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のばした手が掴むモノ -後編-その1

のばした手が掴むモノ -後編-その1


病院の一階にある倉庫の一角、

儂の秘密の隠れ家……というよりも、院長を脅して認めさせたから、

いわば儂専用の個室ともいえるスペースがある。後藤に運ばせたコレクションも、ココにある。


「タカ坊、これなんてどうじゃい?」


「うぉ、何だこれ? すっげぇ、でけえ!」


「ケン坊は、こっちかのう?」


「お、女の人同士で? え? そんなの入れるんです?」


「カッカッカ、今日は制限なしじゃ、どれでも好きなだけ見るがいいぞい!」


何をしてるかと言われれば、いたいけな少年(ガキンチョ)たちに、

海外の、とてもハード(崇高な)無修正のエロ本(芸術書)を見せている。


「ま、まじかよじーちゃん? じゃぁ、沢山いるやつが見たい!」


「ふふん、乱交モノか……いい目をする様になったではないか? ほれ!」


「ふぉぉぉぉぉ!! すっげぇぇぇぇぇ!!」


「……ボクは、その、やっぱり、お姉さん同士がいいかなぁと」


「ほほぉ、れじびあんとかいうヤツじゃな? 通じゃな? ほりゃ!」


「ほぁ、ほぁぁぁぁ!! 3人で一人を? なんです? この油みたいのは?」


「ほれほれ、ちゃんと鼻にちり紙を詰めんか! 鼻血で本が汚れるわい!」


……さっちゃんは殆どベッドから出られなくなってしまった。

3人揃って遊ぶことも無くなったため、タカ坊とケン坊は最近沈んでおったので、

今日は、儂のとっておきのお宝を見せて元気づけているワケだ。


「「……」」


「ん? どうしたんじゃ?」


「いえ、これ……さっちゃんが」


「このねーちゃんの髪がさ……」


二人の視線の先には、後藤の土産(さしいれ)が、3人に初めて見つかった時の本だった。


「銀色の髪じゃな……」


「これを見た後、三人だけの時にさ、さっちゃんはこの髪の事を話してたんですよ」


「自分もこんなに”きれいな髪だったら”山田のじーちゃんも喜んでくれるかなって……」


「ほうか……」


せっかく元気になったと思うたら、お通夜みたいになってしもうた。


『この時に、強引に事を進めておればのぉ……いや、未練じゃな』


………


……



いよいよもって、しびれを切らせた儂は、院長に詰め寄り、

あの3人を、この病院から連れ出す事を吐き捨てるように伝えたが、

院長は必死に食い下がる……。


……3人を救うという、院長がどうもウソを言っているようには思えない。

戦場で培った儂の勘は、薄っぺらなウソなら見破れるのじゃがな……。


1週間後、特別な薬が届くというから、それが最後のチャンスとして待つことにした。


『それが、全ての間違いじゃったな……確かに、ウソ(・・)は言っていなかったがの』


………


……



”約束の日”はあいにくの雨じゃった、しかも雷まで鳴っておる。


「あん畜生、これが答えかい……」


朝っぱらから、騒がしいと思ったら、医院がガラの悪い連中に占領されておった。


「ったく、どこからこんなに集めたのやら……」


倉庫の奥(自室)で気づくのが遅れたが、いつも尻を触ってやってる若い看護婦が、

儂の元へ駆け付け、突然押し寄せた男たちに、若い患者が集められ何処かへ連れていかれた事、

あの3人も最後に連れていかれたという事を教えてくれた。


………


……



「おい、ジジイ、ココは立ち入り禁……」


ズドム!


「おい、何やって……」


ズビシ!


「参った、降参する! たす……」


ズドォォォン!


群がる雑魚が儂に近づき、尻を押さえながら声なき悲鳴をあげる。

捜し出すまでもない、ガラの悪いやつが集中する場所に向えばいいだけだ。


「こんなとこに怪しげなモンを造りおって」


ボイラーがどうとか言っていた地下には、さらに先があった。

怪しげな模様やら装飾で作られた通路を抜け、大部屋に辿り着く。


「悪趣味じゃのう……はて、どこかで見たような?」


3人とは別に連れ去られたという、若い患者たちがそこにあった(・・・)

昔、密林で敵を追い詰めた時に似たようなことがあったのを思い出す。


「似ているのう、部屋中の怪しい模様、それに、こいつらの状態……」


悪魔だか何だかを崇めていた、どこかの国の民族じゃったかな、

遺跡に立て籠もって……呪いの儀式なのか、若い男女をバラバラに切刻んで……。

最後は子供を……まさか?


