1−11/図書館ではお静かに
前回のあらすじ
誰このイケメン……
魚見の話によれば、この星皇学院という学校、小中高が全て一緒くたになっているらしい。当然設備もその数だけあるということであり、敷地面積はかなりのものだ。これに病院やら軍の施設も加わるというのだから、第二本部全体の面積はもはや立派な大学をぽんぽんと放り込めるレベルである。
……なぜこんな話をしているかといえば、授業が始まるまでの時間で案の定迷ったからだ。
食堂を探していたはずが、気づけば学校内をくまなく探索する羽目になった。腹ごなしで食べたキムチパンがなかったら冗談抜きで飢え死にするところだった……が、死ぬほど辛かったので二度と買ってやらん。
閑話休題。なんとか朝食を摂り終え、さあどんなものだと勇んで臨んだ初授業。
——結論だけ言えば、その内容は凄まじく拍子抜けするものだった。
これといって難しいわけでもなく、特別なことをやるでもなく。前の高校で一ヶ月間受けたものと同じような、至って普通の授業を七限。あまりの普通さに、三限目あたりで既に睡魔と戦っていたほどである。
強いて特筆すべきことがあったとすれば、ホームルームの時間に簡単な自己紹介をした事くらいだろうか。多少テンパりはしたものの、魚見がにやけていた事以外にこちらに実害はなく、ささやかな失敗は一限目が終わる頃には忘れられていた。
『星の力』とやらについての授業があるかと思ったのだが、魚見曰くそういった関係の授業は四月で一段落したらしい。最低限の知識は入学前に教えられるという話なので、あくまでオリエンテーリングで扱う程度のものなのだろう。
また、基本的には生徒は春か秋にまとめて入学するため、俺のような半端な時期に転入してくる奴はそうそういないのだそうだ。にも関わらず俺の周りに誰も寄ってこないのは、俺の身体から放たれるぼっちオーラがそれほど凄まじいということなのだろうか。
確かに転校にはもう慣れているし、このシチュエーションも随分前に経験しているはずだ。……だが、それとは別に、何か人間としての部分で負けた気がする。
ここまで屈辱的なのは、同じ転入生扱いの魚見がやたらとうまく立ち回っているせいか。死にたい。
——と、まあ。
現在に至るまで抱えていたのは、そんな雑多な感情なわけだが。
「広っ」
この光景を前にした今、そんな些細な感情などまとめて吹き飛んでしまうというものだ。
俺が今いるのは、学校内でも僻地にある図書館である。朝方の彷徨……もとい、食堂探索の結果発見したこの場所は、そこらの図書館よりも余程設備が整っていた。
小説から学術書まで、およそ本と呼べるジャンルの中のものは一通り揃っている。中には閲覧制限がかけられているような、見るからに貴重な資料も存在するらしい。数は少ないが、俺が今まで暮らしていた、いわゆる外の世界で馴染みの新聞や雑誌もきちんと展開済みだ。
書籍の充実度だけでなく、環境もまた相当に整っている。空調はしっかり効いているし、座席もこの上なく座り心地がいい。大テーブルに小さなソファ、一人専用のボックス席と豊富なバリエーションがある。
総合的に言って、まさしく大図書館と呼んでも恥ずかしくない出来栄えだ。これからの放課後、時間を潰す先はここで決定と言っても過言ではない。テスト勉強とかもめっちゃ捗りそう。
「おおー……」
小さく感嘆の声を上げながら、気に入った小説やらなんやらを手元にストックしていく。側から見たらやべーやつだよなこれ……自覚はあるし、辛うじてセーフだと思いたい。
堆く積まれた数多の本たちとともに、手近な席へどっこらしょと腰を下ろす。気づけば三階の一番奥まで来てしまったが、荷物を下ろした角テーブルの反対側には先客がいた。
さあ、どの本から手をつけようか。悩みながらも一番上の一冊に手をつけたところで、ペンを動かす手を止めた先客が顔を上げる。
何故よりにもよってこの席を選んだのか。そう言わんばかりの鬱陶しそうな視線が、眼鏡越しにこちらを射抜く。
「……………………」
「……………………」
