エピローグ -悪魔がきたりていもーたる?-
エピローグ -悪魔がきたりていもーたる?-
【K県Y市、とある住宅地のはずれにある古びたアパート】
「む? 車がある。 親父殿、もう帰っているのだな?」
小生、名を藤枝真記という。
齢は十を数え、職業は学生をやっている……まぁ、一般的には10歳の小学4年生という事だ。 成績は中の中といった所か、母親譲りの栗色の髪なのだが、父親譲りのくせっ毛がそれを台無しにし、利発的な顔立ちは、そばかすと本の読み過ぎで低下した視力を補補助器具で、地味さの方が際立っている。
ああ、すまない、古臭い喋り方は、私の趣味だ。 親父殿が書き物の仕事をしており、山の様な資料が私の玩具でもあった為か、古い作家の口調を真似して未来の自分を妄想するのが唯一の楽しみなのだが、いかんせん人見知りも強く、趣味を共有する友人も少ないというか……いないのである。
親父殿と、商店街の中年人との交流がほとんどで、同年代の付き合いはないが、それでも良い、昔の名のある作家は編集者と同業者と猫くらいしか付き合いがないと聞くし(個人的偏見)、私もそうありたいと思う。 夢は大きく、売れっ子作家になることだからな!
「をっと、立ち止まって妄想してる場合ではなかったな……」
昔に大量殺人があって、被害者も加害者もみんな消えたとかいうオカルトめいた事件。その現場が無くなる前の最期の取材とかで、親父殿は友人との約束もあるからと、張り切っていたのが数日前、昨夜に慌てた声で、すぐ帰ると電話があった。
「ゆっくり温泉にでも浸かってくれば良いものを、まさか娘恋しさに? いや、それはないか……」
親父殿と母上殿は、私が5歳の頃に離婚した。 学生時代からの熱烈な恋愛の末の結婚だったそうだが、私が生まれてからの生活は、お嬢様だった母上殿には耐えがたかったと予想できる。 母上殿は私を引き取ろうとしたが、私は親父殿の手を取った……炊事洗濯まるでダメな親父殿を放っておけなかった? いや、そうではないな、私の夢は親父殿の様に世の中を駆け回って、色んなことを知り、それを蓄積して作家としてやって行きたいのだ。 母上殿は決して許してはくれないであろう、浪漫的な打算なのだ!
「むぅ? なんだこれは? 靴? スニーカー? なぜこんなボロボロに?」
親父殿を驚かせようと、ドアベルは鳴らさずこっそり玄関に入った時、親父殿の靴の横に何年も放置され朽ち果てた様な子供用の靴が置かれていたのだ。 親父殿が? だが、何の為に?
「さては……私を驚かせようとしているな親父殿? まったく……」
親父殿は、私の誕生日やクリスマス等には子供っぽいサプライズを狙ってくるのだが、いかんせん子供だまし……子供の私が言うのは何だが、バレバレだ。 まぁ、気を使ってくれているので悪い気はしないのであるが、今日は記念日でも何でもない筈だが、何かあったのか?
「靴下に子供服……の上、次は短パンと帽子?」
玄関から奥の6畳間に続く短い廊下に点々と、ボロボロに朽ちた子供サイズの衣類が落ちている。
「夏場だからホラーティストなのか親父殿? 部屋に入ったら子供の木乃伊でも用意してるのではないか?」
次の展開を予想しながら、奥の部屋の扉を開ける。
「親父殿、気持ちは嬉しいが……いい加減子ども扱いは……のぇえええええ!?」
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し、信じがたいことではあるが、今起こった事を記したいと思う。
親父殿のサプライズの先を読み、子供の木乃伊かされこうべの人形でも配置していると思っていたのだが、そのどれでもなかったのだ。
何を述べているのだ? ……と、諸兄達は思うだろう。 私だってそうだ、我が家で何が起こっているのか理解できなかった。 ホラー風味だとか、サプライズだとか、そのような小事では断じてなかった。 もっと、理解不能で斜め上から襲い掛かってきたのだ。
「一体、何をやっているのだ親父殿ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「ま、真記ぃ? え? いや、違うぞ? これはそういう……やましいことはなくてだな?」
何という事であろうか。
想像してみてほしい。 自分の父親が、全裸の見知らぬ少女にいかがわしい事をしている現場を目撃してしまった状態を! 私の次の行動は……①悲劇のヒロインの様に泣き崩れる? ②すぐに警察を呼ぶ? ③これはどっきりだと、隠しカメラを探す? ④これは夢だともちもちほっぺを思いっきりつねる?
