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その道の先に  作者: たけのこ派
第二部/星皇祭編
73/126

2-32/フェーズ4:平凡なモノたち

覚悟を経て、それぞれの決戦へ。

第二部も残すところ3話ほど、最後までお付き合いいただければ幸いです。

 歓喜と興奮、そして期待。

 この5日間、ずっとスタジアムに渦巻いていた感情。そのすべてが、いよいよひとつのクライマックスに向かって収束する。

 個人戦決勝の開始まで、残された時間はあとわずか。今のうちにと用を足しに席を立つ客、両手に菓子食料の類を抱えて戻ってくる客、いずれも身に纏う空気は浮き足立ったものだ。

 意識しようがしまいが、否が応でも会場のざわめきは同じ場所へと向かう。アリーナに漂う熱気はひとつの巨大な瞳となって、中心に据えられた巨大モニタを今か今かと凝視している。


 そして。熱に浮かされた会場を、一番広く見渡せる場所。

 僕が見つけたとっておき(傍点)の場所に、その人は立っていた。


「————」


 気配に勘付いたのか、彼がことさらにゆっくりと振り返る。

 緩慢な動きは、しかし気の緩みから生じたものではない。それはむしろ、警戒する獣のような抜かりなさの賜物(たまもの)だ。


「やっぱり、ここでしたか」


「……やっぱり?」


「ええ。考えることはどうも同じだな、と」


 苦笑とともに口を開けば、彼は思い当たる節がないのか首を傾げる。

 同類を見つけたつもりでも、なかなかどうして相手には理解されないらしい。まあ。真に僕のような人間であるのなら、同類であるほどに警戒を抱くのは自明の理なんだけど。


「周囲からの評価を一定に保ち、あえて特徴のない立ち位置に徹し——そして、予定外の出来事に弱い。僕にも多少は身に覚えがあります。だからこそ、思考のトレースもし易かった」


 部分的ではあれ、己を鏡に映したような性質を持った相手。それを理解しているからこそ、口を衝いて出る言葉は自然に苦々しくもなる。

 罵倒でも称賛でもない、ごくごく客観的な事実。それはどちらかと言えば、自分に言い聞かせていると形容したほうが近しいものだ。

 こんなこと(傍点)を初めて、もう何年も経っている。にも関わらず何ひとつとして成長していない、そんな自分を誰よりも自覚しているのだから。


「いつから?」


「強いて言えば、二日目から。もっとも、初日の時点で引っ掛かりはありましたけど」


 純粋な疑問に答えるようにして、紐付けられた記憶を(さかのぼ)る。

 最初に感じたのは、言い表せないほどの小さな違和感。誤差と呼んでいいほどに小さなそれは、しかしずっと頭の中に居座り続けていた。


「確かにここなら、スタジアム全体を見渡せます。……でも、こんな場所、普通の人はまず目をつけない。大会運営に関わる裏方、それも『都合のいい場所』を意識して探しているような人間でなければ、気にすることもなく通り過ぎるでしょう。そんな場所を初日から把握するような人間は、大なり小なり僕と似通っている」


 僕がスタジアム中を隈なく探し、ようやく見つけ出したこの穴場。

 試合も観客の様子も一目で見渡せ、おまけにほとんどの角度からは目に付かない。このあたりをゆっくり探索できる裏方でさえ、下手をすれば見落としてしまうほどのSレアスポットだ。

 そんな場所に、初日の昼の時点で目をつけていた。たったそれだけで、目を付けるには十二分に足りるほどの対象といえる。

 あのとき——油断しきっていた僕の背後から、唐突に声が聞こえてきたあの瞬間。肝をつぶしかけた僕が抱いていた感情は、混じりっけなしの警戒だと断言できるだろう。


「確信したのは二日目の夜です。あの時明らかに、あなたは余裕を失っていた」


 「いい人」の仮面を顔の上に貼り付け、他者からの評価を画一化する。相手とほどほどの距離感を保ちたいなら、一切の接触を断つよりもよほど効率的な手段だ。

 影が薄すぎるわけでも、存在感が溢れ出しているわけでもない、良くも悪くも「いい人」で終わる程度の人物評。それが適切に機能すれば、あとは相手が勝手に「その他大勢」へと振り分けてくれる。

