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過去の少女たち  作者: 膝野サラ
8/8

現在の青年

村上の葬儀には行かなかった。というより行けなかった。怖かった。村上の死を目の当たりにすることが怖かった。そして村上はそれぞれの関係は浅いものの学校とかでも顔は広い奴だったので、もしかしたら小学校の同級生である河合さん、中学校の同級生である杉崎さんたちも来ているんじゃないかと思うと、それがまた怖かった。過去の少女たちの現在を見るのが、現実を見るのが、とにかく怖かった。だから、行けなかった。


村上の葬儀にも行けない俺はまた六畳の部屋の真ん中に横たわっていた。また村上との思い出を、くだらない青春を思い出していた。そしてその端々に現れる過去の少女たちとの思い出を、そして青春を思い出していた。

どうせ葬儀には行けない。だからできるだけ考えないようにはしていたけれどもやっぱりずっとそのことばかりを思い出し考えてしまっていた。


何かをして気を紛らわせようとしたが中々うまくいかない。テレビもゲームも小説も何も集中できない。何かないのかと棚や机の上に目をやったり、押入れやら棚やら色々なところを漁ったりするが、目に入ったり出てきたりする物は、あの河合さんの笑顔を見たスキー場で買ったお土産の変な置物だったり、この前しまったばかりの杉崎さんが好きだったアジカンのCDだったり、森さんがくれた赤いギターだったり、開いた窓の外からか入ってきて机の上に落ちていた寺坂さんと見た桜と同じくらい綺麗な桜の花びらだったり、これもまたこの前しまったばかりの武山さんの後ろ姿が写った写真だったり、魅冬にあげるはずだったネックレスだったり、しまいには小学校と中学校の卒業アルバムだったり。


いつぶりだろうか卒業アルバムなんて見るのは。高校の卒業アルバムは数年前までたまに見ることはあったが、小中の卒業アルバムなんて見るのは本当に卒業以来ではないか。しかしまだ捨てていなかったのか。一人暮らしを始めるときに持ってきた覚えはないが、当時、父親がいらぬ気づかいで勝手に入れていたのかもしれない。久々に開いて見てみる。



小学校の卒業アルバム、懐かしい顔がいっぱい並んでいる。その中に河合さんの顔もあった。河合さんは可愛らしい笑顔で写っていたがやはりあのゲレンデで見た笑顔には敵わない。自分のクラスのページに入る。自分の顔、ぎこちなく笑っていた。まあ無理矢理カメラのおじいさんに笑わされていたのだから仕方がない。しかし昔の自分の顔を見るのはなんか変な感じがしたので、すぐに目を逸らした。そしてその目を逸らした先に村上の顔があった。村上はやっぱり気持ち悪くニヤリと笑っていた。それを見て少し笑った。

低学年から色々な写真があったがやはり一番俺の目にとまったのは六年生の修学旅行の写真であった。まず俺たちが泊まった部屋の写真があってカメラに向かってピースをする俺たちの姿があった。珍しく楽しそうに自然と笑う俺の顔が気持ち悪い。そして村上も相変わらずニヤリとではあったが楽しげに笑っていた。気持ちが悪かった。

そしてスキー場での写真。危なげに滑る村上の姿とそれを見て笑っている俺の写真があった。この後村上は変な悲鳴をあげて漫画みたいに転んだんだった。思わずまた少し笑ってしまった。


中学校の卒業アルバム、懐かしい顔と知らない顔が並んでいる。その中に杉崎さんの顔もあった。杉崎さんは珍しく笑っており、また可愛らしかった。そしてまた自分のクラスのページへ。自分の顔、少しカッコつけたようにも見えるが、でもまたぎこちなく笑っていた。ダサかった。そしてまた村上の顔の方へ目をやる。村上は小学校のアルバムとあまり変わらず、気持ち悪くニヤリと笑っていた。そしてそれを見てまた俺は笑った。

一年生の入学式の写真から順にあって、クラス発表の写真があり、俺と村上がクラス表を見て指をさしている様子が写っていた。俺もそうだったが、やはり村上の学ラン姿は全然似合っておらずダサかった。その姿がまた懐かしかった。普通に教室で授業を受けているときの写真もあったが、俺はしっかり真面目に黒板を見ているのに対し、村上は机に突っ伏して寝ていた。ちゃんと間抜けで、らしいなと思った。

体育祭の写真などにも写っていたが二人ともバテた感じで目も当てられなかった。校外学習や修学旅行の写真もあった。二年の校外学習はクラスも違い班も違ったので一緒に写る写真はなかった。そもそも俺の写った写真はなかった。しかし修学旅行では五人ほどの班でまた俺と村上は一緒に行動しており、某超有名テーマパークで、カメラに向かい変なポーズをキメてはしゃぐダサくて気持ちの悪い俺と、腕をだらんと垂らすような気持ちの悪い変な体勢でカメラを見つめてニヤリと笑う村上が写っていた。またそれを見て「なんだこれ」と独り言を言いながら笑った。