「お、おい、真記? 聞いてくれ……これは」
「⑤だ……」
「へ? ちょ、何を?」
私は台所から包丁を手に取り、親父殿に向き直る。
⑤親父殿を殺して私も死ぬ……しかない。 現実は残酷である。
父親が少女愛好家で家に連れ込んで、いかがわしい情事に勤しんでいた等、世間に知れたら私の未来は絶望の一色で塗り潰される。 だったら、今ここで全てを終わらせてしまおう!
「親父殿、共に死んでくれぇぇぇぇ!」
「ま、待て待て、誤解だ!」
「ねぇねぇ、キミは誰……」
トス……
「え?」
目をきつく閉じ、包丁を構えて突進した筈だが、謎の声がした……それに刺した手応えが早すぎる? 恐る恐る目を上げると、親父殿にいかがわしい事をされていた少女が目の前に立っており、その小さな胸元に包丁が深々と突き刺さっていた。
「え? ああああ? 私、私……」
親父殿の腹を狙った包丁は、事もあろうか謎の少女の胸を貫いた。
激情にかられた結果、被害者であろう少女を刺し殺してしまった!
「私は何という事を……」
胸から包丁を生やし、キョトンとした少女の表情を見ながら、私は意識を失った……。
…………
……
…
「そんな馬鹿な……下手な空想小説でも、今どき……悪魔だなんて」
「ああ、私だって、まだ信じられない。 自分が悪魔に食い殺されて眷属になった挙句、悪魔を連れ帰って来たなんて……」
目を覚ました後、冷静になった頭で親父殿から話を聞いた。
素っ裸で、寝っ転がりながら漫画を読む銀髪の少女は実は悪魔で、家に入ったら、元々服を着ていた衣服が腐って崩れ落ちてしまった事、他に異常がないか調べている最中に私が返ってきた事を……。
「どこからどう見ても普通の少女に……」
「へぷし!」
「……いや、普通ではないな……」
少女がくしゃみをした瞬間、角と羽根と尻尾のフルセットが飛び出てすぐ引っ込んだのを見た。 それに、私の手元には半分ほどの長さになった包丁が落ちているのを見ると、一般常識が音を立てて崩れていくのを感じた。
「親父殿、私の服を貸すのは良いが、ああなったりはしないのか心配だ」
いつまでも全裸のままで放置しておくわけにもいかず、バスタオルを渡したのだが、少女の身体に巻いた途端、グズグズに崩れてしまった。 私の所持している衣服は少ない為、同様になってしまう事は避けたい……。
「えっと、さっちゃん……だったか? とりあえず風呂が沸いたようだ、お互い汚れを落とそう」
「んに? ふろかぁ……何十年ぶりだろ」
「は、はは……冗談だよな?」
私が気を失っている間に、親父殿が風呂を沸かしてくれていた。 確かめたいこともあるので、さっちゃんという悪魔の少女と共に入浴することにした。
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「むぅ、確かに刺さったはずなのに……」
「にゅ?」
さっちゃんの身体を洗いながら包丁を突き立てた痕を確認したのだが、沁み一つない綺麗な肌であった。 時間はかかったが、ぼさぼさだった長い髪も洗い、灰色かと思ったが美しい銀髪であることには驚いたものだ。
