聞きたくなかった真実
聞きたくなかった真実
【馬久瑠医院・4階資料室】
「ふぅ、勝った……」
やたらマニアックな言い争いが静まると、そこには元通り? になったさっちゃんがいた。
「早くページをめくれ! とか、頭の中でいっつもうるさいし、熱くなるとコミックダメにしちゃうし、まったく、見たいなら素直になればいいのに!」
ブラックさっちゃんへの不満を、ぶちぶち言っているさっちゃん。
二人に分かれられるんなら別々に見れば……ああ、なるほど。
ブラックさっちゃんは外見はさっちゃんそっくりだったけど、指先とか鋭い爪が生えてたもんなぁ。
力加減とかも苦手そうだったし、なんとなくその光景が脳裏に浮かんだ。
「で、何の話だったっけ? タッグトーナメントの話だっけ?」
「ちげぇ! かすりもしてないよ? 生贄の子供たちの事だよ!」
「んに? ああ、そうそう、忘れてないよ? ホントダヨ? えっとねぇ……」
完全に忘れてたな絶対。
それはそうと、いい加減パンツを履いてくれと俺は切に願うのであった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「さっちゃん、それは寂しいって感情だよ」
「……○☓△がないと夜がサビシイってやつ?」
「ちげぇよ! エロ本……じゃねぇ、爺さんの教科書の話じゃなくて、爺さんがいなくなった時、一人残されてさっちゃんはどう感じたのさ?」
「ん~なんかこう、おっきな穴がおしりにあいたような?」
「そこはせめて胸と言ってほしいんだが……」
「ともかく、だ! 取り込んだ子供たちの感情とかそう言うのに影響されたんだよ!」
「そうなのかなぁ? うう〜ん?」
腕を組んで考え込むさっちゃん。
『ソノトオリダ、ニエノタマシイヲマゼコンダカラナ……』
「うぉぉ?」
「にゅ?」
いつの間にやら、さっちゃんの肩にミニマムサイズのブラックさっちゃんが腰掛けている。
『マァ、イイ……スベテヲオシエテヤロウ』
「お、お願いします……」
………………
…………
……
ブラックさっちゃんによって語られた真実。
美味だという生贄の子ども達に興味を持ち、食べかけの魂を練り込んだ自らの分身を創って調べさせたとのことだ。
自分で行かなかったのは、契約の効果の残った魔法陣に縛られた上、その場所が崩落して動くことが出来なくなった所為らしい。
『アノロウジンノセイデヘンナジガヲモッテシマッタノハ、シッパイダッタ……』
「成る程、それで……」
山田の爺さんと贄になった子供たちの影響で、今のさっちゃんがあるのか……と、納得してしまった。
「ボクも、魔素の消費を抑える為にその子たちの記憶から、この身体をつくったんだけどさー、おっぱいがこんなにちっこいとは思わなかったよ~」
「ぐっ……あの女の子にそっくりなのはそのせいか」
突っ込みを入れそうになるのを耐え、胸ポケットから一枚の写真を取り出し、爺さんと一緒に写っている少女を見る。
さっちゃんのお使いの時の段ボール箱から、こっそりと拝借しておいたものだ。
「何か病で弱ってて、食いでのなさそうな個体だったんだけど、こうなりたいって気持ちがおっきかったんだよね」
「なるほどねぇ」
野球帽で隠してはいるが、投薬の副作用だろう、写真の女の子には頭髪がない。 かなりのやつれ具合から完治はあり得ないと医療に携わっていれば嫌でもわかる。
「健康な身体に、色んな髪型を試せる長く美しい髪……そりゃぁ切望するだろう」
それでも零れるような笑顔なのは、爺さんと側にいる二人の少年のおかげだろうか?