「まずい、あれと同じものなら……3人が危ない!」


遺跡の奥で見たのは、子供を生贄にして、儂らをどうにかするつもりだったのか、

頭だけにされた子供たち、その子供らの胸にあったであろう心臓らしき臓物の山……。

恨みなんぞなかったが、悪趣味な宴を開いていた男を徹底的に破壊(・・)したんじゃった。


甘かった、3人を人質にするなら、傷つける事はないと思うとった。

だが、あれと同じものなら……。


「この中じゃな?」


一際大きく、過剰なまでの装飾がされた鉄の扉の前に辿り着く。

当然中から閂でもかけてあるのか、びくともしない。

軽く小突いた感触から、かなりぶ厚い為、破壊するのは不可能なようじゃった。


「扉を破壊するのが無理なら、それ以外を壊せばよいだけだわい!」


儂は扉ではなく、扉がはまっている壁を破壊することにした。


………


……



■幸恵という少女


せんせいは、サチとタカちゃんとケンちゃんの病気は、ぜったい治るって言ってた。

でも、サチは病気が治ったって……。


パパは死んじゃった……ママはお見舞いにも来てくれない。

このまま、ここでお星さまになって、パパのとこに行くのかなって思ってた。


……タカちゃんとケンちゃんがお友達になってくれた。

ふたりもサチと同じだった。いつも一緒だった。


ある日、中庭のすみっこに、おじいちゃんが一人で座ってる所をよく見るようになった。

すっごい、いたずら好きで、かんごふさんたちも困ってるって言ってた。


かんごふのお姉ちゃんが、”あのお爺さん、なんでも知ってる(・・・・・・・・)らしいわよぉ?”って言ってた、

サチたちは知らないことがいっぱいだから、いっぱい知ってる人に会いに行った。


山田のおじいちゃんは、サチたちの知らないことを、いっぱい知っていた。

タカちゃんも、ケンちゃんも楽しそうだ。 サチも楽しい。

毎日が楽しかった。 病院だと手に入らない”本”も、山田のおじいちゃんは、

どこからともなく手に入れて持ってくる。


山田のおじいちゃんはすごい! 本だけじゃなく、いろんな道具も持っている。

”野球”というスポーツの道具を、サチたちにプレゼントしてくれた。

サチはちっちゃいから、ユニフォームというのはなかったけど、代わりのお洋服をくれた。


とってもうれしかった。寝巻しか持ってないから、もらったお洋服と帽子とスニーカーは、

サチの、大事な大事なたからものなの。


あれ、おかしいな? 体が重い、息もくるしい……。

せんせいは”薬が効いてきているから、心配しなくていい”っていってくれているけど、

ベッドからほとんど動けなくなって、貰ったお洋服も着れないのがいやだった。


サチの髪が、どんどん抜けていく。おじいちゃんもほめてくれたサチの髪が……。

かんごふのお姉ちゃんがサチの髪を短くしてくれた。

せんせいは”治ったらまた生えてくる”と言ってくれたけど、不安だった。

おじいちゃんに見られるのはいやだったので、無理言って寝る時以外は帽子をかぶった。


おじいちゃんは、サチが退院したらプレゼントをくれると言った。

おじいちゃんの持ってた外国の本では、長い銀髪のお姉さんがスポーツをしていた。

かっこいいし、とってもキレイだった。元気な体になったら、こうなりたいと思った。

このユニフォームをサチにプレゼントしてくれると。おじいちゃんは言った。

それもステキだけど、髪を隠すための、大きな帽子もおねだりしちゃった。


明日は、最後の治療を行うって先生が言ってた。”とっこうやく”というのが来るらしい。

タカちゃんもケンちゃんも治療を受けるらしく、今日はサチと一緒にいてくれた。

これで健康になれるのかな、みんなとまた遊べるのかな?


……まだ夜中だった、知らないおじさんに起こされ、どこかに連れていかれる。

帽子だけは!……と、たのんだけど聞き入れてもらえなかった。


サチだけじゃない、他のかんじゃさんも一緒に、地下へと連れていかれる。

見たこともない不思議な部屋まで連れて来られた。 タカちゃんとケンちゃんも一緒だった。

何? 何が起こるの? これが治療なの?