「くっ、理不尽さを感じるな」
「?」
さっちゃんは私と同じ年頃の様であるのだが、肌も髪も綺麗で日本人とは思えない……そもそも人間でないのだったか……。
「まきだったっけ? ボクとちがってちんちくりんだね~うぷぷ♪」
「な! 何処を見ている、さして変わらぬではないか!」
確かに私はくせっ毛で寸胴ではあるが、まだ若いから伸びしろがある! それを、馬鹿にした目で笑うとは、まさに悪魔だ! ……いかんいかん、落ち着くのだ私! 悪魔を調べる等、こんなチャンス……いやいや、親父殿を眷属と言うモノから解放するために仕方なく、だ。
「さっき、角と羽根と尻尾が見えた気がしたのだが……」
「きのせい、きのせい」
さっちゃんの身体を洗う名目で、身体を隅々まで調べたのだが、角と羽と尻尾はなかった。
しかしその、何というか、妹がいたらいいなとは常々思っていたのだが、神様は不平等だと思わされる。 同年代、かつ同性の裸など、水泳の授業時の着替えでしか見たことはないが、質が違うというか……背徳感すら感じる。
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「そうか、その老人に色々教わったと……」
「じーちゃんとは、野球ばっかやってたかなー」
「野球か……男子の様なのだな」
湯船に浸かりながら、色々話を聞いてい見たが、内容はともかく時期がとても信じられないのだ、親父殿が取材していた病院は、30年以上前の猟奇事件で廃墟となっている。 そこでずっと一人でいたなど……いや、湯に浸かってリラックスした所為か、さっちゃんの頭には角が、肩越しに羽根の様なモノがちらほら……それに、狭い浴槽なのでお互いの脚を重ねるようにしているのだが、さっちゃんの股の間から尻尾の様なモノが見え隠れしている。
「その、なんだ……やっぱり角……」
「きのせい、きのせい」
しかし、いざ指摘しようとすると酔っぱらいの”酔ってない”や、寝ぼけている者の”寝てない”と同じような誤魔化し方をする。 悪魔が目の前にいる? そんな非常識で、自分の常識をタコ殴りにされているようで頭がおかしくなりそうだ。
「先に上がって使えそうな服を見繕ってくる。 さっちゃんはゆっくりとしてるといい……」
この時、私は気づいていなかった。
湯船から出ようと、さっちゃんに尻を向けた状態で脚を開いた時、さっちゃんが目を輝かせて人差し指を伸ばしたまま手を組んでいたことに。
「スキありぃ!」
ずぬん!
「ぴぎぃ!?」
一体、何が起こったのか? 不意に私の肛門に謎の衝撃が走り、変な声が出た。
じわじわと拡がる激痛に耐えながら恐る恐る背後を振り返ると、満面の笑みを浮かべるさっちゃんが、私の尻に向かってカンチョーを繰り出していたのだった。
「な、なななななななななな……」
「わんあうとー! そして、つーあうとぉぉ!」
ぐりゅん!