お互いに目が合っていることを自覚しながらも、硬直したまま何もできない時間が十数秒。バトル漫画さながらの緊迫感の中、いつ目をそらすかの気まずい駆け引きが展開される。
だが。睨み合いなど、得てして長くは続かないものだ。
現実逃避をしようにも、それで稼げる時間など数秒もない。こいつ誰だっけ、なんかやたら高圧的な態度で人のお菓子を強奪してきそうだよなあ……と悩んでいるフリをしているうちに、彼女の声が膠着状態を打ち破った。
「——貴方、昨日の」
ほら、やっぱり気付かれた。自分の興味があること以外は速攻で忘れそうな質だと勝手に期待していたのだが、どうも現実はそう甘くはないらしい。
……しかし、完全に油断しきっていた。
髪も昨日と違ってまとめているし、眼鏡もかけているしで、顔を見るまで全く気付けなかった。とんでもなく目を惹く美人だったはずなのだが、今の格好を見る限りでは完全に芋っぽい女学生である。
自分から面倒ごとを作ってしまうあたり、ひょっとしなくても俺は主人公の素質があるのかもしれない。やれやれ、面倒だなあ……よし、鳥肌立つしこれっきりにしよう。
「何ですか? 昨日の件は不問にしたはずですが、まだ何か不満が?」
「何でそうなるんだよ……」
なーんで俺が十割悪い前提で話が進んでるんですかねえ。良心の呵責というものがないのだろうか、この人。
いくら服装を変えようとも、その切れ味は全くもって変わらないままだ。昨日となんら変わりのない語気の強さに、何周かして安心感すら覚えてしまう。だいたい何であんたの方が根に持ってるんだよ、そこは逆だろ普通。
……などと、言いたいところは山ほどあるのだが。
腹に据えかねる気持ちをぐっと堪えて、一度小さく息を吐く。
この少女と舌戦をしても無駄だということは、既に昨日のわずかな時間で嫌という程思い知らされている。それに、図書館で騒ぎ立てるのはマナー的にもよろしくない。
「あー、邪魔して悪かったな。昨日のことに文句を言うつもりはないんで、あんたもそれで納得してくれると助かる」
こういう手合いに付き合ってもろくなことがない。精神衛生的にも、さっさと逃げてしまうのが一番だ。
速やかに、というよりは投げやりな勢いで、適当に会話を終わらせて立ち上がる。相対する毒舌じゃが○こ美少女の瞳は、意外そのものといった表情でこちらを見上げていた。
「ええ、それで良しとしましょう。それにしても、貴方がここまで物分かりのいい人だとは思いませんでした」
「頑固で悪かったな。あんたみたいに人間ができてないんだよ」
何でここまで自信満々に煽れるんだろうか、この人……間違いなく心の底から発せられた言葉に、怒りも通り越して純粋な疑問が湧きあがる。外見だけは超絶美少女なせいで、ただの毒舌よりも数倍タチが悪い。
おそらく今までも、この外見に騙されて近寄ってきた人間を文字通り切って捨ててきたのだろう。例えるなら全方位型食虫植物、無差別爆撃の化身そのものだ。
「いえ。分かっていただけなら、こちらからは何も。騒ぎ立てるのも望ましいことではないですし、あの一件はお互いに水に流すということで。それでは」
これ見よがしににっこりと微笑んだ彼女は、用済みとばかりに視線を手元のノートに戻す。明らかに本心から言ってるんだよなあ、これ……。
アイアンハートの持ち主なのか、そもそも自分が正しいと信じて疑っていないのか——まあ、言うまでもなく後者だろう。何も知らない人間に今の笑顔を撮って送れば、それだけで二桁はファンがつきそうだ。
憤懣やるかたないことここに極まれりだが、ここに留まっていてもどうしようもない。「何ですか? まだ居たんですか?(笑)」みたいな言葉が飛んでくる未来がありありと見える。
鞄を背負い直し、くるりと反転して歩き出す。
どこか空いている席、特にコレの死角になる席を探して腰を下ろすこと。それが、今の俺にとっての最優先事項だ。
こんなところに長居するなど、百害あって一利なしでしかない。時間を無駄にしないためにも、心の平穏を保つためにも、さっさといい感じの机を見つけようと——
「あ、いたいた。ちょっとちょっとー」
