8話 主人公は普通こんなシーンカットされるだろ?
主人公の成長の軌跡はカットされる場合があります。小説版ではカットされていない箇所もアニメ版でカットされる場合もあります。ですが、この小説の場合はできるだけカットしないようにしたいです。別に、ネタがないわけではないですよ?急に騎士団に入って、どういう扱いにするか分かんなかったとかじゃないですよ?
本編始まります。
「じゃあ、アレだな。」
「そうだな。今後の方針としては、騎士の称号を叙任するために、お前には私の指導する騎士養成所に入ってもらい、見習い兵から試験を受け、騎士に昇格してもらう。」
「おお......!」
「しかし、お前には戸籍がない。だから、偽の戸籍を登録しなければならない。」
「まぁ、そうだな。生まれも種族も正体もわかっていないとあっては、怪しくてどうしようにもできない。」
「そうだ。それはまぁ、白髪......ジイが動いてる。」
「安心して任せられるな。......あのジジイ、俺の口に魔物のフンなんっ突っ込みやがって。いつか絶対ぶんなぐってやる。」
「ああ。私もあのジイさんには色々やられたから、その時には私も混ぜてくれよ?」
安心しろ。たとえあの爺さんにめりょめりょにされたって、お前のことは絶対忘れない。うん。多分。いや、そのめりょめりょ現場を見たら、忘れたくても忘れられないと思うわ。うん。
「でも、アレだな。俺、剣も武器も魔法も使ったことないんだが、騎士とか言われても大丈夫なのか?」
「......ダークエルフの身体能力を手に入れたなら大丈夫だと思う。しばらくは戻れないという事なので、その姿でがんばれ。というか、お前は魔族の姿でしか活動できない。だから、騎士になるまではその姿だ。騎士になって、変身能力を明かせるほどにまで信用が集まったら、好きな姿になると良い。......人間以外ならな。」
「......あはは。よくかんがえてみれば、ここに来てから人間と敵対してる魔族の仲間になって、その魔族に秘薬を飲ませてもらって、俺が魔族の国で活動できるように協力してもらってる。これって、凄い状況なんじゃないか?」
俺、この世界に来てから助けてもらってばっかりじゃん。命を救われて、とんでもない価値の秘薬まで飲ませてもらっちゃって......これは頑張って活躍するっきゃないな。
「そうだな。でも、お前は秘薬の実験体にもなった。そして、その能力を見事に自らの物へと昇華したし、さらに、お前には普通ではありえない知識が宿ってる。そして、お前が力を付ければ、お前の評価もうなぎのぼりだ。......陛下はすぐに納得されるだろう。だが、お前が人間でも周りを納得させられるようになれば......お前が平和への架け橋になれば。」
「ああ。......俺も、観光やらなんやらやってみたいからな。お前も、中々人間の大陸を見て回ったことは無いだろ?俺は、人間が愚かでない限り共存の道も捨てないさ。だけどな......俺が知ってる人間とは明らかに違うんだ。もし、人間に愚かな人しかいなかった場合、人間が守るに値しなかった場合......俺は。」
「............観光か。楽しそうだな。それを出来るようにも、先ずは服からだ。着る服がなければ、仕方ないからな!」
「......そうだな。その次に、装備を!ダークエルフの初心者でも、問題なく扱えるレベルの武器な」
「そんな都合のいい武器は無い!......まったく、お前というやつは。だけど、最初に使うとなると弓と短剣かな。」
変身って言っても組織が全部変わるわけだから、それそのものになってると言っても良い。......なろうと思えば、ずっと魔族でいることもできるんだ。............やろうと思えば、龍をコピーして好きな大きさの龍になって人類を滅ぼすこともできるんだ。......俺は、どう振舞えばいいんだろうか?人間として?魔族として?俺が知ってる人間と、この魔族。何処が違うって言うんだ。今までこの世界で見てきたうえでは、最低なのは人間で魔族の方が平和的に見える。......魔族よりも、人間の方が。いや、人間が最低なだけ?