「のひょぉえぇぇぇぇ!?」
悪魔の少女に指の第二関節迄肛門を穿たれていた人間の少女の身体は、捻りを加えた、指の根元迄埋まる強烈な追撃を受け、その場で一回転した後、きりもみ上に吹っ飛ばされて脱衣所の壁に叩きつけられた。
………
……
…
小生、名を藤枝真記という。
齢は十だった……母親譲りの栗色の髪で、父親譲りのくせっ毛がそれを台無しにし、利発的な顔立ちは黒ぶち眼鏡で覆われ地味な娘であった筈だが……。
「なんだこれはあああああああああ!」
手鏡に映る自分の顔は、なんと自分ではなかった。
それに、全身の痛みと肛門の痛みも嘘のように消えていた。
結論から言おう。 私は人間ではなくなっていた……。
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親父殿の話とすり合わせるとこういうことだ。
私は居間で手当てを受け、とても恥ずかしい格好で、酷く痛めた所に軟膏を塗られていた。
「まき、だいじょうぶ? あそこは受け身を取るところだよ?」
心配してるのか、からかっているのかわからない素っ頓狂なコメントに反論できない程、恥ずかしかった、死んでしまいたい位恥ずかしかった。
「寧ろ殺してくれ。 神様よ、次に生まれ変わるときは……さっちゃんの様な白い綺麗な肌、サラサラの髪、そばかすのない美少女にしてくれるとありがたい、それと……」
そんなうわ言を言ってたと思う。 そして……。
「おっけー、わかった! それじゃ、いっただっきまー……」
「はい?」
涙で歪む部屋の景色が一瞬で暗くなり、何かが砕かれ、潰される様な音を聞きながら意識を失った。
次に意識が戻った時、自分は人間ではなくなっていた。
「これが悪魔の眷属というやつか……」
親父殿が言っていた話を、言葉ではない、魂で理解した。
私はさっちゃんに食い殺されて眷属になってしまったのだ……しかし。
「をを、眼鏡がないのにはっきり見える! そばかすも消えて、髪もサラサラに? それに、何だこのけしからん身体は!」
一応補足しておくと、”けしからん”というのはセクシャルでもグラマラス的意味合いではない、日本人と比べると手足も細く、肌もきめ細かくて小役アイドルの様に整っているという事だ。
「いちおう、まきの注文とイメージから創ってみたけど、どう?」
「悪魔に魂を売るという者の気持ちが、今なら痛い程理解できるな……」
自分のコンプレックスが、一瞬で吹き飛ばされる等、漫画や小説の類だったのだが、実感してしまうと悪魔の存在を信じざるを得ない。
「ああ、すまないが、そろそろ服を着てくれないかな? 見慣れた真記のモノならともかく、いい所のお嬢さんの姿で、裸のままうろうろしていると落ち着かないよ……」
「むぉぉ?」
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「腐ったりはしないようだな……だが……」
「うにゅぅ……なんかすーすーする」
体形が変わったせいか、腰回りに余裕が出来過ぎて落ち着かない。
下着を含めさっちゃんにも服を着せることが出来たので他人には見せられない混沌の空間は脱したのではあるが……。
「その、親父殿は……この姿は嫌か?」
自分が浮かれていた後、親父殿の寂しそうな顔を思い出して尋ねた。
コンプレックスではあったが、ずっと一緒に暮らしていた娘が別人になってしまったのだからな。
「いや、真記が気に入ってるのなら何よりだ、中身まで変わったわけじゃないだろう? それに、私も身体の調子が良くて、眼鏡も……ほら」
親父殿の眼鏡には度が入っていなかった。 それに顔色も良いし、医者に酒と煙草を止められていたようには見えない。
「そうか、親父殿がそう言うのなら……」
「ああ、言いわすれてたけど、ボクから離れすぎたり、ボクが消えちゃうと本当に死んじゃうからね♪」
「「え?」」
………
……
…
小生、名を藤枝真記という。
10歳だったと記憶している。 職業は小学生兼、悪魔の眷属とやらをしている。
人間を辞めた後は色々と大変だった。 そりゃぁ、そうだろう。 なにせ、学校一の地味キャラであるくせっ毛・そばかすだった私が、ある日小役アイドルレベルの美少女になって登校してきたのだ。 陰キャだった私とは真逆の世界に放り込まれ、初日は言い訳で忙しかった。