もちろん。
そう上手く物事が転がってくれることなど、現実にあろうはずもない。
俺の行動に待ったをかけたのは、図書館で出すにはいささか以上に大きい声。ここ数日やたらと行動を阻害されることが多いせいで、いくらか慣れ始めている自分が怖い。
「……? え、俺?」
もしかしたら外れているかもしれない、という淡い期待を抱きつつ、聞き覚えのないその声に顔を上げる。
視線の先に立っていたのは、肩で息をする少女。制服姿の彼女はこちらと目があったことを確認し、反応に困っている俺を差し置いてつかつかと歩み寄ってくる。
何と声をかけたらいいのか、そもそもどういった用件なのか。次の行動を模索しているうちに、少女は瞬く間に俺の前まで到達し、一枚の紙を突きつけた。
「やっと見つけた。雨宮くん、で合ってるよね? はい、これ」
「……これ?」
「そう、これ。星皇祭のエントリー表! 期限今日までなんだけど、雨宮くん提出してないでしょ? 岡村にパシらされたあたしの気にもなって欲しいな」
「……えー、あー……いや、ごめんなさい?」
距離を詰めるや否や、興奮気味でまくし立てる目の前の彼女。その剣幕に圧され、訳も分からないまま頭を下げる。
エントリー表。まじまじと見れば確かに、突き出された紙はそのような感じのあるものだ。
そういえば朝、今日が締切のプリントがあるから絶対に忘れずに提出しろ、と担任が言っていた気がするな……まさか転校初日の人間は含まれないだろうとタカを括っていたのだが、ばっちり対象内だったらしい。
よし、ステイ。なんとなくだが、彼女が怒っている理由はわかった。なるほど、俺が怒られるのも当然と言っていい内容だ。
だが。それよりもよほど重要な、そして危急の問題がもうひとつ。
——すなわち。目の前の彼女は誰か、という問題だ。
岡村というのは確か、うちのクラスの担任の名前だったはずだ。だが彼女が同じクラスの女子だとしても、誰であるかまでは全くもって思い出せない。
そも、魚見以外で今日クラスの誰とも会話していない俺からすれば、相手が名前を覚えていることの方が不思議で仕方がないのである。顔も名前もろくすっぽ覚えられない、それ以上に覚える気がない人間なのだ。向こうから積極的なコミュニケーションを試みられるとか、不慣れから来るショックで心停止に陥っても仕方がない。
「降谷さん。気持ちはわかりますが、もう少し声を抑えた方が。ここは図書館ですから」
と。
そこに割り込むようにして口を挟んだのは、先程から事態を傍観していた毒舌美少女だ。ノートから再度顔を上げた彼女は、見かねたかのように静止を呼びかける。
「ぁ……うん、ゴメン。不注意だった」
対する降谷と呼ばれた少女も、その言葉で周りを見回す余裕を取り戻したらしい。
勢いのある語気から一転して、小さく縮こまりながら頭を下げる。わずかに集まっていた視線も、その反応を受けて三々五々の方向へと散っていく。
しかし。名前が出たおかげで、俺も彼女の素性にようやく見当がついた。
思い出してみればなんてことはない。クラス代表の役職を担当していた人だ。
確か、役職名としては室長だったか。ガチガチの学級委員タイプではなく、クラスの中心でみんなをまとめるポジションにいるような人物、と表現したほうがわかりやすいかもしれない。
たった一日でもよくわかる人望と、はきはきと腹の底から発せられる声。少しでも触れ合った人間であれば一様に好感を抱くほどの、高いコミュニケーション能力——総合的に見て、間違いなくカースト上位層の人間である。俺のような存在とは対極にいる、毎日が充実しているような人種であることは疑いようもない。
そして。そんな多忙な彼女が、俺に用件を伝えるために方々を走り回っていた。放課直後に教室を出た俺をずっと探していたのだとすれば、実に小一時間もの間、俺は彼女を走らせてしまったということになる。
……いかん、いかんぞ。普通にめちゃくちゃ重罪だわこれ。
「あー……その、降谷さん。これ、完全に俺のミスだ。手間をかけさせて申し訳ない……何かお詫びになることがあればやらせてもらうんだが」
