魔繰の逆襲
【魔繰の逆襲】
【馬久瑠医院2階 3階への階段(があった場所)】
「うにゅ、もう食べらんない……」
「だぁぁ! 起きて! 起きてさっちゃん!」
3階の階段跡地から吹っ飛ばされた、俺とさっちゃん。
運よく壁から突き出ていた鉄骨に掴まって落下は回避できたんだけど……。
体育会系でないってのに、右手は鉄骨、左手はさっちゃんの脚を掴んでいる。
「さっちゃーん! 頼むから起きてぇぇぇぇ!!」
下を見やると、逆さ吊りのさっちゃんの向こうにゾンビの海が広がっている。
オオオオオオオオオオオ……
このまま落ちたら、流石に二人ともお陀仏だよなぁ……と思った時。
「うに? あれ? にーちゃん、何でボクの脚にぶら下がってるの?」
「逆! 逆! 起きたのはいいけど、こんな時でも平常運転かーい!!」
「んしょ、んしょ」
さっちゃんが俺の身体をよじ登って、鉄骨の上に移動し、俺も引き上げて貰ったが、
鉄骨の上に立つ小柄なさっちゃんとは違い、無様に鉄骨にしがみ付いた姿勢である。
「さっちゃん、早く上に戻らないと……」
瀕死の爺さんが心配だが、二体の怪人が追撃をしてこないってのはどういう事だ?
くぅぅぅ……
「へ?」
可愛らしい異音に上を見上げると、さっちゃんがお腹を押さえていた……?
「おなかへった……おなかとおしりがくっつきそう……」
どんな状態……いや、つっこんでいたらきりがない。
とりあえず、鉄骨が落ちる前に何とか上に戻りたいのだが……。
「んー、飛べるかな?」
「え? 飛ぶ? って? ちょ、さっちゃん?」
さっちゃんがシャツに手をかけたが、思い直したようにスパッツをずり下げた?
「えい!」
……がぼ!
「もが?」
スパッツを手に俺の前にしゃがみこんだと思ったら、視界がブラックアウトした……。
そう、俺の頭にスパッツを被せたのだ……何のプレイ?
「にーちゃん、これも持ってて!」
……がぼ! がぼ!
「もがが?」
さらに何かを被せられた……これは、タンクトップとシャツ? ……何がしたいんだ?
「もが? もがが?」
不意に、腹に何かが巻き付く感覚と同時に、浮遊感を感じた……。
………
……
…
「もが!」
浮遊感が暫く続いた後、急に床? に投げ出された。
「じーちゃん! じーちゃん!」
「ぶはぁ!」
頭に被せられたモノを取り払うと、ここは吹っ飛ばされる前の場所だった。
「あれ? 腹に巻き付いていたロープは……ない?」
「にーちゃん大変! じーちゃんがどこにもいないよぉ!」
爺さんが倒れていた付近から、側の病室まで走り回っていたさっちゃんが戻って来るのだが……まぁ、そうだよな……俺が手に持ってるもんな……。 こっちに向かってくるさっちゃんはスポーツシューズと指空きの手袋に、キャスケット帽だけという、けしからん格好だ。
「さっちゃん、とりあえず、丸見えだから何とかしよう……」
「ええ? うわわ!」
ずべしゃぁぁぁ……
良識のある、大人の対応で声をかけたのだが……さっちゃんは身体を隠さずに、
何故か慌ててキャスケット帽を抑え、何かにけつまずいて、盛大に顔からこけた……。
「をいをい、羽根も尻尾も丸み……えええ?」
小さなおしりを突き出した姿勢で、俺の足元に突っ伏すさっちゃん。
その背中とおしりには見慣れぬモノが生えていた。
「み、みちゃだめぇぇぇ!」
「い?」
手を差し伸べたまま固まっていた俺の顔に、さっちゃんの尻尾が巻き付いた。
「な? 前が見えな……」
足の間を、何かが潜り抜けたような感覚の直後……。
ずどむ!
「あんぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
凄まじい尻への衝撃と共に、俺は再び宙を舞っていた。
………
……
…
「や、やめろぉぉ喰わないでくれぇぇぇ!!」
「だーめ!」
「ひぃ! やだぁぁぁぁ!!!」
「いただきまーす!」
……悲鳴? さっちゃんの声と、どっかで聞いたような声の断末魔が立て続けに聞こえる。
「気を失っていたのか……あいだだだ!」
確かさっちゃんを助け起こそうとしたら、いきなりカンチョーされた?
このケツの痛みは、手加減されてはいるが間違いない。
「あ、にーちゃん起きたの? いきなり倒れるからびっくりしたよー」
「はい?」
いつもの調子で話しかけてくるさっちゃん。 服は着ている……が?
