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その道の先に  作者: たけのこ派
第一部/接触編
30/126

1−29/相対するものたち(裏)

ボス戦は同時進行で。それぞれの雄姿をお楽しみください。

「どうして、僕をここに?」


「あん? そんなもん決まってんだろ。オマエが面白そうだったから、だ」


 あ、この人坂本さんと同じ人種だ。いや、薄々感づいてはいたことなんだけど。

 作戦開始、つまり突入と同時に、僕と俊は鬼島さんの部隊と分断された。すわ手詰まりかとだいぶ焦ったりはしたけど、しばらく経っても敵の手が伸びてこないあたり、どうにも孤立させられた理由は僕の想像しているものとは違うらしい。

 こちらの対策もなんのその、といった姿勢を見るに、ここはかなり重度の()()()がされていたようだ。時間も手間もやたらと込んでいる上に、結界そのもののクオリティも段違いに高い。敵方の支援役は十中八九、予想通りの十二宮(ふたご座)で確定だろう。

 彼らの能力、個々の性能は予想の中でも最悪の部類に近しい。少数精鋭で乗り込んでくる中に十二宮レベルの能力者が二人も三人もいるなんて、想像もしたくない有様だ。

 能力頼りではなく頭もキレる、おまけに各々が担当する仕事を完全に把握しきっているときた。慢心のない実力者ほど厄介なものはないというけど、今の状況はまさしくその体現だ。

 鬼島さんの部隊は見事に足止めされているし、俊もどうやら例の男に捕まっている。恐らくは彼らが思い描いたままの、完璧なシナリオ通りというやつだろう。


 ……しかし、だ。

 確かに最悪には近しいけれど、それでも悪いことばかりとは限らない。

 少なくともひとつ、予期しなかった幸運が存在する。それが今、僕が置かれている状況だ。

 分断された僕が巡り巡ってたどり着いたのは、このオフィスのちょうど半ばあたりの階層。広々とした空間と設備は、そこが食堂として運用されるであろうことを示している。

 数日後の昼間であれば、社員たちの楽しい社交場になっているはずの場所。でも、こと現在においてなら、ここには僕と謎の男の二人しかいない。


「面白そう、というのは——」


「何も深く考える必要はねぇよ。お前、あん時のパシリだろ? ってことはあの男、十二宮殺し(ゾディアックキラー)が信頼してる人間だってことだ。そんなヤツが、明らかに不釣り合いな部隊に入ってこんな所にいる。何か策がある、って考えるのは当然のことだろうが」


 そういうことか。納得半分、驚愕半分の思考のまま、最初の一手を脳内で組み立てていく。

 どうやら二時間前に会敵したあの時、僕の姿はばっちりと補足されていたということらしい。覚えていない方がいろいろとやりやすかったのだけど、さすがにそこまで上手くはいってくれないようだ。

 大雑把なように見えて、その実周囲の観察をまったく怠っていない。好戦的なのは確かに付け入りやすい点ではあれど、生半な策が通じる相手ではないのは明らかだ。

 僕がここにいるそもそもの理由。鬼島さんを除いた同行者には後方支援のためだと説明してるけど、もちろんそれはただのカモフラージュに過ぎない。

 目の前にいるこの男を、出来うる限り足止めする——坂本さんから与えられた重要任務は、しかし現在、図らずもその半分ほどが達成されたことになる。

 僕に策があると分かっていながら、彼はあえて自分のいる場所まで僕を誘導した。それは愚かな好奇心などではなく、ましてや慢心なんてわかりやすいものでもない。

 自分を打ち破る、打ち負かすに足る作戦が、どんなものか見てみたい。理由としてはそんなところだろうか。危険性を正しく理解した上で、それでもなお己の心に従っているのだとすれば、僕の想像をはるかに超えるほどの戦闘狂っぷりだ。