 対象として見られていないがゆえに、どこまでいっても普通の人間としてしか扱われない。そういう意味では、存在感が消えるよりよほど世渡り上手だ。

 この本戦においても、予定通りその仮面を貫き通すつもりだったんだろう。俊にも「いい人」と評価されているあたり、曲がりなりにもその行動はうまく働いていたはずだ。


 二日目。犯行予告が出された、あのときまでは。


「あり得ない、とあなたは言いました。でも、その根拠は? まだ犯人が尻尾も出していなかったあの時、そこまで断言できる根拠はどこにもなかったはずです」


 犯行予告が出されること。それはいくら非常識であっても、絶対にあり得ないとは言い切れないはずだ。

 ありえない——そう言い切れることそのもの(傍点)が、本来であれば有り得ない。

 ましてや二日目の夜の時点では、犯人の情報など無いも同じだった。後出しジャンケンのようなやり口を前にして、どうして絶対にないなどと断言できる?


「……にも関わらず。あの時あなたは、確かにその言葉を口にした。そこを起点にして考えれば、自ずとこの騒動の見え方も変わってくる」


 短時間とはいえ、己の仮面が剥がれるほどに狼狽した理由。まだ未確定の情報に、有り得ないと力強く言い切ることができた理由。

 今回の事件の矛盾点、どうしても腑に落ちない部分——真相が隠されているとすれば、そこ(傍点)を置いて他にはない。


黒幕(あなた)の用意した筋書きに、そもそも犯行予告は存在していなかった。誰も予期できなかった第三勢力、それがあの予告犯の正体——そうですよね、振本さん(傍点)」


 真っ直ぐに見据えた「犯人」の瞳には、どのような感情も宿っていない。

 普段の彼とは似ても似つかない、空洞と呼ぶに相応しいその表情。仮面を取り払った先にある本質が、虚ろな眼で僕を映していた。


「一日目の事件は、限りなくあなたの想定通りに進んでいた。だからこそ、想定外の事態に動揺した。自分の敷いたレールを外れるどころか、あまつさえ何処の馬の骨とも分からないような人間がそのレールの上で踊り始めたのだから、それも無理のない話です」


 物事を周到に進めるからこそ、想定外の事態に不意を突かれる。僕と同じように、あるいはそれ以上に、振本さんはそういうタイプの人間だった。

 最適なアドリブを都度効かせる動き方など、僕のような人種には取るべくもない。だからこそ、柔軟性に溢れた俊の立ち回りを羨ましく思ってしまう。

 ……もっとも。リカバリ能力という意味でなら、振本さんの立ち回りもそう捨てたものじゃない。


「三日目の正午、あなたは予告犯の動きを伺っていた。そして騒ぎが起こったのを確認し、手先の一人である精霊使いを向かわせた——自分は安全なこの場所で情報を探りつつ、計画の妨害者を始末するために。同時に水無坂さんの方にも手駒を送っていたあたり、立ち回りは完璧と言っていいくらいです」


 第一の黒幕——振本さんと、介入者たる第二の愉快犯。犯人が途中で増える、なんて掟破りの事実も、前提条件にすれば全てが噛み合う。

 いかにもな演出としての停電騒ぎも、恐怖を煽るような爆発も。仕掛け人そのものが異なっているのだから、それまでとやり口が180度違うのは当然だ。

 犯人とまた別の犯人の対立という、当事者にすら予測不可能な事態。これ以上の介入を防ぐために振本さんが取った選択は、あえて初動を愉快犯に譲る、というものだった。

 後手に回ったことで得られた、管理室という明確な解。自分はこの見張りポイントに引っ込みつつ、刺客たる精霊使いを目的地へと送り込む——さらに同時刻、それすらも隠れ蓑にして第二の犯行に及んでいるのだから、その処理能力には感嘆するしかない。

