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その道の先に  作者: たけのこ派
第一部/接触編
37/126

EX−2/0603:ちょっとした裏話

前回のあらすじ

博士、二万字ほど喋る。

「坂本さん、電話鳴ってるよ」


「分かってるっての……ああもうしゃーない、ジョーカーここで切ってやるよ」


「はいスペ3返しね。いいからとっとと電話出てほら」


 昼下がり、というには些か以上に時間が経ち過ぎた午後。僕の前でまさに今、渋々といった様子で電話口に手をかけたのは、いつもの如く理事長室で時間を潰していた坂本さんだ。

 枕詞にいつもの如く、とつけてもなんら違和感を感じない程度には、坂本さんも相当なサボり癖がある。まぁ、用事を済ませにきたはずが大富豪に巻き込まれているあたり、僕も人のことは言えないんだけど。


「もしもし? ああ、滝川か。例の話は……やっぱりか、ご苦労。多分すぐ必要になるだろうから、データはこっちにも送っといてくれ。んじゃ切るぞ」


 ひとしきり話したあと、納得したような様子で受話器を置く坂本さん。何事か紙にさらさらと覚え書きすると、何事も無かったかのようにこちらに向き直る。


「なんの話?」


「俊のことだ。前に頼んでおいた件が今終わったらしい。ま、予想通りの結果ではあるわな。ほい8切り」


「あぁ、適合率の。でも良かったの? そのあたりを開示したら、必然的にそのほかの情報も目に入るんじゃない? ……あ、7渡しね。これあげる」


 重要な会話の数々が、文字通り片手間に流されていく。今更言うまでもないけど、そのぶちまけ具合は俊本人がこの場にいないからこそだ。

 頭を抱えてすっ飛ぶか、特大の溜息とともに見て見ぬ振りをするか。僕の予想だと後者だけど、どちらにせよ彼に聞かせられるような裏話では絶対にない。


「いや、その辺は滝川がうまく誤魔化したらしい。というか俺がそう指示したんだがな……おい、お前こんなもん渡していいのか?」


「いいよー、僕は使わないから」


「ほおん、いい度胸だな——ほれ、これであと2枚だ。モタモタしてたら勝っちまうぞ?」


 そう言いながら得意げに手札を掲げる坂本さんは、いつもと何も変わらない様子で。


 だからこそ、()()()()()()()()がことさらに目についた。


 胸の内で膨れ上がるのは、小さいながらも確かな形を持った疑問。決して看過できないそれに、手札とのにらめっこを中断して顔を上げる。


「——ねえ。この情報を伏せておくメリットはあるの?」


「おん?」


 怪訝な顔をする坂本さんは、僕からの質問など想像だにしていなかったのか。

 いきなりどうした、と言わんばかりの視線が、互いの手札を飛び越えて僕の元へと届く。


「能力に関して隠し立てをするなんて、星皇軍(ここ)の目的とは真逆だよ。今までならともかく、俊はもう立派な星刻者……それも、普通ならあり得ないような戦闘の経験まで積んでる。能力について正しい知識を得たほうが、よほど彼のためになると思うんだけど?」


 無知ゆえの恐怖心が、能力の暴走を助長させる。この世界に身を置く者なら誰でも知っている、『星の力』についての大前提だ。

 坂本さんがやっていることは、それを真正面から否定することと変わりない。いくら事情があるからといっても、与える情報を意図的に操作することが適切と言えるのか。

 わけても、雨宮俊という人間の性質を鑑みれば——僕にとっては不本意極まり話だけど——これからも面倒ごとに巻き込まれる可能性は大いにある。あのとき能力の全貌を知っていれば、なんて事態になってしまったら、それこそ取り返しがつかなくなってしまう。


「普通ならそうだろうな。ただ、あいつの場合は少々事情が異なる。与えた情報がトリガーになるかもしれんし、そこから暴走する可能性も大有りだ。避けられるリスクは避けた方がいいんだよ」


「言いたいことはわかるんだけど……でもそれなら、この間の騒動は大丈夫なの? あれだけのダメージ、刺激としては十分アウトの部類なんじゃない?」


「肉体的な刺激と精神的な刺激じゃ、受けるダメージも変わってくるだろうよ。今ここで俺に殴られるのと、『実はお前は俺の息子だ』って俺に打ち明けられるの、どっちの方が大きいダメージかなんて言うまでもないだろ?」


