間も熱心に私を説きこんだ。一生に一度しか無いこの時間は楽しむとかなんとか。体育祭放課後練習のため平日の勉強会は潰れ、休みの日にやっているのだが、木村はこんな調子で、困っている。
佐藤は学校でそんな時、関わらないようにと素知らぬ顔をしている。話にはいってこない。中学の頃から運動好きでないことは知っている。木村に絡まれたくないのだろう。
神坂は運動が得意のようだが、体育祭に熱心ではなかった。というより無関心だった。そのため、私にも木村にも普段どおり接し、なぜだか木村から熱心に解かれることも無かった。そのため、自然憩いを求める私は、神坂に話しかけるようになった。
神坂は、面白いやつで、話しかけると必ず返事が帰ってくる。興味のないことには生返事をし、興味のあることは強く同意して身を乗り出し、神坂独自の神妙な雰囲気を壊して意見さえ言う。私は彼女に対して、いつも冷静だと評価を下したが、それは単に話題がつまらなかっただけなのだろう。
神坂について、キツツキのように質問攻めにしたところ、神坂のことが好きになってきた。面白いことを探していて、事が起こったら最後は自分がいいとこ取りをしてやろうという魂胆らしい。それまでは、じっと冷静でいるという。私の見たところ心の中は、幸せに満ちていそうだ。安心して落ち着ける。
体育祭の日になった。
普通に進行して、体育祭自体は何事もなく終わった。
ところが、勝手に問題は起こった。
恐ろしいもので、それは私に飛び火した。
予備知識として、木村は体育祭で目立っていたことと、男子と深く関わっていたことを知る必要があるだろう。木村は男子から好印象だったのだ。
木村が告白された。
それもあの堺から。
木村は、私を出汁にして断った。
こう言った。
「どの口が告げる。あんた、香が好きだったてこと知っててやってるのか。香との仲を引き裂こうとしてやってるのか!」
堺は度胸のあるやつだったようで、皆の前で話したのだから、その断りも皆の前でされた。そんな事ができる二人の勇気を少し尊敬するが、つまるところ、私の幻の秘事は暴露された。
木村が、告白に対して変な風に断ったのは、彼女の恋愛観に対しての諦めのせいだろう。自分は諦めているが、他人は応援したいという精神の持ち主のようだ。それは、前に聞いていて予想がつく。だから仕方がないのかもしれない。
その後の会話は耳に入らなかった。気づくと私はそっと場を離れて逃げ出していたからだ。向かっていた先には校舎があり、そこのトイレに隠れた。
妙案もなかったので、そのまま隠れ続けた。