ひと月もすると騒ぎも収まっては来るが、”整形した病院を教えろ”としつこく聞いてくるクラスメートの親の追及や、下駄箱への恋文の数はまだ収まりそうにない。
親父殿と同じで自分の衣服には無頓着だったせいか、お洒落を重んじる女生徒に構われ、友人と呼べる存在も増えたのは少々嬉しくもあるのだが、着せ替え人形にされている感じが否めない。
さっちゃんはというと、我が家で自宅警備をしている。
何分、身分を証明できないのもあるが、遠くに行かれると私と親父殿は死んでしまう。
漫画やアニメをどっちゃり用意しておいたし、親父殿に至っても、さっちゃん本人から語られた事件の概要をまとめた記事は、当たり前ではあるが”事件の真相”に限りなく近い為、めでたく書籍として売りに出されることが決まり、その編集で親父殿は大忙しとなっている。
「世界が変わるとはこういう事なのだな……」
「真記ちゃん聞いた? 例の通り魔追いはぎ事件の事!」
「ん? ああ、すまない……追いはぎ? 通り魔?」
いかんいかん、学友と席を並べ給食を共にしながら、つい、物思いにふけってしまった。
追いはぎで通り魔とは物騒だな。 こんな平和……いや、悪魔が潜伏してはいるが。
「そうなの、なんかね、陸上部とか、少年野球チームとかが襲われて、全員服を取られた上に病院送りにされたんだって!」
「隣の学区の子も襲われたみたいだよ……行方不明者も出てるって」
「ほう、それはまた面妖な……ん? 野球?」
「大人も襲われて、相手は一人だったとか」
「知ってる、知ってる、噂によると、子供一人にボコボコにされたんだとか」
「子供?」
「目撃者によると、被害者は全員、お尻を押さえてたって……凶器でお尻刺されたのかな?」
「やだぁ、変なのー!」
「尻……」
とてつもなく思い当たる節があり、指先が震える。 いや、まさかな……。
「後、野球で勝負だ! とか言ってきたとかなんとか……」
「へぇ~、両手を合わせて襲い掛かって来たという証言がってスマホに載ってる!」
「両手……」
何故か肛門がムズムズする……。 まさか、いやホントにまさか!
「どうしたの真記ちゃん、顔真っ青だよ?」
「大丈夫? 保健室に行く?」
「大丈夫だ……い、いや、少々気分が悪いので早退する……すまないが先生に宜しく伝えてくれ」
「え? う、うん」
「一人で大丈夫?」
心配する学友を他所に、素早く身支度を整え、家へと走る。
とても具合が悪いとは思えぬ脅威のスピードで校庭を突っ切り、柵を飛び越えて……。
………
……
…
「あ、まき! 今日は早いね? それよりもどう? このボクの真の姿!」
「は? 真の姿?」
我が家にたどり着いた際、目に飛び込んできたのは野球帽に野球のユニフォームらしきシャツの様なものに、下は陸上用の短パンを纏ったさっちゃんだった。 それだけではない。
居間の隅っこで震える、裸の少年少女が数人。
「やっぱり、さっちゃんが犯人かぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
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さっちゃんは、失われし廃病院から離れた為、魔力というエネルギーが供給されず、身につけたモノもエネルギーを吸われてしまう為、直ぐに腐ってしまうとの事だった。 それを回避するためには衣服を纏ったままの人間を捕食し、自分の魔力に覚え込ませる必要があった。 私を捕食した事によって、サイズの近い、私の衣服や靴は共有可能となったが、さっちゃんは不満そうだった。
最初にうちに来た時に着ていた衣服は思い入れが強いらしく、親父殿が同じような服を買ってきたものの、直ぐに腐ってしまった。 私がそれを着て、もう一度食われれば解決だと思うだろうが、個人的にも精神的にもそれは避けたいし、さっちゃんが言い出さないところからして不可であると思われる。
「……と、いうことは、この震えている少年少女たちは……」
「うん! 食べて眷属にしたんだ♪」
「だからって、こんなに沢山……ちょっとまて、ひょっとして」
「サイズとか、デザインがちょっとねー、あと短パンと、1番の子が少なくってさー」
「あ、悪魔め……」
