それは、まるで悪魔のささやき
それは、まるで悪魔のささやき
【馬久瑠医院・4階資料室】
「生贄か……しかし珍味って……」
捧げられた側からはたまったものではないのだが、そこで想定外の事が起きたらしい。
命を助ける変わりに魂と交換だとか、心臓をよこせとか、無茶振りからの絶望の味付けのはずだったらしいが……。
生贄はセオリー通りに若い男女、その中でも最も幼い個体3人だけが、命乞いをすることもなく、身体を刻まれながらも魂を捧げて、一人の老人を救ってほしいと懇願してきたそうだ。
「自分はどうなってもいいから、他人を助けてほしいって言うんだよ? 変だよね? ね?」
「で、さっちゃんは興味を持っちゃった、ってわけか……」
「そうそう、周りの個体は他人を犠牲にしても、自分だけは助かりたいって気持ちがいっぱいだったんだけど……あ!」
腕を組みながら語るさっちゃんが固まる。
実にちょろ……いや、ぬけている。
「……って、呼び出された子が思ったんだよ!」
「さっちゃん」
「んに?」
「羽根と尻尾がはみ出してるよ」
「え? うそうそ? どこから?」
さっちゃんは慌てて短パンを脱ぎ捨て、俺にお尻を向けたまま脚を開いて覗きこんでいる。
いや、あのね? そのポーズはあざといというか、絵面的に色々問題あるからやめようよ……うげ!
「あれぇ? 尻尾も羽根もでてないよー!」
えっと、さっちゃんは脚の間から頭を通して、シャツを捲ってお尻から背中を確認している。
何を言っているか分からないと思うが、その判断は正しい。 何故なら……。
「テケテケの次は、ろくろ首かい!」
何ということでしょう。 さっちゃんの首がズルリと伸びて、脚の間を通ってこっちを見ている。
「やだなぁ、よく首を長くして待つ。 ……って言うじゃん?」
「それ、実際に首が伸びるワケじゃないから!」
ついさっきまで、下半身のなかったテケテケが、今やおしりまるだしのろくろ首だ。
いい加減慣れたとはいえ、ビジュアル的に問題だらけだ。
「まぁ、何はともあれ、俺は死んだかと思ったけ……ど?」
何とか体を起こそうとした時、自分の体の異変に気付いた。
「そっか、そういう事か」
もう、俺は生きて帰ることなど出来ないと悟った。 何故なら、床に散らばる硝子の破片に映る俺の姿には下半身が無かったからだ。
「俺もとっくにゾンビだったってことか……」
「ぴんぽ~ん! 正解で~す!」
「今まで意識とか痛みとかあったし、思考までできるのは、正直不可解だが?」
「それは、ボクがちょちょいのちょいっていじったからだよ?」
「OH……流石、悪魔チックだねさっちゃん」
「いやぁ、それほどでもぉ~」
「……」
「ち、ちがうよ! ボクじゃない悪魔だよ!」
余りにもボロが多すぎて、あえて口に出さなかったがさっちゃんはやっぱり……。
「さっちゃん、角がはみ出てるよ?」
「ええ! どこどこ? どこから?」
適当にカマをかけたら、大慌てで帽子の上から頭をまさぐり始めるさっちゃん。
セキュリティ能力ガバガバなのか、そう見せているだけなのか、だがもうすでにバレバレである。
「おおっと、手が滑っ……あっ!」
さっちゃんが野球の構えを取ったが、その兇器とも言える指先は、力なくだらりと下げられた。
「HAHAHA、誤魔化しのカンチョーなど、最早恐るるに足らず! 何せ今の俺にはケツがない!」
言ってて悲しくなってきたが、効果は絶大だ。
さっちゃんは愕然として膝を付いている。
「そんな、ボクの野球が封じられるなんて!」
「野球ちげぇ!」
いかんいかん、さっちゃんのペースに巻き込まれては。
「さっちゃんには羽根も尻尾もあって、おまけに角まで生えてるのはいいとして……」
「生えてないもん!」
いや、生えてる生えてないは、この際どうでもでもいい! それに、さっちゃんが口にすると実に不毛……いや、確かにさっちゃんはつるつるの不毛恥帯ではあるが……違う、そうじゃない。
「それはこっちに置いておいて、それでさっちゃんは、その子たちをどう思ったんだい?」
「んに? えっとねぇ……」
しばし目を閉じるさっちゃん。
そして、その小さな口が再び動く。
「とっても美味しかった」
『フシギナアジダッタ』
「え?今の声は」
「その子たちをとりこんで」
『スノニエヲクラッテ』
「気になったんだ」
『キョウミヲモッタ』
「そしてボクが創られて、しらべにいったんだったっけ」
『ブンシンヲツクッテシラベルコトニシタ』
さっちゃんの声が副音声のように被って聞こえる。いや、この響き方はブラックさっちゃん?