 問題の究明と具体的な解決策の提示、並行して本来の目的までも推し進めている。次善の策という括りで見れば満点をつけられるくらいの、文句のつけようがない対応だ。

 事態を早期に察知して動いた僕や俊のような警備員の存在も、ある程度なら織り込み済みだったんだろう。透明化(ふたりめ)の退却がやたらとスムーズだったことが、それを如実に証明している。

 僕一人が相手であれば、精霊使いはさほど苦労することもなく逃走に移れたはずだ。それどころか、戦闘すらさせてもらえなかった可能性もある。

 予告犯の姿を確認し、場合によっては捕獲、あるいは始末する。たったそれだけの、シンプル極まりない任務だった。


 振本さんにとっての——そして何よりも、精霊使い(てごま)にとっての最大の誤算。

 それは、言うまでもなく。被害者でしかなかったはずの和泉さんが、誰よりも先にあの場に現れたことだ。


 犯人を必ず見つけ出し、復讐するという和泉さんの信念。それは間違いなく、状況を変えるに足るだけの力を持っていた。


「さすがに複雑な精神操作をダイレクトで出来るほど、俺の能力は自由度が高くなくてね。せいぜいが誘導、もともと持っている感情を増幅させる程度のものだ。……ま、そのおかげで、和泉くんとカチ合った時に逃亡させることもできなかったんだけど」


 口を開いた振本さんは、そこで初めて小さな感情を覗かせる。力のない苦笑が、その口元からこぼれ落ちた。


 振本(ふりもと)光生(こうき)——保有能力は時計座、精神干渉系の能力。


 対象の精神へ働きかけ、上位の能力であれば人格そのものにすら影響を及ぼせる。おしなべて厄介な能力が並ぶ特殊能力系でも、トップクラスの脅威となるカテゴリだ。

 もっとも。本人の言う通り、彼クラスの能力ではそこまで大それたことはできない。特定の感情を増幅させ、あるいはそれを誘導することで他人を操る、要は強めの催眠術のようなものだ。

 語弊を恐れずに言えば、そのプロセスは星屑(ダスト)が星刻者の身体を乗っ取る時に近しいか。強烈な負の感情につけ込み、精神の均衡を崩す星屑のやり口と同じように、トリガーとなる強い感情があって初めて機能する能力なのである。

 精霊使いが和泉さんに抱いていた、恐らくは一方的であろう負の情念。振本さんはそこに付け込み、鉄砲玉として彼を利用した。

 入念な準備と誘導を経て、最も適した手駒を起用し、最も無駄のないやり口を選択した。それが功を奏した結果が、一日目の襲撃事件の顛末というわけだ。


 しかし。三日目においては、その性質が完全に裏目に出た。


 本来なら、彼は退却命令に従ったはずだ。しかし、憎悪の感情が増幅された結果、精霊使いは命令を無視した突撃を敢行した。

 例え退()かなければならないはずの場面であっても、和泉さん憎しの精霊使いに通じるはずもない。最適な手駒を選んだはずが、そのせいで手駒の一つを失う事態に陥ったのだから、振本さんからしたらたまったものではないだろう。


「にしても、雨宮くんには本当に驚かされたよ。一昨日にしろ、昨日にしろ……さすが、例の騒動で名前を挙げただけのことはある。化け物なのか英雄なのか、とにかくその類いの人間ほど恐ろしいものはないね。こっちがどれだけ計画を練ろうが、思ってもみなかった角度から妨害してくるんだから」


「……それ、多分本人が聞いたら嫌がりますよ。英雄とか、化け物とか」


 苦虫を噛み潰したような顔で、振本さんがそう呟く。どこかで聞いたような単語に、返す言葉が口から転がり出した。

 三日目の時点で僕が疑念を抱いていることは、振本さんも認識していたはずだ。牽制の目的でことさらに分かりやすく動いていたことも合わせて、彼の目には僕が目障りな存在として映っていたに違いない。