「あっ、ええと、うん。とりあえず、これ書いてくれるとありがたいかな」
心からの申し訳なさを胸に改めて頭を下げると、対する降谷さんは面食らった様子でプリントを渡してくる。ちょっと引かれてますねこれ……おかしいな、嘘偽りなく真心からの謝意なんだが。コミュニケーションの難しさが身に沁みる。
「はあ……せいおうさい、で合ってるのかこれ?」
ぎこちない動きで受け取ったプリントには、「星皇祭エントリー表」の文字が躍っていた。随分と味気ないフォントで書かれているだけに、その見慣れない文字列が一層気になってしまう。
降谷さんの発言から察するに、この星皇祭というのが体育祭の正式名称なのだろうか。確かに固有の名称があってもおかしくはないが、にしても随分と仰々しい名前をつけるものだ。
そして、だ。肝心のプリントの中身についてだが、団体戦と個人戦の枠に分かれている。
まず団体戦、これは2人~5人のチームを組んで登録しろということらしい。個人戦はもっと簡単で、参加するかしないか、マルバツをつけるだけである。
が、しかし。
ここで生まれるのは、ひとつの当然とも言える疑問だ。
「なあ、団体戦って参加出来ないんじゃないのか? チームを組む相手なんかいないぞ、俺」
こういったものは仲のいい友達と相談などしてから、チームを組むのが定石である。だが悲しいかな、ルールの中であぶれる者が現れるのは社会の常だ。そういった人間は最初どのチームにも属さない、というか属したくないのだが、結局先生の采配により人数が少ないチームに強制的に加えられる。
すると何が起きるか。答えは簡単、仲のいい友達+不純物という超ギスギスチームができあがるわけである。遠足の時のようにステルス機能が使えるならばまだマシだが、こういった課題をこなすタイプの班分けではそれも難しい。
参加しなければ嫌が応にも目立つ上、心を入れ替えて協力しようとすれば今度は白い目で見られるのだ。結局我々のような人種にできるのは、心を殺してただ時間が過ぎ去るのを待つことだけ……おお神よ、貴方は何故にこのような試練を与えられるのか。
これが日本の学校で蔓延している『余り者分配法則』の実態である。教師のみなさんは早急にこの実態をなんとかして欲しい。具体的に言うと放っておいて欲しい。独り者に自由をください。
だが。こと今回に限って言えば、この忌々しい法則も当てはまらない。
何故なら現状、チームを組む知人はともかく、組む時間そのものが無いからだ。今日が締め切りであり、しかも催促される立場である以上、ここでチームを組まなければ参加そのものができなくなる。
しかし、だ。この場にいるのは既にチームを組んでいる(と思われる)人か、俺と組むことを死ぬより嫌がる(と思われる)人の二人だけ。そのへんにいる人をとっ捕まえてチームに、などという手が使えるはずもない以上、必然的に俺は参加できないということになる。
……なる、のだが。
俺も人間、学習する生き物だ。次に何が来るのかくらいは、もうなんとなく見通しがついている。
「えっと、その団体戦のことなんだけど、恭平から伝言があって。『君は僕と一緒のチームにしておいたから、団体戦はサボらなくてもいいよ』だって。頼れる仲間がいてよかったねぇ、って言ってたよ」
「ハイ」
ですよね。知ってた。
どうせこんなことだろうとは思っていたが、蓋を開けてみれば案の定だ。魚見が俺と同じタイミングで転入した扱いになるのであれば、フリーの人間で一番確実なのは言わずもがな俺、ということになる。
ある意味では魚見なりの配慮なのかもしれないが、まあどうせ奴のことだ。十中八九、嫌がらせの側面が大半を占めているだろう。人をおちょくるために生まれてきたような奴が、純粋な配慮の心だけでこんなことをするとは思えない。
団体戦の枠に二人分の名前を書き殴り、降谷さんへと返却する。個人戦は無論バツだ。
「はい、ありがと。あ、提出はこっちでやっておくから心配しなくていいよ」
「……本当に申し訳ない」
「いいっていいって、これで一件落着なんだからさ。見つからなかった時はどうしようかと思ったけどねえ、あはは」