微妙なサイズの違いと背番号、それにコーデの為に、複数人の子を食べたという事らしい。
「帰して、お家に帰して……」
「ママぁ、ママぁ!」
「殺される殺された食べられた……」
ああ、分かる分かるぞ、その気持ち……。 震える少年少女をなだめ、さっちゃんに奪われた子の分は私の服で代用して貰い、落ち着かせた。
「いいか? この事を誰にも言ってはいけない……親兄弟に話したらまた食べられてしまうぞ?」
「「「「「…………はい」」」」」
夜になるのを見計らい、この場所を口外しないように念を押してから、交番の近くまで案内して全員を解放し、さっちゃんが奪ってきた衣服を学校や野球広場などにこっそり置いてきた。 ちなみにお尻の部分に穴の開いたズボンも修繕しておくのも忘れていない。
眷属になった為か、常人より夜目が効き、身体能力も嘘みたいに上がっているので、人目につかずに移動できたのは助かったと言える。
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「うん、やっぱりこの感じ! しっくりくるよ~♪」
「ああ、それは良かったな……」
奪った服がお気に召したのか、野球観戦後のお子様のようにはしゃいでいるさっちゃんを見る。
「はぁ……先が思いやられる」
私は予感していた。
この辺り一帯の人間が、さっちゃんという悪魔に喰い尽くされ眷属となり、人間が一人も居なくなっている、そんな未来を……。
「ねえねえ、まき! もっとこう、ぴっちりした……そうそう、あんなのどこに行けば手に入るかな?」
「は? もしかしてスパッツの事か……」
さっちゃんが指さしたのは、テレビのスポーツ特集番組であった。
競技場なんぞ教えたら、まさに地獄絵図とかすだろう。 決して教えてはならないと思った。
「あ、ああ、今度私が買ってくるから、さっちゃんはおとなしく待っててくれ……」
「ぶーぶー、つまんなーい! そうだ、まきの行ってる学校ってとこ行ってみたい!」
「辞めておくといい。 ものすごく退屈で、ものすごくつまらなくて、美味しいものもなくて、漫画もアニメもなくて、息が詰まるぞ?」
「えー、そうなの? でも、まきはなんで毎日行ってるの?」
「そ、それはだな……」
頑張れ私! 今、この悪魔を止められるのは私だけだ!
私の平穏な日常……基、世界(取り急ぎ地区内)を護る為に!
私の戦いはこれからだ!
………
……
…
一人の少女の、尊い自己犠牲精神にて悪魔の行動は制限される筈であった。
だがしかし、悪魔が引き起こす事件は全てもみ消され、少女・藤枝真記の決心をあざ笑うかのように、悪魔の少女をバックアップするかのような事態が発生する。
「あのさ、真記。 なんか偉い人からこんなもの渡されちゃって……」
「親父殿が? 偉い人に評価されてとかでは……どれどれ?」
それは高額が記載された小切手、藤枝幸子という名の戸籍証明書、それと、真記の通う小学校へ宛てた、藤枝幸子の編入手続き書であった……。
「はあああああ? ちょ、ちょっと待て、親父殿! 誰だ、この藤枝幸子というのは!」
「うちの次女、つまり、さっちゃんは真記の妹という事らしい……」
「………………………………………………はい?」
それぞれの封書には”後藤グループ”という巨大企業の刻印がされていたという。
グループの総帥である老人は、既にこの世の人ではないが遺言として、とある人物を陰ながら資産が尽きる迄、徹底的にサポートする体制が整えられている事を知る者は少ない……。
【病院は患者を救う所だと思っていた頃が……俺にも確かにありました】‐完‐
長い時間がかかってしまいましたが、ようやく初めての連載モノ完結と相成りました。
最初はイベント参加で6話完結だったのですが、初の連載という事もあり、書きたい事いっぱいでキャラが勝手に暴れ回る感じになってしまい、新しく用意していた最終話に合わせるのも一苦労となりましたが今となっては良い思い出(;^_^A
さっちゃんも、当初は主人公をからかいながら罠に蹴落とすお邪魔キャラだったのに、最終的にはラスボス?的なポジションに治まってしまいました。
こんなしっちゃかめっちゃかな作品でも、見てくれた方には只々感謝しかありません(*'ω'*)アリガトウ




