2話
「さて、場所を移そうか」
そう言ってペンギンさんが手を叩いた瞬間、周りは通常の緑の葉が生い茂る森の中へと移動した。
虫や鳥の鳴き声がする。
生命の息吹が感じられるのだ。
中央には、綺麗に清掃の行き届いた社があり、砂利で舗装された道の向こうには大きな鳥居
が見える。
「ここは一体どこなの」
見た限りでは、僕の暮らしていた日本だろう。
でも消滅したはずだ。
「今回の危機に対して、僕は世界のリサイクルで応急処置をしようと思うんだよね」
また意味がわかりません。
ペンギンさんはもしかして、わざと難しい話をして、僕をからかっているのだろうか。
なんだか、ドヤ顔をしているし。
「消滅した世界は数えきれないし、それらを全て再生するには、天文学的な時間と労力が必要となるんだ。でも、それらは完全に消滅したわけではなく、破片がそこら中に散らばっている状態なのさ。今はその破片の集合体で、いくつもの世界を再生しているんだよね。ここはそんなところだよ」
それでリサイクルか。
そうすれば、宇宙の空虚感を少しでも抑えて、延命処置にはなる。
「でも認識者のいない世界は、それ以上成長しないし、存在もあやふやでね。そもそも宇宙から認知もされない。つまり無視されて、無いことにされる」
僕の役割。
僕の償い。
それは。
「つまり、僕はこの世界の認識者になることで、君の役に立てるってことかな」
ペンギンさんは境内のベンチに腰を下ろして、僕を見上げた。
一息の間を置いて、いかにも重要なことを話すぞという雰囲気を意図的に作り出す。
「もっとシビアだよ。今までみたいに、受け身で認識するだけじゃダメだ。君は、ここで可能な限り多くのことを経験し、いろんな人物と交流しなければならない。そうすると、認識者の経験はデータの血肉となって、この不安定な世界の骨組みを強固にすることができる。君の体験したものが、そのまま、この世界の存在感の大きさとなり、その器である宇宙も空虚感を満たされるってことさ」
僕に銀河規模のリア充になれってこと?
笑っちゃうね。
「なに笑っているの。気持ち悪いよ。そんな君にさらに任務をあげちゃおう。この神社は君の認識の影響を強く受けているみたいだけど、元の世界の主人公たちの影響を受けている場所もある。そういった、様々な者たちの認識世界の断片が組み合わさっているのだから、ここは矛盾だらけで、突発的な崩壊の危険性もはらんでいる」
え。
なんだか、めっちゃヤバいところじゃない。
もうハードモードの香りがするよ。
「ふふん。びびったみたいだねぇ。仮に蛮族との戦争に明け暮れた騎士が主人公だったとしよう。彼の影響を受ける地では、獰猛な戦士たちが敵として襲ってくるかもしれない。」
「ちょっと待って。主人公によって時代設定まで変わってくるの?」
「君に近しい人の世界は似通っているけど、宇宙で遠い位置にある認識者の人生なんて、全く別物だろうね」
なんてことだろう。
喧嘩もしたことないのに。
ガチムチのおじさんに襲われるかもしれないとは。
「それに、空十は最後に怪獣に殺されたよね」
人のトラウマを簡単にえぐってくれるね。
ペンギンさん、ちょっと楽しそうなんですけど。
「君みたいな元の主人公たちが生み出した、世界に終わりを告げる者たちが、ここにはまだ紛れているかもしれない。そして再びそれらが世界を破壊して空十が絶望したり、もしくは殺されて諦めた瞬間に、この世界も終了する」
エグい。
レベル1で、村人Aより弱い僕が、神社をでたら瞬殺エンドもありえるってことだ。
けど。
それでも。
ぼくは望んだんだ。
宇宙を、みんなを救いたいって。
「わかったよ!なってみせるよ。超リア充で怪獣でも何でもやっつける無敵の主人公に」
「それじゃ、いってらっしゃい。頑張ってね」
うん、がんばって世界を救うぞー
・・・・って
「いやいやいや。何かあるでしょう。主人公特典とか。強力な武器を授けるとか。そういうイベント」
「それなら、もう済んでるよ」
「え。いつ?」
ちょっと、すごい面倒くさそうなんですけど。
釣った魚には餌をあげないタイプだね。
あ、ペンギンだから食べちゃうか。
「もう空十は自分が主人公だって知っているじゃない。それは、すでにチートに近いことだよ」
「伝説の武器がいいです」
「面倒くさいなあ」
ついに言葉に出しちゃったよ。
「じゃあ、目をつぶって、そのまま視線を胸のあたりに向けて見て」
言われた通りに瞳を閉じる。
もちろん、真っ暗でなにも見えない。
そのまま、自分の胸を見てみる。
そこには白く光る「許すモノ(B+)」という文字が浮かんでいた。
「それが君のスキルだよ」
「おおう。すごくゲームっぽいね」
