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Depth  作者: 自粛城男
3/3

③宇宙戦艦八方 ~ 社長逃走 ~

孫太夫はとあるビルの強く西日の差し込む会議室にいた。

入り口には、『新規事業推進室』の張り紙がはってある。

孫太夫の向かいには、小太りの男と、やせぎすの男が、すわっていた。

小太りの男は、岡田慶介、通称おかちゃん、やせぎすの男は、久松博、ひさまっちゃんと呼ばれていた。

2人は、体格こそ違えども、ともに、50台半ばで、頭髪が薄く、うだつのあがらぬ中間管理職といった感じである。

岡田は、日本運河の元宇都宮営業所長、久松は、本社の元経理課長であった。

そしてこの2人こそ、表向きは、日本運河株式会社の新規事業推進室員であり、裏の顔は、世界征服公団の戦略立案部のスタッフであった。

孫太夫は、まずは、オブザーバーとして、世界征服の基本戦略会議に同席をしているのであった。

しかし、会議は、一向に始まる気配は、なかった。

岡田は、口を半分開いて、汚いよだれを垂らしながら、居眠りをしており、久松は、スポーツ新聞の風俗欄を念入りに見入っている。

部屋の中には、世界征服を彷彿とさせるものは、何もなかった。

怪しげな紋章、世界地図、各国の軍備状況の資料などは。。

部屋にただあるのは、日本運河の扱う塩ビパイプとかのチラシの束とかそんなもの。

そして、机の上には、黄色いつつみのほかほか弁当の山が。

それも、一番安い海苔弁当だ。

小太りの男は、海苔弁当の山に手を伸ばした。

『岡さんよ、また食うんかい、』

『折角、あるんだし』

『なんで、こんなにあるんや』

弁当は、東京支店の営業会議用に手配されたものの余りらしい。

誰かが差し入れたのか、それとも、岡田が、貰ってきたのかわからない。

実情、余った弁当の処理に困った女子社員が、ていよく岡田に押し付けたといったところか。

そして、すでに、『ほかほか』弁当ではなくなっている。


バリバリバリバリ・・・


岡田が、無造作に弁当の包装紙を剥くその音に孫太夫は、いらつきを覚える。


バリバリバリバリ・・・


一体、こいつらは、なんなんだ。

ここは、世界征服のための第一歩として対中国戦争の基本構想を検討する場ではなかったのか。。

しかし、こいつらは、どうみても、リストラされた中年ダメサラリーマンではないか。

俺は、なんでこんなところにいるんだ。


孫太夫が、そんな自問自答を繰り返しているうちに、岡田は、弁当を平らげていた。

弁当を食い終わった岡田は、椅子から腰を浮かせた。


『屁でもこくか。。』


ブウッ!


短いが、威勢のよい音が狭い部屋にこだまする。

匂いがないのが、せめても救いであったが。

孫太夫は、ついに堪忍の緒が切れた。

『岡田さん、久松さん、貴方たちは、やる気があるんですか?もういい加減、打ち合わせを始めましょうよ!』

『お前も食えよ』

岡田は、弁当を指差す。

『あなたたちは、一体!』

孫太夫の頭の血管が切れ掛かる。

『まあ、落ち着けや』


プチ。


そういうと久松は、会議室内のテレビをつけた。

テレビだったのか?

孫太夫は、てっきりビデオだと思っていた。


・・・会社でテレビかよ・・・


しかし、孫太夫は、おもわず、ブラウン管に引き込まれてしまった。

宇宙を進む一隻の宇宙船が映し出されていたからである。

突然、宇宙船の中のシーンに変わった。

宇宙服を着た男が4人なぜか一列に並んでいる・・・


『八方魚雷発射用意!』艦長は、横の副艦長に命令した。

『八方魚雷発射用意!』副艦長は、隣の水雷長に命令した。

『八方行来発射用意!』水雷長は、一番下っ端の水兵に命令した。

『八方魚雷発射用意!』すると一番下っ端の水兵が、艦長の横にきて命令した。

『なんや、わしがやるかい』そう愚痴りながら、艦長の八方は、よっこらしょと魚雷を持ち上げた。


吉本古典コントの常道である。

この宇宙戦艦『八方』では、常にこんな感じである。

半分がアドリブなんで、皆がおいしいところを持っていきたいとしのぎを削っている。

若手もベテランもない。

艦長が、『八方』だから、宇宙戦艦『八方』である。

八方魚雷、八方ミサイル程度なら許せるが、艦内で使用される全てのものに『八方』が付けられている。

番組開始時点では、八方を上につけるか、下につけるかで相当もめたらしい。

下につけるというのは、『魚雷を撃つで八方。』『了解で八方。』って感じ。

下派、上派に別れ、喧々諤々の議論をしたが、八方の次の言葉で、皆、いまの形に納得した。

曰く。『バットマンとかは上やんけ』


若い人たちは、知らないが、TVバットマンこそ、上付の元祖ともいえる。

バットマンでは、その中で使われるもの、それが、どうみても、日常我々が使っているものを見た目変わらないのに、なんでも、かんでも、バットなんたら、バットかんたらという名前がついているのである。