「さっちゃんに尻尾と羽根が……」
「やだなー、尻尾と羽根なんてあるわけないじゃんさー!」
……すっとぼけますか、そーですか。
「さっちゃん、シャツが前後ろ逆」
「あ……」
もそもそ
さっちゃんは腕をシャツの中に引っ込め、シャツを元に戻してドヤ顔をする。
帽子は脱ぎたくないのか、めんどくさい事を……でも。
「さっちゃん、スパッツ裏むけ」
「え? うそ!」
余程慌てていたのかボケボケである。 スパッツを履き直すときに観察していたが、
さっちゃんのおしりに尻尾はない、背中は見えなかったが羽根を隠すのは無理だろう。
「見まちがいか? でも、確かに尻尾が顔に巻き付いて……いや、そんな事よりも!」
さっちゃんの生着替えをガン見してる場合じゃない。 ここには、倒れた爺さんと、二体の怪人がいたはずだが……。
「爺さんも怪人もいない? 連れ去られたのか?」
「じーちゃんが全部ぶっとばしたみたいだよ?」
「いくらなんでもそれは……うげ?」
さっちゃんの目線の先、床をよく見ると怪人だったモノが散乱していた。
控えめに言って、ぐちゃぐちゃだ……どう見ても瀕死だった爺さんがこれを?
「さっき、さっちゃんが、けつまづいたのはこれか……」
それは、恐怖に凍り付いたままの表情を浮かべた怪人の頭部だった。
まさか、さっきの断末魔って、こいつらの……?
「にーちゃん、奥に行こうよ! じーちゃんもきっと先に……」
「ああ、痛っ……いっつぅ……」
ようやく、爺さんに喰らったカンチョーの痛みが収まりかけていたのに、
さっちゃんからも喰らったので、正直俺のケツは再起不能かもしれない。
二人とも、俺のケツに何か恨みでもあるのか? ないよね?
………
……
…
「ない! ないないない! 宗くんがない!」
とある病室の中で、さっちゃんが叫んでる。 どうやら、ここに宗くんとやらがいたようなのだが?
「ここは……俺が目を覚ましたところか?」
妙に見覚えのある廊下だと思ったら、俺が最初にいた場所だ。 ここでエグレ顔から逃げて、奥の部屋で殺され……いや、さっちゃんに助けて貰ったんだっけか。
「あの女の人はどうなったんだ?」
エグレ顔に半殺しにされていた、例の女性の事を思い出す。 いや、あれもゾンビか? 生きてる人間がここで……いや、宗くんとやらも、ここで隠れまわっているんだったか?
「ひっどーい! ボクがせっかく準備してたのにー!」
「あのー、さっちゃん? 準備って……」
病室内で、ぷりぷり怒っていたさっちゃんに声をかけた時だった。廊下の奥から誰かが声をかけてきたのは……。
「ほう? そこにいやがったか」
俺と同じ背格好の白衣の男……エグレ顔と思ったが違う、妙にイラっとさせる初老の男だ。
「あー! それって宗くんのー!」
病室から顔を出したさっちゃんが、男を指さし叫んだ。
「宗くんの体を持って行ったのお前だなー!」
「はい?」
宗くんの体って? よく見ると、男の首周りは血がべっとりと付いている。 まるで首をすげ替えたような……まさか、宗くんとやらは殺されたって事か?
「イイ拾いモンだったぜ、魔力の貯蔵もたっぷりあるし上位の魔人だって呼び出せる」
「魔力? 魔人? あの怪人たちの事か?」
多面の怪人やハリネズミの怪人、ぶよぶよの塊はこいつの仕業か!
「ん~? ああ、試しに呼び出した奴等か、ジジイ一人にやられる役立たずだったな」
あの状態から二体も倒したのかよ、とんでもねえ爺さんだな……あれ?
「じーちゃんはどこだ!」
そうだよ、爺さんはどこ行ったんだ? この男に接触はした様だが?
「ああ、ジジイは死んだよ。 いや、消えたと言った方がいいか?」
「ウソ言うな! じーちゃんは殺したって……死んでるけど死ぬもんか!」
さっちゃん、行ってる事が無茶苦茶だ……。 でも消えたって?
「おい、ガゼット! 余興だ、この生意気なチビの手足を千切って、芋虫の様にしてやれ!」
「御意」
男の背後から現れた人物……それは。
「おい、嘘だろ?」
「じーちゃん?」
何で、何で爺さんがあの男に従っているんだ?
「ひゃははは! これが魔人だ! 今まで従えてた悪魔などこいつに比べればゴミ同然! さっきはよくもやってくれたな……楽には殺さんぞ? 動けない様にしてじわじわと嬲り殺してくれるわ!」
さっきって……俺を無視して、さっちゃんに対し異常なまでの殺意を向けているって事は、一階でさっちゃんに倒された奴か?
「魔人、GO!」
男の命令に、爺さんが、さっちゃんに向かって襲い掛かった!
………
……
…
ようやく本編再開となりますが、ペースがやたらと落ちている現実。