サチたちは、みんなはだかにされ、冷たい石の台にそれぞれ寝かされた。


「またせたね、君たちを救う(・・・・・・)日がついに来たよ!」


不思議な衣装を着た先生がサチの顔をのぞきこむ。 怖い……。


目隠しをされた、体中に何か生臭くて温かいモノをぬられた……。

これは、血のにおい? 何で、そんなモノをぬるの?


……ケンちゃんの悲鳴が聞こえた? 治療がとっても痛いの?

しばらくして、悲鳴はおさまった、よかった……痛い治療は終わったようだ。


……次は、タカちゃんの悲鳴が聞こえる。 怖い、おじいちゃん助けて!


「心細かったかい? お友達の治療は終わったよ?」


「ひう?」


目隠しを外され、目の前にせんせいの顔があった……血のようなモノがいっぱいついている。


「ケ……ケンちゃんとタカちゃんは、元気になったの?」


「ああ、そうとも、病気の脅威は取り除いた(・・・・・)。 今は二人ともぐっすり(・・・・)だ……」


「ほんと? よかったぁ……」


「次は、君の番だけど、二人よりちょっと痛いと思うけど、我慢できるかい?」


「ひぅ……は、はい……おねがいします」


怖いし、痛いのはイヤだけど、みんなとまた遊びたい、おじいちゃんに喜んでもらいたい!

サチは勇気をふりしぼって答えた。


「そうかい、辛かったら助けを求めるんだ、”なんでもあげるから助けて”ってね」


「助け? なんでも?」


「そうさ、神でも何でも、それでもだめなら悪魔にすると良い、きっと楽にしてくれる」


せんせいは、良く分からないことを言ったが、サチには頷くことしかできなかった。


………


……



魔繰大吉郎(まくりだいきちろう)という男


危なかった、あのジジイが、召喚の要となる生贄(3人)を別の病院へ移すとか言い出した。

あと1週間、そう、1週間で召喚の準備がすべて整うというのに!

ジジイに脅されてから、医者っぽい事をして誤魔化してきたのだが、

幸恵という少女の容体が、悪化し始めたのがジジイが怒鳴り込んできた原因だ。

”特効薬”が1週間後に届くと言い訳をして、その場は誤魔化したが次はないだろう。

あのジジイには嘘は通じない様だが、私は()など言ってはいない、

哀れな少年少女を生贄にすることで、苦しみから救って(・・・)やるのだから!


特効薬(・・・)ってのも嘘じゃない、1週間後に出来上がるのだからな!」


若い患者(材料)は既に確保し、1週間後『魔血玉(まけつぎょく)』を造り出し、

要の贄を使って、最強の悪魔……いや、魔人を呼び出す。


悪魔といっても千差万別だ、ただ、悪魔を呼び出すだけなら知能の低い低級でもよいが、

私の目的を叶えるならば、上級の魔人が相応しい!

魔人を呼び出し、生贄に食らいついたその瞬間に、我が魔繰の力で従属させるのだ。

魔人ともなれば、要求する生贄も膨大な量を必要とし、隷属できる時間も短いが、

魔繰の力ならば、魔人の隙を突いて、永久に従属させるのも可能なはずだ!


「そうだ、その為に長年研究し、全てを費やしてきたのだ!」


………


……



ついに、この時が来た!

ジジイの事だ、あの3人の検診が終わった時に、私に詰め寄って来るだろう。

検診の時間はいつも昼頃だから時間はまだある。


患者も寝静まり、ナースセンターだけが明かりを灯す午前0:00。

金で雇った連中を使い、看護婦たちを抑え贄たちを誘導し、地下への入り口は封鎖する。

召喚が終わる迄の間保てればいい。


13人の若い患者を、縛り上げた状態で下処理を行う(斬り刻む)

金で雇ったやつらにはやらせない、むしろ蒼い顔をして断りやがった。

たかが、13人の若者をバラバラにするだけだというのに情けない……。

本来なら薬で眠らせ、丁寧に行う所だが、なにせ時間がないため斧を使った。


「まぁ、多少雑ではあるが問題はあるまい、鮮度が良ければな……」


時間はかかったが、魔血玉は造り出せた、後は呼び出すだけだけだ。

順調だった、その筈だった、一人目の贄の胸を開き、召喚の扉が現れた。

二人目の贄の胸を開き、扉を開け、三人目の贄の胸を開き、呼び出すところで音は鳴った。


「な、あのジジイ、もう気づきやがったか!」


ぶ厚い鋼鉄の扉は、破壊するなどまず無理だ……だが、

あのジジイ、扉ではなく、横のコンクリートを壊すつもりだ……。


「ばかな、扉よりもさらにぶ厚いんだぞ? いや、あのジジイならやりかねん」


壁を破るにもまだかかる筈、その前に魔人を呼び出してしまえば!

