宴の始まり
オーバーストーリー部分、院長センセーのお話をちゃんと書きたかったので分割ピックアップ…
【馬久瑠医院院長室[約30年程前]】
妻を亡くしてから何年経っただろうか…
妻が犠牲になり息子は無事生まれたが、あの選択は正しかったのか…
息子を犠牲にして妻を救ったとしても…いや、
妻が懇願して息子を託したのだ…これが正しかったのだろう。
いっそ二人とも殺してしまえばこんなに苦しむことはなかったのかもしれない…
ふっ…何を考えているのだ私は…普段飲むこともない酒の所為か余計なことを考える…
私の前には古ぼけた洋書が置かれている、今朝偶然部屋で発見したものだ…
おそらく馬久瑠医院の前院長の私物であろうか…軽く捲った時目にとまった文字…
それが私の心をざわつかせている…
「死者蘇生…か…馬鹿馬鹿しい…」
ソファーに深く身を預け再び試案にふける
息子は厳しく育てたつもりだ、私のような過ちを犯さぬよう、医療に心はいらない…
経歴に傷をつけないよう…そう、機械のように…。
息子も私の背中を追い医学の道を進んでいる…いや、進ませたというべきか。
医大に通わせ実績もつけさせている。
今は医大の同期である久留間とかいう男と一緒に、この医院で研修医として働いている。
そこそこ優秀な男だ、息子は気が弱い所為か久留間君を兄のように慕っているようだ…
息子の笑顔なんて子供の頃から見たことがなかったしな…。
ある日、久留間君と息子が揃って私に話があると院長室にやってきた
私に院長の座を降り、息子に譲らせて隠居しろだと…?
私はまだ現役を退く気はないと突っぱねたやった。
まだ早い…息子は優しすぎる…そんな話などなかったように変わらぬ日々が続く…
何時しか古ぼけた洋書を何度も目を通すのが日課になっていた…
風の強いある日の夜、久留間君が一人で院長室に来た、息子に頼まれた?
話を聞くと…父親である私を楽にさせてあげたいが今の自分では私に認めてもらえない、
ならば久留間君を院長に推薦し自分は補佐をするという事だった…、
同じ内容の手紙まで持参してきているという。
そういえば最近息子を見かけていない…てっきり久留間君との付き合いで離れることもあると思っていたが…
「院長、これを…」
久留間君が数枚の写真を私の前に並べる…
「こ…これは…」
私は驚愕した…息子が酒と女に溺れている様子を写したものだった…
「いやぁ、免疫のないお坊ちゃまは堕ちるのも即効でしたよ…あなたみたいに頑固だと思ってたんですが。」
「貴様…私を脅迫して…ここを乗っ取るつもりか…」
「いえいえ、乗っ取りだなんて…僕、いや、元々俺のモノなんで返してもらおうかとねw」
どういうつもりだ?困惑と怒りで手が震える…そして久留間はいくつかの書類をテーブルに広げる…
「これは…そんな馬鹿な!!」
それは馬久瑠医院の所有権が現在彼にあることが記載されていた…
「俺の名前から気づきませんでしたか?俺の本名は久留間じゃない、馬久瑠なんですよ?
ホントは魔繰吏まくりというらしいですがね…爺さんの日記だと…なんでも
悪魔を操るとかなんとか…まぁどうでもいいけど。」
彼はからかうように肩をすくめ私の顔色をうかがう…
「俺の爺さんがココの元管理者で一時的に所有権を預けていたんですよ…ふふ。」
「そんな話…ココに送られた時…何も…」
私…私と妻はその程度の…」
「いやー驚きましたよ、女遊びがたたって借金抱えて良い金ずるはないかと思っていたら…
爺さんが死んで、形見分けに物色してたらこれが出てくるし、
都合良く俺の財布君…あんたのバカ息子は俺を慕っているし、コレだって来ちゃいました♪」
「最初は人の良い研修医から初めて、バカ息子に院長を継がせた後…
俺はデキる副院長としてサポートしつつ、俺の負債を全部背負ってもらった辺りで
事故かなんかで死んでもらって、お涙頂戴の茶番を演じて引き継ぐつもりだったんですがねー」
なんだこいつは何を言っている?ここは私と妻の大切な…
殺すしかない…、ここは山に近く獣害対策として院長室には散弾銃がある…
使ったことはないが手入れは欠かしていない、私の視線は散弾銃のある隣の部屋に…
「お探し物はこれですか?」
私の眼前に散弾銃が突きつけられていた…
どういうことだ?この散弾銃は隣の部屋の専用ロッカーに鍵をかけて仕舞ってあるはずだ…
「息子さんは余程俺を信頼してくれているようで…狩りに興味があることを教えたら
鍵のある場所込みで教えてくれましたよ…アハハ!」
息子が…私はソファーから立ち上がることもできなかった…
「さて、医院長…そろそろ隠居してはもらえませんかね?