「この世界はただでさえ継ぎ接ぎだらけで統一感に欠け過ぎているからね。僕が共通のルールを新しく盛り込んだのさ。それがスキル。ごく一部の、生きるという鍛錬を重ねて、自分が特別であると悟った者だけが取得できる能力だよ。多くの人が、自分を凡人だと勘違いして能力を開花させずに終わるし、物凄い修行によって覚醒する人もいる。まあ、悟りの方法は千差万別だよ」
なるほど。
僕は主人公だと自覚しているから、このスキルが最初から使えるわけだ。
なんだかワクワクしてきた。
「どんな能力なのだろう」
「スキルには、その人の性格や生き方が強く反映されるからねえ。そして自身が特別であると思う気持ちが強いほど、強力なパワーを発揮する。さて君のは」
ペンギンさんは僕の胸をペチペチ叩いた。
そして、ちょっと気不味そうに見上げてきた。
「いや、空十らしいって言えば見も蓋もないんだけど」
「もしかして、ハズレ能力とか?」
出発前から、このつまずき具合。
初回特典がゴミだと、クズ運営って言われちゃうよ。
「許すモノ。つまり、この世界のあらゆるモノの存在を許容するってことかな。ぶっちゃけるとヒーラーだね」
やっぱりクソ運営でした。
ソロプレイなのにヒーラーって。
「なんか、ものスゴイ失敬なこと考えているでしょう?」
ペンギンさんは怒って、また僕の頰をムニムニし始めた。
「この結果は当然の帰結だよ。良く言えば、君は周囲の人間に特別優しい人生を送ってきたし、悪く言えば異常に他人に気を使ってきた。もっと攻撃的な性格なら、アタッカータイプのスキルだったかもね」
確かにその通りだろう。
僕の過去の人生が反映されるなら、超絶スキルは期待できないはずだ。
でも主人公にしては、地味すぎるよ。
「けどね、やっぱり君の他者への気の使いようは特異だったみたいだね。これはBプラス級スキルだよ」
「それは凄いことなのかい」
「僕は、このルールを組み込んだ時に、能力の強弱も設定したからね。上からS、A、B、Cとね。Bプラスは、B級スキルの上位種だね。いうなれば、君は100年に一人の天才的お人好しと言っていいだろうね」
「全然、強そうじゃないなぁ」
でも、天才と言われれば、悪い気はしない。
多分、ヒーラーとしても上位のスキルなのだろう。
「最後に、君にこれをあげよう」
どこから出したのか。
ペンギンさんの手のひらには虹色に光る宝石が5個ころがっていた。
これは、アレですか。
課金すると貰えるアレですか。
「もと君の世界の人間は、これが大好きだろう。僕も研究したのさ。新しい主人公のモチベーションをあげる方法をね」
「ペンギンさん。もし、それが僕の知っているブツだとしたら、初心者応援で5個は少なすぎるよ。リセマラもできないクソゲーの烙印が押されちゃうよ」
あ、ペンギンさんが舌打ちした。
すごく面倒くさそうな顔で、宝石をにらんでいる。
「じゃあ、いらないよね」
拗ねちゃったよ。
そうだよね。
ペンギンさんは頑張って、僕の世界を勉強してくれたのだ。
ここは、僕が大人になるべきだろう。
「いやいやいや。とっても欲しいなぁ。とっても助かるなぁ」
「本当に?」
僕は、壊れたロボットみたいに、大きくうなずく。
「ふふふ。そうだよね。やっぱり、僕の思った通りだ。この宝石はワールド・ストーンといってね、凄いのだよ。5個で一回、僕の用意したガチャガチャマシーンが引けるのだよ」
はい。
そうだと思いましたよ。
まったく。
悪いところだけ、見習っちゃったね。
けど、可哀想だから、リアクションしてあげよう。
「さすが、ペンギンさんだね。やり手プロデューサーだね。中毒症状をきたして、奴隷の出来上がりだね」
「そうだよ。僕は与えられた仕事を完璧にこなすタイプだからね。このガチャを回すために、今日も多くの主人公たちが、宇宙を救っているのさ」
ペンギンさんは自慢げにお腹をさすっている。
まあ、僕も馬鹿にはしたけど、興味は沸きまくっている。
やがて彼は前羽を天空に広げて、口から怪鳥音を発した。
すると上空からは虹の雨が降り始め、それらは細かな粒子となり、巨大なガチャガチャマシーンを形成していく。
それは目が眩むような黄金色に輝き、のどの奥底から物欲の塊を引きずり出すような強烈なオーラを発していた。
「正直、ここまで大掛かりなものだと思わなかったよ。とんでもないね。それで、このマシーンからは何が排出されるの」
「僕の作成した、強力なスキルやキャラクターがランダムで手に入るよ。当たりはS。もちろんハズレはC」
なるほど、読めたよ。
やるな、ペンギンさん。
おそらく、これは初回限定でSランク確定ガチャってやつでしょう。
だから宝石も一回分しかないのでしょ。
僕の『許すモノ』はBランクでも、100年に一人のお人好しの天才と言われたのだから、Sランクなんて想像もつかないや。
新しい世界で僕は最強主人公になるんだ。
期待を胸いっぱいに膨らませて、僕はマシーンのハンドルを握りしめた。




