託されて……
託されて……
【とある町のホテル】
「建造中の病院ねぇ……」
ホテルにチェックインをした俺は、明日向かう建造中の病院の資料に目を通していた。
「後藤グループの会長さん直々の推薦とは……世の中分からないもんだ」
後藤グループと言えば、医療関係では知らぬものがいないという大財閥だ。 医療の発展に尽力し、援助を惜しみなく行うという、医学界にとっては良い金づるとも言われている。
「なんで俺なんだ? それに、この病院名何か気になるな……」
ふと資料に書かれた病院名をスマホで検索する。
「建造中だから出るわきゃな……え?」
……その名前はあった。
”呪われた廃病院”という見出しを見た瞬間、後頭部に衝撃を感じて俺の意識は飛んだ……。
………
……
…
【馬久瑠医院4階】
「う……ここは?」
あの後どうなった? 謎の爆発によって通路にふっ飛ばされて……。
「やっと起きたよ、昨夜はおたのしみだった?」
「誰がじゃい! そうじゃなくて……うっ?」
いつもの緊張感のない言葉に目を向けると、そこには胸から下が千切れて無くなったさっちゃんが両手で立っていた。
「んふぅん? どう? すべてを脱ぎすてた、ボクのこのわがままバデイ! にーちゃんも普段見れないにょたいのしんぴにメロメロだね?」
本人はめいっぱい、セクシーポーズをとっているつもりなんだろうが……。
妖怪が、苦しんでのたうちまわってるようにしか見えない。
「あのね、さっちゃん?」
「にーちゃんが、ボクの中を見てドキドキしてるね? オスはメスの身体の中にはぁはぁするってことだよね?」
「ちゃうわ!」
中は中でも、女体……しかもちびっ子の身体の切断面にはぁはぁするのは人としてどうかと思う。
「ん、んん、えっと、あの爆発は? それに、ここはどこなんだ?」
「ああ、なんかイラっとしたんで、残した下半身を自爆させたんだ♪」
はい? 自爆? どうやって?
「でも、さっちゃん、爆発物なんて……」
いや、まて……確かに爆発物もないのに自爆とか常識では考えられない事だが、それ以前に自爆した本人と話してるっていうのはどうなのさ?
「ま、まぁそれは良いとして、ここはどこなんだい?」
俺は思考を半分放棄して、もう一つの問題について問い詰めるが……。
「ここは院長室の隣、資料室だ。 奴にはここが見えないから安心していい」
「……あんた誰だ?」
気が付かなかった……部屋の中央から、白衣を着た初老の男が話しかけてきた。
「にーちゃん、見てわかんないの? これはえぐえぐだよ?」
「はぁ? え? うそぉぉぉん?」
こいつがあの抉れ顔なのか? まるで別人……といっても、初対面時には顔がなかったんだが。
………
……
…
抉れてない抉れ顔は間違いなく本人の様だった。
何でも、最初はただひたすらに復讐のため、ガーを使って宗君を追い詰めて、死んだら蘇生して又追い詰める……と繰り返し繰り返し行っていたそうだが、宗くんの心が擦り切れ、ついには癈人になったそうな。
抉れ……いい辛いな、元抉れは全てを終わらせようとしたが、魔力が足りずにガーを制御出来ず、ガーは最初の命令を実行し続けているらしい。
「医院の魔力を全て使って、自分もろとも呼び出した悪魔を滅ぼそうと思ったのですが……」
元抉れがついっとオレの横に視線を向ける。
いや、違うな……俺ではなく、俺の首にぶら下がっているさっちゃんにだな、きっと。
「何か今更聞くのもアレなんだが、魔力っていうか、エネルギーが足りなくなったり?」
「ええ、その状態で召喚術を使われまして……」
「アハハハ、召喚ね……」
なんとなく察しがついて、俺はジト目でさっちゃんを見る。
「わ、わるい奴もいるもんだねー」
またしてもすっとぼける、妖怪てけてk……さっちゃん(上半身)。
「んで、またエネルギーを溜めるつもりとか?」
「それは無理でしょう。 あの悪魔がいるかぎり消費の方が大きい。 私が消えてしまえば、自由になった奴は此処を破壊し尽くして霧散する迄、無差別に生物の精気を食い尽くすでしょう」
「うはぁ、何とかならないのか?あんたの病院だろ?」
「もういいんですよ、何もかもどうでもよくなった……今は静かに眠りたい」
あ、駄目だ、これって事件の元凶が最後に悟って、主人公達に丸投げして成仏する流れだ。
「ただ一つ、失った家族と再会できた事へは、感謝するがね」
「え?」
彼の両隣に白い靄がかかり、やがてそれは若い女性と青年の姿となった。
「あ、あの時の!?」
俺が抉れ顔に首を折られた時、病室にいた女性だ。
………
……
…
「ひさしぶりだね、ぽん吉! 元気してた?」
「うん、久しぶりさっちゃん姉ちゃん……もう死んでるんだけどね?」
青年は抉れ顔の息子で、さっちゃんとは知り合いのようだった。
それと女性の方は、抉れ顔の奥さんだという事だった……。
「なるほどねぇ……結局はアレを何とかしないとお終いってわけか、でもなぁ~」
頼みのさっちゃんはあの有様だし、あんな化け物をどう倒せって言うんだ!
「しかし、時間もあまりない様だ……私たちも餌と思われたらしい」
「な?」
三人の姿が希薄になっていく……まさか病院に喰われているのか?
一体どうしたらいいってんだよ!
「……このまま喰われる位なら、あなたにすべてを託したい」
「へ? 俺?」
「んー? 別にボクは構わないけど、本当にいーの?」
……俺じゃなく、さっちゃんにか。 まぁソウダヨネ?
………
……
…
”託す”とかカッコいいこと言って退場するのはまだわかる。
「だけどさぁ!」
「ほえ? どったのにーちゃん?」
そこには食事を終え、満足そうなさっちゃんがいた。
そう、消えかかった3人を文字通り喰ったのだった……あまりにも絵面が悪すぎる!
「まぁ、それはそれとして……あの、”ガー”とは戦えるの?」
3人を喰ってエネルギーを補給したとしても、今のさっちゃんは妖怪テケテケだ。
「だいじょぶだいじょぶ、そろそろ来る頃だから」
「へ? だれが?」
来るっていったって、一体誰が? そう思った時ドアが何者かによってノックされた……。
「合言葉は?」
さっちゃんがドアに向かって言う……って合言葉? 外にいるの誰? 突っ込みどころ満載で混乱してきた。
「……」
「さっちゃん? 普通、合言葉ってこっちからキーワード出すんじゃない?」
「あ、そーか! えっと、んっとぉ……おっぱいぼいんぼいん!」
をい……今思いついただろ、それ!
「そんなん返ってくるわけが……」
「……オシリプリンプリン」
返しやがった……しかも妙に頭の中に響く不思議な声だ。
「よし入れ!」
いいの? それで?
ドアを開けて入ってきたのは……ええええ?
そこにいるのは紛れもなくさっちゃん? しかもすっぽんぽん?
「さっちゃんが二人……だと?」
”ゴゴゴゴゴ”とでも聞こえてきそうな状態で、さっちゃんそっくりな全裸の女の子が室内に入ってきた。
『続く』
実に久しぶりの更新。 年内に終わらせたかったけど上手くいかないもんです。(;^_^A




