第1章~チェリー~②
ニヤニヤとチシャ猫の様に笑う愛理沙は、
「もう、その反応だけで、十分に証明してるやん!ちなみに、有間が女子に言われて、一番うれしいセリフは?」
「それは───。声優・宮村優子の声で、『あんた、バカぁ?』かな?」
「キモ!!それ、何かのアニメのセリフ?マジで、ドン引きなんやけど」
アニメ史に残る名言(?)も、一九九六年春の時点では、アニメオタク以外には、さほど認知されていなかったようである。
そんなことを口にしながらも、穏やかな口調に戻って、愛理沙は、言葉をつづけた。
「でも、リアクションも悪くないし、ノリもまずまずやし、私は、わりと気に入ってるで!有間のこと」
「なんか、ぜんぜん誉められてる気がせぇへんねんけど……。でも、まぁ……」
愛理沙の言葉に返答する秀明は、少し間をおいて、
「映画を語ること以外に取り柄が無くて、アニメとか声優が好きな男子が、朝日奈さんに、そこまで言ってもらえるなら、光栄に思わないと、ねぇ?」
フッ、と笑いながら、大仰に肩をすくめる秀明の態度に、
「言葉だけは、自分を下げてるけど……。自分の趣味のこととか、ぜんぜん悪いと思ってないやろう、有間?」
「ん~、まぁ、自分の好きなコトなんやし、別に恥ずかしがることでは無い、ってのは思ってるケドね」
アッサリと答える秀明に、
「ホンマ、あんたらのそういうトコロだけは、うらやましいと思うわ……」
と、今度は、愛理沙が肩をすくめた。そして、
「それに、有間は、映画・アニメだけじゃなくて、ゲームにもハマってるんやろ?あの、『なんとかメモリアル』とかいうやつ」
「あぁ、『ときメモ』ね!そう、あのゲームに出てくるギャルっぽい女の子が、メッチャ良くてさぁ……」
何かを語りだそうとする秀明に、
「はぁ!?女子の前で、恋愛ゲームのキャラの話しするとか、救いようのないキモさなんやけど!!二回くらい死んで、人生やり直した方がエエんちゃう?」
愛理沙は、ここまで一気にまくし立てて、
「あぁ~、やっぱり、こんなキモいこと言う人間と放送するのなんか、やめとこうかな~」
と、ため息をつきながら、つぶやいた。
「あっ、それは困る!今の聞かなかったことにして」
焦って、答える秀明に、ジト目で彼を睨む愛理沙は、
「え~、でも〜。有間は、ゲームの女の子との方が楽しいデートが出来るんちゃうの?」
と、突き放した様に言い放つ。
「そんな訳ないやん!朝日奈さんと、話す方が、楽しいに決まってるって!もし、朝日奈さんが、『シネマハウスへようこそ』に出演してくれたら、メッチャ面白くなると思うし……」
フォローに回る秀明に、
「でもなぁ~、私、吉野さんみたいに映画に詳しい訳じゃないしなぁ~」
わざとらしく、拗ねる様な口調で返答する愛理沙。
「いや!朝日奈さんやったら、大丈夫やって!!こっちから、土下座してでも出演をお願いしたいくらいやもん!」
必死に出演交渉を行う秀明に、悪戯っぽい笑顔に表情をかえた愛理沙は、
「なぁ、有間。誠意って言うのは、言葉じゃなく、態度で示すモノやと、私は思うねんけどなぁ」
彼女の言葉に反応し、すぐさま席を立って、喫茶店の床に正座し、
「朝日奈さん、四月からの『シネマハウスへようこそ』に出演してもらえないでしょうか?」
両手をついて深々と頭を下げる。
「ちょっと。あの男の子、また何かやってるで」
今度は、秀明の後ろ側の席にいた社会人風の女性二人が、クスクスと笑いながら、彼の様子を眺めている。
長い脚を組みながら、床に座り込んでいる秀明を見下ろしている愛理沙は、右手の人差し指と親指をあごにあてながら、
「ふ~ん。言いたいことはわかったけど、お店に迷惑が掛かるし、とりあえず席に座ろうか?」
と、語りかける。
「あっ、そうやね!」
即座に反応した秀明は、席に座りなおして、愛理沙の次の言葉を待つ。
秀明の期待に応えるように、彼女は、
「まぁ、そこまでされたら、私としても断られへんなぁ……」
南国の太陽を思わせる満面の笑みで返答した。
「マジで!ありがとう!!」
心の底からの想いを込め、秀明も最高の笑顔で感謝の言葉を返す。そして、
「気が早いけど、早速、ブンちゃんに連絡させてもらって良いかな?なるべく早く放送部に決定してもらって、準備に入ってもらえる様にした方が良いと思うから」
「坂野の家に、電話するの?じゃあ、私も一緒に行ってイイ?」
「もちろん!ブンちゃんにも、朝日奈さんと直接話してもらおうと思うし」
秀明が、そう言うと、二人は席を立って会計をするべく、レジに向かう。