息子さんは先に逝きましたよ?」
「な…んだと?…それは…」
口の中が乾いて舌が震える…息子は…どうなった?
「筋書きはこうですよ…院長とその息子が院長の座を巡って口論の末息子は失踪、
院長は失意のまま散弾銃で自殺…残された手紙から俺の元に全てが転がり込んでくるわけです」
さっき話した計画ですがね?あいつ、親父が不憫すぎるって反対しやがりましてね、
計画変更ですよ…まぁ、この散弾銃の試し打ちには協力してもらいましたが…」
「き、きさまぁぁぁぁぁぁ!!!」
私は自分でも信じられない勢いで奴に飛び掛かったが、
年の差か奴が場慣れしていたのか散弾銃の台尻で鼻を潰され昏倒する…
私の意識はそこで途切れた…
「さてと…咄嗟に鼻を潰しちまったから、咥えさせて後頭部吹っ飛ばすのはナシか…
鼻の傷がばれないように顔ごと吹っ飛ばす…ちょっと不自然か…そうか!」
俺は意識のない院長に、部屋にある酒をたらふく飲みこませた上で、
ソファーに座らせ散弾銃を軽く咥えさせ、上顎から顔が吹っ飛ぶように調整した上で
自分で引き金を引くような姿勢にしてやった…
「それじゃ、さよなら元院長先生!尊敬してましたよ…ちょっとはね…」
俺も息子さんみたいにまっすぐな道を進んで挫折した口なんでね…
正直イライラしてましたよ、院長のように”経歴に傷をつけるな”とか
”患者なんて起き上がれない状態でいてくれればいい”とかいう姿勢には
賛同しましたよ…」
引き金に指をひっかけ散弾銃がぶれないように抑えて指先に力を込めた…
バン!!!!!!!ビチャ!!!
「うえぇ…自分でやっといてなんだが…気持ち悪ぃ…でも、上手くいったな…」
風が窓を叩く、院長室も防音仕様のようだし、
下の階の入院患者には今日は風が強くて音がうるさいと思うけどって言ってあるし
後は痕跡を残さなければ…俺は念入りに自分の指紋を拭き取ったり、
院長の指を使って新たにつけなおす…
「じゃぁ、夜分遅く失礼しましたー!院長先生も飲みすぎは体に毒ですよーなんてね♪
アリバイ工作の仕上げもあるんで数日以内には警察と一緒にまた来ますね、であであー」
キィィ…バタン!…
院長室には静寂が戻る…いや、静かではない、風の音に加えて雨まで降ってきたらしい…
雷が轟いているのが分かる…
…痛みはない…私は死んだのか…
妻に何と言って詫びればいい、息子にも…憎い…ここに追いやった連中も!
憎い憎い憎い憎い!!すべてが憎い!憎い……
私は顔が無残に抉れた自分の死体を見下ろしている…
幽体離脱とかいうやつか…なってみて初めて信じられた…
肉片と共に自分の眼球が貼りついた例の洋書に触れる…
黒魔術…だったか…叶うならば…この恨み…晴らしてはくれまいか?
洋書に貼りついた眼球がぎょろりと私を見る…
私の願いが通じたのか…洋書…いや魔術書が私を…魂を取り込んだ…
「ニ…クイイ…ニク…イ…」
私の死体が身を起こす…
私は甦ったようだ…吹き飛んだ顔はそのままに私は甦った…
魔術書の力か…院長室の足元に魔法陣が浮かび上がる…
ソレは求めた私は応えた…
「ソウ…カ…イケ…ニエ、タク…サン…ノイケニ…エ」
口が無いので言葉は発し辛いが、”医者”には必要ない…
沢山の患者…生贄…そうか、そうすれば妻も息子も甦って
3人でまた一からやり直せばいい…そうだそれがいい、そうしよう…
患者…患者が沢山必要だ…そう、もっとここを大きく広くしなければ…
そして奴には呪いを…そうだ、奴が嫌がるのがいい…楽には殺さん…
そうだな…奴も”医者”だ…
私と同じ考えをする度に苦しみ、亡者となった患者にすがられ…
ココで死ぬまで、いや死んでも働いてもらうとしよう…
私は魔法陣を通し病院と一体化した…もっと、もっと力を!
力を求めた私に呼応するかのように鳴動する私の魔繰吏医院…
足元で患者の悲鳴らしきものが聞こえてきた…
患者が待っている、機械のように速やかに治療をしよう…
生前には感じなかった高揚感が異形になった私を包む…
医院の地下にも何か…先代の残した魔法陣を感じる…
…私は地下の魔法陣を地下室ごと潰した…
エネルギーとするためだ…
地下の魔法陣に溜め込まれた力が流れ込んでくる…
潰した際、縛られていた何かが解放されたようだが気にすることでもないだろう…
まずは…奴を招き入れよう…院長の座などくれてやる…
私が…病院そのものだ!
次回は病院探検隊の激闘編…かな?
激闘…とは…