「その喩えは微妙に違う気がするんだけど……」


 いや、文脈を無視していきなりそんな話題を出されても。

 暴露話が精神にくるのは否定しないけど、さすがにそれは雑すぎて困惑するだけだ。だいたい、坂本さんに殴られたらダメージ以前に一発で再起不能になるんだから、これに関しては喩えが下手くそと言わざるを得ない。


「つまりだな、早い話が当人たちの問題だってことだ。そもそも『それを知らせるのは私の役目です』って保護者が言ってるんだから、任せるしかないんだよ。色々とめんどくさいんだ、この問題はな」


「……ふうん。まぁ、それならそれでいいか」


 それが坂本さんと葵さんの方針なら、僕が口を差し挟めるわけもない。物分かりの悪い僕でも、さすがに首を突っ込める問題に限度があることぐらいは理解している。

 もとより、俊の問題について僕は「必要な情報」を与えられているだけだ。相当に立て込んでいるらしいことは聞いているけど、それでも知識としては全体の三割にも達していない。

 僕の知る限り、この話の全貌を理解しているのは坂本さんと葵さん以外にいない。そして両者がそのやり方に合意しているのだから、僕が納得しているかどうかは全く関係のないことだ。


「何はともあれ、とりあえずは様子見だな。そのうち総本部にも行かなきゃならんし、余計な問題を抱え込んでる余裕はないってことだ。ほい、これであと1枚だぞ」


「総本部ねぇ……あ、これで革命ね。さっき渡したのなんだっけ? Kだよね確か」


「はあ!? お前、それはお前——ダメだろ」


 響き渡る坂本さんの慟哭。それを生温い目で見やりつつ、残りの手札を淡々と切っていく。

 例の一件——第二本部襲撃、その後始末。樋笠先輩と俊を引き連れて総本部に報告に行くことは、既に坂本さん本人から聞き及んでいる。

 手続きは万事滞りなく終わり、日程もとっくの前に決まっているという話なのだから、普段の坂本さんの仕事ぶりを知っている身からすれば驚き以外の感情が湧いてこない。それだけ仕事ができるのなら最初からやればいいのに、どうしていつもはこうなのか。

 報告といえば聞こえはいいけど、要は出頭と言ったほうが近しいものだ。メインは坂本さんの断罪、もとい責任追求であり、俊はあくまでサブのコンテンツという形である。それでも何かをやらかさないか恐ろしくはあるけど……まぁ先輩もついているし、さすがに間違いは起こらないはずだ。たぶん。


「はい、これで上がりね。そのうち響さんがくるだろうし、僕はこのへんで帰るよ」


「……覚えてろよ。次は勝ち逃げナシだからな」


「はいはい、覚えとく覚えとく」


 サボりに付き合っていたことを知られたら、僕もまとめて折檻の刑だ。罰ゲームはまた改めて考えるとして、とっとと脱出するに越したことはない。

 ひらひらと手を振って部屋をあとにし、未だ日が高い外へと歩を進める。瞼を閉じても焼きつくような日差しは、時間の使い方を落ち着いて考えるには些か強すぎるほどだ。


「……うぅん、どうしようか」


 ぐっ、と大きな伸びをして、気合いを入れるために頬を叩く。

 今は放課後、部活動真っ盛りの時間帯。さりとて、誰も彼もが部活動に属しているわけでもない。

 こなすべきタスクは山積みだ。しかも、それがどんな結果をもたらすかなんて、全くと言っていいほどわからない。

 毎度毎度、こんなことを考えなければやる気も出せない自分に辟易する。もう少し単純な構造の頭をしていればよかったんだけど、物事は往々にして上手くは転がってくれないものだ。


「……まったく。キチンとしなきゃ」


 すぐに物思いに沈んでしまうのは僕の悪い癖だ。石橋を叩くのはいいけど、それで他ごとが手につかないのは本末転倒も甚だしい。

 僕にはやらなければならないことがある。そのために、僕の持ち得るすべてを使う。

 考え方はできる限りシンプルに。やるべきことだけをはっきりと、だ。

 さあ——今日も頑張って、小さなお仕事といきますか。

幕間①、これにて結。博士の楽しいおしゃべり回でした。

続きまして、幕間②です。さんざ話題になっていた俊の処遇のお話と、あとは……。


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