「楽しみだな。これから、忙しくなりそうだ!」
「ばーか。地獄の苦しみだぞ?」
「......今までと、そんなに変わらんさ。地獄の苦しみ?受けて立とうじゃねーか!」
「ああいうセリフを主人公が言ったなら、都合よくカットされて訓練終わってんだろうなぁ。ちくしょー。主人公うらやましいぜ......。」
「何をブツブツ言っている!何時までも寝転がってないで訓練に復帰せんか!」
「すっ、すみません!副教官殿!」
「罰として素振り千追加!」
「......!」
「返事が聞こえんぞ!!!」
「はい!」
「声が小さい!さらに五百本追加だ!」
「はァい!!!」
くそ!俺が主人公だったら、簡単にレベルアップできるっつーのに!恨むぜ!この物語で俺をモブにしたやつ!この世界の主人公誰だよ!ぶん殴ってやる!大体、主人公だったら一週間ぐらいであり得ない力が認められて訓練兵から卒業するのに、俺、もうこの暮らしを二か月ちょっと続けてるんだぜ?今まで何とかして素振り回数誤魔化したりして何とかやれてるけど、冗談じゃないぜまったく。
「百十二!百十三!......百三十四!」
「ほほう。どうやら追加で千本欲しいみたいだな?」
「百!百一!百二!百三!百四!」
「うむ。殊勝な心掛けだ。」
......この俺にひどい仕打ちをしている人物は副教官のギルシェさん。黒髪に黒い瞳という点以外は人間にそっくりな魔族だ。この世界では黒髪黒目は珍しいものだそうだ。人間には滅多に現れず、現れた場合は忌み子として儀式に使われるらしい。神の怒りを鎮める儀式、生贄に。ダークエルフ同様目がとてもよく、魔法が得意なうえに第六感が働くらしい。種族は聞いたことがない。え?こんな人に対して回数を誤魔化せるはずがない?......そう言えばアレだわ。回数誤魔化せたことなかったわ!
「どうですか。アイツは。副教官殿?」
「副教官殿......ですか?皮肉ですかな、教官殿。」
「いや、随分訓練兵から慕われているものだな、と思いましてね。」
「何度も言っておりますが、敬語はやめてください。訓練所での立場でもあなたが上。騎士団の中でも、貴方が上でしょう。」
「敬語の有無など関係ないじゃないですか。私たちは、騎士団の中でも上司と部下の関係なんですから。」
「親しいなら、なおのこと敬語なんておやめください。」
「私はですね、片方だけ敬語というのが嫌なんですよ。......アイツのような、軽口を言い合うような関係が良いんだ。」
「......少しあのものとは距離が近すぎるようにも思いますがね。」
......アイツ、あんなところで副教官殿と何話してるんだ?まさか、俺のこと訓練兵から追い出そうとしてる!?宿に泊まるお金、教官から借りてるのバラされてる!?ひ、卑怯者!まさか、俺が日ごろから悪口言ったりしてるのねに持ってる?そんな裏で俺のことを貶めようとするなんて!!!チクショー!この怒りと不満も、全部素振りにぶつけてやる!
「......三百十九、四百!......?よんひゃく?あれ......?三百......?あれぇ――――――――?」
「本当はアイツを目にかけている理由は何です?どうも、アイツの頭の中はすっからかんにしか見えないのですが............」
「......アイツの目に、燻る炎を見たんです。消えかけではない、火が付き始めてまだ燻ってる状態。本人のやりようによっては、その炎が消えるか、人間界を焦土にするか......まだ分からないけど、期待するだけの価値はある。それに、奴には秘密がある。まだ誰も知りえない、力が。」
「力......?」
「ええい、忘れた!最初からだ!一、二、三......」
「はぁ......三百二十から始めろ!千五百までだぞ!!」
「副教官殿!ありがとうございます!......三百二十!三百二十一!」
とにもかくにも、走らなきゃ始まらない!動物だって、どんなに早い獣に追われても足を止めないだろう。止まっていたら、万に一つの可能性も、奇跡すら起こりえないから。走る!うおりゃぁああぁぁあああ!!!!
「馬鹿者!走りながら素振りをするな!」
「すっすみません!教官殿――――――――!」
今考えてる暇はねぇ!なりふり構わず、走るしかない!走れぇぇぇぇぇぇぇ!おぅりャぁぁァァァァァァァ!!!!!!