第一節
「お前なぁ、今回は野次馬の記憶は魔法でなんとか出来たけど、限度があるんだぞ?せっかく貯めた魔力無くなったじゃねーか」
妖精(?)らしき生物は魔法少女(少年)に注意する。
「魔法少女の正体バレたらお前、動物にされるとかじゃ済まねぇよ?」
「うるせー!もううんざりだ…。記憶弄れるならその辺なんとかならねぇのかよ?」
「ん?言わなかったか?記憶だけ消したり入れ替えたりしても街が破壊された事とかの違和感が解消出来ないって。まぁそれも含めて全部直したり弄ったり出来るぞ?めちゃくちゃ魔力使うけどな?地球の10分の1くらい破壊出来る程の量とかになるだろうけどな!」
「なんで街一個修復するのにそんなに魔力が必要になるんだよ!?」
「馬鹿野郎め。作ったり直したりするより壊す方が簡単だからに決まってるだろ。魔法は万能とまでは言わんが割となんでも出来る。ただしコストも馬鹿にならんのよ。ぶっちゃけ魔力なんてよく分からんもので大体なんでも出来るって相当だろうがよ。」
「お前の立場でそれ言って大丈夫なのか…?」
「前任の魔法少女は結局奴らを封印する道を選んだが、根本的な解決にならんからな。根絶やしにしなきゃこの戦いは永遠に終わらん。」
少年は納得は出来ないまでも、この状況を飲み込むしかない状態といったところだ。魔法少女という立場も望んだ状況ではないのだろう。
「そんな事より女子力!もうちょっとおしとやかさを出せよ。」
「…勘弁してくれ……はぁ、なんでこんな事になったんだろ…」
話は一か月前に遡る――――――
「……はい!それでは今年の文化祭、うちのクラスはメイド喫茶に決定しました!」
女性教師が黒板をコツコツとノックしながら微笑んだ。
「えーーー?多数決ってそのメイド喫茶票ほぼ男子全員じゃないのー?」
「メイド喫茶だと男子の役割あんま無いじゃないですかぁー演劇とかの方が全員役割振れると思いまーす。」
女子の大半はメイド喫茶というクラスの出し物の決定に不服の様だ。
「おいおい、女子は接客・男子は裏方ってちゃんと役割分担出来てるだろ?お前らがやりたがってる演劇とか全員に仕事振るからローテーションで文化祭回ったり出来ねーじゃん」
男子も負けじと反論する。少人数で出来る出し物にする事で文化祭を回る余裕を作りたいという主張の様だ。
「はいはーい!多数決にすることは皆で決めたでしょ?文句言わないの!それにねぇ、なにもメイドは女子って決まりは無いのよ?」
女性教師はニヤりといやらしい顔で笑う。クラスがしん…と静まり返った。この教師、あまり表沙汰に出来る趣味ではなさそうだ。
そんな一連の流れで察した通り、男子の女装メイド枠として、くじ引きというパンドラの箱から3人の男子が己の不運を呪う運びとなった。この物語の主人公たる少年がその一人である。
メニューはやはりスイーツとなった。腹を決めた女子達の希望による所が大きい。やるからにはと自分達の好みへの主張は強かった。男子達はというとメイド喫茶という最大の目標を成し遂げた事により、その後の内装や買い出し等諸々の決定権を女子に握られる事にほとんど抵抗しなかったのである。当然、3人の生贄を除いて。
「メイクは任せて!男子とバレないくらいバッチリ決めてあげる!」
にこやかと言うよりも完全にニヤニヤといやらしい笑顔を浮かべながら女性教師はメイク道具をずらりと並べて活き活きとしている。
学校全体の行事とはいえ文化祭の主役はやはり生徒達である為、作業等の手伝い程度は各々の判断に任されてはいるものの、基本的に教師は手を出さない事になっている…のだが、『男子のメイク』に関しては尋常ではないテンションで関わってきている。教師は教師で保健所の許可を取る等の仕事があるはずなのだが…
ひとまずのお試しメイクとメイド服の試着をした少年は2人の友人に確認を取る。
「……」
「…おい、なんか言えよ。」
友人2人はやや固まっていた。少年の女装があまりにも似合っていた為、からかう事を忘れてしまっていたのだ。
「ああ、…うん、似合ってるぜ。はは…」
(おい!どうなってんだ!?ちょっとドキッとしちまったぞ!?)
(いやー化けるもんだなぁ…男にしては肌とか綺麗きれいだなとは思ってたけど…)
「…おい、ひそひそ話やめろ。不安になるだろが…」
バッと2人息ピッタリで同時に少年に振り返る。
「な、なんだよ…」
「…なぁ、ちょっと笑ってみてくんね?」
「は?なに急に?」
「営業スマイルだよほら接客の基本だろ?お前のメイド服見ただけじゃ分からんよ。」
少年は躊躇いを見せつつ引きつった笑顔を披露した。
「ないわーwww」見事なハモりだ。
「よーし、その喧嘩買うわ。」
「ちょっと!そこの2人は内装係でしょ?そっちでサボらないで!」
「やべっ、忘れてた…!」
友人2人は女子の呼ぶ声に慌てて持ち場に向かって小走りしていった。
「はぁ…あいつらに意見聞こうとした俺がバカだった…まぁ数日間の我慢だ、切り替えよう。」
ひとまず着替えとメイクを落とそうと教室に戻ろうとしたその時……
―ズドン!!!!!―
と巨大な爆発のような音と共に地面が大きく揺れた。