慌てて、儀式を再開した。


壁がぶち抜かれるのと、魔人が召喚されたのは同時だった……。


………


……



■山田という老人


「何が起こったんじゃ?」


壁をぶち破り、あのうさん臭い医院長に詰め寄って締め上げた……。

視界に入ったのは、胸を開かれ、絶命しているタカ坊とケン坊……そして、

黒くて禍々しい何か(・・)に、喰われそうになっているさっちゃんの姿じゃった。

けったいな格好をした医院長を、祭壇の様になっている場所に叩きつけ、

さっちゃんを襲う何か(・・)に飛び掛かった瞬間、激しい衝撃に包まれ、

儂は闇の中にいた。


「儂はどうなった? さっちゃんは?」


そこは暗く、何も見えない闇の中、しかも身動きがとれん。

ひょっとして儂は死んだのか? あの何かにやられたのか?


「山田のじーちゃん!」


聞こえぬはずの声がした。 


「た、タカ坊? 生きておったのか!」


「ボクもいますよ、山田のおじいさん」


「ケン坊! おお、儂は夢を見ていたのか? 良かった……無事じゃったか」


もう会えぬと思っていた二人の姿に、儂は涙を浮かべていた。


「山田のおじいちゃん、泣いてるの? どこか痛いの?」


「さっちゃんも……良かった、本当に良かった……」


三人とも無事じゃった、髪など信じた事のない儂じゃが、今ばかりは感謝しかない。


「さぁ、戻ろうか……都会のいい病院に行くんじゃ、そこなら……」


「「「……」」」


三人は俯いて首を横に振った……何じゃ? 何か不満でもあるのか?


「ごめん、じーちゃん……俺たち……もう死んじゃったみたいなんだ」


「な、何を言っておる? タカ坊……」


「本当です。 ボクたちは……」


「ケン坊まで……」


「ごめんなさい、サチもタカちゃんもケンちゃんも……ひっく」


「さっちゃんまで何を言っておるんじゃ? 現に……」


アレは夢じゃない。 それはわかっとる。 だが、理解することを心が拒んだ。


「儂は……誰も救うことが出来なかったのか……」


偉そうなことばかり言って、子供一人救うことが出来ぬとは……。


「死んじゃったけどさ、じーちゃんのおかげで、すっげぇ楽しかった!」


「そうですね、おじいさんのおかげで、色んなことを知ることが出来ました!」


「じゃぁな、じーちゃん、長生きしろよ!」


「ボクの計算では、おじいさん殺しても死なないと出ています! では、お元気で……」


「タカ坊、ケン坊……どこへ行くんじゃ? 待つんじゃ!」


二人は背を向けて、儂から離れていく。 追いかけようにも体が動かない。

ダメじゃ、このまま別れたら二度と会えなくなる気がする!


「おじいちゃん……サチ、もう行かなきゃ」


「みんな儂を置いて行くのか? 待ってくれ、儂も!」


「ダメだよ、おじいちゃんは、まだ生きてるんだから……」


「もういい、もういいんじゃ……お前たちのいない世界なんぞ……」


沢山人を殺めた、家族さえ護れず失った……心がすさんでいく、そんな日々を、

あの三人は癒してくれた。もう何も失いたくなかった。


「大丈夫だよ? サチたちね、あの子にお願いしたの」


「え?」


「おじいちゃんが寂しくないように……おじいちゃんを助けてあげてって」


さっちゃんが背を向け、儂から離れていく。


「待つんじゃ、さっちゃん!」


「サチね? おじいちゃんのプレゼント……楽しみだったの、でもね……」


「ダメじゃ! 行くな! 行かんでくれぇ!」


さっちゃんに向かって必死に手を伸ばすが、届くことはなかった。


「……おじいちゃんとの思い出が、最高のプレゼントだよ? おじいちゃんだいす……」


さっちゃんの言葉を最後まで聞くことが出来ぬまま、儂は意識を失った。


………


……




連休前にちまちま&連休に清書という、いつもの流れで文字数オーバー……

今回で終わらせるつもりで何故増える! はい、構成力、その他諸々のない私が悪いです。( ;∀;)


再度分割し、日付が変わったらその2で終了のパターンとなります。

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