バット鉛筆とか、バットタオルとか。。

『よっし、ロビン、バットレストランでバットチャーハンでも食うか、バット胡椒をうんとかけねえとな。で、ロビン、バット糖尿病には、気をつけろよ』

そんな感じであるが、このなんでも、かんでも、バットなんたらとつけるのは、バットマンとホモ少年ロビンとの同性愛に起因し、2人が永遠の愛を誓うために、2人の使うもの、2人の会話の間には、つねに、バットをつけるという約束があったというのが定説となっているが。


そんなことは、さておき、宇宙戦艦『八方』にも重要な敵役がいた。

但馬春雄。通称、たじたじ、21才のしがないお笑い芸人である。

彼の役名は、『つのだ星人』であった。

つのだ星人は、もちろん『つのだ☆ひろ』からとったものだ。

但馬は、やせぎすの男である。

だから、アフロのかつらをかぶって『メリージェーン~』とか歌いながら、出てきても、客は誰も、そのがつのだひろの物まねだとは、分からない。

ちなみに彼の合い方は、にしきの星人(にしきの☆じん)で、常に白い体操服を着て出てくるが、黒ぶちめがねをかけているせいか、どうみても、『8時だよ全員集合』の体操の時の仲本工事にしか見えない。

あと、女の宇宙人3人組みでスターボというグループが出ていたが、今は、『ブーナス』というデブスアイドル3人組に変わっている。


簡単であるが、ブーナスのメンバーを紹介する。


薫久美子かおり・くみこ

『かおり』という苗字か名前か、分からないような苗字をもつ彼女は、グラビア撮影でも大体、向かって左端にたつ。

大体、この場所に立つのは、一番、年下の甘えんぼうと相場が決まっている。

ブスである。


三宮マリア(さんのみや・まりあ)

通称まりあ。女デイトレーダーという側面をもつ。

株式投資雑誌でもコラムを担当しているが、大日貿信というボロ株に手を出し、追証状態になっている。

セクシー担当で、立ち位置は、右端だ、

ブスである。


石井ひろみ(いしい・ひろみ)

ひろみ。彼女こそ、元祖、デブスアイドルである。

一時は、AVに転向していたが、アイドルに復帰し、デブスアイドルグループ、ブーナスを結成した。

もちろんブスである。


・・・こいつら、なんで人気があるんだ?・・・

決して麗しくないブーナスたちの容姿を見て孫太夫が、一般人と同じようなことを考えていたちょうどその頃、突如、社長が失踪したJDKでは、古参の専務の山口敏弘が、幹部を集めての対策を練っていた。

『社長の不在をどう繕うかだが。。。』

『専務、いい考えがあります。』

『竹光君か?』

『社長が、UFOに攫われたというのは、いかがでしょうか?』

竹光とは、孫太夫が、宇宙貿易に傾倒してから採用した若者だ。社長のお気に入りでもあるが、古参の社員とは、うまがあわない。

『君、出て行きたまえ』

竹光が、不服そうな顔で退出すると、山口は、言葉を続けた。

『社長の不在は、過労のための急病ということにすればよい。とりあえず、幸福の会のほうには、私のほうから話しておく。その他の大口についての問題ないだろう。当面、会合やゴルフの予定もないだろ』

『はい、再来月までは、主だった会合もありませんので。。』

『そうだ。JDK本体はいい。ドットネットやシステムのほうだって、さしあたって社長に決済を仰ぐ案件はないはずだし、そっちのほうは、私のほうでも、面倒見れるが、やはり問題なのは。。』

『B&Wのほうですか』

『そうだ、あの味は、社長でしか出せない』

幹部たちの顔色がにわかに曇った。

B&W。

『巡航ラーメン ブロンソン&ウィルソン』の略である。

昨今、大人気の西部開拓をイメージした幌馬車風移動ラーメン店。JDKの新規事業である。

すでに移動ラーメン店、5台が稼動しており、JDKグループの利益の40%を稼ぎ出している。

豚骨とビーフジャーキーから出す絶妙なスープは、孫太夫にしか作ることができない。

『やはり、あの人に頼むしかないか・・』

そういうと、山口は、深いため息をついて、椅子に身を沈めた。

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