あっけらかん、といった調子で笑う降谷さんは、一点の曇りもない晴れやかな表情そのものだ。一仕事終えた心の底からの安堵に、ますますもって心中の罪悪感が大きくなる。
勘違いされたくはないのだが、コミュ障にも罪悪感くらいは搭載されているのだ。むしろ、常人よりも申し訳なく思う気持ちが先行しすぎた結果、独り身に行き着いていると言っても過言ではない。
具体的にはこいつ俺と話してて楽しいのかなとか、無理して付き合ってるんじゃないかなとか。うん、やめよっかこの話。
「お疲れさまです。災難でしたね」
ここまでずっと沈黙を守っていた毒舌美少女が、見計らったかのようなタイミングで声を掛ける。
意外にも面識があるのか、俺の時よりも数段柔らかい調子で発せられていた言葉。労うような彼女の声は、しかし俺の方へ向き直った瞬間に冷え切ったものへと姿を変えた。
「それにしても……糾弾するつもりはありませんが、考えていたよりも更に適当な人間ですね、貴方。申し訳ないとは思わないんですか?」
「いや、思いっきり糾弾してるだろそれ。申し訳ないと思ってなかったらこんなことはしてないし、それを言うならあんたは俺に申し訳ないと思わないのか」
「話題を逸らさないでください。今しているのは私の話ではないでしょう。貴方に反省の色が見えないことが問題だと、なんども言っているはずですが」
「今初めて聞いたんだが……」
ええ……なんでいちいち突っかかってくるんですか、この人。怖いです。
むろん、降谷さんを走らせたのは弁明の余地なく俺の落ち度だ。だが当人が許すと言っているのに、それを差し置いてキレているのは如何なものか。
だいたい、謝罪というならまず俺に謝罪をしてほしい。美少女に一方的になじられるのはある程度の需要がありそうだが、生憎と俺はその道の者ではない。至ってノーマル、どこにも歪んだ性癖など持っていないと自負しているのだ。
……いやしかし、涙目で静かに責められるならアリかもしれん。問題は、目の前の彼女が泣くところがどう頑張っても想像できない点だが。あったとしても俺が見た瞬間に記憶を消されそうだ。
「ちょっとちょっと。盛り上がってるところ悪いんだけど」
と。
静かに舌戦を展開する俺たちの間に割って入ったのは、プリントを胸ポケットにしまっていた降谷さんだ。
くるりとボールペンを回した彼女は、俺たちの醜い言い争いなどどうでもいいとばかりに話を変える。
「雨宮くんに手伝ってもらいたいことがあるんだけど、ちょっと一緒に来てもらってもいい? ほら、さっきお詫びでなんでもするって言ってたでしょ?」
いや、何でもするとは一言も言ってないんですが……。俺のコメントに編集機能つけたの誰? だいぶ悪質な改竄されてるんですけど。
「……はい、やらせていただきます」
もちろん。拒否権など、どこに求めようはずもない。
謝罪として出来ることをすると言ったのは自分だし、それ以上に申し訳なく思っていることもまた事実だ。
ここで断るなどという判断を取った日には、それこそ人間の風上にも置けなくなる。それに、こうして目の前で事態が進めば、この毒舌美少女も文句は言えなくなるだろう。
鶴の一声に従って会話を打ち切ると、向こうもそれ以上追求する気は無いらしく口を噤む。
こちらを一瞥し、降谷さんとわずかに言葉を交わした彼女は、別れの意を示すようにひらひらと手を振った。むろん、その相手が俺ではないことは言うまでもない。
極力視線を合わせないようにしつつ、急ぎで適当に荷物を取りまとめる。積み上げた本は結局読まないままになってしまったが、そこはそれ、また落ち着いて読みに来るしかあるまい。
煮え切らないモヤモヤとした感情と、それ以上の気疲れ。その二つを同時に味わいながら、降谷さんに先導されて図書館を後にする。
最後にもう一度振り返った時には、彼女の視線はもう手元のノートに落とされていた。
降谷、登場。女性陣のコミュ力平均値が0から50になりました。
感想・評価等、いただけると励みになります。よろしくお願いします。