2 ナカヨシ
4月に入り、ささやかな風が吹くような頃になった。
私と佐藤が向かおうとしているのは、受験によって勝ち得た高校で、バスの外を流れていく風景が未だ新鮮に感じられる。雲もなく、太陽が照らしていることも後押ししているのだろう。
佐藤は、手を擦りながら私に言った。
「まだ、寒いねぇ。バスの中は温いんだけど」
私の友達は、仲のいいのが5人くらいで皆私立の高校に行き、その中で一緒の高校に進学できたのは、佐藤だけだった。
「そうね」
高校は、待ち焦がれた場ではあった。新しい光が、待っているような気がしていたのだ。ところが現実は、中学からのそこまで好きでない友人一人を連れてきた。これでは、私の新しいライフが始まらないような気がする。
「はぁー、早く夏こないかしらね。夏が来たら、また休みがあるし、みんなで遊びに行けるのにね」
佐藤の成績は、私のはるか上をいく。それは、私達の志望校に対して、推薦だけで受かれるくらいには高成績だった。しかし、彼女は推薦をせずに一緒に受験をした。
その理由はなんとなく理解できるが、負い目を感じてしまう。
「そうねぇ」
今日の寒さは3月並みで、手のかじかみがまだ治らない。手袋を持ってくればよかっただろうか。そんな事を考えながら、バスの外を眺めて、風に震えている梢が目に映った。外は、冷えている。
佐藤は、いつの間にかに黙ってしまったようだ。スマホを取り出して眺めている。
バスが高校前について、私達は静かに下車した。
門をくぐると、白い光を浴びた緑のイチョウが出迎えてくれた。先生がいて、クラスが書かれた紙を渡されて、指定されたクラスに向かった。佐藤とは、同じクラスであった。
それから、やってきた先生の話を聞いて、場を変えて、校長先生の言葉を話半分に聞いた。ガンの飛び方がどうとか、こうとか。理事長先生だったかもしれない。記憶が途切れていた。
気づいたときには、佐藤とともに帰路にいた。
バスの中、佐藤はいつの間にか、高校生活を眼中に据えたようで、「彼氏、作りたいね」だのと言っていた。それに対して私は話したいところもあったが、そっけない態度を崩すのも変だなと思って、「そうね」とだけ答えておいた。佐藤はその後バスを降りるまで、静かになった。