さっちゃんの声と同時に、頭の中に直接響いてくる様な不思議な声だ。
『モウイイダロウ? コイツモイイカゲンクッテシマエ!』
「それは……なんかヤダ!」
『コノママデハワレワレハキエルノダゾ? アノロウジントイイ、ナゼニンゲンナンカニコダワル?』
「う、そりは……よくわかんないけど、とにかくヤダ!」
傍から見ると腹話術の一人芝居にしか見えないのだが、さっちゃんとブラックさっちゃんが言い争いをはじめた。
『マァイイ、コレヲコロセバスムハナシダ』
「ちょ……」
「デスヨネー、邪魔なものは始末しちゃえばいいってのはお約束だよな? ん?」
さっちゃんの綺麗な銀色の髪が徐々に輝きを失い、老人のような白髪へと変わる。
「まさか……」
どうやらブラックさっちゃんが主導権を握ったらしい。
踏み潰したゴキブリがまだ動いてるのを見下ろすような金色の冷たい瞳が、もはやさっちゃんではないと、嫌でも分かる。
「せめて、痛くないように一瞬で終わらせてくれると助かるんだが?」
『……』
「虫けらの発する言葉には、応える義務はないってことですか、そーですか」
ブラックさっちゃんは右足を上げ、俺の頭に狙いを定めた。
ココで目覚めてから何日も経った訳じゃないのに、有りえないことが長蛇の列を作って押し寄せて来たような、そんな気の休まることのない非常識……。
「さっちゃん……」
その中心にいたさっちゃんとの思い出が走馬灯の様に流れていく。
「まぁ、何だかんだで楽しかったよさっちゃん」
んんん? なんか、さっちゃんに振り回されてろくな目にあってない気もするが? えぐれ……いや、正確にはガーなんだが、記憶もなくヤツに首を折られた後、さっちゃんに助けてもらわなかったらどうなっていたか……。
今はブラックさっちゃんなんだろうけど、まぁ、何というか……下半身丸出しの少女に頭を踏み砕かれて最後を迎えるなんて、特殊な性癖を持つ紳士でも受け入れられるもんじゃないだろうと、くだらないことを考えていたんだが……・
「キン●マングレート……」
『厶?』
「マスク・●・エンド……」
『ナニ?』
さっちゃんの声が何処からともなく響き、謎のキーワードを紡いだ。
『キ、キサマ……』
をを?ブラックさっちゃんが初めて反応した!
「いいの? このままここからいなくなったら、あの後どうなったのかずっとわからないよ?」
『ダマレ! ドコカラ?』
さっちゃんの声の出所を探そうと、ブラックさっちゃんが俺に背後を見せた……あ!
「うぉい……せめて場所をね……」
さっちゃんの声が何処から聞こえるかと思ったら……。
よりにもよって、ブラックさっちゃんの小さなお尻からさっちゃんの顔が生えていた。
『ドウセ、ニンゲンノツクッタモノダ、モウツヅイテハ……』
「キ●肉マンなら、きっと500巻くらい出てるよ!」
いくらなんでもそれは……って漫画の話かい! ってか、そんなくだらん事で……うや?
『グッ……』
「キン●マンの素顔……気にならない? ボクは気になる!」
『クッ……ヒキョウナ……』
うそん? 効いてる……効きまくってる……。
『続く』
間が開くとセリフ被りとかいっぱい出てきてしまうです。
最終回に繋げるのに四苦八苦(;^_^A