 間違いなく常軌を逸していると言い切れる、男のぶっ飛んだ精神性。その根底にあるものは、きっと自分の強さへの圧倒的な信頼なんだろう。

 自分と相手の実力を客観的に見極めた上で、それでもなお自分の役割を果たせると豪語できる強烈な自負。僕をこの場所まで招き寄せたのも、その自負があるからこそのものだ。

 事実、坂本さんとの戦闘においても、彼は自分に課された足止めという本分をきっちりと果たしきっている。仕事をこなした上で、更に戦闘を楽しむ余裕まであるあたり、僕とは根本的なスペックが違うとしか言いようがない。

 むろん、その自信にケチをつけるつもりはない。見下そうが悪し様に罵ろうが、歴然たる実力差に変わりはないのだから。

 どれだけ策を弄そうが、僕は彼にとって脅威にはなり得ない。単純明快なその評価が間違っていないことは、痛いほど理解しているつもりだ。


 ……ただし。彼にはたったひとつだけ、小さな誤算がある。


「あなたの言う通り、僕には策があります。あなたを確実に、()()()倒せるだけの策が」


 決死の覚悟。そう呼ぶにふさわしい顔を作る僕の言葉に、男は歓喜の表情を浮かべる。

 この言葉は、部分的には真実だ。確かに僕には策があるし、勝算も決して低いものではない。


 ——ただ。何をもって「勝ち」とするか、その基準が異なっているだけ。


 最悪なのは、目の前のこの男と、電話をかけてきた首謀者らしき男が合流することだ。最も自衛能力の低い俊が件の危険人物と相対している可能性が高い現状、合流されたら手の打ちようがなくなる。

 もちろん、野放しにしておくという選択肢もなしだ。奇襲性に富んだこの男が遊撃隊に回れば、その先に大惨事が待ち受けていることは疑いようもない。ここで釘付けにするのが最良の選択肢であるということくらい、いくら僕といえど理解している。

 演技の綻びは厳禁だ。僕はここで、彼を倒せるだけの手段と能力があるふりをしなければならないのだから。


「いいぜ、お前の策に乗ってやるよ。それで? 助っ人か、それとも道具か。なんでもいいが、出すならとっとと出したほうがいい。出し惜しみなんてできる状況じゃねぇだろ?」


 楽しそうに口元を歪め、見透かしたように僕にチャンスを与える男。その獰猛な笑いは裏を返せば、僕を負かすまではここを動かないという意思表示にも取れる。

 実力の伴った自信と、僕が格下であるという事実。その二つが、彼の余裕を形作っている。


「では、お言葉に甘えて。僕は弱いので、手加減していただけると助かるのですが——」


 そう、僕は格下だ。今の僕では、ひっくり返ってもこの男に勝つことなんてできない。

 残酷なまでの力の差が、僕とこの男の間に横たわっている。一山いくらの凡人がどれだけ気合を入れようが、目の前にいる本物に敵うはずがない。


 だけど。

 今、この瞬間に限っては。僕には、確かな「武器」がある。


 腕時計の竜頭を薄く撫でる。数時間前に体験したばかりの感覚が、今度はより強い実感とともに体内で形を取るのが感じ取れる。

 コンディションは悪くない。それでも、全開のまま戦える時間はそう多くはないだろう。

 5分か10分か、あるいはもう少し。いずれにしろ、時間稼ぎとしては紛れもなく落第点だ。

 「雨宮俊の安全が確保されるまで時間稼ぎを続けること」。僕の能力値に対して、坂本さんはよくもまあこれほど鬼畜なオーダーを出せるものだと思う。無事に帰れたら、やっぱり文句の一つでも言ってやるべきだ。うん、そうしよう。


「コンディション、クリア。2番から4番、スタンバイ」


 したがって。今この場で、僕が果たすべき役目はたったひとつ。

 文字通り全力で、死ぬ気でこの男を足止めする。頭と身体を限界まで働かせて、1秒でも長く時間を稼ぐのが、今の僕に課された最大の役割だ。

 

 ——さあ。ミッションを始めよう。

魚見、ようやくの全力戦闘。なお相手は圧倒的格上の模様。


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