 思うように計画が運ばない焦りと、着実に悪化する状況への危機感。折り重なる不測の事態に対して彼が取った選択が、目下脅威となるものの排除——すなわち、僕の口封じだった。

 恐らくは虎の子だったはずの、即効性かつ致死レベルの毒。その一撃を咄嗟の判断で防いだ雨宮俊は、振本さんからすれば疫病神そのものだ。

 「悪役」の行動を妨害し、計画そのものすら狂わせる、およそ想定の埒外にいる存在。そんなものを英雄(ヒーロー)と呼べるのは、翻って一流の悪役である証左に他ならない。

 大多数の人間にとって、それは紛れもない異常(バグ)だ。僕が振本さんの立場にいたなら、間違いなく俊を「化け物」と断ずるだろう。


「二度目の犯行予告が出たとすれば、貴方は必ずまたここに陣取る。その判断に賭けました」


 空っぽの瞳を正面から見据え、己の推理を締め括る。

 パズルのピース自体はとっくに出揃っていた。不足していたのは、それを意味ある形に並べ替える適切な視点だけ。

 一度見方を変えてやれば、なんてことはないものだと容易に気付く。凝り固まった思考のせいで随分と時間はかかったけど、それでもこれでチェックメイトだ。


「滑稽だろう? あの介入者がやったことなんて、精々が観客を怖がらせただけ。そんな愉快犯のこけおどしに振り回されて、未だに相手の尻尾ひとつ掴めない。結局、奴が何をするまでもなかったってことさ」


 薄い笑みを浮かべて自嘲する振本さんは、ことさらに肩を竦めてみせる。

 予告犯の姿が影も形も見えない以上、対策はどうあがいても後手に回るしかない。次善の策をとることは出来ても、逆に言えばそれだけだ。

 昨日再度の犯行予告が出された時点で、振本さんが取れる選択肢はひとつしかなかった。そこまで計算していたのだとすれば、愉快犯はとても一筋縄でいく相手ではない。


「……どうして、こんなことを?」


「動機なんて大それたものじゃない。ただ、どこまでやれるのか試したくなっただけさ——星皇祭なんて大袈裟なことを(うた)ってるんだ。武闘派の人間でなくとも、己の能力の限界に挑戦してみたくなることくらいあるだろう? だったら、燻ってる人たちに火をつけてあげようと思ってね。タチの悪い慈善事業だよ」


 (うそぶ)くようなその声の中に宿るのは、本心か、それとも別の感情か。

 慈善事業。口では簡単に言っているものの、そこには綿密な計画と、決して少なくない準備があったはずだ。

 本戦出場者に恨みを持つものを探し出し、その心につけ込んで手駒を増やしていく。行動を起こすまで一切を悟らせない隠密性も、予選から本戦までの僅かな期間でそれを成し得た手腕も、鮮やかと言うに足るだけのものがある。


