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お前は、誰なんだ?

【馬久瑠医院2階 3階への階段前】




「で、さっちゃんをここから離したって事は、何か聞かれたく無い事があるんじゃないか?」


「カカ……流石じゃのう まぁ、いい物があるってのは本当じゃがな……。

 若造、お前さんに話して……いや、聞いておきたいことがあってのぅ……」


「俺に?」


爺さんは煙草を灰皿に押し付け、俺の顔をじっと見る。


「そうじゃよ、お前さん自分の事が、どこまで分かっておるんじゃ?」


「え……? 爺さん、今なんて?」


そう、目を覚ましてから疑問に思いつつも追及できなかった部分……。

この爺さん、何を知っているんだ?


……正直不思議な感じだ、煙草の銘柄とか会話で突っ込みを入れられるくらいの記憶があるが、自分の名前とか経歴とか、自分自身に関する事だけがすっぽりと抜け落ちてる。


「正直、今も俺は自分が誰か分からない……気が付いたらこの病院にいた。」


「ほう? ではここの医院長殿の事は全くわからんか?」


爺さんが、俺の顔を覗き込むように見る。


「ああ、分かるも何も顔なかったし、ゾンビに知り合いはいないと思う」


「ふむ、それなら、今は一体何時いつだと思う?」


何を言っているんだ?この爺さんボケてるのか?


「何時って、2017年の……ん?」


言いかけて気づいた、ある違和感の正体。俺は辺りを改めて見まわす。


「おいおい、冗談だろ?」


意識して初めて気づいた……この病院はあり得ないほど古いのだ。


「いくら古い病院だからって、限度があるだろう? そうだ、煙草の箱に!」


懐から煙草の箱を取り出し、製造年月日を見る。


「……1984年だって? 待てよ?さっちゃんは1か月って……」


そう、たしかあの時に……


………


……



<なぁ、さっちゃん、さっちゃんはいつからここにいるんだ?>


<ほへ?、ボク? んーと、ひの、ふの、みの……>


さっちゃんは指折り数え、両手で足りないとばかりに、足だけで靴を脱いで素足になり、

座り込んで足の指で器用に指折り数える。 すごいな、でも足の指でも足りなかったようだ。

あ、折り返しに気が付いたらしい、再び両手を広げきった辺りで再び止まる。


<このくらいかなー?>


<30日? 一か月もここで?>

 

………


……



「……もしかして、あれ、指の一本が”1日”じゃなくて”1年”だとしたら?30年以上前って事に……」


先入観で”30年以上”が”30日以上”と思い込んでいた。さっちゃんのセリフの古臭さ、設備等の年代のズレ……合点がいった。


「ほう、もうそんなに経っておったのか……」


爺さんが軽い感じで言う。 一体どうなってんだ?


「まさか、タイムスリップでもしたってのかよ?映画じゃあるめーし……」


「その”たいむすとりっぷ”とは何じゃい?」


「”ストリップ”じゃねぇ!”スリップ”だよ!はぁはぁ……」


やはり、さっちゃんのボケの先生は、この爺さんだなと確信した。


「要するにあれだ、未来から過去に飛んで来たってヤツだ!」


「ほう、それは珍妙で奇天烈で摩訶不思議じゃのう?」


ホントにわかってんのか? この爺さん?


「でも待てよ?捜索隊奴等も来ていたっていうし……」


何か、まだチクチクと引っかかる。


「でも、お前さん”自分が分からない”と言っておったの?」


「ああ、記憶がすっぽりと抜けてるんだよ……過去に来た時に何が、くそ!」


「ふむ、未来から、過去に来たという事か……だが解せんのう」


「何がだよ爺さん!」


イライラしてきて、語彙が荒くなる。


「30年以上経った時代からにしては、お前さんの格好は”古臭い”というヤツではないのかのう?」


「え?」


”ガタ……”


そうだ、俺は抉れ顔と同じ格好、それに懐に入っていた煙草自体が、30年以上前のモノってのは変だろ?

俺は、洗浄室に向かい、ある物を探す、そしてそれを見つけると壁に手を突きながら”ソレ”を見つめる!


「やっぱり、自分の顔だってのに”違和感”しかねぇ!」


鑑に映った自分の顔、とても”自分の顔”とは思うことが出来なかった。鏡に映った自分に向かって呟く。


「お前は、誰なんだ?」


記憶が無いから誰かなんてわからない。 


「おう? どうした、女風呂を覗きに行ったら、男風呂だった様な顔しおって」


”ギシ……”


爺さんの軽口を無視して、長椅子に腰を下ろす。 まだ、ケツは痛むがそんなことはどうでもいい。


「爺さん、何を知っている?」


そうだ、この爺さんは明らかに何かを知っている感じで話しかけてきていた。


「ほ?」


「とぼけるなよ、まるで俺が誰だか分かってる様な口ぶりだったじゃねぇか!」


爺さんは腕を組み、考えるようなそぶりを見せた後言った。


「ああ、知り合いってわけではないが、儂の知っている男にそっくりだったのでのう」


「マジかよ!そういうのは先に言えよ!」


「いやぁ、さち公と一緒に話して、行動を共にしてるなんて、あり得んから他人の空似かと思ってな」


「さっちゃんと?あり得ないってそれは……ん?」


”ヒタ、ヒタ、ヒタ……”


誰かがこっちに向かってくる。 さっちゃんか?でも何でふらふらとしている?


「ふむ?」


爺さんもこちらに接近してくる何かを見つめていた。

薄暗くてよく見えないが、ゾンビのような足取りで大きな箱の様なものを抱えた何者かが、廊下を歩いてきている。


”ヒタ、ヒタ、ヒタ……”


僅か数メートルの所で”それ”は立ち止まり、抱えていた箱を下ろす。

”それ”が立ち上がる前に目が合った。


「……お前は、誰なんだ?」



ほぼ、一か月振りの更新です。他の連載との折り合いとかうまく調整出来てなく、グダグダペースです。

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