彼らも、目のくぼみ具合や手足の細さを見るととても健康には見えない。 むしろ死相さえ見える様に感じるのだが、満面の笑みで少女の側でおチャラけたポーズをとっている。
兄妹ってわけじゃなさそうだ、無理を押して、少女を元気づけようとしている……そんな感じだ。
「なんで黒髪でなく銀髪なのかはわかんないけど、その子にとっての憧れだったんだろうな……」
「じーちゃんの教科書には、こんな色のいっぱいいるよ?」
「山田のジジィ……」
しんみりした所を斜め上からぶち壊しに来るさっちゃん。
「ま、まぁ、いいか」
幼い子供にエロ本見せるとか……まぁ、さっちゃんの基本になった少女は、その髪の色に魅力を感じたんだろう。 流石に同性の裸にハァハァするような事はない……と思いたい。 いや、この年頃ならないだろう、多分、きっと……。
一体何処までが写真の女の子で何処からがさっちゃんなのかは、あまり考えたくない。
………………
…………
……
「もうそろそろかな?」
俺の命も終わりが来たようだ。
意識が朦朧としてきたし、指先の感覚もなくなってきた。
「しっかし、ガーに首折られた時、ほんとに死んでたとはねぇ」
「え?」
「ををい? 何そのリアクション!」
俺は見逃さなかった。
さっちゃんが”ええ、そうなの? 知らなかった”って顔をしたのを。
「ちょっとちょっと、俺、いつから死んでたの!」
「えっとね、にーちゃんを受け取ったあと、気がついたら死んでたんだ!」
あの時、俺の首根っこ掴んで引きずっていたらお亡くなりにって?
「ををい、何それ?さっちゃんが犯人じゃんか!」
「ち、違うよ! 犯人はこの中にいるんだよ!」
「うぉい、ここには俺とさっちゃんしかいないじゃんか!」
「え、えとえと、そうだ! これが犯人だよ!」
ミニブラックサッちゃんを差し出すさっちゃん。
「それ、自分自身だよね?」
『モウイイ、オマエガハンニントイウコトニシテオケ……』
ウンザリした表情のMBS
「はい、もういいです、この事件は迷宮入りという事で……ん?」
俺の身体が、砂の様になって崩れ始めていく。 何かしまらない最期だったが不思議と未練はなかった……。
「にーちゃん、ボクを置いて行っちゃうの?」
さっちゃんが、俺の顔の側でしゃがみ込み、珍しくしょぼんとした顔で俺の顔を覗き込む。
せめてパンツさえ履いてくれれば、いい場面だと思うのだが……いや、もう言うまい。
「あのね、にーちゃんには内緒にしていたんだけど……」
「え? まだ何かあるのか……」
正直不安だった。 この爆弾娘の口からどんな爆弾発言が飛び出すのかと……。
「実はね……」
「じ、実は?(ごくり)」
「何と、ボクは悪魔だったのでーす! どんどんぱふぱふー♪」
「はぁ?」
さっちゃんはもったいぶって溜めを作り、勢いよく帽子とシャツを脱ぎ捨て、角と羽根と尻尾を晒した。
「すごいねー、びっくりだよねー! こんなか弱い美少女が、まさかこんなキュートな悪魔だなんて、誰も思わないよね! むふー!」
「……いや、知ってたし」
「へ? またまたぁ! ボクが悪魔だってバレないように、完璧な人間の美少女を演じきってたから、にーちゃんも全然気づいてなかったじゃん!」
「あのね? さっちゃん……(息をめいっぱい吸い込む)」
「ふに?」
「普通人間っていうのは、手足千切れたら平然としてられないし、鉄の扉を素手でもいだりしないし、素手でゾンビを引き裂いたりカンチョーでゾンビを爆散させたりしないし、人間を丸のみにしたりしないし<<以下略>>腕生えたり、上半身と下半身ちょん切って別々に動き回ったりしないから!」
俺の中で渦巻いていた突っ込みたかった気持ちを、すべて、、一息で、ぶちまけた。
「ぜえ、ぜえ……」
「そ、そんな、完璧だと思ったのに!」
衝撃? の事実に膝をつくさっちゃん。
「うははは! 思い知ったか、ずっと我慢してきた、この俺の”突っ込みたい”という思いを!」
いや、ホントに、小出しの突っ込みだけでは消化しきれないほどの突っ込みを溜め込んでいたのだ。 溜め込んだまま死んだら……いや、既に死んでいるが成仏は出来なかったであろう。 実に清々しい気分だ。
「にーちゃんは、ボクに●×▼#&突っ込みたいのを我慢してたの? 別に良かったのに?」
身体をくねくね、おしりをふりふりしながら、決まらないセクシーポーズをとるさっちゃん。
「ちっげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
清々しい気持ちが、粉々にぶち壊され、最大級の突っ込みが病院内に響き渡る。
「燃えた……燃え尽きた……まさかこんなことで……」
すべての突っ込みパワーを発揮した所為か、俺の身体(上半身)がごっそりと崩れて今や胸から上だけになっていた。
「にーちゃん、こんなに小さくしぼんで……えっとナカ●レってやつだね?」
「ぐっ……お願いだから、爺さんの教科書の単語は控えていただきたい」
次に突っ込んだら、一気に昇天しそうなのでぐっとこらえた。
……まぁ、せめてお別れぐらいはちゃんとしときたいわけなのだ。
「えー、なんでさー! にーちゃん、なんか変だぞー!」
「うるさいやい!」
正直、あっけないというか、記憶戻っても、ろくでもない人生だったなぁと思う。
今思えば、ガキの頃から英才教育やなんやで人生決められてた感があったが、ガチで黒魔術の家系って事を改めて認識したよ。 家の爺さんの形見分けの時はふわっとした感じだったのだが、通りで期待されなくなって落ちぶれてやさぐれて、酒と女とギャンブルに溺れて、それで借金抱えて……いかん涙が出てきた。
記憶失ってた時は生き残るのにただ必死で、さっちゃんの後ろをついていっただけだけど……生きてるって感じを味わえたな……まさか、その時には死んでたとはね。
「あのね、さっちゃんさん……これは何の儀式かな?」
ちょっと感傷にふけっていたら、俺の身体はさっちゃんの大きく開かれた脚の間に置かれていた。
「うに? オスはこうすると、とてもシワヨセゼッチョウまちがいなし! って、教科書に……」
「だから……ぐぎぎぎ、だめだ、今ここで突っ込み入れたら……」
我慢我慢、消える前にさっちゃんにお礼をしてから、クールに去るZE!
「あの、さ……なんだかんだあったけどいろいろ助かったよ。 ありがとうさっちゃん
」
「え?、ん? あはは、最初は、ただの追加のエサみたいなモンだったんだけど、ボクも退屈しなかったし、にーちゃんのたくましいソレはボクのおなかの奥までとどいてたよ~♪」
「んぎぎ……」
いや、わかってるよ! 俺は魔繰の血筋で、生贄みたいなもんで感謝するのは筋違いってことくらいはさぁ! でも、最後くらいは綺麗に終わりたいじゃん! わかってくれYO!
「そ、その角と羽根と尻尾も、よく似合って可愛いよ……ん?」
最後はチャームポイントを誉めて、女の子の好印象アップしていくテクは、ナンパで鍛えたリップサービスだが、角と羽根と尻尾の生えた女の子は今までいなかったな……と、思いながら目を開けたら……。
「そうかなぁ、えへへへ、隠してたわけじゃないけどぉ、そんなに大したもんじゃないんだけどぉ~♪」
さっちゃんはめっちゃ嬉しそうに、角と羽根と尻尾が良く見える様に、剥き出しのお尻を突き出して、俺の眼前でふりふりしている。
「だぁぁぁぁぁ! お願いだからパンツを履いてくれぇぇぇぇぇ!!!」
き……キレた。 俺の頭の中で何かがキレた……決定的な何かが……。
文字通り、最後の魂を振り絞った心からの最期の叫びだった……。
………
……
…
半壊した病院の4階。 そこには、幼き少女の姿をした悪魔が一人きりで立っていた。
「あーあ、またひとりぼっちになっちゃったな~これからどうしよっか? あれ?」
肩を見やると、黒くてより小さな自分もいなくなっていた。
魔力の消費を抑えるため自ら姿を消したのだと、同じ存在だからこそ理解できた。
「そっかぁ、ほんとにぼっちだよ、あはは……はは……」
もそもそと服を着て、小さな角を隠すように大きな野球帽を被り直す。
「さーて、魔繰の強制力も大分弱まってきたし、あと数年で自由になれるけど、
ひまー! 超ひまー! お腹も減ったー! ん? 誰か来たようだぞ?」
人間には聞き取れないほどの距離ではあるが、少女の耳には複数の若い人間の声が聞こえてくる。
心霊スポットツアーでもやってるのか、実に賑やかだ。
少女はニヤリと……それはもうやばい感じで、イイ笑みを浮かべていた。
「ふふ~ん。 こんどは、どんなおもてなしをしようかな♪」
『続く』
ようやく続きとなります。 後は最終回とくっつけてエピローグ的な何かを仕上げたい(; ・`д・´)