 ……でも。そのすべてはもう、終わってしまった話だ。


 策謀はおろか、奸計(かんけい)の欠片さえ今はない。張り巡らせていたもの、そのことごとくは露となって消え去った。

 底知れぬ悪意も、周到な計画に見合うだけの大義名分もなく。すべての打てる手を考慮したうえで、振本さんは投了の意思をこちらに向けている。

 ——眼を閉じ、頭を搔くその姿は。黒幕と呼ぶにはあまりにも小さい、ただの人間でしかなかった。


「……さて。ドンパチやるつもりなら乗ってもいいけど、そっちもまさか手ぶらで来てるわけじゃないんだろう?」


「ええ。理解が早くて助かります。警備の人員を少々、こちらに回しています。僕としても、決勝を控えたこの場で手荒な真似はしたくありません——どうか、賢明な判断を」


「はは、そりゃ大変。俺の戦力じゃあ、どう頑張っても勝てっこないな。……うん、降参だ」


 いざという時には、ここで一戦を交える覚悟くらいはあった。

 最後の最後で、詰めを誤った時のため。万が一を想定していたからこそ、鬼島さんに頭を下げ、ここまで大規模な人員を動かしたのだから。


 しかし。想定に反するように、振本さんはあまりにもあっさりと両手を上げる。


 最後にあったのはたったひとつ、小さな小さなため息だけ。

 再び顔を上げた時にはもう、彼はにこやかな「仮面」を被り直していた。


「詰んでる盤面で足掻けるほどタフじゃなくてね。そんなことができるのは、それこそ英雄か化け物くらいのものさ。ただの人間じゃ、どう頑張っても辿り着けない領域だよ」


「……ええ。そう、かもしれません」


 それは、あれほど星皇祭を騒がせた男の、驚くほど簡潔な敗北宣言。


 これでもかというほど、呆気なく、拍子抜けした——「黒幕」の、最期だった。


 即座に転移してきた警備隊の面々が、振本さんを一瞬で取り囲む。

 周囲に巡らせていたと思しき幾らかの手駒も、所詮は学生の集まりでしかない。奇襲性という最大の強みを奪われれば、あとは本職の手際によって瞬く間に制圧されるだけだ。

 透明化がこの中にいるのかは定かでないけど、頭領が捕まった今では大した脅威にもならない。能力による操作が解けてしまえば、危急性を有する対象ではなくなるだろう。


「……ああ、でも」


 両脇を固められてもなお、振本さんは抵抗することもなく唯々諾々と従っている。

 それこそが「常人」の、牙を抜かれた獣のあるべき姿だとでもいうように。思い出したように口を開くその声色は、諦めと僅かな何かに彩られたものだ。


「あの愉快犯。あれは間違いなく、向こう側(傍点)の人間だよ。少なくとも、確実に常人(こっち)の側にはいない」


 だから。最後に言い残したそれは、きっと僕への忠告で。


「ってわけで、気をつけたほうがいい。正真正銘の常人の直感だ」


 ——そして。それ以上に、常人なりの意地だったんだろう。


 結局誰一人として解明できなかった、予告犯の正体。それがどんな人物であるにせよ、一筋縄でいくような相手ではないことは、振本さんを出し抜いたことからも明らかだ。

 未だに尻尾すら見せないことも、その能力の高さを裏付けている。その誰かに対し、どうにかして一矢を報いたいという意地そのものが、その言葉には内包されていた。


 ……でも。

 残念と言うべきか、幸いにもと言うべきか。そのこと(傍点)なら、もう先約が入っている。


「大丈夫です。そこは彼が、自分の仕事だと言い張ったので」


 都合のいい感情で、都合のいい押し付けだ。

 守るべき人間を、己の不始末で危機に陥れた。それだけでは飽き足らず、彼がさらなる危地へ赴こうとしている事を知っていながら、その事実を黙認している。

 心の奥底で響く断罪の声は紛れもなく、僕が受けて然るべき批難の証だ。この先ずっと、僕はこの声に苛まれることになるのだろう。


 だとしても。


「信じてしまうんですよ。……いえ、信じたくなってしまうんです」


 運を天に、ではなく。

 任せるべきものを、任せるべき人へ。そう思わせるに足るだけのものを、彼は間違いなく持っている。

 それは、きっと。


「……なるほどね。そりゃ、間違いなく英雄だ」


 こぼれ落ちてきた微笑は、誰の目にも留まらないほどに小さい。


 ……でも。今この瞬間、振本さんは間違いなく笑ったのだ。


 強固で堅牢な、「いい人」を演じるための装置。被り直して、二度と外すことなどないはずの——


 その、「仮面」の下で。

一線を踏み越えていけるのは、きっと紛れもない異常者だけなのでしょう。

それをなんと呼ぶかは、はてさて。


次回は早ければ明後日、23時ごろ投稿予定です。文字数が多めになるので、のんびりお待ちいただければと思います。


感想、評価等、いただけると励みになります。よろしくお願いいたします。

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