そしてアルバムを閉じた。



アルバムを横に置いて、またしばらく畳の上で横たわり、なんとなく天井を眺めていた。そうしてまた過去の青春に思いを馳せていた。




そして俺は、泣いた。いつの間にか、泣いていた。

悲しくて寂しくて怖くて虚しくて情けなくて、泣いた。

泣いたのは魅冬と別れたあの魅力的な冬の日以来だった。しばらくそのまま泣いた。





夕方、開いた窓の前に座り、窓の外を眺めていた。入ってくる風は柔らかく俺を包んでいった。



変わらなければいけない。そう思った。

何の意味もなく生きて、過去の青春などに意味もなく縋り続けて、長い間止まったままで、このままではだめだと思った。正直なことを言うとそんなことにはずっと前から気づいていた。でもどうしても動くのが怖くて、変化が怖くて、今がだめでも過去の青春に縋り続けたくて、どうしても進めなかった。進もうとすることすらできなかった。もしどうしても無理になったら村上にでも電話をかけて縋ればいいと根拠のないものに甘えていた。

でも今、村上が死んで、今俺に残っているのは過去の青春だけになった。最後の逃げ道であった村上はもう死んだのだ。どう変わればいいのかはわからない、でも今を、この今現在を俺は生きなければいけないのだと、生きていかなければいけないのだと、そう思った。過去は過ぎ去ったものだ。縋ったとて何にもならない。だから今現在を歩かなければと、進まなければと、そう思った。

ただ、やっぱり俺は弱くて情けなくてこんな状況でも足を踏み出すのが怖くて、転んで怪我をするのが怖くて、上手く進むことができなかった。やっぱり俺は一人で進むことができない。ただもう縋るだけではだめだ。誰かについて行くのではだめだ。

一人でどうすることもできないのならば、一人で歩くことができないのならば、誰かについて行くのではなく、誰かと一緒に歩くのだ。






部屋の真ん中で、畳の上で俺は立った。部屋の中は気を紛らわすために色々なところを漁っていたため、物で溢れ荒れていた。


そこにあったのは、あの河合さんの笑顔を見たスキー場で買ったお土産の変な置物だったり、杉崎さんが好きだったアジカンのCDだったり、森さんがくれた赤いギターだったり、開いた窓の外からか入ってきて机の上に落ちていた寺坂さんと見た桜と同じくらい綺麗な桜の花びらだったり、武山さんの後ろ姿が写った写真だったり、魅冬にあげるはずだったネックレスだったり、小学校と中学校の卒業アルバムだったり。




これらの過去の少女たちとの思い出を通じて俺はそのある一人の過去の少女のことだけは「思い出」として消化できていないことに気づいた。俺は彼女と一緒にに歩いていきたい。心からそう思った。様々な過去の少女たちとの思い出はそれを気づかせてくれた。









そうして俺はある過去の少女に会いに行った。


春の暖かい空気がまた俺を包んでいて心地良かった。公園のベンチに座って待っていると、俺の前に彼女が現れた。そうして俺は顔を上げ彼女の方へと目をやる。

そして、そのある過去の少女は、ある現在の女性は、彼女は、俺の顔を見て、



「久しぶり」



そう言って微笑んだ。

ご読了ありがとうございました。m(_ _)m

令和になってもう三ヶ月程が経ちましたが、令和初の作品になりました。

そして約五ヶ月ぶりくらいの投稿になりました。というのもこの小説を四ヶ月程かけてだらだらと執筆していましたので遅れてしまったわけです。

今回はいつもの何倍もの長さで、八章、約四万八千文字に渡る作品になりました。これもまたなにかの進歩かとも思ったりしています。

今回の作品は将来自分はこうなるのではないかと、未来の自分を主人公、永久(ながひさ)に見立てて執筆しました。

僕も曲がりなりにも色々と青春をしてきたつもり、これからしたいつもりではありますので、途中までは自分の青春の中間発表的な感じで、途中からは今後の自分の青春を思い描きながら、書いてみました。

自分的には中々良い作品になったと思いますので満足しております。


話は変わりますが最近はようやくちゃんと読書をするようになりまして、週一冊程のペースではありますが色々な小説を読んでおります。やはり読むのが遅いので中々時間がかかってしまいますが。

特に森見登美彦さんの小説が好きです。もう読んでいる方も大勢いらっしゃると思いますが、読んでいない方がいれば是非。

あと今までは家で週末に観る感じだったのですが、映画館に行き映画を観ることも増えました。という意味もクソもない謎の自分語りでございました。


最近はこの前までの冷夏とは打って変わって、あまりにも暑いばかりですので体調にはお気をつけください。まあクーラーに効いた部屋にこもって深夜ラジオに聴き耽ている僕が言うのもあれですが。

僕は汗っかきですので外に出るとハンカチがびしょびしょになります。あれを絞ってなにか工夫をしたら俺の汗からできた塩を作れて節約が...なんて気持ちの悪すぎる考えを持つほどには最近は暇です。おうえぇえ。まあもうじき忙しくなりそうですが。

夏らしいことは殆どしておりませんが数日前に近所の公園で納涼盆踊り大会がやっておりまして、用事の帰りに偶然その看板を見たものですから十分程だけ寄って、夏の祭の雰囲気というのを少しばかり味わってきました。良い写真も撮れましたし、それだけで中々良いものでした。暑いのは勘弁ですが。帰りにはフジファブリックを聴きました。冷夏が続いた夏の祭の日には「赤黄色の金木犀」も「茜色の夕日」も「若者のすべて」も素晴らしく合うばかりでしたのでこれも是非。



また更新が遅れることが続くと思われますが、気長に待っていただけると幸いです。てか待っててくれやい。まあただの僕の趣味ですが。

改めましてお読みいただきありがとうございました。m(_ _)m


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