12話
可愛らしいコアラの覆面をした大男は、えげつないほど筋肉で膨張した両腕で鬼たちを撲殺していく。
覆面には、怒りのために太くなった血管が浮かび上がっていた。
特殊メイクみたいで、リアル過ぎないか。
キュートな黒い鼻からは、憤怒による白い蒸気が放出されている。
違う、覆面ではなく、あれが素顔なのだ。
「空十様、あれは獣人の一種でしょうか」
僕達の周囲にいた鬼をすべて吹き飛ばした正成さんは、ちょっと呆れながら傍観している。
「そうみたいだね。でも獣人キャラにしては、可愛げ成分が圧倒的に不足している。本来はキュートな猫耳娘のヒロイン枠なのだけどね。僕の旅はハーレムルートからは外れたみたいだ」
「某だけでは不足と」
うわ、すごい目をするんだね。
どうして丸太を振りかぶっているのかな。
頭部を狙っているみたいだけど、首から上は駄目だよ。
気を失ったら自己回復できないから、本当に死んじゃう。
だから僕は、おじさん娘はヒロイン枠としてはどうでしょう、なんて口が裂けても言えなかった。
「おい、そこの二人。イチャつくなら他でやってくれ。重火器を使用するから巻き込まれるぞ」
いつの間にかコアラ男はスポーツカーに乗り込んでいた。
手招きをしているのは、僕達にも乗れということか。
だけど、どう見ても二人乗りにしか見えない。
近づいてみると、車体後部が細かくて精密な金属のパズルのように分解し始めた。
その数百の金属片が移動して組みあがり、後部座席を形成していく。
このスポーツカーは、僕のエアーフィクションのようにスキルが具現化したものなのだろうか。
僕達が乗り込むのを確認すると、コアラ男はハンドルの左側に浮かび上がるパネルの立体映像を操作しだした。
「異国人の俺が橋ノ森で能力を使うのは禁止されてんだが、村を救うためだったと、お宅らには証人になってもらうぜ」
獣男がむさ苦しいウインクをすると同時に、車のボンネットが分解し、中から両腕に収まるくらいの箱が出現した。
噴射音と共に、その箱から次々と鉛筆サイズのミサイルが飛び出していく。
それらが増援の鬼の群れに着弾した瞬間、真っ赤な大木のような火柱があがった。
さらに男がパネルを起用に操作していくと、前方と後方のライトがせり上がり、機関砲の砲身が突き出される。
機関砲が火を噴くと、ミサイルを逃れた残党と後方から奇襲を仕掛けてきた鬼たちが、発泡スチロールでできた人形みたいに粉砕されていく。
放たれたのは実弾ではなく、驚くべきことに、親指ほどの大きさのエネルギー弾だ。
しかし、恐るべき火力を奇跡的に逃れたねずみ鬼のグループが、車体側面に回ってくる。
冷静に戦況を見つめるコアラのつぶらな瞳は、その動きを見逃しはしなかった。
右手を窓から出すと、金属のパズルのピースが肌から湧き出てきて、武器を構成して組みあがっていく。
完成したものは、ショットガンのような銃。
三丁のショットガンを重ね合わせた異様なフォルムをしている。
銃弾の供給口からは、散弾を詰め込んだシェルが並ぶ革のベルトが三本垂れていた。
「二人とも、耳を塞ぎな。鼓膜が壊れちまうぞ」
男が引き金を引いた瞬間、三つの銃口から紅に光る無数の光弾が飛び散り、鬼たちの体を削っていく。
コアラ男は、その大きな顎で銃のハンドグリップを咥えて動かし、薬莢の排出と装填をする。
左腕は車のハンドルを握り、その場で車体をドリフト気味に回転させる。
車載された火器が全方位に向かって銃弾をばら撒き、馬鹿げた大きさのねずみ花火のごとく周囲を焼いていく。
周りを取り巻いていた鬼たちは圧倒的火力によって消し炭にされていき、車が停止したときには、黒く変色した塊が円形に広まっていた。
それを確認したコアラ男は、再びアクセルと踏み込むと、荒っぽい運転で村落を飛びだしていく。
「二人には悪いが、このまま橋ノ森の都まで付き合ってもらうぜ?俺が正当な理由で能力を行使した証人になってもらう。ついでに村落の惨状を報告して、すぐに復旧のための工兵を呼んでもらうか」
見た目と言動に反して、この男は誠実な人物なのだと僕は確信した。
縁もない村のために、異国における自分の立場を危うくしたのだ。
「わかりました。僕にできることなら、何でも言ってください。協力は惜しみませんよ。いいかな、正成さん?」
「どうせ目的地は変わらないのですから。ただ、死骸の山での出会いは大抵の場合、大きな災難の始まりだというのが某の経験則です。心に留めておいてください」
「うん、無理はしないさ」
僕達を乗せたスポーツカーはでこぼこの道に車体を削られながら、首都へと疾走していくのだった。




